序章〜始め2〜 第1話
ああ、眠すぎて眠らないようにと必死に耐えたり、水道水で頭から被ったり、つねったり、他の事を考えたり、してみたけど結局。
目を開けて、体を起こして、伸びをして。辺りが暗いことに直ぐ気付き、今の状況を確認して思い出す。
何処で堕ちたのかは思い出せないけど、理解できるのは此処がどこかの部屋で、ベッドに寝かされてそのままにされた。
何時までもこんな所に居ても埒があかないので、とりあえず外に出ることにした。
扉らしき物を開けて、その向こう側に頭だけを出して伺うと、永遠と続くような薄暗い廊下、反対側には窓があり外からの淡い光を内に取り込んでいた。
一声だけ発したけど虚しく反響するだけで他の気配がなかった。
今いる場所が何処なのかを確認するために周辺を見ても視界にはそれらしい物は見当たらず、仕方なく中に戻って調べることにした。
さて、調べると言っても手元すら見えない状況で、かと言って外の灯りも距離的には微妙で開けたとしても出入口近辺が関の山。奥の方までは届かないならとこの部屋のスイッチを探すけど何処にも無く、僅かな光を頼りに出入口付近だけを探した。
暫く探しても結局の所見つからず思いきって部屋から出ることにした。
正直とか、いい加減とか。気づこうよ自分、この空間を。歩いて、昇って降りて外からの光源が有るとはいえ足元には影が差す、光を遮っている壁の前を通過するたびに何かが全身をなめずり回す感覚がしていた。
結果、瓦礫と化した施設の前にいた。
ここは、何処なのかを知るためにどうしてこんな場所にいるのかを簡潔に言ってしまうと、あの壁の前を通る度に感じていた感覚が凄まじい勢いで全身を強襲して、鷲掴みされるような握り潰される感覚と意識が吹き飛ぶ瞬間、耳元で聞こえたあの声と少しの痛みを最後に、気づけば瓦礫の前に立っていた。
そう、厄介な事に可笑しな世界に来てしまったのだ。
瓦礫と化した施設以外見渡す限りの荒野が広がっていた。生物の気配は一切感じなくて、空と思われる上部には雲一つなく、それどころか太陽すらもない。なのに明るくて周囲が遠くまで見渡せる。
恐怖と嫌悪感が次第に纏わりついて胃の内容物を吐いてしまったのだが出るのは液体のみで固形物等は無かった。それもそのはず、だって学園入学式からずぅっと眠っていて何も食べていなかったから、それでも不思議なことに全く腹が空かなかった。
普通、荒野と言えど灌木や雑草が多少は生えているはずなのに今いる場所にはそれすら一切合切なく地の果てまで乾いた大地が続いていた。
何故かは知らないけど心臓が激しく鼓動して、体が熱くなったのを覚えている。
取り敢えず、瓦礫から適度な長物を探しだしてから荒野を真っ直ぐ進んでみた。
みたものの永遠と続く荒野を長物を引きずりながら歩いて相当の距離を歩いたのかと振り返ると瓦礫と化した施設があった。
中腰になって落胆の声をだして持っていた長物を放ってから改めて見ると、先程と同じだとわかった。それは、全然進んでいないと言うことはつまり、無駄な事をした。
「ああぁぁ。何これ、何かしたのか自分」
仰ぎ見なから漏れた言葉の意味を反芻しながら瞼を閉じて、頭を少しだけ空っぽにしてから開けると上部の遥か先に小さな影が落ちてきていた。
体を伝う寒気が警鐘のように危険を知らせていた。
ので、それに従うように全速力で逃げた。
背後で轟音がしていたけど速度を落とさずに瓦礫の陰に身を隠した。
瓦礫の陰から落ちてきた物を覗き見るとそれは砂塵に覆われ、その中から轟音が鳴り響き、砂塵が収まった瞬間に疑問符が浮かんで驚愕して最後に理解できなかった。
そう、落ちてきた影は、あの時、出会った少年だった。
上部から落ちてきた少年は巨大で、あの時のように汚れも傷も一つも無くて、まるで上事のように、
「タ、タべ、モの」
悪寒が走り、瓦礫の影に身を隠した。
鼓動が激しくなるけど、どうにか自制心を保って一呼吸。気を入れて仰げば、
「タ、べ、モの、アった、あああたあああ」
巨大な少年が獲物を掴もうと腕を伸ばし迫ってくる。
突進する巨大少年をどうにかしようと策を考えたりしたけど結局追いつかれ、その胃袋に収まっていく。
とか、そういうのが脳裏に浮かんだりするけれど、この状況でそんなことを思い浮かべる人は心に余裕がある人なわけで、だからこの時は本当にそんな事を考える暇なくて、全力全速で逃げまわったり時には死角を突いて多少なりの攻撃を加えたりしていた。
にも拘らずそれらに対しての反応が薄く、効いているのかを疑問に感じながら暫くは繰り返していた。
どうしよう。と言葉にしても解決策が見つからず時間が過ぎていくだけだった。
深呼吸と準備体操を入念に丹念にこなしてからこれまでの事を鑑みて、少年を見定める。
あれから何故か数倍の大きさになって、食欲が増したのか目につくものを手当たり次第に口に放り込んでいっていた。
と、言っても荒野にある物は皆無。と、その意に反して、硬いはずの地面をまるで柔らかい物を掬いとるように食い散らかしていく。
あの時は、負傷して気を失って元の場所にいた。今回もそうなるとは限らないけどやってみる価値は、無かった。
なぜなら、傷を負って少年をどうにかしても何も起こらず結局、絶望しただけだった。
嘆いて叫んで走り回って落ち込んで、フラフラと思い付くままに歩いていたら気づくと断崖絶壁の淵に立っていた。
精神が疲弊しきっていたからそのまま迷わずに体を前に傾けようとしたら衝撃と共に後ろに弾かれ、地を転がって、止まった時に耳元で囁かれ、目を開けると極彩色な天井が視界に入ってきた。
言葉が出なかった。この感覚を数日前にも味わった。そして夢のような記憶と空腹感。違うとすれば疲労感が無いことと、全身を気持ち悪いくらい覆う汗。
ふと、視線を感じたからその方に顔だけを向けると男性がいた。
「やあ、起きたかい。」と言いながら何処かに視線を向けて持っていた端末に何かを入力した。そして、
「君の最終特別試験は以上を持って終了しました。おめでとう。君は晴れてこの学園の一生徒だ」
そう言って僕の肩に優しく手を置いてから部屋を出ていった。
汗を多量に吸った重い布団を捲り、篭の中に入っていた制服に着替えた。はあ、さっぱりした。
それから今の状況と位置を確認するためにあの時のように周辺を見る、までもなく扉の横に案内図があった。
現在地には青で印され、そこから周辺の部屋割りと経路が表記されていた。
指でなぞって今いる場所から目的の、
「そう言えば、何処に行けば良いのか聞いてない」
小さくため息が漏れて落胆した。
まあ、こういう場合はポケットに行き先が書いてある物が入っているもので、案の定一枚のカードが入っていた。
『以下に記載の部屋まで来るように』
この言葉の下には今いる場所からの道順が印されていた。
目的の場所。そこはあの部屋から直ぐの所にあった。
何処かにこの部屋の表札があるかと見渡しても無く。カードと部屋の位置を何度も確認して、扉を叩いた。
中へと促す返答を聞いて開けると・・・・。