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幕間 ナインズ戦闘訓練・下

まとめての誤字報告ありがとうございます!

えげつない数の誤字にもう笑っちゃいました……お手数かけて申し訳ねえ

 前方のクレイドール、後方のクータ。

 完璧と言って差し支えない二人の同時攻撃に対し、ナインもまた彼女独自の対処法でもって応じる。



「ほっ、と」



「なっ――」 


 とにかく届かせることを優先し、展開と同時に突き出した刃――それを苦も無く白刃取りで止めたナインに驚きの声を零すクレイドール。しかしそれ以上の衝撃はすぐにやってきた。


「あらよっとぉ!」


「ッ――、」

「うぎゃっ!」


 ぶん、と振り回される。手の平同士で掴んだ刃を起点に軽々と持ち上げられたクレイドールは――ここでその体重を明かすことはしないでおこう――信じ難い勢いで振られ、クータへとぶつけられた。あえなく仲間同士で激突し、自身が武器代わりに使用されたことにクレイドールが動揺を隠せないところ、ナインからの追撃。


「っ、クレイドール!」


 しかし、もつれ合うように下敷きになっているクータがそれをカバーした。両手から勢いよく炎を出し、迫るナインへ牽制を行う。服に火がつくことを嫌った彼女は(熱いのが嫌だったというのもある。体は燃えずとも高温は感じるのだ)咄嗟に足を止めて――そこを狙われた。


 ねちゃり、と不快な感触が足に生じる。


「な、に――これは!?」


「水流邪道・毒溜り」


 ナインに声を上げさせたのは、ジャラザによって生み出された毒液による水溜まり。


 彼女はもはやナインへの服毒は勘定に入れず、毒液の持つ粘性を利用する方針に切り替えていた。クレイドールたちへ気を取られている間に仕込みは済んでいる。少女の生み出した毒性のトリモチはナインの足元にまで届き、粘着することで次なる動きを阻害している。


「立てぃ、お前たち! 一纏めに仕掛けるぞ!」

「了解しました」

「うん! いっくよー!」


 駆け寄ってくるジャラザ、起き上がるクレイドールとクータ――三人が何をしてくるかなど考えるまでもない。


「動きを止めてタコ殴りたあ……惚れ惚れするくらい遠慮がないな!」


 彼女たちは一貫してナインの強みを封じようとしている。

 必ず誰かが足止め役になり、そして互いに援護し合って攻撃をまともに受けないように、と。


 ナインにとっては非常にやり辛いがしかし、それは彼女たちの策が確かに機能していることを証明してもいる。


 だったら自分は――その策を打ち破るまでだ。


 彼女たちの主人としての矜持を見せてやらねばならない。


「――ふんっ!」


 粘液が纏わりついて脚は持ち上がらない――はずのところ、自慢の脚力で無理矢理に持ち上げ、そのまま地面へ叩きつける。ごがっ!! と毒と岩が鈍い音を立てながら同時に吹き飛ぶ。「ちっ」と舌を打ちながらジャラザは急いで能力を解除し、毒を無害なものへと変えた――クレイドールはともかく、クータには刺激が強い物質だ。


 ただの水へと戻った毒液は最早どうということなどないが、散乱した岩は周囲のクータたちにも飛来し、彼女らはどうしても一瞬その対処に追われることになる。

 それぞれが己にぶつかろうとする石くれを防いで、次の瞬間。



 彼女たちが取り囲んでいたはずのナインは、もうそこにいなかった。



「後ろだクータぁ!」

「――!」


 ジャラザの必死の呼びかけによって、クータは前方へ身を投げ出すように回転。振り上げた脚を背後へと叩き込みながら距離を取る。


「いい反応だ」


 ジャラザとクレイドールに並ぶ位置まで下がって見てみれば、やはりそこにはナインがいた。蹴りは当たらなかったようだが、ナインの攻撃を躱せたのはこちらも同じ。クータはジャラザに感謝する――あの呼びかけがなければもう終わっていたかもしれない。


「攻めましょう。この勝負、受けに回っていては万にひとつも勝機はありません」

「同感だの。こちらの攻勢を保ち続けることが唯一の勝機と言ってもいい」

「じゃあ、行こう。ご主人様もまってる」


 クータの言う通りだった。せっかく距離が開き、動きを邪魔するものもないというのにナインは三人をじっと見つめたまま不動を保っている――ここで彼女が本気の速度を発揮すればそれだけでクータたちは瞬く間に壊滅に近い状態へ追い込まれることになるだろう。


