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最強召喚士と奴隷少女達の廃村経営~異世界召喚されたけどやることないので、とりあえず総人口6人の村の村長になりました~   作者: 九条 結弦
外伝 アリーシャ騎士団領建国秘譚(メイン舞台国家:ペルテ国)
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第1話 左遷騎士団(女神暦1566年3月2日/辺境の村・ルーブ)

 肌寒い2月も終わり、3月を迎えてこれからは温かな季節になってくるのだろうと思いながらも、鎧の上に羽織った外套を突き抜けて肌に突き刺さる寒風に身を竦めながら、ペルテ国第7騎士団副団長・ゼルダ=フローレンスは寂れた寒村の通りを歩いていた。

 ペルテ国北東部の外れに位置するルーブの村は総人口100人程度の小さな村だ。

 優れた工芸品や美味な食材といった主だった特産品もなく、決して広くない面積の田畑で栽培している作物や近隣の森林で獣を狩って手に入れる肉を糧に日々を細々と生きている土地だ。

 草木もろくに生えず、畑に実った僅かばかりの作物を頬のこけた老夫婦が地面に置いた木籠に放り込んで収穫している風景に唇を噛む。

 

「昨年の飢饉に加え、ペルテ国王勅命による税の増税政策……。これで飢えぬ方がどうかしている。それに……」


 閑散とした通りには生気を失って路上に寝そべる男や、小さな子供が遊ぶ木製の玩具を両手で包むようにして握り締めるようにしながら項垂れる女、枯れ木のように痩せ細った老人がフラフラとした足取りであてもなく歩き回っている。


「……子供がほとんどいない。私のいない間にまた『徴税』が行われたのか……」


 奴隷制度。

 ペルテ国は奴隷売買により豊富な国益を手に入れている国家だ。

 世界樹連合により奴隷売買は禁止されており、それを承知の上で奴隷制度を継続しているこの国は再三に渡って連合から奴隷売買の中止を求められているがそれを無視し続けている。

 先代国王が若くして早年で崩御し、少年の齢だった現国王が即位し、それからまもなく奴隷制度が開始されて長い年月が流れた

 最早この国にとって奴隷は存在して当たり前の労働力であり、消耗品であり、嗜好品だった。

 また、税を払えぬ民から愛する我が子や家族を見せしめに奴隷として徴税する政策がより民草に恐怖を植え付けていた。

 重税に耐えかね村や町を捨てた者は容赦なく死罪となり、その親類縁者も奴隷身分に堕とされる。

 この村から数日かかる距離にある村で国王に対する抗議集会が密かに開かれているという密告情報を得て、その鎮圧と首謀者の逮捕の為に赴任地であるこの村を留守にしていたが、どうやら税を払う能力がないと判断された家庭の子供達が奴隷として徴税されていったようだ。

 グッと歯を噛み締め、拳を握る。


「私は無力だな。守るべき民を守ることも出来ず、あの王の所業を止める手立てもない。第7騎士団の任務が暴徒化した民衆の鎮圧や国内の不穏分子の排除とはいえ、ほとんどはこの国を憂いた者達が立ち上がろうとしていた芽を摘み取っていく、国王の利となる仕事ばかり……。

 私は何の為に騎士となったのだろうか……」


 そう力なく呟き、トボトボと肩を下ろしながら道を歩く。

 数分歩くと村の郊外に到着し、所々にヒビが目立つ平屋が一軒ポツンと立っている場所に出た。

 ペルテ国第7騎士団。

 国王に牙を向けようとする不穏分子や暴徒鎮圧を主任務としながらも、団長にして現国王の実娘であるアリーシャが奴隷制度撤廃を声高に訴え続けていることから国軍全体から大顰蹙(ひんしゅく)を買い、実父である国王さえも業を煮やして何度も辺鄙な田舎を転々と左遷させ続けている恥さらしの騎士団。

