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怪物少女、邁進す 〜魔法のある世界で腕力最強無双〜  作者: 平塚うり坊
4章・アムアシナムの悪魔憑き編
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189 探し物はなんですか?

 それから三日ばかりの間、ナインズは天秤の羽根で聖杯と悪魔憑きを探った。と言っても聖杯はオイニー・ドレチドとの約束(が果たされたらの話だが)もあって優先度は低い――というより悪魔憑きこそを優先しなければならない、と言ったほうが正しいだろう。


 ナインにとって必要なのは言うまでもなく聖杯のほうだが事件を解決することこそが今の彼女にとっての課題となっているので、そちらを優先するのも当然だ。しかしながらやっていることといえば本殿をせこせこと歩き回るくらいのもので、聖杯探しにしろ悪魔憑き捜しにしろ行動に大きな違いなどありはしないのだが。


 外様からの来訪者であるナイン一行がどうやって本殿内を闊歩しているのかと言えば、すべては友人となったシリカ・エヴァンシスの厚意に基づくものである。


 彼女にとって初となる年齢の近い友人ナイン。


 そんなナインからの「本殿を見て回りたいなあ、自由にね。自由に歩き回れたら最高だなあ、お供とかなしでね。ひょっとするとシリカは、そういう許可を貰えたりするのかな……?」とやけに説明的かつ迂遠的な『お願い』をされたシリカは、なんと彼女のほうから母親へと直接話を通して実際に許可を貰ってしまった。


「お母様はとっても難しい顔をしていらしたけど、許しをくれたわよナイン」

「ごめんなシリカ、ねだるようなことを言っちまって……シルリアさんにも申し訳ない」

「いいの。ナインがうちを気に入ってくれたら、私だって嬉しいもの。存分に見て回ってちょうだい」


 友達というより姉のような包容力を見せるシリカ。


 そんな十二歳の少女に、見かけは十歳でも精神年齢で言えば十七歳ほどのナインは、年下にあやされている気分になってそういう意味でも落ち着かなかった――自分の子供らしい外見を最大限活用しておねだりをしている辺り、もはやその程度で動揺している場合ではないとは理解しつつも、やはりそう簡単に吹っ切ることはできていない様子だった。


 シリカに深く感謝し、ナインたちは心置きなく本殿を隅から隅まで――教皇を中心として幹部連中のみが出入りする一部の場所を除き――調べ歩き、その結果何も見つからなかった。


 二日間の探索を終えた夜、迎賓館の与えられた宿泊室でナインズの四人は顔を突き合わせて話し合った。


「ガチで何も見つからないんだが……」

「主様に同じだ。儂は信徒やメイドらの気配を一人一人探ってみているが怪しい者はおらん」

「れーはいどーとかおんしつとかも見てみたけど、なにもなかったー」

「建物を外から計測し、内部構造と照らし合わせましたが不自然な箇所は存在しませんでした」

「やれることは全部やったって感じだよな……ってーことはだ」


 ナインズが唯一調べきれてないのが、前述した関係者以外の立ち入りが固く禁じられた一定のエリアである。



 そこにこそ悪魔憑きは潜んでいる。

 ないしは、何かしらの手掛かりがあるかもしれない。



 聖杯と悪魔憑きの関係性はおそらくオイニーの推理通りだろうとナインは見ている。そして天秤の羽根は所持している聖杯を隠している――ならばその隠し場所として信徒ですらも立ち入れないエリアを選ぶのはごく自然なことである。つまり聖杯はあのエリアのどこかにあり、それに関係している悪魔憑きも近くに潜伏しているのではないか。


 そう思ったナインだが、ジャラザは「そうと決めつけるのは早計だ」と首を振った。


「教皇と対面した儀典室はあの閉ざされた扉の奥にあった。つまり外部の者とはいえ理由があればああいったエリア類に入るのを許されるということだ――実際に儂らが通されたようにの。聖杯の安置場として『聖杯の存在を知らぬ者を一切近づけない場所』を選ぶのは主様の言う通り、なんらおかしなことではない。むしろ真っ当な判断だと言えるだろう。であればこそ、折によって客を通すこともあるエリアが隠し場所に相応しいかというと、悪いとは言わんが正着とも言えん。隠すのならもっと確実な方法を取るはずだ」


「う~ん、確かにそうだな……でもそれじゃあ、いったいどこに――」


「たとえば地下はどうでしょう」


 ジャラザの言葉に納得させられ、唸り声を上げて悩むナイン。そこでクレイドールが発言し、少女たちの注目を集めた。


「地下だって?」

「はい。パラワン博士の研究室ラボがそうであったように、聖杯は本殿地下のいずこかにあるのではないでしょうか」

「なるほど、建物の下の空間……!」


 地下に隠し部屋を作るというのは妙案だ。それなら建物の設計を歪にする必要もなく、何も知らぬ信徒やメイドが構造に違和感を持つこともなくなる。隠しやすくバレにくい。そう考えるとこれ以外にはないように思えてきた。


