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幕間 続々・会議までの

 どちらも並々ならぬ疲労感を覚えている少女と女性が顔を合わせる――。


「……お帰りなさい、オイニー」

「おや、メディシナ。あなたのほうが先に戻ってきていましたか」


「タッチの差でね。それはそうと、また随分お疲れの様子じゃない」

「さすがにあなたの目は誤魔化せませんねー。ただまあ、この前とはだいぶ程度も違いますよ。『聖杯』取得に関しては身も心も酷使しましたが、今回は単に行きも帰りも強行軍だったという数日がかりの完徹の辛さが顔に出てしまっているだけなので」


「ということは、任務自体に苦労はなかったのね?」

「そうですね。私はただふたつの七聖具を掠め取っただけですから。そこに至るまでの要素は監査官として都市に潜り込んでいたお三方が引き受けて整えてくださっていたので楽なものです――と言っても、都市から脱出しようという時には三名ともにまともに動ける状態ではなかったのが誤算と言えば誤算でしたかねえ」


「あら、でも全員無事に帰還したと聞いているけれど?」

「無論、回収してきましたからね。状況が許してくれるならそりゃあ七聖具だけじゃなく彼らだって連れ帰りますよ。ディーモは同僚ですし、『アドヴァンス』にだって七聖具蒐集の任を受けてからはよくお世話になっていますし。仲間は大切にしませんとね?」


「そうね、仲間は大切よね――でも状況が許さなければ?」

「置いていきますよ。当然です。執行官は任務達成が最優先。逆の立場なら私だって助けられるより切り捨てられるほうを望みますよお。私だけじゃなく、執行官なら皆そうです」

「本当にそうかしら……けれどとにかく、今回もまたあなたは上手に手柄を立てたということね」


「お咎めを受けることは避けられそうにもないですけどね。ただ総合して功績として受け取ってもらえそうなのが嬉しい誤算といったところでしょうかぁ。減俸や謹慎すらもないというのは少々意外でもありますが……ま、そちらは順調に七聖具が集まっているからこそですかね。上が妙に上機嫌なのは。ねえ、メディシナ。そちらはそちらで休みが必要そうですけれど」


「やっぱりわかってしまう? 私は最初からオイニーの目を誤魔化そうだなんて思いもしていなかったけれど、一応は流石だと言わせてもらうわ。ご明察の通り、こちらだってもうへとへと・・・・よ」

「ふーむ……離反者トーラスはそんなにも強敵でしたか」


「顛末を端的に伝えるわ。処理部隊ドッグスは全滅。ウーネ、ドナエ、クワイスの戦闘班も全員重傷。運よく無傷なのは私だけよ」


「それはまあ……なんと」


「特にウーネに関しては念入りに壊されて・・・・しまたったわ。それでも生きているあたりあの子たちも大概常識外れよね――でもそれ以上にトーラスは常識の埒外にいた。アレを無力化したいなら『アドヴァンス』部隊をフルメンバーで投入するか、もしくは武威官を首都から動かすか……とにかくそれくらい思い切った戦力投入が必須になるわ」


「ですが、『聖衣』は回収できたのでしょう? それだけ隔絶した相手だと言うのなら、あなたはいったいどうやってそれを奪ったのです?」


「奪ったのではないわ。譲られたのよ」

「はいぃ?」


「だから、気まぐれで譲られたの。隊員たちを片付けたトーラスが目の前にまでやって来たときには自分の死を覚悟したわ。けれどあいつは何かを考えるような素振りを見せたかと思えば、身に着けていた『聖衣』を手渡しで寄越してきたのよ……。そして背中を向けて、あっさりと去っていったというわけ」

「それはまた不可解ですね。その際にトーラスはなんと言っていましたか?」


「『そんなに欲しいなら返してあげよう』と。それから彼はこうも残したわ。『時代がうねる時は今かもしれない』――なんていう、わかるようなわからないような台詞をね」

「……時代。彼が待っていたらしい来たるべき時がとうとう来たということでしょうかねー。何をもってしてそういう判断に至ったのか定かではありませんが、とにかく良かったじゃないですか。『聖衣』さえ手に入ったのなら万事問題なし。あなたも命を拾ったことですしねえ」


「そう単純に喜んでいいものかしら。もしもアレがまた気まぐれを起こしたらと思うと私は気が気でないわ。ひょっとすると『聖衣』を手放したのだって、彼なりの策なのかもしれないじゃない」

