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最強召喚士と奴隷少女達の廃村経営~異世界召喚されたけどやることないので、とりあえず総人口6人の村の村長になりました~   作者: 九条 結弦
第3章 銀翼の天使団篇(メイン舞台国家:アリーシャ騎士団領)
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第78話 ゼルダvsアルギナ.2(女神暦1567年5月8日/ロクレール支部演習場岩場エリア)

「『氷壁に閉ざされし(ジーヴル・アン)氷獣の咆哮(ドルディース)』」


「『断凱の牙(アース・スライサー)


 ゼルダが剣から放った氷結の魔風が辺り一面に暴風のように吹き荒れアルギナに肉薄するが、アルギナは膂力に任せた大きく大上段からの戦斧の一撃を大地に振り下ろす。

 ゼルダの放った触れた物を氷の彫像へと変貌させる氷風は大地に直撃した斬撃の余波で一瞬で霧散してしまう。

 しかし、それだけでは終わらない。


「くっ、地面が割れる!?」


「早く逃げないと、アンタ飲み込まれるよ」


 アルギナの打ち下ろした斬撃は衝撃波となってゼルダの足元目掛けて地面を一直線に切り裂きながら走り、ゼルダはその地割れの射程から逃れようと横に飛び退る。

 だが、アルギナはその行動は予測済みだったようで、地面をすかさず足裏で勢いよく蹴り大きく飛躍すると、ゼルダの懐へと瞬く間に滑り込む。

 速い!?

 あれ程巨大な戦斧を振り回しながらも身のこなしは軽やかで全く鈍重さを感じさせない。

 また、こちらの動きを先読みして私が攻撃に移る暇を与えずに連続攻撃を加えてくる。

 やりにくい相手だ。

 『銀翼の天使団』サブマスター、アルギナ=イルミナージュ。

 『従僕せし餓狼(ヴァイ・スレール)』やグレゴール伯爵領で戦った不気味な肉塊の群れとは桁違いの強さだ。

 だけど、ここで負けるつもりもない。

 過去と向き合う覚悟を決めたドロシーや、私を信じてくれている仲間達の為に私は剣を振るう!


「これで、終わりだね!」


 アルギナは勝利を確信し、横薙ぎの一撃をこちらの横っ腹目掛けて放とうと腕を後ろに引く。

 その一連の動作をスローモーションのように感じながら、ゼルダは愛剣を地面に深々と突き立て、すぐに己に迫りくるである刃に一切物怖じすることなく余裕の笑みを浮かべる。


「それはどうかな」


 私が体内で錬成した魔力に呼応し、『氷海の戦乙女スカルディア・クレメンス』の柄頭に埋め込まれたブルーの宝石が青い輝きを放つ。


「なっ!?」


 突如光輝いた私の魔剣にアルギナは一瞬斧を振るう動作が遅れるが、もう遅い。

 私が刀身に注いだ氷の魔力を喰い尽くすように瞬きする間もなく魔力を吸収した魔剣が発動する。



「『氷狼の烈牙剣アイシクル・フェンリル』」



 大地から何十本もの鋭利な氷の刃が間髪入れずに突き出し、アルギナを串刺しにしようと殺到する。

 アルギナは自分の目掛けて飛び出して来た氷剣の群れに冷や汗を流すと、


「厄介な真似をするじゃないか!」


 戦斧を握る腕を横に払うだけで、ゼルダを撃破することは出来る。

 しかし、それと同時に自分の体はズタズタに引き裂かれることになるだろう。

 即断だった。

 即座にその場をバックステップで跳び退り、凍える切っ先から逃れる。

 だが、自分が飛びずさった地面を踏み締めると同時に足裏から何かが迫って来るような気配を感じ、躊躇なく再度地面を蹴る。

 その一瞬後に同様の氷の剣が大地を切り裂いて飛び出し、アルギナはヒューと口笛を吹く。


「地面から無数に湧き出す氷の魔剣か!?」


「ご名答。私の魔力を喰らった魔剣が大地を切り裂く氷の剣の群れを生み出す技だ」


「随分と強力な技を隠していたもんだ!」


「強力な分、魔力の消費量が多いから万能とは言えないのが歯がゆいがな」


 次々と向かって来る氷の剣の群れを回避しながら楽しそうに笑うアルギナに苦笑し、ゼルダは大きく距離の開いた相手との位置を目算する。

 先程までは手が届く程近くまで肉薄していたアルギナは、氷の刃を避ける為大きく後退した。

 50本近く地中から飛び出した氷の剣が墓標のように大地に突き刺さっているが、そのどちらもアルギナには届いていなかった。

 彼女は足裏から伝わる微弱な振動や魔力を敏感に感じ取り、氷剣が地中から飛び出す寸前にその場を離れるように動き回っていたので、薄皮一つ切り裂くことも叶っていない。


「やはり、強いな貴女は」


「いやいや、お姉さんもかなり強いじゃないか。獲物を間合いに捉えていたのに、おめおめと逃げるしか手がなかったのは初めての経験だよ」


「『十二聖座アーセナル』に名を連ねるギルドのサブマスターにそう言ってもらえるとは光栄だよ」


「『十二聖座』と言っても、『銀翼の天使団』は12のギルドの中では序列12位の末席さ。アタシらより強い化物連中はごまんといる。だから、私なんかの言葉に感心されても中々恥ずかしいんだけどねえ」


