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山手利津子

 山手(やまて)利津子(りつこ)です。

 重い話になるかもしれませんが、今回の事件と私の事をお話しさせて下さい。


 私の性格を一言で表すと〝従順すぎ〟です。こうなったのは年中さんの時で、その前までは思った事をそのまま口に出す子でした。

 そのせいでお兄ちゃんを怒らせて、友達とも喧嘩して、誰とも遊んでもらえなかった日がありました。それがとても寂しくて、また独りにされないよう、自分の意見を話さずに周りのみんなの言いなりになってきました。

 なので、熊ケ根さんがクラスのみんなにランク付けをしてても「そうやって決めつけちゃ駄目だよ」なんて言えませんでした。他の子に合わせれる自信がなく、反対に熊ケ根さんを独りにさせると思うと、熊ケ根さんから離れる事も出来ませんでした。


 学校で事件が起きた時、私と熊ケ根さんは図書室に居ました。お巡りさん達が学校を出て、私たちも帰ろうとした時に祖志継さんからのメッセージが2つ届きました。

 1つはグループチャットでクラスのみんなを脅す物で、もう1つは私と熊ケ根さんそれぞれを、

『同じ3軍だった貴方達とは敵対したくない。みかんを連れて、こっちに来て欲しいの』

 と、祖志継さん側に誘う物でした。

 熊ケ根さんはその場で話に乗り、みかんさんの振りをしてあみさん達にメッセージを送り始めました。思わずどういう事か聞くと熊ケ根さんは、

「私は祖志継さん嫌いじゃないし、同じ3軍同士助け合わないと……1軍全員を怒らせてみかんさんが孤立したら、祖志継さんのところに行ってくれると思うの」

 と、言いました。

 熊ケ根さん達が悪い事をしてると分かってましたが、メッセージを送るのをやめさせたり、祖志継さんに私から断ったりする勇気が出ず、部活がどうなるか聞いてくる事にして出てくのが精一杯でした。熊ケ根さん達から離れた時から独りで帰る間、クラスで孤立したのは私の方だと思うと怖かったです。

 ちょうどその時、クラスのグループチャットで花壇君、菊田(きくた)君、天馬君がみかんさんからのメッセージについて話してました。その正体を知ってるのは私だけだから、本当の事を話さないととは思いましたが、熊ケ根さん達がまだグループチャットに入ってたので、そこでは言えませんでした。

 それでも他のところで誰かに知らせなくてはと、熊ケ根さんと同じ中学校出身で、みかんさんの事を心配してるに違いない八幡さんのところ……ヌカボシに行きました。

 ヌカボシには楽司(がくし)君など、熊ケ根さんが2軍と呼んでた人達も集まってました。事情を話したら、八幡さんが熊ケ根さんの呼び出しから助けてくれて、逃げ回ってた熊ケ根さんを見つけた時には夏椰さんが、

『山手にはあたし達が付いてるから、熊ケ根達には混ざんないって言ってやりな』

 というメッセージをくれました。それでやっと、私は熊ケ根さん達の方に「行かない」とはっきり断る事が出来ました。

 その後1度だけ、祖志継さん側の『新しい仲間』と行動を聞き出そうとメールしたのを最後に、熊ケ根さん達との繋がりはなくなった……と思い込んでました。


 祖志継さん達が捕まった後、祖志継さんの親戚の人から手紙が届いてました。クラスで話した後に捨ててしまったんですが、確か、

『貴方の協力を得られなかった事をとても残念に思います。短い間でしたが、祖志継はなこが友人としてお世話になりました』

 と、書かれてました。

 夏休みが明けると、捕まったはずの『新しい仲間』だった……塩柄君の元カノさんと、祖志継さんの友達だった子が、1組に嫌がらせをしてくるようになりました。祀陵祭が中止になった事、塩柄君にフラれた事、祖志継さんとはのんさんが捕まった事を私達のせいにしてきたんです。

 その子達は、私が熊ケ根さんや祖志継さんを裏切ったとイチャモンを付けてきました。はのんさんが怪我させた人達が亡くなった事を先にどこかで聞いたらしく、私にだけ、

「はのんちゃん、2人殺したから死刑になっちゃう。これも山手ちゃんがはなこちゃん達売ったせいなんだよ? それなのに、なんで平気そうに生きてんの?」

 と、言ってきました。

 今回の事件でも人が亡くなってた事をみんなには教えにくくて、死ね死ね言われても我慢してたんですが、耐えれなくなって……9月末、方法は内緒ですが自殺しようとしてしまいました。

 準備してたのをお母さんに見つかって止められて、お父さんとお兄ちゃんが帰ってきたところであの子達の事を話しました。「死なせてくれないなら祀陵辞めさすか転校させて」とお願いしたら、お父さんに、

「あそこのお嬢さん達相手じゃあ、なにしても向こうが喜んで揉み消すだけだ。どうせすぐ逃げるんだから、休んで待ってなさい」

 と、言われました。お母さんとお兄ちゃんは「休ませて済む話じゃない」と怒ってましたが、なにか事情を知ってそうなお父さんの言葉を信じて休む事にしました。

 休んでる間もクラスや美術部のみんなから祀陵や更進であった事は詳しく聞いてて、更進での事件が解決した頃から、あの子達が学校に来てない事を教えてもらいました。休学、ただのサボりなどと言われてましたが、お父さんの予想通り、どこかに逃げた感じでした。

 そんな話を聞いて、本当に卑怯なのはあの子達だから、あんな子達なんかの為に死ななくて良かったと、あんな子達や祖志継家にはもう負けないと思って、学校に戻る事を決めました。

 それからは中間テストも、修学旅行も無事終わり、このまま行けば3年生に上がれそうです。私や家族、2年生のみんなも安心してましたが、私達以上に楽司君が喜んでくれてました。


 事件前からここまで思ってきた事を話せて……全部聞いてもらえて嬉しかったです。本当に、ありがとうございました。

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