「だけど問題は、どこから地下に降りられるかってことだな」

「クレイドールのときみたいに、どこかに階段があるのかな?」

「入口自体も隠されているはずですから、見つけ出すのは容易ではないかと」

「聖杯か悪魔憑きそのものの気配がどういったものか分かれば儂が探し出せるのだがの……できんことを言っても詮無しか」




 翌日、一同は探し方を変えた。

 怪しいものを探すのではなくいかにも怪しくないような場所や物を徹底的に調べ上げることにしたのだ。


 その過程でナインとクータがそれぞれ調度品を壊してしまったり工芸品を壊してしまったりと破壊の限りを尽くしシリカに平謝りすることになったが、そんな犠牲を払っても結局は何も見つかることなく、こうして無為な三日が過ぎた、その夜。


「主様もクータも何をやっておる。や、本当に何をやっておるのだ? あの娘に迷惑をかけただけではない。こんな目立ち方をすればますます動きづらくなると分からんか? ただでさえ何をするでもなく、あちらこちらへと彷徨う子供として妙な目を向けられているというのにだぞ。儂は明日からどんな顔をして調査を続ければいいのだ」


「すまん、本当にすまん……。まさかあの壺が固定されてないとは夢にも思わなかったんだ。台座をズラせばそこから秘密の通路が出てくるんじゃないかと動かしてみたんだが……」


「それは台座部も危うく破壊するところだったということでしょうか」


「うぐ……」


 クレイドールの鋭い指摘にナインが口を閉ざす中、押し黙っているクータへジャラザは向き合った。


「お主もだぞクータ。主様の悪いところを見習う必要はない。スフォニウスに引き続き物を壊してばかりいることにはほとほと呆れたものだが、儂らまでそれを真似てしまっては叱ることもでき……聞いておるのか、クータ?」



「――クータ、思い出したことがあるんだ。聖冠は、おやしきのどこにいてもそこにいるってわかった。聖冠じたいがすごい存在感だったんだよ」



「……ほう?」


 突然何を言うかと思えば、意外なほどに有用そうな話にジャラザは興味を示す。横で聞いていたナインも「そういえば」とあの時のこと――暗黒座会ボスの隠れ家へ襲撃をかけた際――を思い返して頷いた。


「リュウシィもクータも聖冠のプレッシャーみたいなのを感じ取ってたな。俺は直接目にするまでは何も気付かなかったけど」

「主様のそういう鈍さはもはや論ずるまでもない」

「ひどい」

「重要なのは起動した七聖具があるならクータにはそれが分かるということ。そうだな?」


「うん、あの感じはすぐにわかるよ。あと、クータがわかるなら、ジャラザだったらもっと感じるはずだよね? ここに聖杯があるなら、なんでその気配がしないんだろうって気になって」


「ふむ……聖冠はあくまで使用された状態だからこそプレッシャーを放っていたのだろう? ということは、聖杯は未だ使用状態にない……? いやしかし、大悪魔の封印を解いた時点で聖杯を起動させたのは間違いないはずだ」


「その後にスリープモードへと移行させたのでは?」


「スリープモードって……まあ表現はともかく、悪魔憑きは聖杯の『所持者』になって大悪魔の封印を解除して、それで悪魔と行動を共にしてるわけだ。所持者じゃないと七聖具は操れないが、逆に言えば所持者になっちまえばその機能のオンオフも可能ってことになるよな。そこから考えるに、悪魔憑きはどうやってか聖杯に近づいて悪魔を解き放ったあと、聖杯を持ち去らずにその場所に置いたまま――スリープモードにして、元の状態のままにして立ち去ったんじゃないか?」


「うむ。そうでなければ天秤の羽根が騒ぐだろうしの。どこへ隠していようと聖杯が消えればすぐに気付くはずだ」


 しかし厄介だの、とジャラザは眉根を寄せて呟いた。


「聖杯の所持者はおそらく、依然として悪魔憑きのままだろう。見た目にこそ変化はなくとも、悪魔憑きに操られているとなれば聖杯もまた儂らにとっての『敵』となりかねん――あれが封印するのは何も悪魔だけに限らんからな」


 を封じ込める能力を持つ聖杯。

 悪魔憑きが十全に操ってみせれば、たとえナインであっても封印されてしまうおそれがある――しかし。


「リュウシィが言ってたことだけどさ。七聖具を『本当の意味』で使いこなすのは相当難しいことらしいんだ。悪魔憑きが聖杯の所持者だからって封印の力を使えるかってのは怪しいところだと思うぜ」


「重ねて言えば、悪魔の力を借りているのであれば聖杯との相性は決して良くないはずです。しかし、七聖具は所持するだけでも使用者に恩恵を授けるものだとも言われているようなので、一概に聖杯が力を発揮できない状態にあると言い切ることはできませんが」


「ああ、聖冠が実際にそうだからな。どのみち聖杯が使われた時点で悪魔憑きはヤバい力をふたつも手にしていることになる――油断はできねえな」


 ますますもって悪魔憑きの危険性が浮き彫りとなった形だ。いち早く正体を暴きたいがしかし、ナインたちは現状手詰まりである。立ち入り禁止エリアも含めればまだまだ調べきれていない場所も多いが、その事実は未探索の箇所へ期待を寄せる以上にその反対、杜撰さ故にナインズ程度の調査能力ではこれ以上の進展がないことを見越せてしまうものでもある。


 はっきりと焦りを覚えたナインは、素直に人を頼ることに決めた。


「やりたかねえけどしょうがない。ちょっと、オイニーのやつにも相談してみようか」

 

なんだか推理物みたいになってきたな……いやなってなかったわ

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