 だが彼女はそれをしようとしない。

 ということは――。


 期待されている(・・・・・・・)


 それが分かって、三人は胸のすくような思いだった。

 そしてそれ以上に――未だに大いなる余裕を持ってわざと油断している主人の鼻を明かしたい、という気持ちも湧き起こる。


「やるよ!」

「うむ!」

「了解」


 同時に駆け出し、全く同じタイミングでナインへと肉迫。ここに来てクータもジャラザも、遠距離戦にも特化し得る機能を持つクレイドールすらも格闘戦を選んだのは偶然か必然か。


 ともかく三名は各々の攻め手を邪魔し合うこともなく、むしろ完璧な間合いと速度を保ちながら怒涛の連撃を披露した。前からクータが蹴り、横からジャラザの掌打、下からはクレイドールの拳――入れ替わる。ジャラザの足払い、上からクレイドールの肘、背後からクータの回し蹴り――また入れ替わる。


 攻める攻める攻める攻める――とにかく攻める。


 速度を増し、鋭さを増し、呼吸を重ね合わせながら――三者の見せる抜群の協調性がその連撃に示されている。

 迅速果断にして絶え間のないその攻めを、ナインは。


 避けて逸らしていなして弾いてはたいて受け止めて。


 加速していく攻撃に対し、ナインの回避もまた加速する。

 最小限度にして無駄のない動作で、従者たちの総力が注ぎ込まれた飽和攻撃へ対応する。


 まるで徒手空拳での殺陣を演じるかのようなその最中、次第に彼女の瞳が薄紅色から深紅へと変化していく。主人の変貌に目敏く気付いた三人。反撃をさせてはならぬと各員が更に勢いを増して……しかしそれでも当たらない。


 攻防はきっちり一分間だった。


 六十秒の間に数百の攻めと受けの応酬が行われ、やがてその終幕の時が訪れる。

 さすがに息切れをしてきたクータとジャラザの隙をつくようにして――


 拳一閃。


 たった一撃でナインは二人の意識を刈り取った。


「っ――」

 次いで自身へ迫る拳撃をハイパーセンサーで感知したクレイドール。瞬時に防御機構を発動し、両手を盾状に変形させ顔の前で構えた。直後生じた、果てしない圧力。彼女の読み通り顔面目掛けて打ちだされたナインの拳は、しかし読み以上の威力で以って再びクレイドールの腕を砕き折った。


「――ッ!」


 両腕を失って無防備になったクレイドールは――スラスターを作動させ、全力でハイキックを繰り出す。退くのでも守るのでもなく、攻め入ること。たとえ一人だけになろうと勝利の鉄則から逸れることなく反撃を選んだ彼女に、ナインは。


「よくやったクレイドール――お前たちは強い(・・)


 キックが確かに少女の側頭部を捉えようとするその直前、かけられたその言葉。

 褒められた、とクレイドールが自覚するよりも速くナインは動いていた。


「はぁっ!」


 ヒット寸前の状態から、その足を悠々と掴み。

 引いて強引にクレイドールの体を手繰り寄せたかと思えば。

 振り上げていた拳を下ろし、鉄槌打ちを浴びせる。



 バゴンッ!!



「かっ――」


 とてつもない威力に肺から息を絞り出すような声を吐き出して、クレイドールは地に沈む。そしてもう起き上がりはしなかった。


「……これにて訓練は終了だな」


 立っているのはナインだけ。

 死屍累々といった様子で横たわる三名を見て、彼女は「ちょっとやりすぎたか……?」と今更なことを思った。




 その後目を覚ました三名は反省点を互いに述べ合い、なんとすぐにもまた訓練を行いたいとナインへ提案してきた――ナインとしても模擬戦が楽しくないことはないし、彼女らが実力を伸ばすためにはこの上なく有意義なことであるとも理解しているが、それでも三人を殴り飛ばす行為については罪悪感を覚えなくもないので考えものである。


 そんな主人の複雑な心境に気付かず訓練をせがむ彼女たちは、ナインにとってちょっとした悩みの種になったことをここに追記しておこう。


 都市から都市への道中にあった、とある日のナインズの一幕であった。


こういう仲間同士の手合わせみたいなのも書いてて楽しいっすね

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