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149 オッズ一番人気はミドナ・チスキス

「……そういうことか。だからジャラザはネームレスを信じる、白寄りのスタンスを選んだのか」


 あの時点でジャラザはネームレスの言い分だけでなく、アウロネ(とクータ)経由で伝えられたリュウシィからの伝言や、クレイドールから聞かされたパラワンの行動についてをも判断材料として見ていたことになる。


 知識量は同じ……むしろリブレライト在住の頃にリュウシィから直接万理平定省の企てについて聞かされているからには、他でもないナインこそがそれらの出来事と『揺り戻し』を結び付けて考えてみるべきだったろう――なのに、まるで思い付きもしなかった。ちらりとも頭に浮かばなかった。


 そのことを悔やみながらも少女は思考をまとめる。


「うん、あり得るな。万理平定省、パラワン博士、そしてネームレス。この三者は同じ『何か』を見据えて動いているのかもしれない。パラワン博士はもういないけど、もしかすると研究室に行けばもっと詳しく教えてもらえる可能性もある。これはますます行かないわけにはいかなくなったな」

「……有益な物が残されていれば良いのですが。博士の遺言プログラムの内容までは把握できていませんが、データ量としてそこまで多いものではありませんでしたから」


 クレイドールがどこか自信なさげな様子を見せるので、ナインはそれを笑い飛ばす気持ちで言った。


「別に必ずしも俺たちの求めるような、脅威云々の話じゃなくっても構わんさ。それならそれで真っ当なクレイドールへの遺言ってことになるだろうからな」

「いえ、パラワン博士は私の新たなマスターへとおそらく伝言を――」

「本当にそう思うか?」

「――」


 思わず黙った彼女に、ナインは首を振った。


「俺はそう思わん。何が残されているにしたって、それはきっとお前のためのものだよ、きっと。形としてはそりゃ、お前が仕える人物へ宛てたものだろうけど、それは要するにお前さんへ残したものってことになるんじゃないか?」


「……そう、かもしれません。そうであったら良いと思います。今の私なら、そう思える」

「ん、それでいい。それがいい。あとはもうちょっとその堅さがなければな」


「いえ、これは私のアイデンティティですから」


「ボディじゃなくて表情の話だぞ?」


「私もそのつもりで申し上げています。キャラ立ちを無表情キャラとして一貫すべきだと」


「いや俺はそっちのつもりで話してねーよ。つーかキャラ立ちなんて言葉知ってたのかお前」


「私には学習機能がありますので。シークレットハック機能と合わせて、マスターに気に入られるべく今こうしている間にも様々な媒体を通じて勉強しているのです」

「どっちも悪用に近い使い方じゃないかなって」

「私はクーデレ型に分類されると思うのですが、マスターはこういったクールだけどデレデレ、といったタイプはお好みでしょうか?」

「まず俺の話聞こ?」


「ちと待てクレイドール。クールで好意を隠さんと言えば儂もその枠組みにおるだろう。後から出てきてキャラを被せようとは感心せんな」

「あ、やべえな。ジャラザまで乗っかっちまった」

「ご主人様ー、クータは? クータは何型のきゃら?」

「ジャラザ、安心してください。類型ではあっても私はどちらかと言えば素直クール、あなたは典型的なクーデレとタイプが分かれています。際どくはありますがギリギリキャラ被りは避けられていると見ていいでしょう」


「ふむ、一理あるか……」

「あるかな……この会話自体に驚くぐらいなんの利もないと思うんだが」

「ねーご主人様ー、クータはー? クータは何たいぷー?」

「お前はどう考えてもほのお・ひこうタイプだろ」

「それちょっと話ちがうよね?」



◇◇◇



 本戦の試合で活躍を見せたことにより、『ナインズ』の人気は確立された。そのおかげと言うべきかそのせいでと言うべきか、道を歩くだけでも通行人から声をかけられたり握手を求められる機会が多くなってしまったナインたち。


 昨晩は陽も落ちた中をそそくさとホテルに戻ったために大衆に見つかるようなことこそなかったが、その翌日。早朝のうちから会場入りを目指した彼女たちは早起きも虚しく大勢に捕まってしまった。ミドナからどれだけ自分たちの人気が凄まじいことになっているかを聞かされたことで――なんとファンクラブまで存在するというのだからナインは心底たまげたものだ――こういった事態を危惧し、なるべく人目につかぬようにとこそこそしていたのがかえってまずかったのかもしれない。選手に負けず劣らず早いうちから会場へ入るために動き出している『気合の入った一般人』たちによってあっさりと見つかり、取り囲まれたのだ。


