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337 アドヴァンスvsナイトストーカー・後

誤字ラには勝てへん……

報告ありがとござます


 ジュリーがセンテに対して斬りかかるよりも一瞬先にオウガストは飛び立っていた。


 クレイドールを相手取っていた際は二対一の状況であったが故に安全策を取り、ジュリーの攻める反対側から『煙』を送るだけに留め自身はあくまで敵に近づこうとしなかったオウガストだ――が、今は二対二。先程までの頭数の有利はもうない。


 だから彼女は煙を撒きつつ偽血装『紅蜻蛉』の羽を震わせ上空へと躍り出たのだ。敵二人をまとめて煙の餌食とするには頭上を制して振り撒くのが手っ取り早く、また確実でもある。


 問題は空へ向かう自分を敵が狙い撃ちにすることだが、それをさせないためにジュリーとほぼ同時に動いたのだ。同部隊の仲間として連携を密にこなしてきている彼女たちは相談やアイコンタクトすらなしに仕掛けるタイミングを重ね合わせることを可能とする。浮かび上がるオウガストへ気を取られれば爆破剣に襲われることになり、かと言ってジュリーへの対処にばかりかまけては致命的な症状をもたらす赤い煙が降ってくる。


 アドヴァンスの二人はオウガストの操る『煙』の脅威を未だ知ることはないが、戦闘において制空権を明け渡すことがどれほどの不利を生むかはよく知っている。何をされるかまでは判断がつかずとも飛び立つオウガストを野放しにすることなどできるはずもない――しかしそうなると今し方クレイドールをにしていた魔剣使いをどうするかという問題に直面する。


 このときオウガストは相手方へ不自由な二択を迫っていた。わざわざ敵が分離する現状、アドヴァンスとしては疑似的な二対一を実現させて各個撃破が望ましいだろうが、それをすれば自由になったもう一人が状況を詰ませにくる可能性が高く、その懸念がある以上は片方に対しこちらも片方を宛がうという戦闘の場自体を二分するやり方を選ばなくてはならない。


 だからこその二択。


 それは飛ぶオウガストを撃つか来たるジュリーを迎え撃つかという選択ではなく、後手に回ったセンテとシィスィー各々の動き。即ち地上と上空に別れようとしている敵方、それぞれを自分たちのどちらが相手すべきかというシンキングタイムコンマ一秒ほどのシビアな選択であった。


 ――咄嗟に動けはしまい。

 ある時期を境に『アドヴァンス』という名前だけが広まり出した謎の新設部隊……なればこそ、彼女らに自分たちのような阿吽の意思疎通などできるはずもないのだ。

 長い鍛錬や死地の共有、そうやってお互いの命を預け合えるようになって初めて本当の意味での連携が叶う。噂が立つようになった時期から逆算しても正式に活動を始めてまだ四、五年といったところの『アドヴァンス』にそんな芸当など、まず間違いなく不可能であろうと。


 そう半ば確信していたオウガストは空を目指し飛び上がりながら眼下にいる敵の動向を確かめ――そして大きく目を剥いた。




「『電撃作戦ブリッツアクセル』――『第二段階』ッ!」



「え……っうわぁっ!?」


 途轍もない速さでシィスィーが手に持った銀色の槍ともども空を駆け上がってきた。それを間一髪で躱したオウガスト。すれ違いざまの風圧に体を弄ばれながらも今一度体勢を立て直す――それと同時に槍に掴まるような姿勢で急旋回をし始めているシィスィーのほうを見て、内心で舌を巻いた。


(は、速いっ?! なんなの今の、バチバチ言ってるし――雷属性の魔法? いや、それよりも。あの子たち今、まったく迷わなかった! 言葉も視線も交わさずに戦うべき相手を選び取っていた――それは私たちと同じ……ううん、ひょっとしたらそれ以上に息が合っているようにも……?)


 まさかという思いに駆られるオウガスト。

 無論これには少女の知る由もない事情が関係している。


 秘匿強襲部隊『アドヴァンス』はオウガストの言う通りに、対吸血鬼部隊『ナイトストーカー』の創設時期と比べればその歴史はひどく浅いと言えるが、しかし強化人間アドヴァンスたちの関係性は部隊発足より遥か以前より続く、言うなれば彼女たちの間には「家族愛」とも称せるような強固な絆が育まれている。戦闘経験だけを見るならば確かにナイトストーカーには一歩劣るものの、信頼関係であれば彼女らとてなんら負けてはいないのだ。


 そしてこうまで抜群の連携が可能となったのにはもうひとつオウガストの知らざる訳があった――それはセンテとシィスィーの性能差・・・である。


 センテの戦闘スタイルは拳撃主体の格闘が基礎となる。『正拳』の自己洗脳機能を応用した奥の手とでも言うべき戦法を彼女は有しているが、その基本が地に足を付けての近距離戦インファイトこそが主だったものであることに変わりはなく、要するにセンテは空を飛べる相手とは相性が悪いのである。


