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怪物少女、邁進す 〜魔法のある世界で腕力最強無双〜  作者: 平塚うり坊
4章・アムアシナムの悪魔憑き編
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194 教皇シルリアからの依頼

誤字はどうして発生するんだろう……

報告助かります!

 座談会コンクエストの日程は三日間。数日がかりだが、定例会議である教覧会カーネストが大小さまざまな議題を話し合うのに対し、こちらが掲げる議題はたったひとつである。逼迫した状況下でしか開かれないことを思えばそれも当然だろう――可及的速やかに解決せねばならない事象について六大宗教会の長たちが知恵を絞り合う場。座談会コンクエストとはそういう集まりなのだと認知されている。


 しかしそれはあくまで一般信徒たちの持つ認識であって、実際にその会で何が行われているかといえば、実情は少しばかり異なる。


 会議の場であることは間違いないのだ。

 ただし、誰もが平等な教覧会カーネストとは違い、座談会コンクエストには『被告人』が存在する。

 発令組織が『原告』だとすれば名指しで非難される対象こそが被告人席に座らされる被告にして『贄』だと言えるだろう。


 明確な瑕疵がないことには座談会コンクエストの発令も成り立たないので、会議が開かれている時点で責められる側の自己責任によるものと見ることもできるが、六大宗教会の代表としてアムアシナムの顔を務めている『天秤の羽根』がその対象となった場合は少々事情が変わってくる。


 故意にしろ過失にしろ他組織よりも天秤の羽根の責任は重い――特に宗教団体規模を超えた都市規模の事件に関しては、その責務を一身に背負う立場だと言ってもいいだろう。


 信仰の垣根を超えて信徒全員が監視網となるアムアシナム独自の警備体制も天秤の羽根の号令を元に動かされる代物だ。そのシステム故にアムアシナムは軽犯罪の発生率は異様に少なく、その代わりに突発的な凶行や計画立てての重犯罪が目立ち、また明らかな宗教間での傷害・殺人事件も多々起こるという非常に歪な社会になってしまっているが、概ねすべては六大宗教会の思い通り。宗教都市アムアシナムとはそういった街なのだ。


 それが今回はどの宗教組織にとっても予定外の事件が頻発し、被害者数は(見立ての数字ではあるが)もはや都市規模でも過去に類を見ないほどの人数へと至ってしまった。これだけの数が都市から消え去るのを防げなかった天秤の羽根は「手をこまねいていた」、「その責任を果たそうとしていなかった」と槍玉にあげられるのは至極当然のことであった。


 天秤の羽根としてはこの事件、他組織の陰謀を疑わずにはいられないがしかし、それを立証する手は今のところない。六大宗教会ではなく悪魔憑きが引き起こしているのだからないモノを見つけることはできないのだが、十使徒たちはそれを知らない――この点に関して教皇シルリアはもう少し別の理解をしてり、『暁雲教』は一連の行方不明事件を利用してはいても直接的な原因からは外れているであろうことをほぼ確信・・している――今後を考えれば真実はともかくとしていっそその証拠を捏造でもしたいところだが、そんなことをすれば余計に自分たちの首を絞める結果に終わるだろう。何故なら六大宗教会とは名ばかりに、今回の座談会コンクエストは『天秤の羽根』対『残りの五宗教』という構図になることは目に見えているからだ。

 

 弾劾裁判の場と揶揄される座談会コンクエストは発令組織ふたつにそれに同意する組織が更にふたつ必要というその条件からしてそうなってしまう仕組みになっているのだが、中立組織を味方に引き込むことも絶対に不可能というわけではない――必ずしも孤独な戦いを強いられるとは限らない。


 だが、天秤の羽根を相手取ると決めた時点で他宗教たちは否応なしに団結してしまう。なまじ圧倒的な組織力を持つが故に、矢面に立たされた際にその対面者たちは手を結ぶことを一切厭わず、一丸となって立ち向かうことを選択するのだ。


 そうしなければ敵わないから。

 そうすれば敵うから。


 代表でありながら、だからこそ天秤の羽根は味方を得られない。


 ――シルリアは、天秤の羽根はとにかく味方が欲しかった。


 それは何も他宗教に関わらず、何かしらの力を持つような誰かでもいい――とかく人目を引くだけの素養のある何者かさえ天秤の羽根の味方としていてくれたならば。


 孤立とは内の士気を下げ逆に敵の士気を上げる猛毒。

 それが解消されるだけでも大いに意味はある――だからこそ。


 彼女にしては長らく迷った末に、シルリアはその決断を下したのである。



◇◇◇



「議題を出してその原因を語る提唱の初日。議題をどう解決すべきか語る判唱の中日。議題の解決後の組織同士の在り方を語る訣唱の終日。ひとつの命題を中心に過去、現在、未来について話し合うのだと言えばわかりやすいでしょうか? 座談会コンクエストの日程はこのようになっています。開催の前日、つまり明日には六大宗教会の長がここに集うことでしょう。全員が集まれば歓迎会と称した小さなパーティーも開かれます。必要かは疑問ですけれど、習わしですから」


 言うなればこの歓迎会こそが被告組織に残された最後の味方作りのチャンスであるのだが、当然天秤の羽根にとってその好機はないものとなっている。発令が五宗教で同時に行われたのだから、そんなことは考えずとも明らかだ。


