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107 目に付くチームは色々と

 闘錬演武大会初日はつつがなく進行していった。ナインたちが出番を終えた第四試合の後に昼休憩でインターバルを挟みつつ――当然ここでナインらも軽食を取った――午後からは残りの第五グループから第八グループまでの試合が行われ、順次本戦への出場者が決まった。


 ナインら三人は勝ち上がれたことで心に余裕を持ってのんびりと試合を観戦し、残りの勝利チームについてもじっくりとその戦いぶりを眺めることができた。


 第五試合を下したのはチーム『ファミリア』。

 たった二人だけでの出場だが実力は同グループ内でも圧倒的で、特にリーダーティンクの拳闘は凄まじいまでのキレと鋭さで目を見張るものがあった。一方で彼女の相方であるトレルもさほど力を込めていないような一撃で容易く屈強な戦士たちを昏倒させるなどして、見るからに底知れない強さを持っている。


 第六試合勝者はチーム『アダマンチア』。

 そのチーム名からも分かる通り防御力に重点を置いた戦法で、一見すると厳重過ぎるようにも思えるフルプレートの守りで敵からの攻撃を完全にシャットアウトし、一方的に試合を進めるスタイルを取っていた。重量のせいかやはり動きは鈍重だが、個人個人が移動要塞とも言えるその堅牢さに対戦者は否応なしに苦戦を強いられるだろう。


 第七試合で勝利を収めたのはチーム『アカデミーズ』。

 彼らはなんとナインたちが生徒と間違えられた魔法学園マギクラフトアカデミアに通う本物の生徒たちのようだ。全員が若く、そして漏れなく魔法使いのチームである。肉体強化の魔法で肉弾戦をする者はおらずオール後衛という尖った構成だが、それでも魔法の腕は確かで、他チームを近寄らせない弾幕戦法は脅威の一言だ。


 第八試合で残ったのはチーム『アンノウン』。

 彼らは――とても評価に困る三人組であった。


「三人中二人が顔を隠しているチームか……得体が知れないな」

「あのサイレンスって子も、前髪でよく顔がみえないもんねー」


 チームリーダーのネームレスはやけに傷んだ長く真っ黒なローブを身に着け、長身なこととおそらく男性であるということ以外は見ていても何ら情報を得られない正体不明の怪人物である。


 頭をすっぽりと覆った鉄仮面が目を引くフルフェイスは、体付きから辛うじて女性だと分かるがこちらも女性にしては背が高く、筋肉の発達も著しい。そして戦闘がひどく荒々しいという特徴がある。


 サイレンスはそんな二人とは一転、ナインと同じくらいの背丈で線の細い少女であったが、試合中にもどこか遠くを見ているようなその佇まいからは尋常でなく浮世離れした印象を受ける。


 彼らからどことなく不穏なものを感じるナインとクータ。それはジャラザも同じだったようで、


「不気味なやつらよ……確かにそこに居るはずなのに、まるで気配がせん」


 ジャラザの言葉にナインは『アンノウン』への警戒度を高める。

 やはり見た目通りに普通ではない――自分たちと同じく一般とは大きく逸脱している側だとしか思えないのだ。


 それだけでイコール自分たちの敵、というわけではないが常人とかけ離れた強さを持つ者であれば常人とかけ離れた思考回路を持っていてもなんらおかしくない。彼らが騒動を引き起こす可能性がある以上、まだ何もしていない内からでも注意を向けておいても損することはないはず。


 怪しさはともかくとして、とナインは彼ら『アンノウン』の戦い方について述べる。

 正確に言えば彼らというより、戦っていたのはたった一人だけであったのだが。


「あの鉄仮面、フルフェイスが力任せに戦うだけで、ネームレスもサイレンスも開始位置から一歩も動かなかったな。とんでもない連中だぞ」


「あいつのパワー、ご主人様には敵わなくっても、リュウシィぐらいはありそう」


「恐るべきは何ひとつとして技術らしいものを使っていない点だな。正真正銘の腕力だけで勝ち上がりよった。もしもあれで優勝したらば闘技都市の名が泣くの」


「…………」


 その点はナインが優勝しても同じことが言えるので、彼女は黙った。力任せなどと称したがそれは盛大なブーメランであり、自分が大会頂点の栄光に輝いても客席からはブーイングという形で不満が漏れるかもしれない……。


 気持ちの良くない想像をしてへの字に口を曲げたナインの心情を読み取ったらしいクータが、励ますように口を開く。


「ご主人様はオッケーだよ。だってさっきも、みんなから応援してもらったよ?」


 彼女が言っているのは第四グループの試合、その終了時のことだ。


 確かにあの時の会場の熱狂具合は凄かった――しかしあれだけ割れんばかりの拍手が巻き起こっていたのは、おそらく『ナインズ』の外見が関係しているのだろう。何せクータもジャラザも見目麗しい少女だ。そしてナインも、新調されたローブで容姿を隠しているとはいえ明らかに幼い少女であることは客の目からも一目瞭然。一番小さい彼女が一番派手な活躍をしたものだから、余計に興奮したのだろう。


