“青春18切符に揺られて”
とても久しぶりに文章を書いたので、これまで以上に支離滅裂で意味がわからないかもしれません。
言葉を紡ぐ元気がないほどに生きていることが空しくなってしまったから、
手を付けた仕事を片付けて、電車の切符を買った。
どこか行きたい場所があるわけじゃない。
何か見たいものがあるわけじゃない。
会いたい人がいるわけでもない。
ただ、なんとなく。
息をすることすら寂しくて、悲しくて、空しくなってしまっているものだから、
ここじゃないどこかに私の体を置いてみたくなった。
それだから、青春18切符を買いました。
5日間分で11000円くらい。
1日2300円ほどでJRを使えばどこでもいけるというのだから、まるで魔法の切符。
行く当てもない旅に出るあたしに誂え向きでしょう。
長期休暇シーズンの駅は平日と同じ場所とは思えないほどに人で混雑していて歩きにくい。
きっと、みんな観光客だろう。
加賀百万石の本領発揮である。
家族連れとか、恋人同士とか、大学のサークル旅行っぽい子たちとかがいっぱい。
嗚呼。
前はこういうのを視覚するだけで動悸みたいになっていたのに、
今はそれすらない。
達観とか、諦観とか、そういうわけじゃないけれど、
きっと、心がうまく起動していないのかもしれない。
何も感じてないわけじゃないんだ。
ただ、ぽっかりと心に穴が空いているような感じ。
多分、これが空しさなんだと思う。
券売機から出てきた青春18切符を確認する。
5,6枚の券のなかの1枚が切符で、他は注意事項とかが書かれているだけの紙だった。
碌な青春の記憶もない私にとってこの切符の名前はちょっと胸が痛くなるけど、こういうものなんだから、仕方ない。
切符を大事にバッグのなかに仕舞ってから、コンビニで飲み物とご飯を買った。
時刻は午後6時。
思い付きで行動するタイプの人間とはいえ、今から鈍行で旅に出るとか我ながら馬鹿げてる。
こういうのって普通は朝早くに出たりするものでしょう。
さて、どこへ行こうか。
行きたい場所も見たいものも会いたい誰かも何もないあたしは、スマホで路線経路を調べる。
「金沢」発→「 」着
そうだなあ。
久しぶりに。
「金沢」発→「東京」着
東京でいいかな。
大阪は案外近いからいつでもいけないこともないし。
新幹線は高いのよ。
検索ボタンをタップする。
表示された路線経路では東京着は翌日になっていた。
まあ、そうだろうとは思っていたけど。
とりあえず、大垣か豊橋までは今日中に行けるらしい。
よし、これでいいや。
動き出した電車のなかでイヤホンをつける。
まるでドラッグのようにループさせている音楽を聴く。
窓から見える宵闇に染まっていく夏の空があたしの感傷を大げさにする。
音楽があたしの寂しさとか、悲しみとか、空しさを肯定してくれる気がするんだ。
電車に揺られ、音楽にのせられ、久方ぶりに言葉が込み上げてきた。
近頃の空しさの正体かもしれない。
ぽつり、ぽつり。
と。
頭の中に思考が落ちてくる。
なんで寂しいのか。
どうして悲しいのか。
心臓をえぐり取られたような空しさは一体何なのか。
あたしの現状に別に不満があるわけじゃない。
けれど、あたしの現実が満たされているわけでもない。
あたしの現状を正解だって、よかったねってそう言ってくれる人はたくさんいるけれど、
あたしがこの現実にたどり着くまでの過程がどうしても正しいものだったとは思えないから。
だから、あたしは今のあたしを褒めてあげることができないし、誇らしくも思えないし、
好きだよって、嫌いじゃなくなったよって、
そう言ってあげることができないんだ。
もっと、いろいろできたはずなんだ。
もっと、いろいろ知れたはずなんだ。
ここへ来るまでに。
22年も費やしてしまう前に。
もっと、もっと、たくさんをのきらきらを食べられたはずなんだ。
心の闇に目隠しをされないで生きることができれば。
ね。
左腕の傷跡に目がいった。
大嫌いな親を思い出した。
あんな機能不全家族じゃなければ。
あたしはもっと人らしく成長できただろうに。
もっと、人間らしく笑えただろうに。
まともな親だったら、
ちゃんとした人間になれていただろうに。
こんなにも自分が大嫌いで、自分を好きになれないで、そのせいで人を本気で好きになれないで。
いや。
自分が嫌いだから好きじゃないから、
人から好きになってもらえる自信がなくて、
こんな自分を受け入れられないから、
誰かに受け止めてもらえる自信がなくて、
ぼろぼろと自尊心が崩れてしまったあたしは、恋を壊して愛の機会を失った。
そうして、今に至る。
空いてる穴は、これか。
空しいの正体は、これか。
福井から敦賀を目指す。
敦賀から長浜を目指す。
次は米原。その次は大垣。
そして、豊橋。
すでに外は真っ暗。
窓から景色は見えないで、瞳が光っていないあたしの顔が映った。
前の席のカップルが寄り添いあって寝ている。
福井の駅からずっと同じ電車。
もしかしたら、あの人たちも青春18きっぷでも使っているんだろうか。
まあ、いいんだけど。
ただ、目の前でそういうのをやられると心がぐらぐらするからやめてほしい。
被害妄想も甚だしいけれど。
あたしもそういうことしたいから。
思い出してしまうから。
壊れなければ。
今ごろ、あたしのあの恋は愛に変わっていただろうか。
あの日のバイバイをなかったことにできていただろうか。
わからない。
だって、仮定の話だもの。
もしも。の話はあんまり好きじゃない。
後悔なんてしてしまったら、
鍵を過去に置き去りにしている時点で、今のあたしにはどうにもできないでしょ。
深夜1時。
豊橋の駅についた。
電車を降りた人は案外多かった。
駅員さんに18切符を見せて改札を抜ける。切符に2つ目のスタンプが押された。
深夜だというのに愛想の良い駅員さんお疲れ様です。
夜の豊橋の街。
ホテルへは向かわない。というか、予約を入れられなかった。夏休みのせいかな。
だから、インターネットカフェへと足を運ぶ。実は初めてネットカフェに行く。
こんな機会じゃないとそうそう行こうと思うところでもないし。
安っぽいネオンの看板をぶらさげたネカフェの前でたむろしている20歳くらいのチャラそうな男の子たちがあたしを見ている気がしたけど、たぶん気のせいだろう。
フロントで入会の手続きを済ませて、紫煙の籠った7階の喫煙席に着く。
ネカフェも人がいっぱいだ。
正直、たばこはもうめっきり嫌いになってしまったんだけど、あたしの今日の寝床はここしかないんだから、我慢しよう。
ほとんど電車に揺られているだけだったけど、とても疲れた。
嗚呼。
帰りたいな。
今から帰ってもいいんだけど。
でも、それだとなんだかもったいないな。
静岡の海辺らへんで美味しいものでも食べて帰ろう。
それでいいや。
空しいの正体は何となくわかりました。
これだけでも電車に乗った意味はあったのかもしれません。
けど、そのせいで帰りたくなりました。
外に出ているのが辛いのです。
でも、魔法の切符を手にしたあたしは、
もうちょっと、旅めいたことがしたいのです。
だから、明日は静岡へ行きます。
海を見たら泣いてしまうかもしれないけど、
涙が落ちたら、
涙腺を枯らせばいいよね。