「策。なるほど、ひとつ所に集めた七聖具を彼が強奪しようと企てている……そのような懸念がメディシナにはあるのですね」


「ええ。あなたの意見は?」

「それはなんとも。直接相対しないことにはトーラスの人格なんて読めませんし、翻って彼が何を狙うのかというのも茫洋と知れません。ですからそういう意味では、直に言葉を交わしたメディシナの考えこそが彼への警戒の基礎となるのですが……しかしそれほどですかねー? 殺意に満ちた能力を持つアドヴァンス三名を相手取って勝利する腕前は確かに脅威ですが、それは『聖衣』を所持した状態での強さでしょう?」


「あなたの言いたいことはわかる。確かに『超常無効化』の力はトーラスに絶大な恩恵を与えていたわ。だけど真に恐るべきはやはり、ウーネを筆頭とした全力の彼女たちの物量・・を物ともしない彼自身の強さよ。初代武闘王の冠は伊達に被っていないわ――私の目にその戦闘は、もはや嵐が起きているようにしか見えなかったもの」


「なるほど。となれば単なるカチコミであっても対処には苦労させられそうですね。もうすぐ七聖具が集まり切るというこのタイミング。是が非でも邪魔はされたくないところですがぁ……」

「それから、知らせておきたいことがもうひとつ」

「? なんでしょう」


「近々『省院合同会議』が行われるわ。聞かれる前に答えるけれど、これは決定事項よ」

「は……? 今、ですかあ? 調査から数年かかってようやく七聖具の蒐集終了が目と鼻の先になったこの時に、またあの『仲良し足踏み会』を行うと?」


「だからそう言っているでしょう。信じたくない気持ちは分かるけれど、ね」

「信じたくないんじゃなく信じられないんですよ。総轄官は何をなさっておいでで?」


「あの人は会議の進行役らしいわよ。仕方ないでしょう、いくら総轄官と言えども省長の命令には従うしかないわ。どちらかの要請というわけじゃなく今回は上座も五長も会議にかつてないほど前向きであらせられるもの、余計だわ」


「……まったく、どうなっているんです。仕事がややこしくなるか初めからやり直しになるか。合同会議の後にはいつもそういったことになる。今度はどんな足踏みの仕方を見せてくれることやら、いっそ楽しみなぐらいですね」

「まぁまぁ、そう憤らないで……まだ必ずしもそうなると決まったわけじゃないわ。七聖具蒐集に関しては誰より彼らこそが重要性を説いて押し進めてきたものなのだから、今回に限って言えば大詰めにおける最終チェック……そういった意味合いの会議だという可能性だってあるでしょう?」


「最大限希望的観測のもとに見るなら、そういう見方もできますかね。……しかし疑問ですねー。会議のきっかけは何処にあるんですかぁ? どちらが切り出したにせよ省と院が最初から合意しているなど通常なら考えられないことでしょう」

「両方を動かせる人物なんて限られているわ。それこそ省内では省長か、次点で総轄官。ただし今回は彼らの発案ではないことは確かよ。省長も決定を下しはしたけれど彼自身が企画したわけではないと裏が取れている」


「あくまで上座方の判断ですか……だとすれば候補は絞られたようなもの。というより、思い浮かぶのはたった一人だけですね」

「ええ。最近別人にでもすげ変わったかのようにアクティブになった『水晶宮』のあの子。どう考えても事の発端はあの子なのでしょうね」


「未来が動いたか、あるいは動かしたのか。どちらにせよ水晶宮を使うことに上は最近特に慎重になっていたはずですから、やはり妙と言えば妙ですけれど」

「それについては上座も関係はないのかもしれないわね。嘘か真か、『省長の娘』が水晶宮を訪れたという噂もあるのよ」


「……それは完全に初耳ですねー。確かなんですかぁ?」


「噂は噂、尾ひれどころか身すらも幻かもしれない――けれどそれなり以上に信憑性があると私は見ている」


「あなたがそう言うのなら、真偽を疑うべきではないかもしれませんね。……しかし、いやはや参りましたね。水晶宮のお姫様に例の我儘お嬢様……この組み合わせが真実なのだとすれば頭が痛い。なにせ厄介者ばかりの首都においても最も手が付けられないコンビが、またしても何かしらの暗躍をしていることに間違いがなくなりますからねぇ」


 ――執行官と施工官は視線を重ねると、示し合わせたように深くため息をついた。


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