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最強召喚士と奴隷少女達の廃村経営~異世界召喚されたけどやることないので、とりあえず総人口6人の村の村長になりました~   作者: 九条 結弦
第3章 銀翼の天使団篇(メイン舞台国家:アリーシャ騎士団領)
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第73話 ドロシーvsシャーリー.1(女神暦1567年5月8日/ロクレール支部演習場草原エリア)

 ほとんど遮蔽物のない草原の大地を踏み締めながら、ドロシーは前へと歩き続けていた。

 周囲には僅かな灌木や岩が見える程度で、小川が流れている場所には白や黄色の花弁を咲き誇らせている草花が生気溢れる元気な姿を見せていた。

 そんなどこか牧歌的な平和な景色に口元を綻ばせながら、ドロシーは傍らでそっと足並みを揃えて歩き続けてくれている大切なパートナーに視線を向ける。


「すみません、セレスさん。私のわがままに付き合わせてしまって」


 最初の作戦では私はゼルダさんの二人で敵陣地に遠回りで奇襲を仕掛ける予定で、途中でシャーリーさんに遭遇すればそちらとの勝負を優先させてくれる筈だった。

 だけど、ゼルダさんはチームの中でも屈指の実力者で、本来なら敵陣地に真正面から斬り込んでいける人だ。

 私のお守りで行動を制限してしまっていいのだろうかという思いがあった。

 そんな内心の葛藤をどうやら見抜いていたらしいセレスさんが、


「私がゼルダ様の代わりにお供させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 と声を上げてくれた。

 その時にアレンさんの顔を見ると、


「ドロシーの思った通りにしていいんだよ。これは君があの娘と向き合う為の戦いなんだから」


 と優しく返してくれたので、私はセレスさんと一緒に陣地を出立して草原エリアを歩いていた。

 私達の陣地である廃墟エリアは西、敵陣地の森林エリアは東に位置している。

 今進んでいる草原エリアは南、岩場エリアは北だ。

 今頃皆、それぞれ敵陣へと進んでいる筈だ。

 シャーリーさんが敵陣地へ攻め込んでいるのなら、どこかで出会う筈だ。

 今回私のパートナーを務めてくれる、サラサラとした綺麗な灰色の髪を風にそよがせ、身に纏っているのが侍女服でなければまるで名家のご令嬢のような高貴さを感じさせるような美貌を持つ、私の大切な人に仕える女性はにこやかに微笑み返してくれる。


「いえいえ、むしろ私の方が驚きです。まさか、ドロシー様があのようなことを申されるとは思っていませんでしたので」


「あははっ……自分でも無謀だなとは思ったんですけれど……勝てますか、私は?」


「そればかりはなんとも。昨晩はエルザ様達と模擬試合をして魔力操作には多少慣れたとは思いますが、まだまだ実戦では上手に練習の成果を十分引き出すことは困難だとは思います。ですが……」


 セレスさんはこちらの目元をしっかりと見詰めながら、


「貴方様は対戦相手の少女から逃げずに真正面からぶつかると自分自身で決めて、ここまで来ました。今の貴女の全力で彼女にぶつかれば、どんな結果であれ胸を張って良いと思います」


 そう断言してくれた。

 相手は最強ギルドの一角『銀翼の天使団』のメンバー。

 そんな相手に対して、私は昨日魔力をまともに錬成できるようになった初心者魔導士。

 普通に考えれば勝敗なんて見え切っている。

 だけど、戦うことに決めた。

 逃げないことに決めた。

 それを決めたのは自分だ。

 なら、私がやることはただ一つ。


「当たって砕けてもいいです。私の全身全霊をシャーリーさんにぶつけます!」


「その意気です、ドロシー様。しかしながら……」


 セレスさんは私の肩に真摯な表情でそっと手を載せると、


「やるからには勝ちに行きましょう。精一杯、負けるもんかと頑張るドロシー様の姿……その方がきっと萌えます。あっ、間違えました燃えます」


 自分の発した言葉のイントネーションの違いに気付き、素の表情に僅かに赤みが差すセレスさんの励ましに思わず小さく吹き出してしまい、私の方が気が楽になってしまう。


「もう、あまり笑わないでください」


 頬を小さく膨らませながらも、こちらを気遣ってくれるセレスさんの優しさに感謝しながら、私は前へ向き直った。

 ニコニコとこちらを労わるように言葉を掛けてくれるセレスさんに相槌を打ちながら、ドロシーは前へと足を進める。

 そうすると、草原の向こうから見えていた人影が次第に近づいてきて、私と彼女が10メートル程の間隔を空けて立ち止まる。

 シャーリー=マトラ。

 私のお姉様が滅ぼしたマトラ島の生き残り。

 彼女は試合前には持っていなかった白銀の槍を手にしていた。

 穂の部分が細長く伸びており、斬る・削るという用途ではなく、突き技を想定して作られた形状をしている。

 持ち手となる柄には波打つ波と岸辺に衝突して舞い散っているかのような水飛沫の意匠が施されており、その彫刻の秀麗さに息を飲む。

 彼女は、こちらを睥睨へいげいすると私の数歩後ろで立つセレスさんに視線を向ける。


「貴女が、アイリス様が試合前に説明してくれた『隷属者チェイン』っていう存在でいいのかしら?」


「ええ、その通りでございます」


「召喚魔法なんてレアな魔法の使い手なんてほとんどいないから、後学の為に戦ってみなさいなんて言われちゃったから承諾したけど、貴女は私達のクリスタルを直接攻撃しないんだっけ?」


