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怪物少女、邁進す 〜魔法のある世界で腕力最強無双〜  作者: 平塚うり坊
4章・アムアシナムの悪魔憑き編
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223 最後の会議

急展開、のつもりです

座談会もっとじっくり書くつもりはあったんですが……毎日投稿はナマモノですね

 その日の天秤の羽根本部、中でもとりわけ本殿は非常に騒がしかった――建物をひっくり返すような大騒ぎである。アムアシナムという宗教都市を代表する組織である天秤の羽根。そんな実質の支配者たる組織が、このように上も下も慌て転げるような様を見せていては醜態という他ないだろう。


 しかし彼らが焦燥にかられるのもむべなるかな。こんなことが起きてしまえば、こんな事件が引き起こされてしまってはどれだけ教育の行き届いた本部勤めの優秀な信徒たちであっても恐慌状態に陥ることはある種仕方のないことでもある――なにせ、大勢の死人が出たのだ。それも宗教都市に置いて重要視される立場や区分で言えば、街のトップにいる重役たちがまとめて殺害・・されたのだから。


 事故ではなく、事件。


 明確な殺意を伴って何某かに宗教会所属の頭目たちは一斉に排除された。


 長いアムアシナムの、そして宗教会の歴史においてもこれほど大規模かつ凄惨な事件は過去に類を見ない。まさに前代未聞である――それほどのことが起こったのだから、信徒たちの慌てぶりを醜態などと切って捨てるのは彼らに悪いかもしれない。


 それを言うなら、この事件を未然に防げず、出すだけ被害を出してしまったこと自体を醜態と称すべきだろう。


 それは何も天秤の羽根だけに限ったことではなく、ナインズにも言えることだ。特にリーダーであり、オイニーに誘導されたとはいえ自らの意思で悪魔憑きを捕らえることを――その凶行を止めることを目指してここへやってきたナイン。


 彼女の責任は一際重い。


 始めに至福会が襲われるのを止められなかった時点で彼女は責任を果たせていなかったが、それを受けてなお他の組織の全滅などという惨事を防げなかったのはさすがに怠慢が過ぎるだろう。何故なら彼女はあらゆる情報を得ており、悪魔憑きの犯行の手段にさえ「転移が使われたのだ」と予測がついていた。そもそも悪魔憑きなどという者がいることも知らない警備隊員たちではその防衛力が真価を発揮しないのは当然のことで、そこを補填としてナインズの力で埋める必要があったのだ――だというのに、彼女はその役目をまるで果たせなかった。


 無論、昨晩はシリカの安全を思えば、本殿で悪魔憑きの動向を見張ることなどできなかったろう――雇い主たるシルリアの意向も無視してまでそんなことをするナインではない。兇手たちの実力は思いのほか高く、もしもナインが護衛から外れていたら事態は更に混迷を極めることになっていただろう。最悪、連れ去られたシリカが犯行中の悪魔憑きとバッティングしてしまってそのまま命を落としていた可能性だってある。


 けれどしかし、結果論で語っていい場面ではないと他ならぬナインがそう思った。結果で言うなら天秤の羽根以外の六大宗教会が全滅してしまったこの状況はほぼほぼ最悪と言ってもいいだろう。何せ現状、悪魔憑きはその狙いを完璧に遂行しているからだ。座談会コンクエストを開催させたのも悪魔憑きで、集まった宗教会を一網打尽にしているのも悪魔憑きなのだ。


 正直に打ち明けるなら、ナインは宗教会の面々に少しもいい印象は持てていない。


 彼らが死んでしまった、殺されてしまったと知ってもナイン個人としては感傷に浸るまでもないことだった――とはいえ、いくら人間的な好みとかけ離れたような連中でも死んでほしくはなかったし、ましてや悪魔憑きという恐るべき犯罪者の毒牙の餌食となって殺されたとあっては不憫に思わざるを得ない。

 自分がもっとうまくやれていればその死を防ぐことは十分に叶っただろうと思うからこそ、ナインは余計に悔しかった。


 死なせてしまった――これは俺の責任だ。


 何もかもを自分が原因だと思い込むことは傲慢でしかない。人一人に持てる力など限られているのだ。それはナインとて一緒で、どんなに肉体が強靭な怪物少女だろうとも、手の届く範囲には限界がある。そのことはこれまでの経験で重々学んできた彼女だ――が、そうであっても。


 手を届かせられなかったその怠慢は、恥じて然るべきであるとナインは己を責めた。


 突発的な悲劇ではなく、これは事前に起こることが予想できた事件。そして自分はそれを起こさないようにとここに乗り込んできたのだ。だというのに、それができなかった。これを怠慢と呼ばずしてなんと呼べばいいのか。


