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最強召喚士と奴隷少女達の廃村経営~異世界召喚されたけどやることないので、とりあえず総人口6人の村の村長になりました~   作者: 九条 結弦
第3章 銀翼の天使団篇(メイン舞台国家:アリーシャ騎士団領)
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第85話 カレンvsゴードン.3(女神暦1567年5月8日/ロクレール支部演習場廃墟エリア)

 赤の魔導書から吹き荒れる火炎の嵐の中から飛び出したのは、魔炎をその身に纏った三つ首の魔狼。

 聞く者の心胆を震え上がらせるような凄まじい怒気を孕んだ咆哮を上げてゴードンを喰らい尽くそうと大口を開けて襲い掛かった魔狼に、カレンは魔力を更に送り込む。

 

「行って!」


 ルイーゼと『魔装化ユニゾン・タクト』を行ったカレンは己が操ることの出来る7つの魔力に呼応する魔導書の主となり、魔導書に描かれた魔法を自在に行使することが可能となった。

 第1章が一番低級の低い魔法で、数字が上がるごとに威力が高まっていく。

 第4章に記されているのは対人戦においてはオーバーキルそのものと言っていい威力だが、あらゆる魔法の効果を減退させるゴードン相手に手加減をしていれば確実にこちらのクリスタルを砕かれる隙を見せてしまう。

 演習場の各地で今も戦っているだろう皆の戦いの趨勢はここでは推し量ることは出来ないけれど、ここで私が負けてクリスタルを破壊されればチームは即敗北となってしまう。

 それだけは出来ない。

 ここで倒すしかない!

 地獄の業火に身を包んだ魔狼の顎が迫る中、ゴードンはニヤリと口角を上げて高笑いを上げる。


「はっはっはっは、コイツはすげえな!」


 ゴードンは拳を打ち鳴らし、


「面白れえ! 俺の『王凱』がコイツに通用するか試させて貰おう!」


 一歩たりとも退くことなく、カレンの攻撃を受けることを選択した。

 その不退転の覚悟と、己自信の磨き上げた技に対する絶対的な信頼に舌を巻きながらも、カレンは攻撃を中止することはせずに魔狼の突撃を見送る。

 火炎の魔狼は大顎を開けて、全身を魔法の力を削ぎ落とす鎧を纏ったゴードンを飲み込む。


「うぉぉぉおおおおおおおおおおっ!!」


 魔狼の口の中に飲み込まれたゴードンは凄まじい火力の炎の中に閉じ込められて苦悶の声を上げるが、火炎に包まれたその肉体には火傷一つ付いておらず、その桁外れの防御力を誇る『王凱』の強度にカレンは瞠目する。


「嘘でしょ!? これでも駄目なの!?」


 私の魔力をかなり注いでるのに、これでも崩せないの!?

 焼き殺してしまうようなことがあってはいけないので火力は調節してはいるが、これでもかなりの魔力消費量がある高威力の魔法であることは事実。

 常人なら消し炭になる業火に身を焼かれつつも『王凱』による防壁を破壊することが出来ない。

 ゴードンは苦しげに表情を歪めながらも一歩ずつこちらに歩みを進め、拳を構える。

 地獄の業火をも寄せ付けずに歩み続けるゴードンは、確実に私に一撃を入れて終わりにするつもりだ。

 あの拳を受け止める魔法もあるが、まだルイーゼとの『魔装化』に不慣れな分、普段なら行使可能な2種類の魔法発動もあまり覚束ない状態なので、魔法を一度キャンセル必要することがある。

 だけど、魔法をキャンセルすれば次の魔法を発動する前にゴードンに懐に入られ一撃を貰うことは必至。

 なら、ここは――――

 

「火力を上げる!」


「ほうっ! 魔法の力を増大させるか!」


 魔狼の火炎の中に身を浸しながらも戦いを楽しんでいる様子のゴードンは軽快そうな笑みを浮かべ、私もそれに対抗するかのように笑みを返す。


「いざ、勝負!」


「おう!」


 私が赤の書に魔力を送り込み、ゴードンは歩みは止めない。

 あと10歩で、私の体を拳の射程に捉える距離までゴードンは近づいてくる。

 既に周囲の周囲の草木が熱気と飛び散る火の粉で燃える中、『銀翼の天使団』の武闘士は止まらない。


 あと9歩。

 まだダメだ。


 あと8歩。

 まだ歩みは止まらない。


 あと7歩。

 その身に飲み込んだ獲物が悠然としていることが気に食わない様子で魔狼の咆哮が響き渡る。


 あと6歩。

 ゴードンは唇を噛んで熱に耐えながら拳を後ろに引く。


 あと5歩。

 私は、「絶対に勝つ!」と宣言しながら魔導書に全身の魔力を注ぎ込む。


 あと4歩。

 互いに一歩も譲ることなく、全力を振り絞る。


 あと3歩。

 ゴードンが拳に魔力を集中させ、一撃を放つ構えを取る。


 あと2歩。

 だけど、私は一歩も退かずに魔力を錬成する。


 あと1歩。

 ゴードンが勝利を確信した笑みを浮かべて拳を振るう刹那―――



『グォォォオオオオオオオオン!!』

 空気全体を揺らめかせる魔狼の咆哮がゴードンを打ち据えた。

 それと共に先程よりも火力が一気に上昇し、火炎の海は天をも焼き焦がさんとばかりの火炎の柱を立ち昇らせて燃え盛る。

 そして、私の胸に拳が届く刹那にゴードンの纏った『王凱』の魔力がまるで焼き溶かされるかのように剥がれ落ちたのを感じると、


「うおぉぉおおお!? あ、熱い!?」


 ゴードンの着用していた白銀の制服全体が燃え盛り、これはたまらんとばかりに炎の中から飛び出したゴードンは地面を転がって火を消そうともがき始まる。

 その様子に一瞬目を白黒とさせてしまうけれど、私は慌てて水の書から水を出して彼の体全体を冷水で消化する。

 ゴードンはもう服の体をなさなくなるぐらい無惨に布面積が少なくなってしまった制服に大きな嘆息を漏らすと、私に向かって気恥ずかしそうに後頭部を掻いて笑みを向けてくる。


「いやぁ、参った! 降参だ、降参。まさか俺の『王凱』が破壊されるとは思わなかった!」


「いやいや、私だってゴードンさんにやられるって思っちゃったし、魔狼の魔力を底上げするのがあと少しでも遅かったら負けてたのは私だしね」


「それでも勝ったのはお嬢さんだ。俺もまだまだ鍛錬が足らないなあ」


 負けを認めたものの、悔しがる様子よりも楽しかったと子供のような笑顔を浮かべるゴードンに苦笑してしまう。

 魔力を大きく消費して気怠さの残る体に疲労を感じながら、私はどこかで戦っている仲間達に届くようにと大空にVサインを掲げ、


「クリスタルは守ったよ! みんな~頑張れ~!!」


 とびっきりの笑顔を浮かべて、お腹の底から声を張り上げた。


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