 まあ俺もムサい男よりは可愛い女の子を応援しちまうもんな、とナインは軽く考える――が、彼女の場合は観客の度肝を抜いたことも相まってその程度では済まされない。現在時点ですでに有志の手によって『ナインズファンクラブ』――ナイン個人だけでなくクータやジャラザも対象の非公式(?)集団――なるものが結成されようとしていることを彼女が知れば盛大に顔を引きつらせたことだろう。


 そして。


 何もナインらに注目しているのは観客だけとは限らない。



◇◇◇



「これでAブロックの出場チームが決まったな」

「ええ。思わぬ事態もなく勝ち上がれて一安心といったところですかね……けれど」


 試合以外の部分で気になることはありましたが、と椛柄のスーツを着る少女トレルが言う。


 戦闘中は外していた山高帽を手に出現させて被り直したティンクは、意味深な発言をした相方へ目を向けた。


「どちらのことだ」

「どちらもです」


 短い応酬。だがそれで会話は成り立っている。


「……まずは『アンノウン』からだ。アレらはなんだ?」


「さっぱりですよ。しかし人工的な匂いがするものですから、私たちと同類のような気もしますね……勿論出自は別でしょう、あの女が作ったにしては見てくれが悪い」


「ふむ、作られたかイジられたか。いずれにせよ敵というわけではなさそうだが」


「味方であるとも限りませんがね。私たちが優勝の先を見据えているのと同じく、なんらかの目的で――つまりは武功や金銭ではなく別の何かを求めているのでしょうから、その目的如何によっては対立することも有り得ると思いますが」


 考慮に入れておこう、とティンクは言った。それで『アンノウン』についての話は終わった。もっと重要なのがこの先である。


「では、『ナインズ』についてだ」

「…………」


 チーム名を聞いた途端、トレルの口が閉じてしまう。むっつりと押し黙ったその姿は、つらつらと見解を述べていた先の様子が嘘のようであった。

 なので今度は代わりに、ティンクのほうが語る。


「言いたいことは、分かっている。メンバーのクータ、ジャラザ……のことではなく。チームリーダーのナインのことだな? いくら顔を隠そうがフード如きで私たちの目は誤魔化せん――ちらりと覗いたあの髪、あの瞳。白い髪に赤い瞳はアルビノだったあの子、ナンバー8と共通するものだ。身長や体格も近い。そしてナインという名前。9は8の次の数字だ。これは果たして偶然か?」


「偶然ですとも、そうに決まってます。あの子は死んだ。私たちを守るため、私たちの目の前で散っていった……あなたも私も、確かにそれを見た。そうでしょう? まさかナンバー8が生きていたとでも言い出すんじゃあないですよね。実は死んでなくて、私たちのことも忘れて、自由に楽しく生きていて、どこぞでみつけたお友達と一緒に、優勝目指して武道大会に出ていると? なんともハッピーなお話じゃあないですか、笑えてきますよ!」


 そうではない、とティンクは小さく首を振った。

 今更そんなバカげた希望論に縋るつもりなどない。

 彼女が考えているのはもっと別の可能性であった。


「ナインこそあの女が私たちのに作ったもの、というのは?」


「! それは……それも、ない」


 一瞬瞠目したトレルだったがすぐに頭を振った。ティンクのそれとは違って、彼女は激しい動きを見せる。


「あり得ません、ナンバリングは開発局による着手順です。エイトの後だからとてナインにはなりえないですよ、あの女が次に手を染めていたとしても9番目などと銘打つのはおかしいでしょう。それに彼女からは人工物めいた匂いがしませんよ。私たちや『アンノウン』から漂う色濃い香りが、あの子にはない」


「そうだな。だが、しかし」

「――そう、しかしです」


 偶然の一致とするには奇妙な符合の仕方をしているのも事実。九番ナインを名乗るあのアルビノめいた少女が本当に自分たちと無関係であるのかどうか――もし関係があるとすればそれは、今は亡きナンバー8にも関連する何かであるのではないか。


 そう思ってしまったからには……彼女たちは動かざるを得ない。


「任務が最優先、それは変わらない。だが……」


「試合の合間に、個人的に他選手と接触して交流を図るのも、きっと裁量行動の範囲内でしょう。だって『ナインズ』は優勝候補、情報の収集は今からでも怠るべきではない……ですよね?」


「その通りだ」


 ティンクは力強く頷き、不退の意思を込めて言った。


「見定めてみよう、あの少女を。私たちにとってそれがどんな意味を持つかは……実際にやってみなければ分からんがな」


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