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怪物少女、邁進す 〜魔法のある世界で腕力最強無双〜  作者: 平塚うり坊
4章・アムアシナムの悪魔憑き編
201/553

190 オイニー・ドレチドのチラ見せ

通算200話達成!

前話でね(気付かなかった)

「それで私のもとへ来たのですかー、なるほどなるほど……。それにしてもよくここがわかりましたね?」


「お前は気配を薄め過ぎだ。一般人相手ならそれでいいだろうが、一度お前の気配を覚えたならば、これ見よがしに薄めた気配が逆に際立つ――そうか。そうやって万理平定省の仲間とコンタクトを取りやすいようにしているのだな?」


「納得しました。この一帯はアムアシナム内でも平均層……否、位にして中流信徒が住まう区画。紛れ込むのはどちらの意味でも適しているということですね」


 普通の身なりをしているオイニーは外見だけで言えば平凡な街娘に見える。だが彼女を知る者からすれば不自然に希薄となった存在感と合わせてすぐにそれがオイニー・ドレチドその人であると見抜けるようになっている。つまりは仲間内での確認が容易に行えるということだ。


 そう判断したジャラザとクレイドールだが、当のオイニーは肩をすくめて、


「いえ、単に長らく潜入しているせいで気が緩んでしまっているというのが真相ですよ。同僚とは普通にコールセクトで待ち合わせしますし……符丁は使いますけどね? って、こんなのはあなたたちにとってどうでもいいことでしょう」


 その通りだとジャラザは肯定し、オイニーの意見を求めた。

 自分たちのアプローチの仕方は間違っているのか。間違っているとすればどうやって悪魔憑きを捜せばいいのか、彼女の見解を伺うべくこうして訪ねたのだ。

 オイニーが普段どういった仕事ぶりであるかは知りようもないことだが、間違いなく探し物に関しては彼女のほうがナインズの誰よりも手慣れているはずである。


「んー……そうですねえ。間違ってはいないと思いますよー? ただちょっと節操なしに動きすぎたかとは思いますけどねー」


「その点に関しては儂らも反省しておる」


「いやまあ、それでも次期教皇と目されるような相手とお近づきになっている辺りは見事な手腕ですけどねえ。それだけで多少のミスがあってもお釣りがくるくらいで……と言っても『多少』のレベルで済んでいるかは微妙ですかね」


「はい。私たちを見る目が厳しいものとなっていることは否定できません」


 ナインとクータが本殿内の物品を壊してから迎賓館に戻るまでの間――否、戻ってからもすれ違う者たちの視線がその前より注視するようなそれに変わっていたことは、ナインズの全員が知るところである。


 疑われているというよりも子供が粗相を仕出かさないかと見張るような態度であることは不幸中の幸いとも言えるのだろうが、どちらにせよより探索しづらくなったことだけは確かだ。


「けれど致命的とまではいかないですね。まだまだ十分自由に動けそうですし、ジャラザさんが気配に敏感であることも追い風でしょう。聖杯から悪魔憑きを辿るという考え方も理に適っていると思いますよ。現状これしか手がないとも言えますが」


「主様もそう結論付けた。しかし、肝心の聖杯を探ろうにも儂は七聖具の気配というものを知らん」


 ナインが胃から聖冠を吐き出せるならそれを参考にもできた――そんなことが可能ならそもそも聖杯を探す必要もないのだから仮定にしても破綻している――が、勿論オイニーには明かせない。なのでジャラザはクータが聖冠の気配を知っている云々の話は伝えず、皆で脳みそを振り絞って思い付いたこととして語った。


「気配さえわかれば、探れるんですね?」

「よほど特殊な隠蔽工作でもされてない限りはな」

「ふうむ、そこは実際にやってみないと、ですね……では」


 特別ですよ? と茶目っ気のようなものを出しながらオイニーはゆったりとした衣服の内から一本の剣(・・・・)を取り出した。

 突然の行動にジャラザとクレイドールが警戒を見せるが、オイニーは物々しい雰囲気にもまるで気付いていないかのようにそれを見やすいようにと二人へ掲げてみせた。


「特殊な隠蔽というのは例えば、こういうものを言うんでしょう?」


「なに?」


 オイニーの言葉を訝しみつつジャラザは剣をつぶさに観察する。

 それはどこか奇妙な代物だった。


 一見して変だと思えるのは、鞘と柄の意匠がまるで合致していないこと。鞘は簡素な造りをしており、ただの白地で見栄えもいいとはいえない代物であるのに対し、柄は逆に絢爛ながらも上品さを感じさせる、間違いなく一級品。この印象の違いは鞘と剣がまったく釣り合っていないことから生じるものだ――通常上等な剣であればそれに相応しいだけの鞘もしつらえるのが当たり前。