「はい、今回の試合においては『隷属者』は積極的には戦闘やクリスタルの破壊には参加致しません」


「了解したわ。だけど、これは一対一の勝負じゃない。あくまでチーム戦。貴女もこの娘がヤバいと感じたら、いつでもかかってきなさい」


「あら、そんな風に言ってしまってもよろしいのですか……私、本気になっちゃうかもしれまんよ?」


「上等よ。そっちは私の挑戦を受け取って、出来る限り私の要望を汲み取ってこうして戦いの舞台に立ってくれたんですもの。それぐらいは覚悟の上よ」


 胸を張ってそう言い切ったシャーリーさんの目は、しっかりと私を見据えていて、そこには確かな憎悪があった。

 でも、決してそれだけじゃない。

 彼女の前に半端な力しかないけれど立つ私に対しての一定の敬意がそこにはしっかりとあった。

 彼女は過去の大きな傷跡に今も目を背けずに炎を燃やしている。

 だけど、彼女の目に映っているのは消え去った故郷だけではない。

 私だ。

 シャーリー=マトラは、ドロシー=レザーランスの姿を目に焼き付けている。

 今から倒すべき相手を。

 過去を清算する為の敵を。

 なら、私も弱い自分自身に泣き言を言っている場合ではない。

 弱いなら、それを補うぐらいの強い想いを相手にぶつけるしかない。

 胸元に手をやり、心臓の鼓動を感じ取る。

 ここから魔力を出し切る。

 出し惜しみなんて考えない。

 ただひたすらに、目の前の相手を見据えるんだ。

 私を倒そうと全力を傾けてくるであろう彼女に喰らい付いてやるんだ!


「ドロシー=レザーランスです。よろしくお願いします」


「シャーリー=マトラよ。先手は譲るわ。貴女の力を見せてみなさい」


 シャーリーさんは、静かに槍を平行に構えるが、攻めてはこない。

 まずはこちらの力量を図るみたいだ。

 すうっと息を吸い込み、ゆっくりと吐く。

 魔力の錬成の練習は幼い頃から欠かさずしてきた。

 魔力の錬成回路の断裂という生まれながらの致命的な欠損を抱え、錬成しようとしてもすぐに霧散してしてしまい魔法の発動は不可能だったけれど、魔力を練るという動作自体は体に染みついている。

 集中すれば、きっと大丈夫。

 心臓に意識を集中し、魔力を錬成させる。

 今までは途中で錬成した魔力が体内を巡る途中で形を保てず消滅してしまっていたけれど、今では拙いながらも体全体にしっかりと広がっていくのを感じる。

 よし、大丈夫!

 体内で魔力を高めながら、こちらをじっと見詰めるシャーリーさんを見詰め返す。


「シャーリーさん」


「なにかしら?」


「……私は貴女の故郷を滅ぼしたレザーランスの人間です」


「そうね」


「マトラ島のことについては、どんなに謝っても許して頂く事は出来ないと思います」


「……正直、あの事件に直接関わっていない貴女を糾弾しても意味がないってことは分かってる。貴女に八つ当たりしてるだけなんだってことも。それについては私も謝るわ。ごめんなさい、私の勝手な感情に振り回してしまって」


「いえ、気にしないで下さい。貴女の相手が務まるかは分かりませんが、全力でいきます。お願いします」


 私がペコリと頭を下げると、シャーリーさんは少し毒気が抜けたような意外そうな表情を浮かべて苦笑する。


「思ったよりも律儀というか、随分と真面目なのね貴女」


「あっ、だ、駄目でしたか!? 私って頭が固くってこんな風にしか出来なくて……」


「別に不快になんて思ってないから安心して。むしろ、貴女の性格には好感が持てるから」


「あ、ありがとうございます」


「さあ、いつでもかかってきなさい。貴女が真正面からぶつかってくるなら、私も真正面から受けて立つから」


 そう言って不敵な笑みを浮かべて、こちらの攻撃を促すシャーリーさんに会釈をして魔力の錬成に専念する。

 そして、錬成した魔力を右手の人差し指に集中させる。

 ……正直、まだこれを使いこなせる自信はない。

 だけど、昨晩アリーシャさんからこれを使うかどうか訊かれた時、私は自然と手を伸ばしていた。

 辛い過去の記憶を否が応でも意識してしまうけれど……私は力が欲しかった。

 奴隷オークションの会場から逃げる時も守ってもらった。

 アルトの村の襲撃の時も守ってもらった。

 今度は私が皆を守る側になりたい。

 大切な皆を守れるようになりたい。

 アレンさんもゼルダさんも。

 カレンさんもエルザ達も。

 私自信が皆を守り抜けるぐらい強くなりたいんだ。

 体内で錬成した魔力を人差し指に嵌めた指輪へと集約させる。



「私に力を貸して! 『傀儡師の奴隷工房(シェム・メフィオラ)』!」



 かつて自分を奴隷に堕としたギルドのギルドマスターが所有していた『樹宝アーク』は私の呼び声に呼応するように、その力を示す。

 私が背を向けていた平坦な草原の大地が突如として隆起し、地中の岩石が音を立てて地面を突き破って2メートルを超える巨躯へと姿を変える。

 牢獄に繋がれているジルベスターから没収された樹宝は持ち主を替えて、私に応えてくれていた。

 生み出した10体のゴーレムが私を守るように前へと岩石で出来た大きな足を踏み出し、彼らを従えた私は大きく右手を横に薙ぐ。


「全力でいきます!」


「面白そうな真似するじゃない! かかってきなさい!」


 草原に生えていた草花を体の所々から生やしたゴーレム達の巨体が、好戦的な笑みを浮かべる槍を携えた少女へと一斉に加速した。

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