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怪物少女、邁進す 〜魔法のある世界で腕力最強無双〜  作者: 平塚うり坊
4章・アムアシナムの悪魔憑き編
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204 罪深き司祭たち・下

 スナウのおかげで切り替わった空気の中、プルーフが仕切り直すように口を開く。


「それでは……襲撃ポイントとして第一候補に挙がる迎賓館。本殿内で手を出すタイミングがほぼない以上は第一にして最終候補とも呼べる場所だが……まあその分じっくりと計画を練られると思えばそれも悪くない。さて。誰が、どこから行く?」


 地図はない。しかし地理関係は元より頭に入っているし、過去の情報から得られた迎賓館の大まかな間取りについても兇手たちは完璧に記憶している――全員が同じ図解を脳内に浮かべながら、それぞれ進行経路のシミュレートを開始する。


「……っち、どう考えても正面に居座るのは武闘王以外にねえ」


「だなぁ。アレは隠し玉にするより、置物にしてでも見せつけておいたほうが警護として機能する。あいつが目を光らせてるだけで大半のルートは封じられたも同然になるんだからな」


「というか、何故ドルドンは不満げなんじゃ? 一番の障害がそこにいると分かればこちらとしては助かるはずじゃろうが」


「それはですね、スナウ翁。ドルドン氏は武闘王との戦闘こそをお望みだからですよ」


「はっは、気持ちはわかるぜえドルドン! 戦れるもんなら戦ってみてえよなぁ。武闘王ってのがどんなもんなのか試せるチャンス。そんなもんはそうそう巡ってこねえしよ」


「けっ。勝手にてめえと俺がお仲間みてーに言ってんじゃねえよ」


 悪態をつきながらもドルドンは否定をしなかった。

 ヒューリーほど戦闘狂じみた気はない彼だが、自身の腕前に誇りを持っているのは同じである。

 武闘王と戦うことを見越したうえで選ばれる人員というのは即ち、この中でも最も腕が立つ者と同義でもある。


 全員が全員、組織としてはともかく個人としては対等であり、捨て駒扱いされることを良しとしない以上、敵の最高戦力にこちらも最高戦力をあてがうのは必然となる。


 だからこそプルーフは。


「武闘王ナインが真正面に構える。それはここにいる全員が同じ見解ということでいいんだな。――ならば、私とこのフランクが迎賓館玄関口から侵入しよう。誰も異存はないな?」


 有無を言わさぬ独自の決定を告げる。最重要ルートへ自らとその相方を充てようという彼女に、


「よかろう」

「承知しました」

「了解だ」

「おう、俺もいいぜ」


「そうか、わかった。残るは――」


 各員特段のリアクションもなく次々に応答が返ってくるなかで、唯一返事をしなかったドルドンへとプルーフが目を向ける。


 視線を受けて忌々し気な顔をしつつも、彼は渋々とばかりに頷いた。彼とてプルーフとフランクの力量を認めていないわけではないのだ。自分の腕に自信があるのと同様に、何度か仕事場で出くわした経験から彼女らの兇手としての腕にも信頼があった。それはなまじっか敵として交戦しかけたが故の、ある種奇妙とも言える信頼関係であった。