 今回の左遷先であるこの村での拠点として与えられたのが、あの随分と年季の入った一軒家だ。

 現在、団長のアリーシャは部下であるラキアとマルガを伴い、これで何十回目かもしれない奴隷制度廃止の直談判の為に首都ライオネットのカルトス城に向かっている。

 ペルテ国王は娘のそんな行動に手を焼いている様子ではあるが、既にこの国中に根を張り巡らせている奴隷制度をなくすような真似は決していないだろう。

 奴隷撤廃には私自身も賛同してはいるが、このまま抗議活動を続けていれば第7騎士団自体が不穏分子として粛清される可能性だってある。

 それを危ぶんで国王から下される任務は表面上は達成するようにしてきた(暴徒鎮圧を行いながらも、可能な限り民衆をわざと見逃す真似もしていたが)。

 時には奴隷を輸送中の貨物車を野盗を装って襲撃し、奴隷にされた者達を密かに救出する等、国にバレれば即斬首刑に処されるだろう真似にも手を染めている。

 いつまでそんな真似がバレずに続くのかは分からないが、奴隷達を少しでも救いたいと願い続けるアリーシャに付いていくと決めた以上、彼女にどこまでも付き従うのみだ。


「とにかくアリーシャがライオネットから帰還する前に暴徒鎮圧に関する報告書を仕上げておくか。

 今は昼食の時間だから食い意地の張ったミトスや、この間配給で届いた小麦粉と砂糖、あと僅かに手に入ったという果実で菓子を作ると張り切っていたクローディアあたりは間違いなく家にいるだろうから、仕事の邪魔をされないように早々に自室に引き籠るとしよう」

 

 間延びした声でご飯を作ってくれと甘えてくるぐうたらな同僚と、根は優しいのだが高飛車な性格が目立ち、料理の腕は壊滅的だが菓子作りの腕は天下一品というちぐはぐな調理技術を持った公爵令嬢の騎士という変わった肩書を持つ同僚(こちらを一方的にライバル視して色々と勝負を挑んでくるので、お菓子勝負でも挑まれそうだ)の顔を思い浮かべながら足を進める。

 今回の任務では暴走して他の民衆にまで被害が出そうな程の規模の暴動事件だった為、流石に逮捕者を出さないという訳にはいかず多くの暴徒化した民を捕縛する結末となった。

 暴徒鎮圧に参加していた他の団員達が半ば強制的に暴動に参加させられていた民衆は可能な限り逃がすようにしていたが、他の騎士団からの横槍が入ったせいで多くの逮捕者が続出し、近々処刑されてしまうのは確実だろう。

 彼らについては残念ながら救う手立てがなく、救出の為に他の騎士団と刃を交える事態になれば完全に国軍の中で孤立無援となる。現状ではそれだけは避けなくてはならない。

 随分と気の滅入る仕事になりそうだと、今から待ち受ける書類仕事に嘆息していると、唐突に視界が暗転する。

 

「だ~れだ?」


 掌に感じる温かな掌の温もりと、からかいまじりだが気の良さそうな人柄を感じさせる陽気な声音の女性の声が耳に響く。


(全く、またか)


 任務で村を離れて帰ってくると毎回気配を消してこういったいたずらを仕掛けてくる人間は、たった一人しかいなかったので、私ははあ~と溜め息を零しながら目元を覆う手をどけて振り返り、その人物を半目で睨んだ。


「相変わらず、こういう冗談が好きだなリサ」


「だって一番最初に仕掛けた時のゼルダの『キャアッ!?』っていう乙女らしい可愛い声がまた聞きたいんだもの。何度でもしちゃいたくなるでしょ?」


 茶目っ気のある笑顔でウィンクをする、白雪のような白い髪を肩口まで伸ばした親友の女騎士の楽しそうな表情に、今まで心の中を覆っていた暗鬱とした気持ちが晴れていく感覚に不覚にも頬を緩ませながら、私はついぶっきらぼうな口調で、


「……ただいま」


「おかえりなさい」


 私の帰りを心の底から喜んでいる様子の彼女にそんな挨拶を交わすのが精一杯だった。

 最後までお読み頂きありがとうございます。

 今回お送りさせて頂いたのはアリーシャ騎士団領が建国される前、奴隷制度が蔓延っていたペルテ国時代のゼルダとアリーシャ騎士団を描く外伝となっております。

 このお話はいつかやりたいなあと思っていたのですが、銀翼の天使団篇もまだ終わってないしなあと思いつつも試しに書いていたら筆が乗ったので公開させて頂きました。

 基本的には本編である銀翼の天使団篇を進めつつも、こちらの外伝も順次書き上がり次第投稿していきたいと考えております。

 アレンと出会う前のゼルダがどんな少女だったのか、そしてアリーシャ騎士団領という新生国家を築くまでにどのような苦難の道を辿ってきたのかを描いていければと思っております。

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