 だというのにこれは、まるで王族が庶民の作業着を着させられているかのようなチグハグさがある。


「――まさか?」

「どうかしたのですか、ジャラザ」

「ああ、気付きました? クレイドールさんはまだのようですが、こうすればわかるでしょう。抜きますよ(・・・・・)


 すらりと鞘から抜き放たれた剣。リカッソと呼ばれる、刀身の根元にある刃のついていない部分。そこに埋め込まれた光る白い宝玉が特徴的なそれは、鞘から解放された途端に抜群の存在感を放ち始めた。存在感を消しているオイニーとの対比で現実感が妙に揺らいでしまう光景ではあるが、これは確かに――。


「お主――七聖具を、持ち歩いておったのか……!?」


「そうですとも。何せ私は『七聖具蒐集官』ですからね。手持ちはこれだけですが、それでも。これこそが七聖具がひとつ『聖剣・・』! せっかくですから、今日は気配だけでも覚えて帰ってくださいね?」


「う、む……そうだな。感謝する」


 呆気に取られたジャラザだが、すぐに気を取り直してじっくりと聖剣を眺める。オイニーもそれなりにのリスクを覚悟でこれの存在を明かしたのだ。ここで不甲斐ない姿を見せては自分の、ひいては主人たるナインの恥にもなりかねない。聖剣のプレッシャーはジャラザをしてもぞくり(・・・)とさせられるものがあるが、怯んでなどいられないだろう――正確にこの気配を読み取れるようにならなければ。


「材質不明。硬度は少なくともアダマンタイト以上。切れ味は――」

「おっとクレイドールさん。触れるのは勘弁してもらえます? 見るだけ、見るだけですよ」

「そう言わず、ほんの少しだけお願いします」

「いやいや駄目ですって」

「指先だけですので」

「指先でも触れちゃ困ります」

「――」

「あっ、こら。いま触ろうとしましたね? そんなことするんだったらもう見せるのもやめちゃいますよ、いいんですか?」

「承知しました。あなたはケチなのですね」

「いったい何を承知したんですかね……? というか言うに事欠いてケチとはなんです。こっちは善意で剣を見せてあげているのに」

「善意の上乗せを要求します」

「わあ、びっくりするくらい厚かましい子ですねえ。無表情なのがまた怖いったら」


「ええいうるっさいの! 儂が真剣にやっとる傍で遊ぶでない!」


 遊んでません、と二人は口を揃えて反論した。


 その息の合い方にまたイラっとさせられながらもジャラザはどうにか聖剣のオーラというものを記憶した。


「もうけっこうですね? なら仕舞いますよ」


 鞘に納められる剣をクレイドールがどこか残念そうに見つめる。

 学習意欲の旺盛なは彼女はひょっとすると、料理にもそうしたように成分でも確かめて自らの進化に役立てようとしていたのかもしれない。


「一応は私が聖剣の所持者ということになっています。つまり悪魔憑きが所持者となっている聖杯も今のと似たような気配がするはずです。悪魔憑きがどういう形で聖杯を使用したにせよ、痕跡は残っているでしょう――あの御伽噺にもなった大悪魔を引きつれているのなら、その出発点となった場所に力の残留物が気配となって漂っていることは大いにあり得ますから。ジャラザさんならきっとそれも追えるのでは?」


「ふん、そううまくいけばいいがの」


「まずは実践あるのみですよ。やってみないことには何も確かなことは言えませんから。そのために本来教えちゃいけない聖剣のことだって教えたんですから、ここは是非とも頑張ってもらいたいところですね」


「覚えた気配は役立てると約束しよう。さて、儂らはすぐにも戻らねばな。朝方にはバトラーが起こしに来る。それまでには部屋に戻っておかねばまた奇異な目で見られることになる」


「おお、それは大変。お見送りはできませんがここでお別れするとしましょうか。ジャラザさんもクレイドールさんもどうかお気をつけて。大悪魔が敵である以上、悪魔憑き捜しは見つけて(・・・・)からが(・・・)本番です(・・・・)からね(・・・)。あとのお二方にもそうお伝えください」


「……うむ、確かに伝えておくとしよう」


「ジャラザ。聖杯を発見すればその材質から聖剣の素材についても予測がつくかもしれませんね」


「お主はさっきから何を言っておるのだ? ちゃんと会話をしろ会話を」


 闇夜に紛れるように飛んで行くクレイドールと、その腕に掴まるジャラザ。スラスターの噴射は夜空に光を灯しているが、最低限度に抑えられたそれは今夜が星明かりに満ちていることもあって大して目立つことはなかった。それでも基本、どの任務でも隠密こそを是とするオイニーにとっては目に余るものがあるが。


「うーん、不安は否めませんね。もう少し腹に一物あるような人物像を思い浮かべていたのですが、存外どの子も素直なもので」


 一人になったオイニーは踵を返して通りを移動し――ぐちり、と少女らしい顔つきに見合わない不気味さでその口角を上げる。


「いやはや、まったくもって扱いやすいことで何よりですねえ」


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