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259 謎の遺跡がありまして:反対

「ご主人様が行くならクータも行く!」

「いえ、ここは同行人として私が適任かと」

「待て待て、ぬしらでは主様の血気を抑えきれんだろう。ここは儂がついていこうではないか」

「クータだよ!」

「やはり私が」

「いいや儂だ」

「クータ!」

「私が」

「儂だ」


「やめてくれ三人とも! 俺のために争わないで!」


「……では阿呆なことを言っとらんでお前様が決めんか」


 三人だけの話し合いでは誰も譲ろうとはせず同行者が決まらない。

 そう悟ったジャラザは主たるナインへ決定権を押し付けた。

 誰が選ばれてもナインの決定なら異を唱える者はいないだろう――ただ一人を除いて。



「ちょっとちょっと。君たちさぁ……、ボクも一緒だってことを完全に忘れてくれちゃってるよね?」



 聞こえてきたのはこの場の誰のものでもない、第五の声。

 それはナインの影から響いてくるようだった。


 ずずず、といつか目撃したのと同じように少女の影から靄が湧き出てくる――それはやがて人型に固まったかと思えば、性別不肖の可愛らしい子供の姿になったではないか。


 それを見てナインはさも今思い出したように言った。


「あれ? フェゴールじゃねぇか。なんだよ、お前もいたのかよ」


「いるに決まってるだろ!? 君がボクを影に縛り付けてるんだからいないわけがないよね!?」


「嬉しそうだな。喜んでもらえて何よりだぜ」


「どこが!? 目と耳が脳が腐ってんのか君は!」


 ぷんすかと怒る大悪魔オルトデミフェゴールイリゴーディアバドン――今はしがない悪魔『フェゴール』となっている彼(?)をどうどうとおざなりに宥めたナインは話を元に戻した。


「で、なんで急に出てきたんだ? 俺たちが遺跡探検をしたらなんかまずいことでもあんのかよ」


 まさかこの遺跡と彼の過去の悪行が関係しているのではないかと疑ったナインだが、それはあっさりと否定される。


「違う違う、そーいうんじゃなくってぇ……。純粋に親切心と、あとは保身のためだよ。ここはどう見たって危険なんだから、迂闊に入ろうとすべきじゃないって忠告してやってんの。君が行くとなったら影に収容されているボクも否応なくお供しなくちゃならないだろう?」


 そんなの冗談じゃないよ、とフェゴールはため息混じりに肩を竦める。


「危険って、なにがー?」


 口に指を当ててきょとんと訊ねるクータに「じゃあ逆に聞くけど」と呆れた様子で彼は語る。


「考えてみたかい、こんなところにこんなものがある、その理由を。……わからないだろ? そうだよ、だから危険なの。用途不明品なんてそこらにごろごろあるけど、それはただ不明ってだけで、作ったり用意させた誰かさんにとっては立派に何かをするための道具なわけ。これもそうさ。ボクらにはさっぱり正体の掴めない遺跡らしき何か。君たちは単にお宝探しの冒険でもしようって気でいるみたいだけど、中にあるのが必ずしも宝とは限らない――特に、ここまで『厳重』な代物となればね」


「うーん……」


 クータはいまいちフェゴールの言いたいことが理解できなかったらしい――彼女は理屈というものが苦手である。見たもの聞いたものを自分なりに咀嚼し、解釈する能力はあっても、理論立てて考えるという芸当ができない……というかしたがらない。

 なのでこういった場面で意見を求められるのはやはり彼女であった。


「ジャラザ、どう思う?」


「ふむ。まあ、フェゴールの言うことももっともだの。見るからに怪しい建造物なのだからやはり内情なかみも怪しいのだろう。内部がどうなっているか、そこに何があるのかまるで見通せないうちから事を急ぐべきではないかもしれんな。しかし、気になるのは厳重・・という言葉の意味だ。儂らにとってこれは現状ただ硬いだけの壁でしかないが、フェゴールは何を以てそう判断したのか。そこの説明をしてくれんか」


「ボクもちょっと探ってみたけど、ゲートでも中に入ること自体はできそうなんだよね……それが尚更、これ見よがしってくらいに怪しい。この感じは絶対普通じゃあないよ? ほら、そこのメイドさんが」


「クレイドールとお呼びください」


「あ、うん……クレイドールが調べても、何で造られているのか不明だったんだろう? そこから君たちは『聖剣』を連想したようだけど、同じようにボクも『聖杯』を連想させられた――これが七聖具と関りのあるものってことじゃなくて、ああいった特殊なアイテムと似たような何かだってことね。何が言いたいかっていうと……入ることはできても出られるとは限らないぞってこと。ほら、よく言うだろ? 『行きは良い良い帰りは怖い』ってさ。これはそういう類いのものだと、ボクは思うね」