 決して組織間の力関係だけでリーダーが決まったのではない。


 プルーフに対し些か態度の悪いドルドンだが、彼もまたそのことをきちんと理解していた。


「あぁ、わーったわーった。そりゃあお嬢ちゃんたちが正面からってことになるだろうよ。殺すことに関しちゃ文句なしにてめえらが秀でてっからな」


「ふむ……快い賛同を得られて何よりだ。ではお前たちはどこからにする? さすがにナインズの配置は読めん。専属護衛は対象の傍にいることくらいは予想がつくが……」


「そこは襲ってみてのお楽しみじゃな」

「良いこと言ったぜ爺さん。俺は裏口を貰うぜ! 武闘王の次に強い奴がいそうだしな!」

「そう単純とは思えませんが……私は右方、直接窓から侵入しましょう」

「だったら俺は左方の……二階の角部屋からでもいくか。なるべく散ったほうがいいだろうしな。ドルドンはどうする?」


「俺ぁ嬢ちゃんたちが武闘王と戦り合ってる隙に正面から行くぜ」

「悪くない。私たちが先行する形で先兵兼陽動となれば自然、ドルドンは動きやすくなる」

「侵入のタイミングは全員合わせたほうがいい気もするが……まあそれも向こうの出方次第かのぅ。とりあえずわしは残っとるをもらうとするか」


「スナウの爺様よ、屋根からなんて行けるのか? いい歳なんだからそろそろ体もキツいんじゃないのか」

「馬鹿たれ、わしは生涯現役がモットー。歳を理由に計画を選ぶようになるくらいなら死んだほうがマシじゃ」

「け、年寄りの冷や水にならなきゃいいがな」

「言葉遣いがなっていませんね。年長者には敬意を払うべきです」


「なんだっていいぜ、本人のやりたいようにやらせりゃいいんだ! それが俺たちの生き様だろうがよ!?」

「ヒューリーの言う通りだ。揉めることなく再配置が済んだのは運がいい。全員の同意が成ったということで、これで決定とするが……ほかに意見のある者がいるなら今のうちに言ってほしい」


 思いのほかスムーズに進んだ話し合いに安堵の気持ちを零しつつ、最終確認のつもりで面々を見渡せば、すっと上げられた手がひとつあった。


「なんだろうか、カーム。配置への異議か?」

「いえ、それに関して私に異論はありません。しかし彼女はどうなのかと気になったもので」


 彼女。

 それはこの会合が始まって以降――いや、それ以前も、あるいはその以後も決して言葉を発することなどないであろう少女、フランク・クランのことを指している。


 確かにフランクはまるで置かれた銅像が如き面持ちで黙って会話を聞いているのみで、話し合いに参加するどころか反応らしい反応も見せずにただそこにいるだけなのだが――しかしプルーフは悩む様子もなく「大丈夫だ」と言った。


「こいつはこれでいい。こう見えても仕事はきっちりこなす奴だ」

「そうなのですか?」

「……そこは俺が保証してやってもいいぜ。てめえは知らねえだろうが、お仕事中(・・・・)のこいつはとびっきりのプロだ」

「ほう……あなたがそこまで言うほどですか」


 憎まれ口の多いドルドンが、所属組織の関係もあって特に目の上のたんこぶのように感じているであろうプルーフとフランクという二人の少女。しかしそれでも彼女たちの兇手としての力量を貶めようとはしないことから、この二人が伊達や酔狂でアムアシナムの裏のトップにいるわけではないのだとカームは悟った。


 生きてきた歳月に見合った老獪さを持つスナウよりも。

 兇手の割に目立つがその分、確かな強さを持つモルビクとヒューリーよりも。

 街の古株として実績と経験、それに裏打ちされた自尊心を持つドルドンよりも。

 そしてこの中で唯一アムアシナムの生まれで、組織内で一から鍛え上げられた自分よりも。



 この少女たち二人のほうが兇手として――『殺す者』としては上だというのが界隈における共通認識なのである。



「どうやら余計な気遣いをしてしまったようですね。謝罪させてください」


「いや、いい。不安に思うのも当然だ。そもそも喋らないこいつが悪いんだからな」

「……」


 プルーフの言葉に合わせてぺこりと頭を下げるフランク。どうやらそれくらいのコミュニケーションは取れるようだった。


 顔を合わせること数回、毎度この調子なので慣れてきたは慣れてきたが、それでも頑なに輪に混ざろうとしない彼女に戸惑いを覚えずにはいられない。と言っても未だに違和感があるのはカームくらいなもので、他の面々は誰も大してそのことを気に留めていないようだった。


「これで全員の同意は確認できたわけじゃな」

「ああ、あとはいつ天秤の羽根がボロを出すかだ。みな、備えておけよ」

「俺ぁいつでもOKだぜ! いや、なるべく早くがいいな! なんなら今すぐでもいい!」

「おいおいヒューリー、気が早すぎるぜ。座談会コンクエストが始まるのは明日の昼前からだぞ? 何かが起こるとすればその後だろうよ」

「ったく、喧しいうえに喧嘩っ早え。こいつと一緒だと暑っ苦しくてたまらんぜ」

「はっは! ありがとよドルドン!」

「褒めてねーんだよこの単細胞!」

「…………」


 暗殺者同士が和やかに会話をし――中には眺めているだけの者もいるが――盛り上がりを見せているこの部屋は、一般人からすれば理解不能どころか人でなしの巣窟として恐怖すら覚えることだろう。



 ――だが、自分たちはこれでいいのだ。

 ――これこそが私たちなのだ。



 そう小さく、誰にも聞こえぬよう独り言ちたカームは、自分もまた兇手の輪の中へと混じるのだった。


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