かき壊し。
まだ薄暗い中、痒さで意識が戻る。目を閉じたまま、一心不乱に腕をかいている私。
ー痒い、痒い、痒い。かいちゃダメ。でも痒い、痒い。
そうこうしていると指先の感触が水っぽく変化する。
ーああ、またやっちゃった。
部屋の電気をつけて腕を見ると、かき壊して、浸出液や血が滲んでいる。そしてなんとなく痛い指を見ると、ささくれ立った皮膚が互いの指の薄くなっている皮膚を傷つけ合っている。
いつまでこんなことを繰り返すのか。かき壊した腕の浸出液や血をティッシュで押さえ、かゆみ止めと皮膚修復の効果のあるエッセンシャルオイルをスプレーしてはため息をつく明け方。
夜は寝付けなくなり、眠れない時や痒くなった時に起きて二階でゴソゴソすると、犬が起きてしまうし、家族に迷惑だろうからと、寝る場所を一階リビングに変えた。夏場なので寝具が少ないのでそれほど場所を取らないし、リビングに敷きっぱなしにしておけば、昼間の時間の空いた時にすぐに横になって体を休めるのにも都合が良いからだ。
そして一階に居れば、外に出やすいということにも気づいた。なので、どうにも眠れない時は、簡単に着替えて、帽子とアームカバーを身につけて、小銭を持って近所のコンビニに歩いていくことにした。
買うものは、確実に消費するものを選ぶことで、余分な出費に繋がらないようにした。プライベートブランドの炭酸水やナッツなら、スーパーよりも高いということもない。
そして何より、夜の道路の静かな空気が心地よい。眠気を誘う効果こそあまり得られないが、寝付けない苦痛からは気が紛れる。
静かな通りを車がまばらに走り去る様子を眺めながらゆっくり歩く。本当は家で横になっているのが体にはベストだが、眠れないまま寝返りを打っているうちに痒くなることを思うと、歩いている方がマシだ。
「帰ったら少しは眠れるかしら…。」
家の裏口に着くと、ため息交じりに鍵を手にする。痒みがなく普通に眠れたらどんなに楽だろう。
明け方には少し眠れる場合が多いので、朝食時に飲む栄養ドリンクを先に飲んで寝てしまおう。起きる時間がゆっくりめなので、朝にやることを一つでも減らしておきたい。
ドリンクを飲み終えた頃に階段を下りてくる音がした。翔がお茶を飲みに下りてきたのだ。
翔は週末などの休日前は夜中まで起きていることが多い。今は夏休みでちょうど部活も補習もないので夜中まで起きていたようだ。キッチンに電気が点いていたせいか怪訝そうにしている。
「何やってんの?」
「眠れないからコンビニ行ってきた。」
「ふーん…。俺には夜中に行くなって言うくせに。」
「中学生や高校生が出歩くと補導されたり、変な人に絡まれることがあるからだよ。」
「わかるけどさ。ママは大丈夫なの?」
「スッピンのヨレヨレのティーシャツ姿で、いかにもお金持ってなさそうなオバサンに絡む人なんていないでしょ。」
「俺は何歳から夜中にコンビニ行ってもいいの?」
「何歳なら大丈夫とはハッキリ言えないよ。」
そんな他愛ない会話をしているうちに翔がキッチンの丸椅子に腰を下ろした。この椅子は私がキッチンでくつろぐためと踏み台を兼ねていて、私にとってリラックスのマストアイテムなのだが、何気に子供たちもよく利用している。