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最強召喚士と奴隷少女達の廃村経営~異世界召喚されたけどやることないので、とりあえず総人口6人の村の村長になりました~   作者: 九条 結弦
第3章 銀翼の天使団篇(メイン舞台国家:アリーシャ騎士団領)
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第79話 ドロシーvsシャーリー.2(女神暦1567年5月8日/ロクレール支部演習場草原エリア)

「皆、お願い!」


 岩石のゴーレムの軍勢はドロシーの命を受けて大地を大きく蹴り出すと、槍兵の少女へと大きく拳を振り上げる。

 直撃を喰らえばひとたまりもない強烈な一撃が振り下ろされるが、シャーリーさんは夜悠然とした笑みを浮かべたまま、前へ出た。


「なっ!?」


 どうして避けないの!?

 わざわざゴーレムの懐に飛び込んでいくなんて、自殺行為そのものではないか。

 思わず瞠目するドロシーだが、シャーリーさんの頭上に落ちる筈だったゴーレムの拳が虚しく大地にクレーターを穿つ時には既に彼女がゴーレムの胸元にまで肉薄し、槍を大きく突き出したモーションを取ったのを見て、自分の考えは誤りだったと痛感する。

 そうか! 他のゴーレム達の攻撃を受けない為にわざと前に出たんだ!

 私の生み出したゴーレム達はシャーリーさんを倒そうと一斉に跳び出させたけれど、それぞれの距離が近すぎて密集してしまい、一斉攻撃しようにも大きすぎる巨体が邪魔をして押し合いへし合いしており、気付けば攻撃に中々転じることが出来ていない状態になっていた。

 左右に避けても、後方に飛び退っても密集したゴーレムの群れを相手にしなければならないが、シャーリーさんに一撃を加えようとしていたゴーレムの背後には私しかいない。

 つまり、あのゴーレムを撃破されれば次にやられるのは私なんだ!?


「くっ、皆もっと散開して!」


「判断が遅いわね! いくわよ、『海姫の白槍(セイルーン)』!」


 シャーリーさんが握り締めた白銀の槍の名を叫び、その穂先を大きく突き出してゴーレムの胸部に切っ先を突き立てる。

 そして、彼女がギュッと柄を握り締めて刃の先端をグッと押し当て、


「喰らいなさい! 『大海を穿つ海王の烈槍ヴォーテックス・スピア』」


 白銀の槍から突如冷涼な水の魔力を纏った大砲の一撃のような強烈な豪水の一撃が放たれ、頑強なゴーレムの胸を消し飛ばすと、シャーリーさんは槍を構えたまま草原を疾駆し、ドロシー目掛けて肉薄してくる。

