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365 前日のあちらこちらで・後

我誤字憎む、されど縁深きなり

ご報告ありがとうございます

 革命会館にて非正規職員と共に現場捜査にあたる局員たちが揃って顔を顰める――


「ここにきて『ファランクスの壊滅』に、『革命会本部への押し込み』だと……? おいおい、いくらなんでも事態がぶっ飛んだほうに動きすぎだぜ。いったい何がどうなってやがんだ」

「しかもそのどちらもが最有力容疑者として挙がっているのが『武闘王ナイン』ですからね。……最有力というより他に容疑者がいないと言ったほうが正しいのですが」


「まったく頭が痛いな。ナインに関しちゃ他のメンバーと違って姿を消したっきり一切表舞台に出てこないことへ、俺はいっそ感心すらしていたんだが……とびっきりのタイミングでとびっきりの荒事――いや、『惨事』を引き起こしてくれやがったな。とんでもねえことをしやがるぜ……メンバーがメンバーならリーダーもリーダーってところかね」


「そもそも、彼女たちが逃げ回るきっかけとなった『吸血鬼との共謀容疑』がかけられたのはナイン殿個人でもありますからね……」


「おい、ジーナ。また呼び方を間違えているぞ」

「おっと失礼しました――ナイン、ですね」

「気を付けろよ。間違っても容疑者相手に遜っちゃいけねえんだからな、俺たち局員っていうのは」

「肝に銘じます。……けれどドーグさん。今回のことはやはり証明になるのではないでしょうか」

「なんの証明だ?」


「ナインが潔白・・であることの証明です。もしも本当に市政会を狙うのであれば、その対立組織である革命会やファランクスを彼女が相手取るようなことなんてないはずでしょう。翻って、吸血鬼と共に市政会員を狙ったなどという話はまったくの虚偽であり、故に市政会こそが何かしら良からぬはかりごとを巡らせていることの証拠……とまではいかずとも、その推理を補強する材料にはなりませんか?」


「……俺は確かに市政会がきな臭いと睨んでいるし、そりゃおやっさんも同意してくれた。だがな。だからといって偏向的に物を見ることはできん。今回のこれはあくまでも、ナインが改革派へ喧嘩を売ったというだけのことにすぎない。やったことは派手だが言葉にすればそんなもんだ」


「ですが実際にファランクスは潰され、革命会には少なくない被害が出ています」

「まあな。明日の交流儀の運営に関しちゃともかくとして、問題はその後だ。敵対組織が力を堕としたとなれば今後のクトコステンの実権を握っていくのは市政会が一歩リードといったところだろう。一時的に仲良しこよしを演じたところで派閥間闘争まで煙のように消えるわけじゃねえ。どうしたって今後しばらくは保守派の優勢が続くことだろうぜ――この事実までは誰であろうと否定できないさ。そしてそれを踏まえて、だ。?」


「むむ……言われてみると、そこはどうにも説明がつきませんね」

「だろう。仮にお前の言う通りに武闘王と市政会が敵対関係にあるのだとすれば、市政会が有利になるっていうのに革命会を潰してしまうはずがねえ。つまり武闘王と市政会は元からデキてる……なんてことは俺だって思わねえが、けれどそういう風に見ることもできはするんだ」


「見方次第、ということですか」

「そうだな。どこからどうやってどの部分を見るかで、ひとつの物事に対してだっていかようにも解釈ができちまう。だからこそ俺たちは公平公正な目を持たなきゃならねえ。どんな場合においてもそれに例外はない……わかるよなジーナ?」

「はい……申し訳ありませんでしたドーグさん。どうやら推理に私情が入り過ぎていたようです。これでは局員失格ですね」


「そう気を落とすなよ。確かに局員としてはよろしくないがお前の意見は至極真っ当なもんだと俺も思うぜ。ジーナが言葉を介してそう感じたように、ナインは決して悪人じゃあねえだろうさ。俺も戦闘を通してそう実感している。当然そんなもんは捜査上なんの証拠にもなりはしねえが、しかし捜査をする俺たちの指針くらいにはなる」


「ということは、ドーグさんは……、」


「ああ。間違いなくこれにも噛んでいると見ているぜ。武闘王ナインが気まぐれに暴れたってだけじゃねえ、確実に裏に『誰か』がいるんだ。そいつは糸を張り巡らせるみてーにこの街へ何かを仕込んでやがる……そしてそれがいったいなんなのか、明日になればわかっちまうことだろうよ」


「……式の開催まで既に十時間を切っていますね」

「ちっ。こんなにもうれしくねえ祭りってのは生まれてこのかた初めてだな……」


 交流儀で確実に事件が起きる、と獅子人は吐き捨てるように言い切った。



◇◇◇



 地下にて血を吸い終えて最後にゴクリと大きく喉を鳴らした吸血鬼が言う――


「うむ……ごちそうさまでした・・・・・・・・・。……感謝しようナイン。お前のおかげで、明日は私もそれなりに動けそうだ」


「『明日は』ってことは――やっぱりマビノは、交流儀中に仕掛けるつもりでいるわけだよな?」


「そうだ。奴がどのようなことを企んでいるにせよ、ならば私たちもそれを利用させてもらうまでだ。明日になれば間違いなく都市に混乱が起こるだろう。その渦中にて、奴の首を獲る。今度こそイクア・マイネスを確実に仕留めてやるとも」


「果たしてできるかなぁ? 聞けばそいつには腕の立つ護衛だっているし、妙な技術を持ってるようだし、とてもあくどい奴だし、おまけに明日はそいつだって戦う気満々でいることだろうし……夜襲をかけても失敗したくらいなんだから、いくら祭りの中、騒ぎにかこつけて首を狙うと言っても厳しいものは厳しいんじゃないの? ナインから多少の血を吸ったからといって本調子に戻っているわけでもないんだから、今のマビノじゃできることだって限られているんだろう?」


「いや、そうでもない――確かに全盛期には程遠くとも吸う前よりも格段にやれることは増えているさ。幸いなことにナインの血は美味だった。妙に香りが薄い点は気になったが口ざわりはなめらかで、味自体も実に力強い良きものだった。……これならいける。ユーディアのほうにもいくらか回せるだろう目処もついたしな」


「あ、そうだった。力尽きて眠ってるっていうユーディアの調子が、これでどれくらい戻るのかについても不明なんだよな? 本当に大丈夫なのか、そんな状態で。お前たちのほうこそよく知っているかもしれないけど、とにかくイクア・マイネスってのは油断ならない奴みたいだぜ……俺もそいつのせいで逃亡生活だしな」


「そう案ずるな。なにも馬鹿正直に決闘を挑むつもりは私にだってない。前回の襲撃も不意を打っておきながら戦闘自体は真正面からのぶつかり合いだったからな。そこが何よりの失策だった――ならば今回はじっくりと機を窺うまでだ。チャンスはいくらでもある、何せ奴は明日の祭りをしっちゃかめっちゃかにかき回すだろうからな……つまり奴自身混乱の中心に身を置くことになる。だとすれば狙う隙も多そうだろう? そして言っておくぞ、ナインにフェゴール」



 此度の交流儀は疑いなく大失敗に終わるだろう、と。


 

 幼い外見の吸血鬼はあくまでシニカルに、獣人たちの希望など知ったことではないと言わんばかりにそう言い放った――。


ここからはバトル増し増しになりそう

気合い入れてイクゾー!

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