終章~日常は取り戻せないだろうと諦める~
「くは。」
停まっていた時間が動くと苦しさがなく。そして全身に有った痛みも消えていた。あれは夢なのかと考えるがそれは次の行動で否定される。
寝返りをしようと頭を動かすと頬に生暖かい何かが付いていた。
指でなぞり、確かめると自分の涙と唾液が混ざったものだった。
「うえ。」
胸の気持ち悪さを抑えきれずその場から急いで洗い場で腹の中を吐き出した。
昼に食べた。半消化状態の吐瀉物が出るものと思っていたが吐いている時に乾いた音が響いてきた。
それを見ようと閉じていた目を開けると、そこには小さな白く濁りのない塊が存在していた。
不思議に思いながら蛇口から水を出し塊を流さないようにしながら自分の吐瀉物を洗い流していく。
改めて見ると本当に濁りのない、この世界の物とは思えない塊だった。
だが、鉱物とは違うと認識していた。だからといって人工物にしても不思議な何かを感じていた。
引き付けられるかというとそれはなく。逆に吐き気がもようしてくる。
捨てるのも気が引けるので適当な入れ物に入れて厳重に密封したあとに床を剥がしてその奥に仕舞い込んでから適当な物に適当な文字を書いてその上から貼っておいた。
そして床を元に戻し見なかった事にして、それの存在を意識から消した。
その日の夜遅くに六人が帰ってきた。
険しい顔をしていたし、何より聞いてはいけないような。そんな雰囲気がしていたので何も聞かずにその日は遅いご飯を出してから自室に戻った。
勿論、食べ終わった器は全部流しに置いておくように言ってからだが。
自室に戻ってからも胸の奥に支える何かがあり、拭えないそれに苛立ちがあるが、それを発散させる方法はなく仕方なく端末に手を伸ばす。
あることを思い出す。
ゲート事務所で何かの依頼が有るとか何とか言われていたな。と確認するためにその情報を探してその題名に全身から最悪と云いようがない汗が吹き流れる。
しかし、見ないと後悔しそうだったので取り敢えず開いてみる事にした。
読み進めて光魔の顔は百面相を描いていた。
「確かにねそうは言ったと思うけど、こんな事をさせるなんて正気とは思えないよ。はあ。僕まだ子供なのに。」
端末の電源を切り、机の上に放り投げ数回の乾いた音の後、机の向こう側の床へと堕ちていった。
この時の衝撃で端末の電源が入り、何かの反動で勝手に読んでいた画面に切り替わる。
「あああ。何でかな。僕には日常を諦めろというのかな。」
深いため息と共に天井を眺める。
瞼を閉じ、思案して、
「そうだな。今は寝よ。返答は明日でも良いよね。」
それから風呂に入り着替えて端に寄せていた布団を引き出し、潜って眠りに着く。
「おやすみなさい。」
誰にとも言うわけではないが寝るまえの儀礼で言っているだけなのだが。
そして明かりを消して随分と時間を掛けて眠りへと落ちていく。
その部屋には光魔の寝息が聞こえる。
そして、端末の起動する音もあるが。