 だから入るのは反対だ、とフェゴールは締める。そして全員の視線がナインへと集まった。


「ちょい待ち。考えてみるから」



 行くか退くか。

 結局どちらを選ぶかはナイン次第である。

 故に彼女はしばし黙考し――そう間を置かずに結論を出した。



「よし。やっぱ気になるから行くわ」


「えぇ……ボクの説得意味なしかよ。やってらんねー」


「お供はフェゴールにするわ」


「ええー!? な、なんでぇ? 影に引っ込んどけばあと一人くらいは連れていけるでしょ!? なんだったらボクのゲートを使えばもう一人追加できるよ」


「いや、考えりゃわかんだろ? お前が危険視するような危ないところにこいつらは連れていけねーよ」


「ボクはいいのかよ!」


「いいだろ別に。どっちみちお前は今んとこ、俺の傍から離す気はねえしな」


「ぐう……それ、悪魔権侵害だぞ」


「はっは、たわけたことを。捕虜に人権はないのだ! これは戦争じゃないからな。意思決定どころか生殺与奪の権も俺に握られてるってことを忘れるなよ」


「あ、悪魔だ! こいつこそ本物の悪魔だー!」


 騒ぐフェゴールを無視して「つーわけで行ってくる」とナインは仲間たちに告げる。

 しかし、当たり前だが彼女たちは誰一人とていい顔をしなかった。


「ぶー。なんでそいつだけなの?」

「どうせ離れられないならいっそフェゴールだけでいいかなって。さっきの話聞いているとこいつの知識もけっこう役立ちそうだし」


「フェゴールと二人きりで探索を行うのはリスクが高いのではないでしょうか」

「言うほどでもないんじゃないか? 前にも言ったけどフェゴールは俺に逆らうことなんてできないよ。少なくとも直接的な危害は加えられないようになってる」


「間接的に危害を及ぼすことができるのであれば、それは悪魔の得意分野でもあるはずだ。ゆめゆめ油断はするなよ」

「もちろん。けど、ジャラザは俺を止めないんだな?」

「安全のためだけを思えばこんなものは素通りすべきなのだろうがな。しかし、そうしないからには主様にも何かしら思うところがあるのだろう?」

「……ああ」


 ナインは首肯し、土から生えるように鎮座している浅黒い物体を見つめる。



「行かなきゃならない気がするんだよ。俺にはさっきから、何かに呼ばれているような感覚がある」



「えっ、こわい……」

「幻聴ですかマスター」

「真面目な話をしとるんだからぬしらは黙っとれ。とにかく、儂は止めん。ただし十分に注意することだ。主様には日頃粗忽なところがあるからの」

「はは、了解。せいぜい気を付けるとするさ。中の広さによっちゃ一、二時間くらいは待たせると思う。もしかするともっと」

「心得た」


「ねえちょっと待って、納得いかないんだけど。なんか自然な感じで出発の気配醸し出してるけどボクのことまた忘れてない? 行きたくないって言ってんの! 少しはボクの意見だって聞いてくれてもよくない!?」


「なに言ってんだ、さっきちゃんと聞いただろうが。そのうえで行くって決めたんだからうだうだ言うなよ」


「横暴だー! ぜんぜんボクへの思いやりがないよこの人ー!」


「安心しろって。監視のためとはいえ付き添わせるからには、お前のことは俺が守ってやるから」

「え……」


 胸を両手で押さえてドキッとしたような顔をするフェゴール。

 それを見てナインは「よし」と頷いてその手を取った。


「嫌がってるわりには余裕あるっぽいから平気だよな。ほら行くぞ」

「あごめんさないついふざけちゃったけど行きたくないのはけっこうマジなんですどうか思いとどまっ」


 とそこでナインとフェゴールは姿を消した。瞬間跳躍ナインジャンプで共だって遺跡内部へと転移したのだ。


 残されたクータたちは誰からともなく互いに顔を見合わせた。


「あの二人、だいじょーぶかな? ちゃんと力を合わせられるのかな……クータふあん」

「私もです。ですがたとえ息が合わずとも、マスターなら大抵のことは自力でどうにかなさると思いますが」

「しかし、いつもいつも思いもよらぬ大事に巻き込まれるのが主様だからの。儂らのうちだれも傍にいないというのはちと不安ではあるな」


「……ねえ、お腹すかない? クータご飯食べたいな」

「うむ。やることもないし、食事の時間にするか。せっかくだからこの山で獲れる生き物を食材に使いたいところだの」

「ハイパーセンサーで前方に動植物感知」


「動植物? 動物か植物かどっちだ」

「動く植物です」

「ぬ、そういう意味か……」

「それって食べられるー?」


「種族名『スティッキープラント』。可食部は少量ながらも存在しているようです」

「ふむ。なら、狩るか」

「あ、ジャラザは駄目だよ。毒で食べられなくなっちゃう」

「阿呆、今から食おうという獲物に毒は使わんわ」


「クータも炎を使ってはいけませんよ。スティッキープラントが燃え尽きてしまいますから」

「も、もちろん!」

「いまお主の手が燃えかけたのを儂は見逃しておらんぞ」


 ……なんだかんだと言いつつも、割と呑気に主人の帰りを待つことにした三人であった。


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