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怪物少女、邁進す 〜魔法のある世界で腕力最強無双〜  作者: 平塚うり坊
1章・リブレライト臨時戦闘員編
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21 半ギレ怪物少女

せっかくの土曜日なんで連続投稿してやるぜ……ぐへへ

「つまり……あんたは犯罪組織の味方についているってことか。それを隠し、先代の功績を利用して治安維持局に接近したと。……スパイみたいなことをしていたのは理解したが、その立場を捨ててまでやりたかったことはなんだ? この罠でお前たちは何を得るっていうんだ?」


「これは異なことを聞きますな。暗黒座会と治安維持局は本格的な潰し合いへと踏み切りました。それはよくご存じでしょう? 故に、あなた方を捕らえ情報を得るとともに見せしめとしても使う腹積もりですとも。ふふふ、まさか局長直々に部下を寄越すとは嬉しい誤算でした、あなた方の価値は非常に高い! 利用しがいがあるというものです!」


「………………」


 あ、これ勘違いされてるパターンだなとナインは悟った。


 ナインとクータは治安維持局の所属ではなく、あくまでリュウシィからの信用を勝ち取るために今回の仕事を受けているに過ぎない。自分たちを捕らえたところで有益な情報を引き出すことはできないし、痛めつけたところで他の職員への見せしめになりはしない。


 その用途で言うならアウロネにしか適性はないのだが、そんな事情を知らないマーシュトロンから見れば与しやすい小娘が三人、まんまと網にかかったとしか思わないのだろう。


 まあ、ここでそれを説明しても仕方がない。

 信じるはずがないし、仮に信じたとしても見逃すはずがないからだ。

 結局のところそこは変わらない。

 だからそんな勘違いを指摘するよりも、ナインには聞かねばならないことがあった。


「クータとアウロネさんは、どうした?」

「ふふ……気になりますかな?」


 焦らすような言い方とその嫌らしい笑みが癇に障り、ナインは舌打ちする。その態度が二人の行く末を雄弁に語ってもいたので、それがなおさら癪だった。


「私の命がかかっているというのにただの三人しか警護を寄越さないのか、と若干の苛立ちもありましたが……いやあ、さすがは局長のお墨付き。実にお強いですな。たった二人相手に二十人以上の人員を失いましたが、さしもの彼女らもそこらで限界だったようですな。ほうらこの通り、気の毒なほどにぐったりですよ」


 マーシュトロンの横合いに連れ出されたのは、クータとアウロネで間違いなかった。二人とも男たちに掴まれ拘束されており、首元にはいつでも命が奪えるようナイフが置かれている。

 見るからに危険な状況だ。そうでなくとも両者は顔色が悪く、自分の足で立つのもやっとといった状態である。


「クータ、アウロネさん……!」


 めぼしい傷はなく、命にも別状はなさそうなことにホッとするものの、戦闘の無理が祟ったのか二人とも相当具合が悪そうだ。あれでは自力で逃げ出すことは不可能だろう。


 ならば自分が助けるしかない、のだが……。

 ナインは敵の配置を見る。


 マーシュトロンと、彼に並ぶように立つリーダーと目される女。この二人を黒装束たちが囲み、その配置のさらに後ろにクータとアウロネを拘束している男たちがいる。この陣形だと助けようと思えばまず前方にいる男たちを薙ぎ倒さなければならず、それ自体は可能だとしてもクータかアウロネのどちらかは殺されてしまうだろう。


 最高速で突っ込めば、どうだろうか……? 目にもとまらぬ速さであれば、二人を救えるのでは――いや、不確定要素が多すぎる。


 まずこの棒立ちの状態からそれだけの速度が出せるか、自分でも不明だ。

 もしそれが叶ったとしても、スピード頼りの突撃ではどうしても精細さに欠けるだろう。


 万一にも突っ込んだせいでナイフが急所にでも刺さったら?

 異変を察知した拘束役の男が咄嗟にナイフを押し込めば?

 それだけで二人の命は失われる。そんな賭けをしてはいけない。


 歯噛みするナインを見て、マーシュトロンは作戦の詰めへと入った。


「さあさ、このお嬢さん方の命が惜しければ大人しく捕まりなさい。抵抗しようと言うのならそれも構いませんよ……それなりの代償は支払ってもらいますがね。ふふふ……」


 機嫌よく笑うマーシュトロンは、しかしナインへの警戒を緩めてはいなかった。油断を誘い水にひっくり返されては下の下もいいところだ。彼にそんな醜態を演じるつもりはなかった。


「まずはそのローブを脱いでもらいましょうか。おそらく武器を隠しているのでしょう? それらをすべて床に置きなさい」


 ナインは武器など持ってない。完全なる丸腰だ。

 だが、言われた通りにローブを脱ぐ。

 逆らっては捕らえられた二人が何をされるかは容易に想像がつくからだ。


 フードに隠されていたナインの容姿が晒されることで、男たちにどよめきが走った。ただ一人の女も僅かだが目を見開き驚きを露わにしている。


 純白と称して差し支えないナインの髪と肌に、見る者の目を奪うような薄紅色の輝きを持つ瞳。その整いすぎているほどに端整な顔立ちは、まだ過分に幼さの残るものではあるがまさに「美しい」としか表現ができない。

