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幕間 続々々々・会議までの

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 某日、首都『万理平定省』内における役人同士の他愛もない会話――。


「おっと。もうそろそろ時間ですよ、アレの」

「ああ、例のアレな……」


「上の人たちがいったいどんな会議をなさるのか、少しだけ気になりますよね」

「なんのためにあるかわからん展望室なんてもんに風を通すためだったりしてな」

「まさか。確かに普段は一切使用されませんけどね、あそこ」


「ま、とにかく俺たち下っ端なんぞには想像もつかん世界さ」

「そうですね……何せ元老院からは五長とその次期候補の補佐員。うちからは『上座』が勢揃いに加えて省長も参加。そして中立を担う司会進行役には我らが総轄官殿が任命されていますから」


「さすがに錚々たる面子だよな……勢揃いってやつだ。だからと言って会議の中身まで実のあるものになるかっていうと、疑わしいもんだが」

「何故そのように思うんです?」


「院の連中が絡むと仕事が進まん。それはお前だってよく知っているだろう? あそこは技術者上がりの頭でっかちが多すぎるんだよ。トップの五長がその代表例みたいなもんだ。局は省の直轄組織だっていうのに、そこから院に入ってデカい面をしやがる連中のなんて多いことか」

「まぁまぁ、そう熱くならず。テクノクラートは国の発展に必要不可欠、らしいじゃないですか?」


「ふん。技術官僚が必要だっていうのは確かに、大戦後の歴史が証明しているがな。だが指名制でトップがすげ変わるのは真っ当とは言えんし……まずあんな数が要るかってのは根本的に疑問だ」

「いえまあ、仕方ない部分もありますよ。どの局にも求められる技術というのは違いますからね。本来は一個の組織だというのにいがみ合っているも同然の現状はどうかと思いますけど」


「そうだ、だからこのタイミングで会議が開かれる意味がわからないんだ。……やはり、あの噂は本当だったと見るべきなのか」

「あの噂というと?」

「お前も聞いてないか? 『水晶宮』のお姫様だよ」


「ああ! 名高き不動姫・・・の噂ですか――それなら何度か耳にしましたよ。滅多なことでは外に出てこない彼女が、近ごろは省に局にと頻繁に顔を出しているとか。私は実際に目にしていないのですが……」

「俺も見てはないが、理由もないのに上座と五長が一緒に動くなんてのは不自然の極みだろう。だったら上を動かしちまう何かがあったと考えたほうが納得がいく」


「その第一候補が『水晶宮』というわけですか?」

「そうさ。あの姫さまが持つ収斂眼とかいう審眼ジャッジと、水晶魔法の組み合わせからなる『未来予知』は占術以上に信頼度が高い」


「その裏返しに確定未来の危険因子がどうのと、使い勝手に関してはあまりよくないらしいですが」

「だが一度視たならば確実にそうなるんだから、上からの信用は折り紙付きだ」


「言われてみれば、院も省もまとめて動かせるとすれば水晶宮くらいしか思い浮かびませんね……しかし、彼女が新しく何かしらの未来を視たのだとしても、彼女自身が宮の外を出歩いている意図が読めませんね? これまでにもこんなことってあったんでしょうか」

「俺の記憶してる限りじゃ、一度もないな。特に交通局へ入り浸っているらしいが……それも余計に変だろ」


「交通局、ですか……出不精ひきこもりとまで言われる彼女が通う場所としてはどうにも似合いませんよね」

「そう思うだろう? ただでさえ『國常連』からの国家間転移・・・・・システム作成への協力国として同意書に署名しなかったもんで、今の交通局は他国に置いて行かれぬようにと長距離転移の技術革新を図って四苦八苦しているところだ。そんな切羽詰まった中をのんびりお姫様に歩かれちゃ、連中も堪ったもんじゃあないだろうな」


「うちの頼みの綱である国防結界の効力は外からの攻撃に対するもので、から攻められたらまるで無力ですからね。国同士が繋がる転移陣設置に慎重になるのは当然だと思いますが、加盟国としての立場というものは気にかかるところですね」

「そう、だからこそ署名に積極的だったらしい大方の国に水をあけられるわけにはいかないんだ。今じゃあ開発局以上に交通局へ予算が割り振られているのも、全ては時代に置き去りにならぬようにという上座の判断によるものだ」


「そちらもまた、大戦後の新時代から学んだ教訓のひとつですね」

「あのお姫様が交通局へどんな用があるのかは知らないが、精々他の奴らの仕事の邪魔だけはしないでほしいもんだな」

「ですがまあ私が思うに……、酔狂で顔を出しているわけではなく、彼女もまた自分の仕事をこなしているだけではないかな、と」

「へえ、お前はそう思うのか」


「はい。ある種珍獣扱いされるほどに目撃例の少ない子ですから、頼まれてもなかなか宮の外には出ないはずでしょう? ましてや今回のように省や局をいくつも回るようなことなんて、ねえ。前例はないと先輩もそう仰ったじゃないですか」

「まあな。不自然というのならそちらのほうが合同会議以上に不自然かもしれない」


「でしょう。ですから、今回の性急とも言える速度で開催の決まった会議に関する内容で彼女も動いているのではないかと考えたのです」

「ふむ、まあ、その見方が正しそうだな。で、お姫様が視たものってのはやはりアレか?」

「アレでしょうね」


「それについては疑う余地もねえか。対抗馬として挙げられるとすればそれこそ『國常連』関連か、省が院の、あるいは院が省の粛清対象にもなるような重大な不備でも見つけちまったとかだが……」

「時期からしても、それらより『七聖具』の線が断然に濃いですよね」


「だなぁ。聞くところによるとクトコステンでの『両会テロ事件』の最中に、上手いことふたつの七聖具を掠め取ったらしいじゃないか。よくやるもんだ、あんな物騒な街で」

「それも着任していた執行官ではなく、またしてもドレチド執行官の手柄であるとも私は聞きましたが」

「間違いない。あいつが出向いていなければおそらく失敗していただろうってのも、おそらくはその通りなんだろうさ」


「しかし最近は七聖具蒐集官を名乗っている彼女ですが、つい先日その任から外されたはずだったのでは……」

「つまり手前判断で亜人都市へ向かって、省の承諾なしで先任執行官へ手を貸したってわけだ。自分の業務はそっちのけで、な」

「そ、そんなことをして許されるんですか?」


「許されるわけがねー。普通ならな。だが今回は奴の暴走が七聖具取得の要因だ。省にとって一番優先される結果ってもんを掴み取ったからには、大したお咎めもないだろう。どころかますます優遇されるかもな……まあその代わり休む暇もなく働かされる羽目にはなりそうだが。奴はそれで本望なんだろうさ」


「なるほど……少女ながらに実質、全執行官の筆頭でもあるドレチド執行官。若くとも手際の良さは流石といったところですかね」

「若くはねーけどな」

「え?」


「いや、いい。お前はまだ四年目だし、執行官とも縁遠いからな。知らない内は知らないままでいいだろう」

「どういうことですか? そんな言い方をされたら余計気になるじゃないですか、教えてくださいよ」


「いや、これは俺の失言だ。いくらドレチドのことだからって女の歳について言及するなんざ紳士として恥ずべきことだ」

「先輩は間違っても紳士なんて柄ではありませんし、もうほとんど喋っているようなものです! そこまで言うのなら詳しく教えてください、ドレチド執行官って本当はいくつなんです!?」

「最低でも還暦は超えてる」

「えーっ!!」


 ――以上会話終了。


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