 すぐに迎撃をしなければやられる。

 それは分かっているのに、ゴーレムがいとも容易く撃破されたショックで上手く思考がまとまらない。

 ゴーレム達を素早く自分の元へと呼び戻して盾役にすべきか。

 それともシャーリーさんの背後から攻撃を浴びせた方が良いのか。

 圧倒的な実戦経験の乏しさ。

 それを痛感せざるを得ない。

 咄嗟の判断が出来ず、相手に攻撃の隙を晒してしまう。

 昨晩、エルザやエリーゼさんと模擬試合をしたものの、私とは比べ物にならないぐらい戦闘経験を積んでいるシャーリーさん相手では付け焼き刃の訓練では話にならない。

 シャーリーさんは後方から追い縋るゴーレム達を突き放して疾駆し、私の肩口に槍の穂先を向けて狙いを定めている。

 このままでは先程の高出力の水を解き放って槍の貫通力を爆発的に跳ね上げているらしい、水を操る『樹宝アーク』らしき槍の一撃を喰らってしまう。

 しかし、ゴーレム達の速度では彼女の動きに追いつくことが出来ない。

 万事休すの展開に、ドロシーは思わず目を瞑りそうになる。

 だけど……


「私は、私を信じてくれた人達に恥じない戦いをしないといけないんです!」


「っ!?」


 シャーリーさんは私が既に戦意を喪失していると思っていたようで、私の叫び声に一瞬目を見張った。

 その一瞬で十分だった。


「ゴーレムさん! 力を貸して!」


 指輪に流し込んだ魔力が大地から新たなゴーレムを生み出し、シャーリーさんと私の間に誕生した岩石の《《腕》》のみがシャーリーさんに拳を放つ。


「ゴーレム本体を錬成する時間を省いて、腕だけを錬成したって訳ね!」


「戦いの経験自体がほとんどない私では、シャーリーさんには勝てません。なので、勝てる手が少しでもあるなら遠慮なく使わせてもらいます!」


「諦めた相手をいたぶる趣味はないから、やる気があるのは嬉しいわ。でも、そんな物で私を止められるとでも思っているの!」


 地中から這い出るように突き出した岩石の大腕がシャーリーさんの体を捉えようとするが、シャーリーさんは腰全体を回るようにして大きく体を旋回させて槍によるなぎ払いを放ち、腕を両断する。

 こちらの攻撃は砕かれ、シャーリーさんが笑みを浮かべる。

 だけど、私は。

 だけど、私達は。




「開戦前のお言葉に甘えまして失礼致します。よもや、私のことをお忘れではないでしょうか?」



 一人ではない。



 シャーリーさんの背後から迫っていたゴーレムの背を蹴り飛翔したセレスさんの袖口とスカートの袖から、十本以上の銀鎖が飛び出しシャーリーさんに集中砲火を加えた。

 

「くっ、何この鎖の群れは!?」


「ドロシー様大ピンチと判断し、参戦させて頂きました。突然の乱入のご無礼失礼いたします」


 セレスさんが射出した銀鎖を打ち払おうとシャーリーさんは槍を大きく振るうけれど、セレスさんは鎖を生き物のようにクネクネとした曲線を描かせたりして軌道を読めなくしながら操作し、シャーリーさんの胴体に横薙ぎの一閃を喰らわせる。


「がっ!?」


 シャーリーさんは大きく吹っ飛び、何度も地面をバウンドして体を打ち付けるが、すぐに態勢を整え、素早く立ち上がって槍を構えながらこちらに向かってくる。

 しかし、セレスさんがすかさず銀鎖を伸ばして牽制を行い、私の作ったゴーレム達もそれに追従するようにしてシャーリーを取り囲むようにしながら間合いを詰めていく。


「この程度で、私を止めることは出来ないわよ!」


「ええ、貴女様はこれしきの攻撃では止めることは出来ないでしょう」


 セレスさんは、次々と水の槍による突き技でゴーレム達を屠るシャーリーさんを見遣りながらそう言葉を漏らす。


「ですが、時間を稼ぐことは出来ます」


「時間稼ぎをすれば、私に勝てるとでも?」


「……それはドロシー様次第ですね」


「?」


 シャーリーさんは眉根を寄せて更に問い詰めようとしていた様子だったけれど、足元に密かに伸びてきていた銀鎖に足を絡め取られそうになり、そちらを槍で払いのけて鎖の動きを目で追うことに意識が割かれ、こちらを注視する余裕がなくなったようだった。

