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怪物少女、邁進す 〜魔法のある世界で腕力最強無双〜  作者: 平塚うり坊
4章・アムアシナムの悪魔憑き編
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182 護衛隊長テレスティアvs不審メイド

毎度誤字報告どうもありがとうございます

 信仰魔法は自身の信じる『尊き者』へと心身ともに寄り添わせることで習得が可能となる聖属性の魔法だ。信仰の対象として最もポピュラーなのが神であることや魔法効果が魔物への特効や邪気払いに特化していることから、信心深い信徒のみに許された特別な魔法であり、決して一般戦闘向きのものではない、というのが広く世間に浸透した知識である。


 しかしながらその実態は、市民の持つ解釈とは少しばかり異なっている。何も信仰対象は神に限らないし、また魔法も必ずしも悪魔や魔族にばかり効き目があるというわけでもない。


 例を挙げるなら『ホーリーライト』。

 これは聖属性の魔力を増幅させる強化魔法の一種だ。

 聖光の輝きを忌み嫌う悪魔はこれを使われるだけでデーモン程度なら踵を返して逃げ出すほどだが、この魔法の真価はあくまでも使用者の肉体を強化する点にこそある。


 信仰魔法に馴染みの薄い(アムアシナム以外の)一般人たちにはえてして誤解されがちだが、聖属性の魔力が戦闘に向かないなどということはない――そのことを今、信仰魔法の使い手であるテレスティア・ロールシャーが侵入者を相手に証明しようとしているところだ。



◇◇◇



「ふっ――」

「っ、私のセンサーを……」


 テレスティアの移動速度を覚え、目標捕捉ターゲッティングまで完了していたクレイドールは、それ故に急激に速さを増した彼女を追い切れなかった。ハイパーセンサーの作動すらも振り切ったテレスティアは先の速度の倍以上はあろうかという勢いでクレイドールの死角へと潜り込み。


「信仰剣――『プライムソード』!」


 剣に信仰心を乗せることで威力を引き上げる、警備隊所属員が習得を必須とする剣技魔法『プライムソード』。当然聖属性の魔力を所持していなければどれだけ練習しようと使用することはできない――が、反対に今のテレスティア、つまり聖属性を持つ者が『ホーリーライト』を発動中であるこの状況ならば、魔法の効果はより高まる。


 増幅させた魔力が刃を通じ敵に牙を剥く。


 バギンッ!


 テレスティアが放ったのは突き。狙ったのはこめかみだ。初めの剣撃で賊がただの人間ではないということに薄々勘付いている彼女だが、人型を取る生き物にとって頭部(脳)は普遍にして不変の急所のはず。構造的に頭蓋の中でも脆いこめかみを一点集中で突いてやれば――それも強化された状態でだ――必ず攻撃は通る。



 ――手応えあり。



 敵もさるもの、死角から繰り出した刺突にすらも反応を見せたが、動き出しは遅かった。それでもこめかみを切っ先からズラしたのは見事と言えるだろう――ただしその分、剣はより脆い頬部へと突き込まれたが。


 甲高い破裂音を立てて、クレイドールの左頬が裂ける。柔らかい部位とはいえどうにかダメージが入ったことをテレスティアが確認し、そしてそれ以上に『切れた』というよりは『ヒビが入った』ようにしか見えないその傷から、賊の少女が真っ当な人間種ではないことへの確信を強めた。


「アームロケット射出」


「っ!」


 跳び上がる。その足元を通過する、クレイドールの腕。構えなどなしに、ただ手を向けただけの状態から即座に発射されたそれはテレスティアを大いに驚かせた。


「う、腕を飛ばし――」

「エレメンタルナパーム合成――射撃」

「! ちいっ!」


 宙にいるテレスティアへ残った左腕で照準を合わせたクレイドール。手の平から撃ちだされたのは自己生成した四属性のうちのひとつを固めた魔力弾。今回選ばれたのは火属性。最も焼夷弾ナパームの名に相応しい弾丸だ。


 飛来する赤い弾丸へ剣を振るったテレスティア――刀身と弾が接触した瞬間、そこから火炎が爆発的な広がりを見せて彼女を飲み込んだ。荒れ狂う炎によってテレスティアの姿はかき消される。その最中にクレイドールはアームロケットで離した右前腕部へ帰還信号を送り、装着し直す。


 そしてすぐさま拳を叩き込んだ。


「――ちっ、私を見失ったものと思ったがな……!」

「センサーによって炎から脱するあなたを捕捉していましたので」


 テレスティアの剣とクレイドールの拳による押し合い。先程は防ぎきれなかったはずの自動人形オートマトンの殴打とも正面から拮抗できている辺り、『ホーリーライト』による強化は目覚ましいものがあると言えるだろう――しかし。


 自分を強化ブーストできるのは何も、テレスティアに限った話ではない。


「エネルギーシフト。武装への供給を一時中断し駆動部へパーセンテージ調整――完了しました」

「な、にぃ……! くっ」


 明らかにクレイドールのパワーが引き上げられた。


 剣で抑え続けることが困難になったテレスティアは切り払う所作で拳を流し、鍔迫り合いからいち早く抜け出してみせる。

 そのまま再度頬の傷を目掛けて剣を薙ごうとするが、それよりもクレイドールの反撃が速かった。姿勢を崩したままだというのに、まるで腰から下が分離しているかのように無茶な蹴りを放ったのだ。