 ――奴らはあからさまに天秤の羽根へ宣戦布告を行っている。オットーら十使徒には確かな焦りがあった。それ故に、その少女の応答は少々癪に触りもした。



「はあ、パーティーですか……楽しそう、ですね?」



 儀典室に呼び出されたナインは何を言われるのだろうかと頭を捻っていた。具体的には壺を壊した自分の失態について教皇から直々に苦言を呈されるのかと戦々恐々としていたのだが、来てみて聞かされたのは座談会コンクエストがどんな進行を取るのかについての説明。


 唐突もいいところのこんな話にナインはどういったリアクションを取っていいやらわからず、対面する教皇シルリアを始めとし、その周囲へ控えている最高信徒たちや警備隊員らといった天秤の羽根所属員からしてみればトンチンカンもいいところの返事しかできなかった。


 僅かに、けれど明らかに空気が悪くなったことをナインは敏感に感じ取る。

 根っこの部分がまだまだ気弱な彼女は意外と場の空気に対しては鋭さを見せる。


 その肌感覚がナインに対して心証を下げたであろう周囲の反応へ、露骨に不機嫌になったクータとジャラザの剣呑さまでも伝えてくる。クレイドールは動じず人形のように動きを見せないが、ナインはその瞳が素早く部屋内を一瞥したのを見逃さなかった。あの素早い瞳孔の動きはロックオンに違いない。これまでにも何度か見ているので分かる――つまり三人の中で最も物騒な手段に出ようとしているのは一見して最も冷静なこの少女とみて間違いないだろう。


 教皇や組織幹部のいるこの場所で戦闘など起こさせてはならない。そうなってはテレスティアのときとは比較にならない大問題となってしまう。そもそも、天秤の羽根が苦しい立場にいることを承知しており、その上で「楽しそう」などと所属員たちの心情を逆なでするようなことを言ってしまったナインこそが悪いのだ。我ながらKY(死語)なことを言ってしまったという罪の意識はあるので――


「失礼な言い方をしました、申し訳ありません」


 すぐに謝る。床と直角に、九十度の角度で腰を曲げて頭のてっぺんを相手に晒す。

 丁寧な謝罪にシルリアはにこりと笑って――例によってあの氷の微笑である――「頭をお上げください」と言った。


「あなたが礼を失したなどとは思っていませんが、その謝罪を受け入れます」

「ありがとうございます」

「いいのですよ。それよりも、話を続けても?」

「あ、はい。腰を折ってしまってすみません」

「いえ、こちらこそ婉曲な話し方をしてしまいましたね。ナイン様が不可解な面持ちになるのも無理からぬことでした。単刀直入に言いますと――教皇として武闘王ナイン様に、依頼したいことがございます」

「依頼、ですか? それはどんな」

「勿論、ナイン様の武に期待してのことです。今日から座談会コンクエスト終了までの五日間を、あなたに護衛して頂きたい」

「……なるほど」


 ナインお得意の「なるほど」が出たが、今回ばかりは知ったかぶりの生返事ではないことをここに知らせておこう。教皇がどういった思惑でいるのか、頼むにしたってなぜこんなギリギリなのかと謎もありはするが、ナインにとってこれは悪いことではない――護衛役の一員に加わることが出来れば、自然な形で部外者である自分でも座談会コンクエストに携われることとなる。未だに聖杯を本格的に探せていない状態のまま本殿から締め出されてしまうことになるのでは、と危惧していた彼女にとって、教皇の提案は天から垂らされた蜘蛛の糸のようなものだった。


「その依頼、謹んでお受けします」

「ありがとう、ナイン様。あなたが力を貸してくれるなら百人力ですわね」

「微力ながら力を尽くすことを約束します――ところで、誰をお守りすれば?」

「誰と言わず、守れるものすべてを」

「へ?」


 思わず気の抜けた返答をしたナインにまたしても儀典室の人間が――特に警備隊長のアルドーニはクータらにも負けない露骨さで――顔を顰める。けれど教皇本人は優雅な笑みを崩さないままに言葉を続けた。


「もちろん基本は私についてもらうことになりますが……追って警備隊から指示を出させましょう。ナイン様は武闘王で、『ナインズ』は今年度の闘錬演武大会優勝チームであらせられることですから、護衛隊や警備隊と同じような扱いをするわけにはまいりませんので。下手に枠へはめてしまえば、宝の持ち腐れとなってしまうでしょう?」


「な、なるほど……」


 これはいつもの生返事である。


 しかしナインも、なんとなくは教皇の言いたいことが理解できている。要するに所属員と連携なんて取れないんだから浮き駒としてその都度言われたことをやってろ――と乱暴に言いなおせばこういうことだろう。


 簡単シンプルでいいことだ、とナインは頷く。このやり方は複雑を嫌う彼女にぴったりである。



「ただし、その前に」



 外見の年頃に似合わぬしたり顔を見せたナインへ、教皇が水を差すように告げる。


「大変不躾な頼みにはなりますが、ナイン様の実力を是非ともその身で体感したいと願ってやまない者がおりますので――隊舎にある闘技場にて、あなたにそのお力を披露していただきたく思います」


「……へ?」


 思わずぽかんとしたナインは、その十五分後には闘技場の中央に立たされていた。


4章も折り返し、というかやっと話が動き出しますかね。

……ここまで本部をうろちょろしてただけの主人公一行がいるらしいですよ、とても信じられませんね。

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