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Heart of 6 〜黒と試練〜  作者: 十ノ口八幸
序章
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序章~初め2~第4話

僕は実際、出るつもりは無かった。あんなことに巻き込まれて、理不尽がまかり通りそして疲労が溜まりすぎてもう、寝たかった。なのに、あれは無いわ。


あの場所からあまり経たずに出て、身形を整えてから学生寮に行ってみた。でも、僕の入寮は拒まれた。

何故か敷地の前で警備の人に止められた。どんな理由だろうと僕が入ることは今後出来ないと言われた。


落胆しながら歩いていると路地の影から掴まれ、引き込まれた。

どうにかしようとすると、知った声で止められた。

「はあ、君を探していたんだ。良かったよ。」

「それは此方も同じで」

腕を引かれながら路地の奥まで連れていかれた。

建物の陰になっていて表の明るさを意に介さないように暗く、余り長居はしたくなかった。

奥の袋小路までいくと、振り向き様に謝罪された。

それなら、早いと考えて一つ聞いてみたら、予想通りの答えが返って来た。

不快と深いな息を吐いて僕はある約束をしてその日は帰った。


翌朝、部屋の隅に妙な視線を感じていたけど、僕は今日の事で頭が一杯で気にすることなく廊下。階下にいくと皆さん揃って僕に一撃ずつ入れてから広間に入っていった。

後で知ったんだけど、皆さんの懐がホクホクだったので照れ隠しにあんな事をしたらしい。


ジックリと食事して寮を掃除して、一息入れるために簡単な物を作っていると全員から怒られた。今考えるとあれは、焦っているように見えた。

色々と言われても気にせず一息いれていた。

「ふあぁ、平穏だねぇ。はあぁぁ」

晴れた空を仰ぎ見ながら熱い飲み物を喉に流す。

「あぁ、癒される。」

優しい風が頬を撫で、熱い飲み物でかいた汗で涼しさが増し、心に安らぎが満ちていく。

何かが騒々しく耳に入ってきたけどそこはそれ、一つのアクセントになって僕の頭の中が少しずつ白くなっていく。

頭が上下して知らない内に夢に入っていった。

このまま長い夢で楽しくできたらどれだけ嬉しかったことか。そんなものは何処かの誰かが許さないのか、半分夢。半分現実にいる常態で揺り起こされ、意識と肉体の齟齬に軽い硬直感を覚えながら瞼を開けると相手の両目に目掛けて突きを出したけど軽く避けられた。クソッ。


小さく欠伸しながら隣の相手、つまりはヨサカに目を向けると端末を取り出して焦っていた。聞くと怒られた。知らないってそんなの。

何かを気にするように端末を繰り返し確認していた。

慌てた言葉を幾つも呟きながら歩き続けて、でも最後には全力疾走だった。


僕が通ったゲートを使わず、特別に手配されていた乗り物に反論も許されることなく押し込まれ、行き先も判らないままに動き出した。

音が鳴り、アナウンスが流れた。その内容は最初は文句を言って、途中で愚痴を、そして最後に、目的地を言っていた。

そこは、会場だった。

正確にはその近くに、だけど。

着くまでに時間があったからそれまで寝ていようと思っていたけど制服を着た人に大きな端末を渡された。画面には僕が現れなかった場合、相手がこのまま優勝してしまう。それは僕も願ったりなんだけど実況席に知らない人が映っていて僕の知らないところで可笑しな賭け事が成立していた。

開いた口が塞がらなかった。


僕は頭に浮かぶ事を考えていた。どうしようかと。

肩を軽く叩かれ着いたことを知らされ、僕はそれで行こうと心で決め、会場の中に入った。

実は後で知ったんだけど僕が乗った物は試験用の乗り物らしく、どんなに離れている場所でも短時間で目的地に着く事ができるのだとか。

まあ、完成するのは何時なのか知らないけどそんな物に僕を乗せて何かあったらどうするつもりなのか。終わった事だから別に気にしないけど。


複雑な会場を普通に進んでも時間が掛かるからと、別の道を教えてくれたヨサカには後でお礼みたいのものをして、走りながら道の出口を目指し、最後の一歩と最後の一言に大声で遮ってやった。


視界に入ったアイツは涼しい顔をしていたけど心ではどう思っていたのだろうか。


途中で道順を忘れてしまったおかげで知らない内にとんでもない場所に出てしまった。

そこは、客席よりも高く、実況席よりも上で、そう、何故か屋根の上に出てしまった。迷う時間もなく、最後の一言に自分の言葉を大声で重ねて勢いのままに飛び降りて着地と同時に衝撃を逃がして直ぐに舞台に上がる。