 生身の部位がほぼないクレイドールだからこそ可能となる挙動に、予想を覆されたテレスティアは攻めではなく受けのために剣を振るわざるを得なかった。


 キィンッ! と硬質な衝撃音。堅く鋭い足先と硬く鋭い刀身がぶつかり合ったことで互いを弾き、それぞれ一歩分――合わせて二歩分の距離が開く。これは手に得物を持つテレスティアにとっての間合いだ。そう判断した彼女は攻めかかろうとするが、体を動かすよりも先に背部のバーニアからスラスターを作動させたクレイドールによってその思惑は阻止される。


「またそれか……っ」

「――……」


 鬱陶しさを滲ませるテレスティアの言葉に付き合わず、浮かび上がったクレイドールは打ち下ろすようにして拳を振るう。唸る右腕から得体の知れない感覚を味わったテレスティアは先のように受け流すのではなく、全霊での回避を行うことを選択。


 遮二無二跳躍することでどうにか拳を避け、目標を失ったクレイドールは地面を殴りつけることになる。



 ドゴン!!



 大きな音を立てて陥没する庭園。跳び退って着地したテレスティアはその破壊痕に息を呑む。こんなもの、どうまかり間違っても少女に出せるような被害ではない。なんの技術もないただの殴打でここまでの威力などと――あまりにも逸脱している。


(き、危険すぎるッ! こいつはここに居させてはいけない――一刻も早く退治せねばならない! 今ここで、この私がやらねば!)


 賊が可愛らしい少女の外見をしていることが、余計にそら恐ろしく思えてきた。杜撰な潜入(指定服と異なるメイド服の着用など)もまたそれだけ強さに自信があってのことだと今なら分かる。普通ではない。あらゆる面でこいつは普通ではない奴だ――とそう認めたことで、しかしテレスティアは臆しない。


 むしろ余計に己を奮起させた。



「シリカ様は――絶対に私が護る!!」



 魔力を全開にする。

 既に最大限に行っている強化を、更に強める――限界など知ったことかとばかりに精神を焚きつけ、そして。


「ふぅっ――!」


 意気込みの雄叫びにもリアクションを見せずに無表情のまま飛んでくる賊の少女へ、自らもまた突っ込む。引き延ばされる知覚が少女が拳を振るうタイミングを正確に教えてくれる。そこへ自身も剣を叩き込んだ。


「はあっ!」

「――!」


 交錯。立ち位置を入れ替わるように着地した両者は、どちらもすぐに振り向いて構えを取った。『プライムソード』・『ホーリーライト』による二重の強化が施さているテレスティアの剣は、それでも今の攻防で半ばからぽっきりと折れてしまった。逆にクレイドールの右拳も中指と薬指の間から手の甲までを切り裂かれている。


 両者ともに痛み分け――身体に傷を負っているという意味ではクレイドールのほうがよりダメージは大きいはずだが、けれど実際はそうじゃない。武器を持ってようやく互角に戦えているテレスティア。その武器が壊れてしまったからには俄然不利となったのは彼女のほうである。


 しかもクレイドールには自己修復プログラムが備わっている。事実頬の傷も既に塞がりかけているところだ――重症のはずの右手も、そう間を置かずに完治することだろう。


 諸々の劣勢をテレスティアとて悟っていないわけではない。刀身が欠けたことは即ち自身の身体が欠けたにも等しく、どころか命を半分失ったと表現してもいいほどである。どういう原理か負わせた傷が治っていく賊の得体の知れなさもまた、彼女に不利を強いる重大な要素だ――しかし、それがどうしたというのか。


 剣は折れたが、まだ心は折れていない。


 敵の得体は知れぬが、自分という人間のことはよく知っている。


 ここで容易に膝を突くような弱い人間が、どうしてシリカ・エヴァンシスの護衛という大任を務められようか。


 だからテレスティアは諦めない。

 どれだけの窮地であろうが諦観など抱かない――必ず乗り越える。

 シリカの生まれたあの日、まだ子供だった自分が抱いたあの感情。それだけが原動力。それだけが生きる意味。それだけが剣を振るう意義……だから。



 ――絶望など、この胸のどこにも居場所はないのだ!



「はあぁああああぁっ!」

「ッ――、」


 身命を賭す。信仰魔法の基礎にして極致とも言える精神状態パフォーマンスを発揮するテレスティアは、その全身に聖光を纏って突撃。ここに来て明らかに出力を増した彼女の形振り構わない猛攻に、クレイドールもまた傷もなんのとばかりに拳を握って迎え撃とうとして――、



そこまでだ(・・・・・)



 剣を持つ手元と、握った拳の手首を力ずくで押さえつけながら。

 テレスティアとクレイドールの間に現れた真っ白な少女が静かに言った。


「この戦闘は俺の預かりとさせてもらう。……まずはここで何があったか、二人の口から聞かせてくれ。言うことを聞かないなら強制的に寝かしつけるんで、そのつもりでな」


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