 アルギナはそう言って頭を掻くが、数千以上存在する正規ギルドの頂に君臨する12のギルドのサブマスターを務めている時点で、十分化物クラスの実力がある筈なのだ。

 末席とはいえ、『十二聖座』の一角。

 そこに名を連ねることを夢見て研鑽に励むギルドも数多く存在している。

 そのギルドのナンバー2とこうして戦っていること自体が夢のような出来事なのだ。

 アルギナは強い。

 真正面から馬鹿正直に力比べを挑んでも勝てる見込みは薄い。

 搦め手を交えながら長期戦にもつれ込めば、勝敗は分からないが勝率は五分五分といった感じがする。

 ペルテ国時代の動乱で無数の敵兵を屠り、戦士の戦う時の体や目の動きから相手がどのように動きのかという予想を瞬時に行い敵の攻撃を回避するか捌き、即座に切り捨てる。

 作業のようにこなしてきたもう数え切れない程の経験から、アルギナという精強な相手にもこちらは怯むことなく向かっていける。

 勝てない相手ではないが、短期戦で勝てる相手ではない。

 所感ではそう思うのだが、今回の試合では敵陣営のクリスタル破壊という明確な勝利条件がある。

 あまり長期戦になることは避けたいところだ。


「……やむを得ないか」


「? 何のことだ?」


「いや、こちらの話さ。貴女と一対一の戦いを楽しみたいところだが、こちらも先を急ぐのでね。……そこを退いてもらおう」


「……へえ、生真面目な騎士様かと思えば、そんな表情も出来るんだ。いいよ、全力でかかってきなよ!」


 アルギナが戦斧を構え、こちらを見据えながら斬りかかる隙を窺う。

 それを見遣り、彼女の一挙手一投足に注意を払いながら、ゼルダは片手を大きく天に向かって振り上げる。


「フローラ! 『魔装化ユニゾン・タクト』を頼む!」


「待ってました! アンタ達の戦いに割って入る隙がなくて岩の陰から見守っていたけれど、遂に私の出番が来たわね!」


 岩場の陰でコソ~ッとこちらの戦いの趨勢を窺っていたフローラが、私の存在が忘れられていると思ったけどそんなことなくて一安心、といった安堵の表情を浮かべながらゼルダの元へ駆け寄ると同時に、上空で待機していた火精霊サラマンダーが口から火球を飛ばし花火のように空で爆ぜる。


「なんだ、あの花火みたいな炎は? それにあの娘はゼルダっていう騎士の後ろに付き添っていたけど、何をするつもりだ?」


 アルギナが警戒した様子でこちらを見ており、すぐに斬りかかるべきかこちらが何をしようとしているのか見極めるべきか逡巡しているのが見て取れる。

 だが、その一瞬の猶予がこちらに活路を見い出してくれた。


「いくわよ、ゼルダ!」


「ああ、一緒に戦おうフローラ!」


 グッと互いに拳をぶつけ合い笑顔でそう言い合うと、フローラの肉体が若草色の粒子へと変換され、ゼルダの体に溶けるように吸い込まれる。

 そして、足元に展開された大輪の花が中央に描かれた若草色の魔法陣がせりあがってゼルダの体を通過し、頭の先まで通過したそれが音を立てて砕ける。

 レモン色の美しい透き通るような長髪は樹木の新芽を思わせる若草色に染まり、髪の各所が美しい花弁を咲かせる生花の髪飾りで彩られ、額の少し上には霊木で作られた桜色の宝石が輝くティアラが載っていて、ゼルダの美貌をより一層際立てている。

 上半身を覆う白銀の鎧は純白に染まり、つる草の紋様が鎧の端々に彫られ、見る者の心を虜にしてしまうような大輪の桜の花を思い浮かべるピンクの宝石が鎧の各所に取り付けられている。

 太腿の半ばまで伸びているスカートは若草色に秀麗に染まり、真っ白な金属で出来たブーツの足首には鎧に嵌め込まれているピンクの宝石が同様に嵌め込まれている。

 樹精霊ドリアードの少女と融合した若草色の髪を風になびかせる少女は、眼前の騎士の唐突な変貌に目を丸くしている戦斧の少女の鼻先に向けて切っ先を向ける。


「勝たせてもらうぞ、アルギナ=イルミナージュ!」

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