息切れしながら一言。そして息を整えて僕は舞台の中央に立った。

『な、なななななんと、何処から現れたああああ、驚愕です。今、上の方から落ちてきたような』

『よもや、こんな登場の仕方をするとは思わなかった』

「げは、げほ、はあはあはあ。つ、つかれた」

僕の胸ぐらを掴んで引き寄せて、

「君は何故、いる。人形達から出場を辞めたと聴いたぞ。どうして」

「ああ、ハイハイ。」

掴んでいた手を叩き、少し距離をおいてから答えた。

「至極簡単なんですよ。えっと」

大画面に指を向けて実況者が驚いたけど直ぐに首を振って、隣の人を指名した。

「名前は知らないけどアンタ、本人の居ない所で賭け事とかどうなんですかね。まあ、過ぎた事だから別に良いけど。それとそっちの、名前は知らないけど、何、気持ち悪い顔で、勝ち誇ったように笑いを我慢しているのかな。吐き気がしたよ」

罵詈雑言が会場を埋め尽くす。

「ふう、黙れ」

空気が凍りつき、時間が停止したように静寂が漂った。

「そんなに怒るなら直接僕に言ってください。遠巻きで多の中に隠れて相手を罵ることしか出来ないくせに罵って愉悦に浸っていたいだけでしょ。黙れって下さい」

批難轟轟だった。

清々しさを噛み締めながら振り向こうとすると強い衝撃と腕の感覚が無い事に気づいて全身に複数の何かで貫かれる激痛が走った。

「理解できないか。劣等風情が上位であるぼくにこんな事をして許されない。徹底的に心の底まで刻み付けて、二度と抗えないようにしてやる」

この時、僕は相手の攻撃を受けて、その場に倒れてみた。

「知ってるかい。僕は現主、つまり父でさえ僕には逆らえないのさ。何故って。ふふ、それは簡単さ。僕が悠に強く、そして、外の1人を除いては誰も勝てないのさ。あの人は今は居ないけれど小さな事で僕を怒る事はない。つまり、この島で僕の機嫌を損ねることは、生物として終わる事と同義なのさ。そしてお前はその僕の機嫌を損ねた。つまり、生物として、人として終わらせてあげるよ。今後二度と光を浴びれなくなるだろうねぇ。」

高笑いが止まらない。会場に響くその笑い声は次第に別の音と混ざり合っていった。


「さあ、最初の心に打った楔の毒が効いてきただろう。僕の力の一つさ。相手の精神(こころ)に楔を打って麻痺させる。その後で肉体に僅かずつ刻んでいく、どうだい、こころが徐々に変になっていくだろう。」

判定員を呼び出して拡声器を持ってこさせ、受け取ると、「お集まりの皆様。今年の限定会は久方ぶりの催しになり、儲けたモノもいれば失ったモノもいて大変に楽しめました。心より御礼申し上げます。今回はこれにて最後で有りますがどうか最後まで楽しんで帰られますよう願います。さあ、始めましょう僕のための御遊戯を。」


悲鳴、泣き声、嗚咽、奇声、絶叫、笑い。数えられない声が一人の口から発せられ、さながら、人間楽器の様相を呈していった。

それに合わさり高らかな笑い声が一つのアクセントをつけていた。そしてこの行為は長い時間を掛けて行われ最後の一つを満足な、満面の笑みで締めくくった。


僕の体は地上から遥かに遠い所で停められていた。まるで空に張り付けにされているかのように。

「さあ、皆さんこれがフィナーレです」

腕を降り下ろすと僕の体は抵抗もなく自由落下をした。



彼は満足した。この数日の鬱憤を、全て吐き出した上に公開処刑も出来た。これであれが最後に用意したこの装置の上に落ちれば終わる。何、死んでもぼくの財力でいくらでも蘇生してまた、潰す。ああ、これで又一つコレクションが増える。

その言葉を心に刻むと全身の血が騒ぎ出す。

さあ、落ちてこい、そして、終わらせてやる。その言葉を小さく声に出して見上げようとするが、気づけば。



「どうしましたボっちゃん。呆けてないで早く立て。」

僕の目の前で相手が理解できない顔をして仰向けに倒れていた。

視線を泳がせ、手を痛むだろう箇所につけてその手を見ると真っ赤に染まっていた。そして、

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ・・・」

と盛大に喚いた。

「どうしたの、ほら、速くして、時間が勿体ないだ、でしょ」

やはり理解できないのか横になって動かない。

ああ、思い出したら今でも腹立つな。

「は、や、く、た、て」

三度目でどうにか起き上がり周囲を見渡し、僕を見て驚愕と(おのの)きが顔に表れていた。

「ど」

「どうしてか、それは簡単。アナタに負わされた傷を来る前に飲んだ薬で遅延治療して、その頭に一発入れただけですが。着地とかは、ほら此処に来たときに見せたでしょ。衝撃を和らげる方法を。でもキミに入れた一発で相殺されたからその必要はなく。アンタは倒れ、僕はこの通り、舞台に立っています。」