 それと比すればシィスィーはむしろ飛行能力に対するメタ性能を得ていると言っても過言ではないだろう。シィスィーが行えるのは電撃を発生させることだけであり、雷魔法や雷門の使い手のように雷を自在に撃ち放つような真似はできないがしかし、その代わり彼女には専用装備である槍を用いた驚異の投擲術がある。ぶんぶん飛び回る相手だろうと雷速の槍投げの標的とすれば撃ち落とすことは容易く、また『戦槍』の帯電機能で実現する電磁誘導はただ投げつけるというアクションのみに活かされるだけでなく。



 こうしてシィスィー自身を空へと駆り立てることすらも可能とするのだ。



「はっ、てんで遅いなぁ! 貫かれたくなかったらもっと必死に逃げな逃げなァ! 『電流星槍スタートレック』!」

「うっ……、『紅蜻蛉』!」


 槍に掴まったまま飛翔するシィスィーは自分という重荷がある分、ナインに披露した技『電撃飛槍ライトニング』ほどの速度を出せず、雷速には程遠いスピードでしかない……だがそれでも彼女は十分に速い、速すぎる。変則的な飛び方ではあるものの、飛行能力にそれなりの自信を持つオウガストでもろくに逃げ回ることすらできない程には高速度を維持しており、そして『電流星槍スタートレック』の厄介さは速さだけに留まらない。


 どうにか身を捩じるようにして穂先を回避したところ、交錯の瞬間にシィスィーは槍を振るってきた。その一瞬だけ『電撃作戦ブリッツアクセル』による電磁誘導を切り、手動で攻撃を行う。高速の突撃から即座に任意の追撃を繰り出すこの戦術は、単純ながらに速さに対応しきれない相手には絶対の効力を発揮する。


 シィスィーの企みを歴戦の勘から読み切ったオウガストは避けざまに『紅蜻蛉』の装甲を一部に集中させた。防御力を高めた腕部によって薙ぎ払われる槍から身を守る。だがクータの爆炎キックには抜群の強みを見せた流血装甲も電撃に対してはいまひとつ弱かった。


「ぎぃあ……っ!」


 物理的な衝撃と流れる電流とに苦悶の悲鳴を上げて吹き飛ばされる。危うく落下しかけるオウガストだったが、強く頭を振るってどうにか気を持ち直し羽で空中制御を行う。またしても旋回してこちらへ向かってこようとしているシィスィーの位置を痛みと痺れで霞む視界で確認しながら、それから逃げるように急上昇。そんな彼女の下方より電撃の瞬きを溢れんばかりに零しながら一筋の閃光となってシィスィーが追いかけてくる。


 それはまさに流星のようだった。


「ようし分かったぜ、まずはてめえのその虫みてーな羽を切り落とす! そうすりゃもう飛べねえだろ!?」


「っ……! 調子に乗ってくれちゃって、もう!」


 顔を顰めつつもオウガストは追いつかれる直前に捻り込みの急転換を実行。シィスィーの意表を突いた飛行軌道を取ることで詰められた距離を今一度開けることに成功するが、こんなのは虚しい時間稼ぎにしかならない。いずれは逃げの一手も破られ決定的な一撃を貰うことになるだろう――相手の言う通り、羽さえもがれてしまえば自分は飛ぶことだってできなくなるのだから。


 血装を万全に扱えるならば、そんなこともなかった。本来のこの術は場面や用途に合わせて好きなように、自由自在に血で武装を形作ることができるものだ。それも時間をかけることなく瞬時に。だがオウガストにはそれが叶わない。この『紅蜻蛉』だってひとつの形を徹底的に反復練習し、脳に染み付かせて完璧にインプットすることで戦闘時での使用を成し遂げた奇跡のような産物なのだ。飛行や部分的に装甲を固めての防御など、傍から見れば大したことのないような応用法。しかしこれでもオウガストにとっては本来持ちうる能力以上のことを可能とさせた絶技なのである。


(ああ、悲しいな。泣けてくるよ。『煙』だけが取柄の半端者。そういう自覚はちゃんとあるけれど、あるからこそ私は頑張って『紅蜻蛉これ』を作ったのに。でも、私の培った力はこの子に一切通用してくれないみたい――)


 先程から試してはいるものの、やはり速度の出ない『煙』ではシィスィーを覆うことができない。

 血の装甲である『紅蜻蛉』もどんなに厚くしたところで電撃を纏った槍には効果が薄い。

 血の弾丸を撃ち出す技もあるにはあるが、あれは射程だけが旨味である狙撃用のもの。こうやって高速で互いに飛び回る空中戦闘で活かせるような代物ではない。


 ――つまり自分に勝ち目などない。


 否応なしにそれを実感したオウガスト。

 そのネガティブな確信を裏付けるように、背後から警報のような甲高い音を立てて煌めく流星が迫り――



覇術・・――『転禍為福』」



 突然、オウガストの身を固める血はどろどろに溶けきって。

 そしてシィスィーは中空で何かと正面衝突でもしたかのように、それまでの進行方向とは逆側にぶっ飛んでいった。


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