夫の理解。
「家の中が汚い。トイレ掃除、やっといたから。洗濯機のドラムの扉のホコリも俺が拭いておいたから。」
夫が帰省してくる少し前に私のこの状態をメールで知らせていた。そして家事もままならない状態なので掃除や片付けができていないので申し訳ないということも併せて知らせておいた。
なのに、なのに、である。やってくれたことはありがたいが、こんな言い方をされては、感謝の言葉も出なくなってしまう。イラッとする気持ちを押さえて、酔っ払った夫に対して反撃をするまいと黙っていると、莉乃が口を開いた。
「ママね、最初は手が真っ赤で、もっと大変だったんだよ?お料理だって出来なかったんだよ?」
莉乃の言葉に少しだけ夫の表情が緩んだが、まだ捨て台詞のように一言を投げつけられた。
「まあ、言い訳はいいよ。」
はぁぁあ~?
怒りが込み上げるが、脱ステロイド自体は、続行させてもらえているので、ここでこじらせては。そう思って私からは、何か言うのをやめた。
そう。最初は手が真っ赤で、箸を持つことはできても使えなくて、フォークやスプーンを使って食事をしていた。洗濯物を触ると浸出液で汚してしまい、洗い立てのうちの何割かは洗濯機に戻していた。
夫はそのことを文字で見ていたけど、現場を見ていない。更に今は酒が入っていて話にならない。仕方ない、仕方ない。嵐が過ぎるのを待とう。
…ああ、嫌だ。イラッとくると痒みがやってくる。実は夫が帰省してくる前日から痒みが激しいのだ。いつ暴言を吐かれるだろうと気がかりだったせいだろう。今の私には、ストレスは大敵なのだ。酔っ払った夫はまさにストレスの素なのだ。
「酔っ払っているときは知らん顔しといた方が良いね。」
夫が席を立った隙に莉乃が言った。普段、私が子供達に言っていることを莉乃がそのまま言った。そう。莉乃は被害が少ない方だが、それでも夫の酔っ払いには辟易しているのだ。
夫はそれなりに心配はしているようだ。
今回の帰省の間は「体調良くないんだから、俺のことは気にしないで先に寝ろよ。」と言ったくれた。亭主関白なので、普段は私が先に寝ることを嫌がる彼としては、かなりの歩みよりと言えよう。
しかし、理解を見せてくれているかといえば、そうでもない。手が痛くて、浸出液がポタポタと垂れる時に最低限の家事をこなすのがどれだけ大変かということを、現場を見ていない夫には想像がつかないのだろう。
痒くなり出した腕にエッセンシャルオイルをスプレーしながらため息をつく。莉乃のフォローが救いだった。
今夜は眠れるんだろうか。痒みで夜はほとんど眠れていないだけに、夫の言動が恨めしく思える夜だった。




