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紅の樹  作者: 榊 美弥俚
一章 ー《レ・サイル》ー
1/2

一話 来訪者と出発

 扉が開く音で私は目が覚めた。冷たい風が頬を撫でるのを感じる。

 冬のこの時期は、雪が降り、冷たい風が吹く。深い山奥であるこの地域は特にだ。

 私は、もう少し温もりを感じていたいという気持ちを押さえて布団から出た。

「今日は、遅かったね。」

 私は、扉を開けて家へと入ってきた人物に言った。

「そうだね。」

 その返答を聞くと、私は料理場へ向かいあらかじめ作っておいたスープを温めて、彼女の前に出した。

 私の出したスープを飲み始めた彼女。私の実の妹であるサリーナはとても運動神経が良く、戦闘類に長けていた。そのため、狩りや荷物運び等の仕事で稼いでいた。

 反面、私は家事や家の中で出来る内職を担っている。

 サリーナはいつもと変わらず、床に入り、眠りについた。私はサリーナに続いて布団へ入り、眠りについた。

 次の日の朝。私はいつもと同じように目覚めた。

 そして、料理場へ行き、朝食の準備を始めた。

 朝食を作り終えた私は、サリーナを呼びに行こうとした。

 すると、ノック音が響いた。山奥の小屋に来客などとても珍しいことだった。

(遭難でもしたのだろうか。)

 私は扉を開け、来客を見た。しっかりとした顔立ち、くっきりとした目、用意周到な旅のための服装。遭難者ではないことは、一目で分かる。

「何かご用でしょうか。」

 私は来訪者に尋ねた。

「セリーナ・リスカ様はいらっしゃいますか。」

 来訪者は、少し訛りがあるがはっきりとした口調で言った。私は少しばかり驚いた。このような山奥にそれも極寒の真冬に私は訪ねてくる人が居たとは。

「セリーナ・リスカは私ですが。ご用件はなんでしょうか。」

「そうでしたか。用件は《レ・サイル》についてです。」

 私は、先程とは比べ物にならない程の衝撃を受けた。

 《レ・サイル》はこの世で一つしかない魔法を扱う者が集う集団のことだ。

(そんなところが私に何の用が―――。)

 私は、魔法を扱うことなどできない。ましてや、そのような知識も全くない。関係する理由が見当たらないのだ。


 *


 その後、話し合いにより、私はあと数日後にいままで暮らしてきた小屋から発つことが決まった。

 妹のサリーナは、私についてくることはせず、ここで一生を暮らすことを選んだ。

 絶対に小屋に戻ってこれないわけでもない。

 今まで程、小屋を見ることはできないが、場合によっては一週間に一回ほどは帰ってこられそうだった。場合によっては、次来るのが一年後になってもおかしくはないらしい。


 ただ、ここではまだ話の内容は聞かされていなかった。《レ・サイル》が私に用があるとしか聞かされていない。



 ついに出発の時が来た。

 私は、数日前に来た来訪者のビルと共にサリーナに見送られて今までの人生のうちの大半を過ごしてきた小屋を発った。

 目的の場所までは、三日ほどかかるらしい。少し長い旅にはなりそうだが、今日中に森を抜ければ、あとは馬車等で行くらしい。

 今日のうちに森は抜けられそうならしい。私は、ビルの後ろを歩き続けた。

 長い間歩いているはずだが、不思議と疲れはない。喉の渇きも遅い。

思ったよりは歩いていないのかもしれない。

 ふいに視界が開けた。何処に出たかと思えば、多くの人が行き交っている町だった。

「どれくらい歩きましたか。」

 私は、ビルに尋ねた。

「大体、四時間くらいですかね。」

 四時間歩いたところにこのような町があるなんて知らなかった。私が普段出る町とは、正反対の方向だ。

 町には食品屋から武器屋まで様々なものがそろっていた。

「こんなところがあるなんて。」

 私が呟くと、ビルが説明をしてくれた。

「ここは、この辺りでは有名な商業都市なのですよ。」

 私達はその後、店を何軒か見て回り、旅に必要な服や食べ物を揃えて宿へと向かった。

 宿は、民家を改造したようなところだった。だからといって、狭かったり、生活感があるわけでもなく、とても居心地の良い場所だった。

 私は、夕飯を食べに食堂へ向かった。

「ねえ、お姉さん。僕と少し話そう。」

 まるで、ナンパのような台詞だったが、言ってきたのは8歳くらいの男の子だった。

「君、お母さんはどこかな。」

 私が尋ねると、男の子は何でもないように答えた。

「親は居ないんだ。だから、話してもいいよね。」

 辺りを見回しても子供を探している母親らしき人影は見当たらなかった。

「そう。じゃあ話そうか。」

仕方なく了承した私は、男の子と話し始めた。

「最初に自己紹介するね。僕はシャス・ダン。君の名前はわかるよ。セリーナだよね。」

「なんで知ってるの。」

 シャスは、私の名前を知っていた。

(この男の子も《レ・サイル》の一員なのだろうか。)

「そうだよ。僕は《レ・サイル》の一人。セリーナと一緒に行動するんだ。」

 私は、単純に驚いた。私の心の中を読んだのだ。これも魔術の一つなのだろうか。

 その後もシャスとの会話は続いた。

これからは、ビルとシャスと共に目的の地へ向かうことになった。

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