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幕間 ナインズ戦闘訓練・上

久々の幕間。つまり時系列を考えてない小エピソードということですにゃん

 蒼天の日だった。

 天高く、気候も穏やか。

 総じて過ごしやすく気持ちのいい日と言える、そんなときに。



 ピリピリと張り詰めた空気で向かい合う四人の少女たちがいた。



「本気でいくよ、ご主人様」

 手足から炎を噴き出しながらクータ。


「手段を選ぶつもりはないぞ、主様」

 粘性の液を手から滴らせながらジャラザ。


「対象抹殺モードON。全力を見せます、マスター」

 エネルギー出力を常時全開にしながらクレイドール。


 明らかにこれまでのどの戦闘よりも熱の入ったその様子に、相対する少女――ナインは少々苦笑してしまう。

 彼女たちの闘気は見事なまでにその真剣具合を伝えてくる。

 そうでなくては訓練・・にならないのだから、これで正しくはあるのだが。


「ああ、出せる力は全部出せ。こっちもマジに迎え撃ってやる」


 事の起こりはなんてことのないとある一言だった。

 クータがふと漏らした、自分だけはご主人様(ナイン)と戦ったことがないという発言。

 それにナインたちは顔を見合わせた――そんな視点を持ったことがなかったので、言われて少しばかり意外に思ったのだ。


 確かに彼女の言う通り、クレイドールは加入時にテストと称してナインと直接の手合わせを経験しているし、ジャラザも彼女の前身とも言える百頭ヒュドラがガチの殺し合いを行なっているので交戦経験があるという表現は間違っていない。


 とはいえそれらは望むべくしての結果というよりはそうせざるを得なかったが故の戦闘であって、別段羨ましがるような要素などどこにもないはず。ましてやナインズの中でもとりわけナインへの信頼度が高い――というよりカンストしている――クータがまさか「戦いたがっている」かのような発言をしたことを、彼女らは意外に思ったのだ。


 しかし事の真相は思いのほか……いや、いかにもクータらしく非常に単純なものだった。


 彼女は戦闘すらも主とのスキンシップの一部として捉えていたのだ。


 ただ敵対するだけならともかく、ジャラザもクレイドールも今では旅の仲間、同じく従者の立場となった言わば同僚かつ友人である。二人には経験があって自分にはない、となれば特に甘えたがりの激しいクータが不満に思うのもほぼ必然に近いものがある。


 本人もあまり自覚していないそういった感情をどうにか口振りから理解したナインとジャラザが、じゃあ模擬戦でもするかと話をまとめていた時、「どうせですから」とクレイドールが宣った。


「私たち全員でマスターに挑むというのはどうでしょう。一対一では厳しく、何もできないままに敗北することも十分に考えられます。私たち三人が力を合わせること――それができれば、あるいは」


 あるいは倒せる、ではなく。

 一矢くらいならば報えるかもしれない、と。


 クレイドールはクータとジャラザへ聞いたつもりだったのだが、ナインがその提案に賛成したために結局は全員で戦闘を行うことになった。サシの勝負にならなかったことにクータが納得しないかと思えば、彼女は戦えさえすればそれで満足らしい。むしろ友人たちと協力して挑むことにも前向きな姿勢を見せている。


 ナインとしては彼女たちがどう連携してみせるかに興味があったし、その訓練は今後の実戦にも大いに役立つはずだという確信があった。結果的にはクータの何気ない言葉がいい契機になったとも言えるかもしれない。




 それからナインズは戦えそうな場所として岩ばかりしかない荒涼とした地帯を探し出した。ロックリザードを代表とする岩場に棲息しているモンスターたちには少々申し訳ないがしばらくどいてもらって、場を空けた。三人と一人で向かい合って立ち、かくして準備は整った。


「よし。そんじゃあどっからでもか――おうっ?!」


 かかってこい、と格好良く見栄を切ってやろうとしたところ、炎の足が飛び込んできて中断させられる。


 一番槍はやはりクータ。


 鋭い飛び蹴りを油断しているナインへと繰り出したが、避けられてしまう。正面からとはいえ全くの不意打ちでも当たらなかったことにクータは悔しくなりながらもさすがはご主人様、とその胸に喜びをも湛えている。


「はっ、いい感じじゃねえかクータ! 今度は俺のぅ、」


 とナインの言葉と動作を止めたのは首に絡みつく毒々しい色の何か。その伸びている元を見れば、そこにはジャラザがいる。


「水流邪道・毒水鞭」


 じわり、と首から人体にとって極めて有害なものが侵入してくるのをナインは感じた。

 これはいつかにも味わった感覚――そうだ、百頭ヒュドラの毒を浴びた際。あの時もこんな風に肌がひりついたのをナインは思い出す。


 しかしあれに比べるとこの毒はまだ弱い。同じく致死性の猛毒には違いないのだろうが、草木や大地をも瞬時に枯れ果てさせたあの恐るべき神殺しを思えば、ナインにはもはや被毒のような症状が出ることすらなく。


「これくらいでどうした!」


 ぶちりと毒のことなど気にせず水鞭を引きちぎったナイン。

 ――その背後に迫る影。


「!」

「足止めが目的ですので――パイルギアバンク、イグニッション」


 動かれると厄介。ナインの機動力を知る三人は口裏を合わせずとも同じ結論に辿り着き、自然と作戦はひとつに絞られた――即ちそれは、ナインをその場に釘付けとすること。



「バンカーナックル」



 闘錬演武大会で披露した際よりも遥かに速くなった変形スピードで、クレイドールは自身にとって最大級の攻撃をナインへとぶつけた。初手からの全力。これには生半な攻めではナインに通用するはずもないという思いもあるが、それ以上に。


 力には力で以って迎撃することを好む――そういった性格をしている己が主人なら。この攻撃から逃げず、足を止めて拳で対抗するだろう。そういう目論見を持っていた。


 かくしてナインは――クレイドールの推論を裏付けるように獰猛な笑みを浮かべる。



「うおっらあ!」



 射杭機パイルバンカーと生身の拳がぶつかり合う。生じた衝突の余波で周囲の岩がいくつか砕ける。クレイドールは瞠目した――この展開は確かに彼女の狙い通りだ。ナインならばバンカーナックルにも打ち負けたりしないであろうことも事前に織り込み済み。しかしそれでも、ここまでとは予想外だった。


 変形した腕が砕け散ったのだ。打ち負けないどころではない、完全にナインのほうが押し勝っているではないか。あのティンクの最高硬度防御すら破った武装がこうも一方的に破壊されたことに、さしものクレイドールも計算外を認めるしかない。


 腕はナノマシンによる自己修復で間を置かず修繕される――がそれにかかる数十秒という時間は、怪物少女を相手取るには致命的なまでの間になる。


 それを察しているからだろう。

 クレイドールも、そしてその反対側から彼女も同時に動いた。


「サイコフィラーブレード」

「爆炎パンチ!!」


 残った腕でクレイドールが正面からエネルギーの刃を、クータが挟み込むように背後から爆炎を迸らせた拳を打ちつけてくる。完璧に息の合った挟撃にナインは驚くと同時に嬉しくもなる。想像した以上に抜群のコンビネーションだ。


 ならばこちらも、彼女たちの想像を超えていく必要があるだろう。


 不敵に笑む少女の腕が神速で動き――。


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