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Heart of 6 〜黒と試練〜  作者: 十ノ口八幸
終章
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終章~終~ The end of NEXT

大きな容器が倒れると床を打ち、覆っていた硝子が床に砕け散る。

誰も気づかない。それはその音より大きな音が全てを隠しているから。

それに気を取られて其処まで気が回らなくなっている。


倒れた容器の中を満たしていた液体は床に零れ硝子を濡らす。

その容器の陰に動く影があった。鳴り響く音に耳を押さえながら周囲を確認する。しかし、その影以外に動くものはない。

目についた狭く、しかし隠れて移動するには打って付けの場所があった。視線を動かすと監視するための装置が四方に設置されている。が、長くこの容器に入れられている間にその行動パターンは把握していた。

故にそれら全ての視界が死角に入る隙を狙い、蓋を開けて中へと体を滑り混ませた。

視界は良好。這いずるように移動する。


中を進んでいると横から外の光が照らされる箇所が幾つかみえた。その一つを覗き込む。

格子越しに施設内の様子が見て取れた。

「どうなっている。この場は安全では無かったのか。」

「落ち着いてください。現在状況の確認中です。此処の護りは鉄壁です。貴方も自負していたでは」

「そうだ。だが鉄壁と言っても永遠に続くとは限らぬ。いずれ破られる。それが世界の常識。だから私は人生を費やして本当の意味での完全防壁を造り続けていたのだ。そして完成目前にき、て」

苦しいのか、そんな事を考えながら後退り別の方へと進む。


進むこと暫く。

何時の頃からか頭に響く声が日を追う毎に鮮明になっていき、現在はその声がハッキリと聞こえている。

その声に促されるままに、しかし、寄り道をして道具や衣服を集めたりしながら狭い所を進んでいく。


進んで、体力も限界に達した時、声に云われていた地点まで着いていた。はずだった。

だが、そこは格子もない何の変鉄もない壁だった。

後悔しながら戻ろうとすると声が響いてくる。その声は目の前の壁を力の限り破壊しろ。というものだった。

これから戻ったとしても捕まってしまうのは目に見えている。

ならば従うかしない。

今の体勢は少し辛いが此処まで来たのだからと意を決して。姿勢を正して身構える。

集中して自身の一点に力を溜め込み、一気にこれ迄の色々な想いを込め放った。

あり得ないぐらい簡単に穴が開き、這い出て床に両足で着地する。

鼻が曲がるような臭いが充満していた。

見渡すと棚に隙間なく並べられた多種多様の容器。

嗅がされた臭いも有った。

その場所は、薬品臭が充満する薬品貯蔵庫の一つだった。

どうしてかあの煩い音はしなかった。

今まで聞こえていた声が大きく聞こえてくる。

導かれ向かうと其処は幾つかある檻の一つだった。

その存在に何故か惹かれ、そして掛かっていた鍵を一撃で破壊して、響く声の導くままに出口まで見つかることなく脱出した。

だが、そこには見たこともない存在が知らない言葉を喋って話しかけてくる。

張っていた糸が切れ、決壊したように涙が止めどなく零れ落ち、大声で喚いた。

傍らにいた存在が励ますように寄り添って、優しく抱き締めてくれて、哭き止むまで静かに待っていた。


一通り哭いて落ち着いた頃、優しく立たされ特殊な車に乗せられて、一緒に全身を汲まなく調べられた後に解放された。


それは何気に、意図したことはなく、不意に背後を見た。車両越しに。

その光景は地獄絵図よりましだが、燃え盛る建物と耳を突き刺すような音、飛び交う声も交ざり、悲鳴と怒号と瓦解し崩れる音も合わさり、高い気温が更に熱気を帯びて上昇している。

距離を置いているはずでも熱気は頬を炙るように撫でる。

背を揺すられ、別車両に入るよう促され傍らの存在を見上げ視線が合うと一緒に乗り込む。


適当に目についた席に座ると、落としていた品を渡され扉が閉まり鍵を厳重に締められる。

備え付けの小さな窓からはあの情景が遠退いていくのが見えた。

まるでその情景を焼き付けるように、見えなくなるまで見続けていた。

それは、傍らの存在も同じように。

だが、その存在の感情は目に見えて負の感情に塗りつぶされ掛けていた。

これも意図した事ではない。自然な動作だった。

何気に手をその存在の頭に置いて優しく撫でてやった。

不思議と心の奥が暖かくなり、負の感情は薄れていった。

もう窓からは建物は見えない。それでも森を彩る赤は何時までも消えなかった。



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