再訪 2013年1月7日、祀陵高校・大崎更進高校他
2012年7月から10月にかけて発生した〝仙台息女事件〟とその関連事件。同年末、当事者である9人の高校生が事件の行方や裏側、関係深い過去を語ってくれた。
彼女達とその同級生、事件の加害者となった少女達はどのような年明けを迎えたのだろうか——
仙台市青葉区の祀陵高校では、友人や恋人同士が約2週間ぶりの再会を喜び合っていた。スマートフォンや携帯電話で連絡を取っていても、直接会える嬉しさは格別のようだ。
2年1組をよく見渡せるみかん、八幡の席には彼女達と輝彦、陸、笹ノ上、夏椰が集まっていた。
「——でさ、笹ノ上達に似てんの居ると思ったら本人だった訳。な?」
「俺は輝彦と滝道さんだーって思ってたけどな」
クリスマスに光のページェントを見に行った輝彦とみかん、笹ノ上と夏椰は現地で鉢合わせたそうだ。
「そういう事だったのね〜」
海恵と片平、咲苗、奏が話に混ざった。
「夏椰に先越されるとはね〜……ね? 八幡」
「う、うち? ……それなら、そこのお2人さんもじゃないかなぁ」
八幡が飛奈と聡斗を巻き込んだ。
「そうだよ」
聡斗達と喋っていた大針、陸が口を揃えた。
「陸もでしょ? てん君達ちょっと来てー!」
飛奈が出入り口近くの天馬とその彼女、菊田、葛岡を手招きした。
「陸と大針……と、聡斗、リア充になりたいんだって」
「俺もぉ!?」
大針と聡斗が声を上げた。
「てん君達ドンマ〜イ」
あみが飛奈に捕まった天馬達を茶化した。
「あみー! 新川ー!」
「貝ケ森ちゃ〜ん」
貝ケ森とあみ、新川はハイタッチをした。立町と塩柄が遅れてやって来る。
「愛留ちゃん達来てないって!」
「SNSに『平泉うぃる』って上げてたみたい」
あみと新川はダンス部の友人からの情報を伝えた。
「あたしも女バレで聞いた! ホストみたいな男子と一緒だってね! もうずっと遊んでればいいよぉ……山手だって、あんなに元気になったんだし」
貝ケ森達は山手を見やった。
山手は柏木、芋沢、大霜、星陵、針金と立ち話をしていた。
「大霜君達もだけど、星陵君と芋沢君も居ると思わなかった〜」
山手達は初売で、同じショッピングセンターに偶然居合わせたようだ。
「大霜君、そのパーカー福袋のでしょ?」
「大正解」
柏木の言う通り、大霜はキャラクター福袋に入っていたパーカーをブレザーの中に着ていた。
「って事は俺、大霜とお揃い?」
星陵も大霜と同じ福袋を買っていたようだ。
「そうなるね〜」
大霜と柏木、山手の声が重なった。
「マジかー……今度一緒に着てくるか」
「いいね! あ、楽司君達聞いてよ〜」
山手が楽司と新坂、折葉、上愛子、郷六、樋田、錦ケ丘、吉成を呼び止め、大霜と星陵の事を話した。
「--面白え〜! じゃ、俺と新様もあれ着てきますか〜」
「勝手に決めんじゃねぇよ〜、全然いいけど」
楽司の言う「あれ」とは、夏にあった音楽フェスで買ったTシャツだそうだ。
「夏フェスかぁ……いいなぁ」
「上愛子、夏フェス興味あんだ⁉」
「言えよなぁ〜」
上愛子の呟きに、楽司と新坂が飛びついた。
ここまで見ていると、2年1組にかつてあったスクールカーストだけではなく、祖志継家との因縁も最初からなかったかのようだ。
しかし、それは冬休み中に新たな事件が発生しなかった為であって、これまでに起きた事件の当事者達を忘れてはいなかった。
年末年始を実家で過ごした黒松は、幼少期の写真を数枚持ち帰っていた。彼いわく「独断と偏見でみんなにウケそうな奴」を選んできたそうだ。
玲華が手に取ったのは、案山子にいたずらをして得意気な北根と黒松の写真だった。
「クロもなかなかやるねぇ〜……恋都マジで会ってみたかった、祀陵居たら絶対楽しかったって!」
「ドヤ顔か変顔かだな……これ、こんな感じ?」
花壇が北根の変顔を真似ると、黒松と、彼の斜め前の席に着いていた四ツ谷が吹き出した。
「こっち見んなって! 朝からヤベぇ……って、黒松、これ阿武急と飯坂線?」
四ツ谷は、駅のホームに行儀良く並んだ黒松と妹の里愛、北根の写真を指差した。
「あぁ、飯坂温泉行こうとしてたら阿武急来た奴」