凄いニヤケていたかも。

言葉を遮って、答えた。

百面相をしていて面白く、少し、声を出してしまった。それが切っ掛けなのか、表情が固定された。正に怒りに。

興奮しすぎて言っていることは聞き取ることは無かったけれど相当酷いことを言っていたんだと思う。

一通り終えてから冷静を取り戻し、困ったように言う、そう、こんなことを、

「あれで抵抗せずに終わっていれば良かったのに、何故ぼくの慈悲を無下にするのか理解できないな」

首を傾げて、言っている意味を考えてみた。

終わっていれば良かった。何故。

慈悲。あれの何処にそんなものがあったのか逆に知りたい。

「しょうがないこれからは本当の意味で潰す。」

「待って下さい。」

「今更命を助けてとか」

「あ、それは有りませんから。僕は一つ疑問なんですけど」

「何かな」

「あの、本当にしょうもない事ですけど、うん個人的なと言うのか、こう、心に引っ掛かりが或というのか。どう言えばいいのかな」

「グダグダ言ってないでちゃんと言ってくれないかな。まさか、ただの時間稼ぎのつもりなら」

「あ、違います。ほんと、どうでもいい事かもしれないんですけど」

「なら、さっさと言え」

「じや、言いますけど。」

会場が固唾を飲んで僕の言葉の続きを待つ。

「あの、あまり、言いにくいけど」

静かに息を吸って吐いた、

「僕とそちらの相対は始まっているのかな。と」

騒がしくなった。


実況者は言う、確認をしますと。

その隣にいた人も確認のためか席を外す。


そんなに掛からずに戻ってきた実況者は答えた。

試合は、始まっていなかったと。


「そんなもの関係ない。ぼくが、ルールだ」

あ、無かったことにしたいと。

「まあ、良いよ。うん。やり直そう、どうせ腹の底から潰して潰して潰してって潰して潰して潰して、潰し尽くして、コレクションに加える」

頭、痛かった。


諸々に仕切り直して再開させる。とか冗談だろうなと、思っていたら、はあ、本当に冗談と言いたい。

何せ、開始の少し前には、僕の足元と後ろには幾重にも重なった人の山。

呻き声一つも出す人はいなかった。


一度控え室に戻って着替えて舞台に向かった。


ここ数日での姿を現した時の浴びせられた声の雨。それが一切無かった。


『ええ、色々ありまして。最終日のこの試合は紆余曲折を経て再開となりました。これまでの客席からの豪雨のような言葉が一切ありません。少し前の彼の言葉の重みを知ったからかもしれません。さあ、そろそろ始めましょうか』


僕は、開始の合図の少し前に構え、

「イッツ」

合図の始まりとともに、

「ショー」

走りだし、最後に、

「ターイム」

で、相手の頭を掴んで、そのまま地面に叩きつけ、めり込ませた。

腕も一緒にめり込んだけど気にせずそのまま地面から頭を抜き出して、宙に放り投げ、その体に強烈な攻撃を打ち入れた。

骨が砕け内臓が潰れ、筋肉は断裂し身体を覆う皮膚も畧畧(ほぼほぼ)剥がれ、神経が切れ、そのまま二度三度と舞台を跳ねながら転がり縁の先に行く前に中央目掛けて蹴り戻し、そのまま平行に走りながら殴り、蹴り、剥き出しになった骨を引き抜いてお腹に突き刺して、最後に軽く跳んで両腕を踏み潰した。

これだけでそんなには掛かってないと思うけどどうなんだろう。


「ふう、スッキリした。」

その言葉で、視界が揺らぎ、気づけば僕の体は重傷で片足で立っていた。

あれは夢か幻だったのかと一瞬思ったけど、相手の方が僕より重傷で重症だった。

「あ、ががか」

知らないところであれ以上の事が相手に加えていたらしい。

「あ、結局か。まあ、いいや。まだまだやれるよね」

そして僕は片足で跳躍して更に攻撃した。


開始からどれだけの時間が流れたのか知らないけど空に陰りが見え始めていた。


あまりの凄惨で陰惨な光景に実況者も観客も言葉が出てこなかった。

その静寂を壊したのは、

『こ、れは酷い』と実況者だった。

『ここまでする必要があったのか。双方気づいたときには満身創痍だったが洲環君が先に動いて滅多打ち。これは、酷いとかのレベルを越えている。しかし、まだ決着は着いていないため救急班は入れない。判定員はどうしたのでしょうか』

耳許を押さえて何かを言いながら驚いた顔をしてから、『な、なんと判定員が姿を消したと知らせが来ました。これは不味いですよ、唯一の抑止力が消え、最後は双方の発言のみです』

その実況の間も投げたり叩いたり殴ったりをしていた。


限界が近くなって相手の額を二回ほど掌で叩き、立ち上がって、

「ああ、しんど」

僕は舞台から降りるつもりで、と言うかこの会場を出るつもりで出口へ歩きだした。

実況者に止められると判っていたから僕は最後にこう言いました。

「疲れて眠いので降参します。」と

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