 セレスさんは袖口やスカート袖から伸ばした銀鎖を器用に操りながら、私を見詰めてくる。


「ドロシー様、シャーリー様と戦ってみた感想はいかがでしょうか?」


「……強いです」


「ドロシー様は勝てますか?」


「……私では勝てません」


 それが痛い程分かる。

 ギュッと唇を噛み締め、私は拳を握る力を強めた。

 アイリスさんに魔力の錬成回路を修復してもらい、魔法を使えるようになった。

 アリーシャさんから、『樹宝アーク』を譲ってもらい、戦う力も手に入れた。

 アレンさんやゼルダさんのように、私も誰かを守る為に戦うことが出来るようになりたいと願うことが許されたような気持ちになった。

 だけど、今の自分は弱い。

 私だけではまだまだ戦うことが出来ないことが理解出来た。

 だから、私は目を伏せてしまいそうになるけれど、セレスさんは優しい眼差しでこちらの肩に手を置いてくれる。


「それでは、ドロシー様」


「は、はい」


「私達なら勝てますか?」


「! それは……」


「それは?」


「セレスさんと一緒なら……勝てるかもしれません。ですが、それでいいんでしょうか? これはシャーリーさんとレザーランスの一族である私が決着をつける為の戦いなのに……」


 ドロシーが逡巡していると、ゴーレムの軍勢を全て破壊したシャーリーさんがこちらを憮然と見遣り、ピシッとドロシーの顔を指差し、


「さっきから何をゴチャゴチャと言っているのか知らないけれど、奥の手があるのならさっさと使いなさい!」


「あ、あの、でも、それはセレスさんの力を借りないと使えない力なんです。シャーリーさんは、私と戦う為にこの試合に臨んでいるのにそれを使ってしまうのは……」


「確かに、私はドロシー=レザーランス、貴女との対決を望んだわ。けれど、今の私の相手はそこにいるメイドの女の子と貴女よ。そこの娘と組めば貴女はもっと強くなるんでしょう? なら、切り札だろうがなんだろうが使いなさい! 私は貴女と全力で戦いたいの! たとえ借り物の力だろうとね!」


 シャーリーさんは、そう言い切ると槍を地面を突き立てこちらを不敵な笑みで見つめ、


「さあ、全力でかかってきなさい! 私は全力全開の貴女を打ち破ってみせるわ!」


「……分かりました。全力でいかせてもらいます!」


 シャーリーさんは全力の私を真正面から倒すと宣言した。

 私の今できる全力の力。

 それを上手く使いこなせるかは分からない。

 だけど、あそこまで言ってくれたシャーリーさんを前に躊躇うことは出来ない。

 ドロシーは覚悟を決めると、いつも自分を見守ってくれる優しいお姉さんの手を握る。


「セレスさん、私と『魔装化ユニゾン・タクト』をしてもらってもいいですか?」


「ええ、勿論でございます。共にいきましょう、ドロシー様」


 その言葉に背を押され、ドロシーは手を大きく上げる。

 自分達の上空で大きな火球の花火が上がり爆ぜる。

 そして、その十数秒後にセレスの体が灰色の光に包まれて粒子に変わり、ドロシーの体に吸い込まれていく。

 足元からせり上がる鎖で縛り付けられた頭蓋骨が中央に描かれた灰色の魔法陣がドロシーの肉体を足元から通過し、頭の先まで通り過ぎて魔法陣がガラスが割れるような破砕音を立てて割れると、そこには暖炉に降り積もった灰の如き灰色の髪をなびかせた魔女の姿があった。

 灰色のトンガリ帽子が頭頂部に載っていて、グレーに染まった髪を紫色のリボンでツインテールに結んでいる。

 腰元まで伸びたグレーのマントには鎖の紋様が縦横無尽に走り、メイド服じみた魔女服の胸元にはすみれ色の宝石が輝いている。

 そして、右腕に握られているのは禍々しい程の闇の魔力を放つ紫紺色の宝石を先端に取り付けた漆黒の樹から作られた魔杖で、地面に突き立ててればドロシーの顎先に届きそうな程の大きさだ。

 幽鬼を統べる女王の力を宿した少女は、その手に握られた杖をしっかりと握り締め、眼前の少女へ向けて杖先を向ける。


「これが私の全力です! いきます、シャーリーさん!」


「ただ衣装が変わっただけじゃないことを祈るわ! いくわよ、ドロシー=レザーランス!」


 二人の少女は、ただひたすら己の全力を相手にぶつけることだけを考え、それぞれの得物を構えた。

 最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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