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164 オイニー・ドレチドは疑り深い

これまた久々のオイニーさん登場

それはそうと、本作がアクションの日間ランキング3位になりました。みなさんありがとうございます!

「任務に失敗? あなたたちがですか?」


 意外な言葉を聞いたと言わんばかりの顔でオイニー・ドレチドがそう訊ねれば、問われた彼女はしれっとした態度で肯定を返した。


「はい、失敗です。ナンバー3とナンバー5は『武闘王』の称号を手に入れることなくスフォニウスを発つこととなりました。これは我々の不手際です」


 弁解も弁明もなく、仲間を庇おうとする様子もなく、彼女――秘匿強襲部隊『アドヴァンス』のリーダーであるナンバー1は今年度の闘錬演武大会で起こった事実をありのままに語った。


 彼女と顔を合わせるのはこれで何度目だろうか? 明確な回数は覚えていないがしかし、幾度会おうと印象だけは変わらない。彼女はいつだって自然体で、その感情を読ませないのだ。悪びれるでもなく自分の部隊の失敗を認めるナンバー1にオイニーは苦笑せずにはいられない。


「珍しいですねぇ、あなたたちがミスを犯すなんて。戦闘任務なら独擅場なのでは? 『執行官』よりも荒事に特化しているのが売りですよねー?」


 これは揶揄ではなくオイニーにとって純粋な疑問でしかなかったが、その口を通して出るとこうも嫌味ったらしくなるという辺りに彼女の全てが表れていると言っていいだろう。ただし対面する少女もさるもので、常人であれば嫌な気分になるそんな質問にも鹿爪らしく頷き、


「実行性を売りにした部隊であることは確かですが、今回の任務は毛色が違いましたので。失敗に理由があるのならそれが一番の原因かと」

「ああ、そうですね、人前で戦うとなると……あなたたちにはとんと向きませんか」


 どこそこの拠点へ襲撃をかけるだとか対象人物へ闇討ちを仕掛けるだとか、アドヴァンスに向いた任務というのは得てしてそういうものだ。大勢の観客に囲まれた状況下で表の世界に生きる武闘家とやり合うなどというのは、むしろ執行官にこそ相応しい任務だろう――得意不得意という意味では、少なくともアドヴァンスよりはそういった場でもまともに動けるはずだ。


 開発局お抱えの新兵器・・・である彼女らの有用度は万理平定省のどの部署にも周知されてきているところだ。そして同時に、戦闘における悪目立ち具合も知れ渡ってきている。アドヴァンスの力というのはとにかく人目を引き、強烈である。オイニーをしてもえげつないと感じるものばかりなのだ。『秘匿強襲部隊』という冠の秘匿部分が別のものに挿げ替えられる時期も遠くないだろう……例えば『ド派手強襲部隊』とかに。


 特にこの少女。


 さすがは部隊を率いる隊長と言ったところか、派手揃いのアドヴァンスの中でも彼女の能力は際立って厄介かつ凶悪。


 もはや災害兵器とでも呼ぶべき恐ろしい代物だ。


 正直言ってオイニーは、いくらリーダーだからとて彼女が直接報告にやってきたことにげんなりしていた――別に人格的な面で嫌っているということはないのだが、それでも様々な点から確かな扱いづらさを感じずにはいられないのがこのナンバー1という少女だった。


 そんなオイニーの内心に気付いているのかいないのか、淡々と彼女は話し続ける。


「そういった意味ではナンバー3とナンバー5は唯一と言っていいこの任務に適した組み合わせでしたが、結果はこの通りです」

「こちらになんの話も通さず、補助役としてあなたたちが選ばれたことにも驚きを隠せないんですが……そのうえで作戦の前段階にすら失敗しましたと言われて、私はどんなリアクションを取ればいいんですかねー?」

「リアクションは結構。ドレチドはただ話を聞いてくださればそれでよろしいのです」

「…………」


 部下が仕事を仕損じたというのに、悪びれないどころかどこか上からにも感じる高圧的な物言いまでし始めたナンバー1に、オイニーはなんと言っていいやらわからず口を閉ざした。

 とにかくまだ報告があるようなので最後まで頭に入れておこうと思ったのだ。


「不慣れな形式のミッションに足を取られたことも失敗の理由のひとつですが、その内に含まれるのがある邪魔者の存在。トーナメントの性質上、予選段階で手を打つか大会運営を操作するなりすべきだったのを取りこぼしたのは純然たる判断ミス。しかしそれを加味しても尚、かの少女の存在は大きな障害だったと認めるべきでしょう」