 持てる力には限界がある――だが今の自分は、持っている力ですら不完全にしか扱えていない。

 やれるだけのことをやっていない。


 ナインはぎらりと瞳を光らせる。


 忸怩たる思いと――そして怒り。


 どうしてこうも簡単に人を殺せてしまえるのか。どんな動機があるにせよ、都市住民を、組織のトップとその護衛を、まるで自身の玩具のように壊すその精神性は、いったいどこからくるものなのか。



 ――人じゃない。



 悪魔憑きは人だけど、人じゃない。

 見てくれは知らぬが、その内面は紛うことなき化け物だと断言することができる。

 であるならば、それを止められるのは――怪物である自分しかいないはず。


 怒りを強く燃やしたナイン。呼び出しへ応じることに迷いはなかった。行き先は会議室。そこに天秤の羽根の主要人物が一堂に会し、緊急会議を行うとのことであった。そんな場に自分が護衛としてではなく「参加者」として呼ばれたことに若干の疑問はあれど断ろうなどとは思わなかったし、その意味を聞くこともしなかった――そんなことはどうでもよかった。


 ナインはとにかく、悪魔憑きを見つけ出さねばならず。

 そしてたった今から、その絶好の機会となる会議が始まろうとしているのだから。


 ――見極めてやる。


 戦闘時もかくやというほどに意気込み、ナインは本殿の一室へと足を向けた――。



◇◇◇



「賊はこちらの警備体制を意にも介さず蛮行に及んだ。問題は、果たして賊の真の目的が六大宗教会の壊滅にあるのかということ」


 円卓の間――座談会コンクエストで使用された協議室とは異なる、長机の設置された会議室。普段はもっぱら十使徒が話し合いを行うために開かれる部屋だが、今回ここにいる顔ぶれは常より数名ばかり多かった。


 教皇シルリアを始めとして、その部下である十使徒や、娘のシリカ、警備隊長と副隊長、護衛隊長三名――そして雇われ武闘王ナイン。


 使用人たちも数名控えてはいるが、席について会議に参加しているのはこの面子である。


 なぜ戦闘職の隊長らまで会議の一員に数えられているかというと、多組織の全滅から賊の存在が明らかなだけに『戦える者』の見解が必須になるからである。だからこそ、その経歴からアルドーニやテレスティア以上に様々な種類の敵を屠ってきているであろうナインもまた、この席に座らされている。


 彼女の背後にはクレイドールの姿もあった。他の使用人と同じく直立の姿勢を崩さない彼女は、ナインの護衛の意も兼ねてそこにいる。休眠しているクータとそれを術と合わせて看病しているジャラザは引き続き迎賓館の救護室で今も過ごしている――故にここにはクレイドールしか同伴できなかった。彼女はこの話し合いに参加する気は微塵もないらしく、直立不動のままシルリアの言葉にもなんの反応も見せなかったが、彼女の主人は不可解そうな声をあげた。


「どういうことですか、シルリアさん――実際に悪魔憑きは、『暁雲教』以下五つの宗教組織、その運営者たちを皆殺しにしている。それが目的じゃない、なんてことがあるっていうんですか」


「あくまで最終目的のための、前段階。あるいは手段の一部。そういう捉え方もできるということです。六大宗教会を壊すことではなく、その先に賊の企てる何かがある。それを否定できる根拠は今のところ、存在しませんから」


「ああ、確かに……犯人がこれで満足すると考えるのは、危険でもありますからね」


 危うく毒殺されかけた人物が目の前にいることから、その考えにはナインも納得する。ここで悪魔憑きが企みのすべてを終えたのだと判断することは迂闊だろう。確かにシルリアの言う通り、ただ宗教会を潰してそれで満足するというのもよくよく考えればおかしな話である。悪魔憑きは宗教会を無くした後で何かをしようとしている――そういう風に見るのが自然だ。


 ナインの言葉に頷いたシルリアは、


「賊が宗教会の壊滅を狙いとしているのか、それとも街を統べる宗教組織を残らず根絶やすことが狙いなのか。それによって私たちの取るべき行動も異なってきます」


「えっと……そのふたつは何がどう違うんでしょうか」


「後者であれば、賊は天秤の羽根にもまた手を伸ばす。しかし前者であれば、六大宗教がうち五つが消えた今、宗教会はもはやその機能を回復させることは不可能であることから――賊の動きは止まる、かもしれませんでしょう?」


 それは希望的観測に過ぎるがつまり、再度シルリアが狙われるかどうかの違いかとナインが理解を示したところで、シルリアはこうも言った。


「そうだとすれば。賊を追うよりもまずは隠蔽工作・・・・に時間を割ける、ということですわナイン様」


「――は?」


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