序章~間~
大歓声の中舞台中央に1人佇む人がいた。彼はこの試合で勝負することなく勝者になることを確信していた。昨日、自分の人形から相手が棄権を了承したと連絡してきた。つまり、自分は今日の空いた時間で何時ものゲームを存分に味わえるという。
自然と笑いが込みあがってくる。しかし、それは暫くは我慢しよう。ああ、早く勝利の美醜をまた味わいたいな。
彼の思考はこの、今の終わった試合より先の事で頭が満たされる。
大きな画面に実況者が映され手には端末を持っている。
『ええ、こちら実況席です。本日最終日、最終試合決勝ですが、対戦相手が姿を見せておりません。規定により後三十分で現れない場合、不戦敗となり、今、この舞台にいる者が勝者となります』
彼は、少し頭に血が上り始めていた。そんな無駄な時間を浪費するのは我慢ができない。ここで声をあげて直ぐに終わらせても良いけど、そんなことは愚か過ぎる。だから、少しだけ我慢することに。
時間経過。彼の心は踊っていた。待っていた時間がきた。このタイミングで発言すれば誰も反発しない。
すると大画面に実況者が映され、咳払いを一つ、
『ええ、規定時間の半分を少し越えました。しかし、現れませんね。仕方ないのでここで、特別企画。主催者様への問答うぅ。時間が勿体無いので主催者様自らの発案です。では、登場してもらいましょう。どうぞ』
乾いた数歩の音を伴って画面に現れたのは一人の男、古びた服装に似つかわしくないメガネを掛けて長い髪をザンバラ後ろで纏めて縛っている。
『ご存じの方もいらっしゃるかと思いますがこのお方こそ』
全てを言い終わるまえに口を遮られ、耳打ちすると納得いった実況者は話を進める。
『時間も有りませんので質問は一つだけです。』
この質問の内容は又、別の機会に何故か、それは彼が強制中断させたからだ。
そこには、完全に血がたぎった表情を隠した彼が画面を睨みながら手を上げていた。
無言でどうぞと実況者が示すと、
「すみません。規定はわかりますが何時まで待っても時間の無駄だと思われます。どうでしょうか、そうですね、あと五分ほど待って現れなかったらこの試合は僕の勝ちということで。駄目なのなら待ちますが。」
『それなら坊主、賭けをしよう』
「内容は僕の相手が来るか否か、ですか。ならば僕は来ないにします。」
『勝敗景品はどうするね』
「そうですね、もし、僕が勝てばアナタの全てを僕に譲って下さい」
『それなら、此方が勝てば坊主が使い込んだあの者の金を全て君の資産で返済しなさい』
彼は口端を上げて、勝利を二重に確信して大きく頷いた。
『こ、これは凄いこと、に何と主催者様と賭けの勝負が成立しました。』
会場が静寂から喚声に変わり、熱気が最高潮になる。
『さあ、では時間まで残り僅か現れれば主催者様の勝ち。現れなければ彼の勝ち。』
画面に残り時間が表示される。もう、一分を切っていた。
ニヤニヤが止まらない彼の心中は昇天するほどなのだろうか、彼は人生で何時も勝者だった。相手が誰であれ彼に逆らう者は無く、現島主であっても頭が上がらないのだ。
『あ、もう、二十秒を切りました。さあ、間もなくです』
緊張の瞬間。彼はこの時間が何よりの楽しみなのだ。この時間は勝利の階段を一段ずつ昇る感覚。これは誰にも味あわせる事はさせない。自分だけのモノだからだ。
『さあ、もうすぐです、10、』
『9』
『8』
『7』
『6』
『5』
臨界を超えていた。そして彼の待ちに待った瞬間が、
『4』
『3』
『2』
『1』
会場が一丸となって最後を飾る。
『0は無い』
何かの声が拒絶した。