「ミドナ・チスキス……のことではないですよね。ナンバー3たちを差し置いて優勝したという少女の話ですか?」


「その通り」


 ナンバー3とナンバー5が言葉を尽くした説明を行ったことで、ナンバー1もまた正確に怪物少女についての情報を把握している。大会後、廃劇場の地下で行われた会話に関しても同様だ――なのでパラワンというアドヴァンスにも関連する事情は省かれつつも、ナインという少女の異様さは寸分漏らさずオイニーの耳にも入ることとなった。


「……はーん。白亜の美少女、ですかあ」

「何かご存知で?」


 仲間からの伝え聞きでしか情報を持たないナンバー1はしたり顔のオイニーを見て、彼女は自分と違って以前からナインについての知識を得ていたらしいと見て取った――しかしそれを本人が否定する。


「いえいえ、リブレライトに立ち寄った際にそういう噂があるのを耳にしただけですよ。ただし大いに気になるところではありますね。あの街に七聖具の話が出た直後に彼女もそこにいて、誘導するまでもなく七聖具の眠る『ここ』を目指していて、しかも万平省うちが七聖具を集めていることを存じている、と。言動の何もかもが七聖具に結び付くじゃないですか? 出発点は噂の始まりであるリブレライトだとするのが妥当ですかね。そうなるとこちらの情報が伝わったのはリュウシィ経由と考えるべきか……あちらで見つからなかった七聖具を彼女が所持している可能性はなかなか高いですよね――うん、とりあえずはそうして『見て』みますか」


 七聖具に関わろうとする意図やエルトナーゼに立ち寄った意味、そして嘘をついている気配のなかったリュウシィがどうやって自分を謀ったのか、あるいは正義の鬼のような彼女がどうしてナインに与するような真似をしているのか――腑に落ちない点は多々あれど、目に見える事実だけを繋げば怪物少女は『クロ』と見て間違いない。


 だからオイニーは笑ってナンバー1に告げた。


「報告ご苦労様でした。あなたはひとまず帰還してください。ナンバー3とナンバー5にもサポートはいらないと伝えておいてもらえますか」


「よろしいので?」


「そのナインという子が仲間を引き連れてやってくるのでしょう? だったら私は単独のままでいたほうが動きやすい。この最高にきな臭い街に騒ぎの中心のような少女が訪れるというのですから、おそらく何かしら事件は起きるでしょう。私はそれに乗じるつもりです」


「ナインに接触するおつもりですか」


「勿論ですよ。七聖具の蒐集官として容疑者とは一度お話をしないわけにはいきませんからねー」


 面倒なことです、と口では言うがオイニーの表情は心から楽しんでいる者のそれだ。


 万理平定省からの追加派遣員であるアドヴァンスのサポートを現場判断で断ることがどういう意味を持つか、わからない彼女ではないことをナンバー1は知っている。あいにく武闘王という肩書きを得たうえで『天秤の羽根』の目を欺くという本来の策は実行が不可能になってしまったが、人員が増えるだけでも取れる手段は格段に増すのだ。それを拒否するオイニーは、この地にあるとされる聖杯の奪取に失敗した場合、アドヴァンスのそれとは比較にならないほど経歴における大失態、いわゆる汚点となるだろう――それこそただ失敗したというだけでなく、許しがたいを犯したような扱いを受けるはず。


 それを承知していながら、こうも人を食ったような笑みを浮かべるオイニーという少女は……きっとまともではない。まともであったらそもそもこんな仕事が――執行官という職務が務まるはずもないのだからそれも当然だ。


「同じ穴のムジナか……」


 ぽつりとナンバー1は呟いた。


「? 何か言いましたかー? 声が小さくて聞き取れませんでした」

「特に何も。私はこのまま本部へ直行し、情報を持ち帰ります」

「はいはい、お願いしますね。私の憶測も合わせてレッテルはAということにしておいてください」

「了解しました。それでは最後に」

「なんでしょう」

「これから私のことは『ウーネ』とお呼びください」

「……あなた名前が付いたんですか?」

「はい。つい昨日にですが」

「わかりました。今後はそのようにしましょう」


 密談場所として選ばれた地下水道の一角からナンバー1が――いや、ウーネが去ってから「やれやれ」とオイニーも移動を始めた。


「早く来てほしいものですね、ナイン……。何せ現状、私は天秤の羽根本部に近づけないんですから」


 きらり、とくすんだ銀色をしたオイニーの頭髪が光源もないのに一瞬光る。

 それはまるで闇を切り裂くような、鋭く眩しいものであった。


引き続きの誤字報告に感謝です!

頭が上がりません

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