 NOと言えない古き良き日本人タイプであるナインは彼らからの頼みを拒否できず、サービスでフードまで取って撮影用の魔道具に笑顔を向けたり応援の言葉にいちいち返事をしたりと、たっぷり時間を割いてからようやく選手用入り口から会場の中へ到着した。


 さすがにここまでくれば追いかけてこられる者はいない。


「つ、疲れた……昨日の試合よりよっぽど疲れたぜ。お前たちもすまん、付き合わせちまって。どうしても無下にはできなくてな……」


「いや、謝るべきはこちらのほうだ。儂らがグッドマーの提案に乗ったが為にこうなった――そして儂らの意を汲んだからこそ、主様は余計にあの者らへ良い顔をせんといかん。……正直に言って背反がある。主様のためを思ってやったことが、結果として主様に民衆の娯楽品として振舞うよう強制してしまっている……儂は従者失格かもしれんな」


「あーもう、そういうこと言うと今度はクータまで落ち込むからやめとけやめとけ。そんなに難しく考えなくてもいいんだよ。どうせ俺の気が弱いのは本当のことだし、もしエルトナーゼで特集記事が組まれるのを固辞してたって、お前たちの容姿からして遅かれ早かれ人気は出てただろうよ。今ほどじゃなくっても、呼び止められるようにはなってたはずだから、そういう意味じゃ大した影響じゃあないさ」


 何せ少女オンリーの武闘チームなど異色この上ない。

 それでいて全員が美少女であるのだからいずれ話題にはなっていただろう――大会を勝ち抜けばその活躍に比例していずれ知名度はうなぎ登りに上がっていたはずだ。


 とは言え、大会の開催前から新聞記事によって広く知れ渡っていたことでのブーストは確かにあったはずなので、間違っても「大した影響じゃない」などとは言えないはずなのだが、ナインは本気でそう思っている。日本で高校生をやっていた頃は現代っ子らしく碌に新聞に触れていなかったのと、この世界に来てからは文字すらまともに読めなくなったことで二重に情報の拡散力というものを軽視している彼女だった。


「だから二人とも、気にしなくていいんだからな?」

「主様……」

「ご主人様……」


 要は無知から来る呑気もいいところなおバカ発言に他ならないのだが、再三その呑気さを注意していることで本人も気を付けるようになっているはずだと好意的解釈を持っているジャラザやクータは、それがナインなりの気遣いを行ったが故の言葉だと受け取って感銘を受けていた。


 このやり取りを聞きながら街中の魔力回線を覗いていたクレイドールが言う。


「実際のところ、あなたたちの思惑は成功していると言えるでしょう。マスターの対応が良かったことで現行的に評判が高まりを見せています。チスキス様と二分するようにオッズも分かれているようですね」

「オッズ?」

「ほう、あれだけ獅子奮迅の活躍を見せた主様でも人気を独占とはいかんのか」

「正確に言えば本命がチスキス様、その対抗馬がマスターということになります」

「なに……対抗馬だと?」


 ナインの美貌とその体躯に見合わぬ怪力ぶりは大勢が知るところだが、しかし賭けに興じるような大会に一際のめり込んだ、言うなれば観戦ジャンキーたちにとって等級五を持つ冒険者ミドナ・チスキスとは憧れの更に上、まさに天上人のような存在なのだ。

 どれだけナインが予想を超えた大立ち回りを演じようと、その確立された人気と評判は一朝一夕で抜けるようなものではない。


「えー、ご主人様が一番じゃないの?」

「支持者の数で言えばほぼ拮抗していますが、優勝予想ではチスキス様が上回っていますね」

「興味深い。やはり相当な強者よな、ミドナ・チスキス……。Bブロック予選は見逃してしまったが、今日こそはじっくりと観賞するとしようかの。のう、主様よ?」

「ああ、そうだな。向こうはばっちり俺たちの試合を見ているんだし、今日は俺たちがミドナさんがどんな風に戦うのかを見る番だ」


 チームで出場する『闘錬演武大会』にて唯一個人で参加しており、それにもかかわらず優勝候補筆頭に迷いなく挙げられるミドナ・チスキスという一人の冒険者がどんな試合をするのか。


 ナインは純粋に楽しみであった――彼女の強さと、そして。


 そんな彼女と大会決勝でぶつかり合うことに、自覚を持たぬままに多大な期待を寄せていた。


Bブロックはカットカット&カットでお送りします

さすがに試合をじっくり書いたりしません……って予選の段階からしてBブロックの選手を描写してない時点でお察しですね

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