 暗い中でもよく分かる――否、暗いからこそ神秘性がより際立つような、その異常なまでの美貌を前にして、任務中であるにもかかわらず一瞬、男たちは戦いを忘れていた。


 とりわけ戦闘員でないマーシュトロンの興奮は激しかった。


「す、素晴らしいぃ! こんな、こんなに、こんなにも美しいとは! この二人もなかなかではあるが次元が違う、これはただ痛めつけるだけでは勿体なさすぎる! とんでもない商品価値だぞ、いくらでも金が舞い込むに違いない! 使うぞ、使い込んでやるぞ! 当然まずは私からだ! ぐひ、ぐひひひひ!」


 口からあぶくを飛ばしながら興奮するマーシュトロンを、横合いから女が冷めた目で見ている。


 普段の作られた口調まで崩しながら金銭欲と獣欲を曝け出す男へ生理的な嫌悪を感じたから、というのもあるが……捉えた治安維持局職員の身柄はあくまで暗黒座会のものであり、つまりはボスの所有物となるべきものだ。

 それをまるで自分の物かのように言い募るマーシュトロンへ警告の意味で殺気を当ててやる。今回は手を組み彼の部下のように動いたが、本来のマーシュトロンはいかに協力者とはいえ外様の者。増長されるのは不愉快だった。


「――っと、い、いけませんな、私としたことが少々取り乱してしまいました。申し訳ない、キャンディナ様」


 怜悧な気配を当てられ、マーシュトロンは我に返る。形ばかりの謝罪を口にされたところでキャンディナの機嫌と評価は戻らないが、マーシュトロンは気にしない。

 そんなことよりナインを上から下までじっくりと嘗め回すように眺めることに忙しかった。

 彼はまだ我に返りきれていないようだ。


「さあお前たち、ナイン嬢を取り押さえなさい。なるべく傷がつかないように――む? な、なんだっ、これは!?」


 一刻も早くナインを手元に置きたいマーシュトロンが男たちに命令を下そうとしたところ、異変が起きた。背後からの妙な音と困惑の声を耳にしたマーシュトロンが振り返ってみれば。


「なんだぁっ、こりゃ……崩れる――溶けるっ?」


 慄くは拘束役の男たち。それもそのはず、押さえつけている少女の肉体が、手元でぐずぐずと形を無くしていこうとしているのだから。


 見る見るうちに不定形の黒い物体となって完全に人間とは思えない姿になるその瞬間、しぶとく口の形がまだ残っていた元アウロネの残骸が声を漏らした。

 ごくごく小さな、すぐそばにいたとしても聞き取れないようなか細い声。

 しかし不思議と、ナインの耳にはその言葉がはっきりと届いた。


『お好きなように』


 確かに、そう聞こえた。


「………そうか」


 ニィ、とナインは歯を出した。

 パズルのピースがはまったような感覚だった。


 腑に落ちない依頼内容に、補助はアウロネただ一人という治安維持局の謎の姿勢……不審を感じるほどではなかったが、どうにも気になっていたことがここにきて納得できた。


 リュウシィは、アウロネは、知っていた! この男スルト・マーシュトロンが裏切り者であることをすでに知っていたのだ!

 マーシュトロンは罠だと言ったがむしろ罠にかけられていたのはこの男のほうだ。

 誘い込まれたふりをして垂らした釣り糸に、マーシュトロンが――暗黒座会が食いついた。

 喉に食い込む針として選ばれたのが他でもないナイン。


 ナインには見えるようだった。この場で自分のなすべきことが、はっきりと。リュウシィにどんな期待をされているかがすっきりと分かった。


 やはり要人警護などではなかったのだ――敵をぶっ飛ばすこと! それこそが自分に求められていることだと!


「とはいえ情報を得たいのはリュウシィだって一緒だろうからな……一人くらいは無事なように手加減はすべきなのか? ……まっ、関係ねーかな。うまく加減ができるかちょいと自信がねえ。フリとはいえ嫌な気分にさせられたわけだからな……むかっ腹が立ってしょうがない」


「な、何をぶつぶつ言っている? これはどうしたっ、貴様の仲間はどこへ行った!? 答えんか!!」

「どこへ行ったかは知らねーしそれがどんな魔法か術かも知らねー……でも、なあ、分かるよな? これで人質はいなくなったんだ……もう俺を止めるものは何もないんだぜ――なあ!」


 どん、と脚を広げて構えるナインの髪がざわめき、揺れ動く。

 薄紅の瞳はその色味を増して深紅の光を放った。


 まるで引力のような圧倒的な重量感が少女の小さな体から漏れだし、黒装束たちは半強制的に戦闘態勢を取らされる。手に持つ武器が急激に縮小し頼りなくなったような錯覚を受けながらも、目標の少女を取り押さえるべく動き出す。


 戦いが始まり――そして殺戮が始まる。


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