「ってか待って、四ツ谷って……鉄ちゃん?」
「間違いなく鉄ちゃんでしょー?」
「鉄ちゃん名乗っていいか分からないけど……まぁ、鉄ちゃん、だな」
四ツ谷が玲華と梅子に答えた。彼は10年程鉄道趣味から遠ざかっていたが、仙台息女事件後から少しずつ再開させていたようだ。
「だよねー? 四ツ谷君が言ってた電車、良かったよ! お正月もあれでお姉ちゃんとこ行ったんだけど、お父さんも大喜びでさー」
「梅子さんのお姉さんとこって、岩出山だったよな?」
「そう! ……あ、岩出山っていえばさ——」
梅子は廊下側--北の方を望んだ。
仙台から北へ約40km、大崎市にある大崎更進高校でも冬休みが明けた所だった。
「そうだ! 美菜ちゃん、転校したんだ!」
「白石の友達が言ってた!」
理依と鈴茶、愛弓、雛里が、みんな聞いてと言わんばかりの大きな声で噂話をしていた。
彼女達によると美菜は、SNSの炎上が父の仕事に支障を来した為、SNSが禁止されている高校に移ったそうだ。
「——で、岩沼の伯母さん家に居るんだってね!」
「鈴茶ちゃんの友達詳し〜……あっ、それでね、引っ越す事かほに言わないで行ったっぽいよ?」
理依に名指しされた果穂子は、真面目そうな女子生徒3人に囲まれていた。
「川熊さん、気にしちゃ駄目だよ」
「そうだねぇ、それよりね——」
果穂子は噂話より東京の大学が気になるようだ。
浦小路と恋音、あおいとおしゃれな女子生徒達が騒々しい2年2組の前を素通りした。実貝も1人で彼らに続く。
「押忍! 朝からごちそうさんでーす!」
「恋音あけおめ〜! 今年もさっそくラブラブじゃ〜ん!」
「あおい、おはよ〜っ‼」
2年3組も2組に負けじと盛り上がったが、実貝に声を掛ける者は居ない。
「福沼さん……大丈夫?」
「べ、別に平気ですっ」
通り掛かった師山と実貝の7秒程のやり取りも、誰一人として気に留める事はなかった。
「2組うるせ〜」
「私達もうるさくなるけどねー」
台町は逸果と、同じ電車に乗ってきたクラスメイト達と共に2年1組に入った。
「轟ぃ、タイムライン見たよ〜」
「台町とのスノボデビューおめでと〜」
級友が台町に見せたのは、一昨日逸果とスノーボードをしに行った写真だった。
「見てくれた〜?」
「そりゃ見るよ〜。轟の見れば、だいたい台町見れるし」
「ってか、台町もメッセージやろうよ〜」
「スマホ買ったらね……今日だけど」
「マジ!?」
台町の突然の発表に級友と、逸果も驚いた。
「急だな〜」
「急でしょー。昨日ガラケー水没させちゃって、買い替えるついでなの」
台町の喋り方や雰囲気が和らいだように見える。
2年4組では夏芽、クラスを仕切る女子達が仲間達から盛大な拍手を受けていた。
「てか、何事すか?」
お調子者の男子生徒も釣られて手を叩いたものの、なにが起きたか分からなかったようだ。
「夏芽達、彼氏出来だんだど」
下川原の訛りはそのままだが、夏芽から聞いていた通り女の子らしく、垢抜けていた。
「あたしらも引き続き頑張りましょ」
「そうだねぇ」
クリスマス直前の合コンでは縁がなかった南谷地、心菜は互いに励まし合っていた。
「お京……は、大丈夫そ」
南谷地と心菜の視線の先では、京穂と1組のかっこいい男子が仲睦まじく言葉を交わしていた。
予鈴が鳴った。かつての〝伸葉探偵団〟とその同級生達、それぞれの1日がまた始まる。
仙台息女事件の実行犯達は各自塀の中で年を越していた。
熊ケ根とはのんは同じ女子刑務所に居るが接点はないようだ。2人の所から約600km離れた女子刑務所には、はなこが収容されていた。
澄那の裁判は難航していた。李阿が逃亡中である事に加え、関連事件直後に公になった事を除いて澄那が黙秘を貫いている為である。
仙台市内の通信制高校には冬美の姿があった。編入学初日だが、既に友達が出来たようだ。
仙台息女事件を経て一致団結し、祖志継家を追う祀陵高校生。その関連事件によって散逸し、祖志継家とは無縁の毎日を送る大崎更進高校生——今回の事件の当事者達がたどり着いたのは正反対の結末と、そこから始まる新たな日常であった。




