終章〜試練とはなんだろう〜第5話
光魔と二木を除く六人は沈黙して二人の話を聞いていた。
「そうですか。結局は近況が朧気に知れたのは二人だけで、後は姿を眩ませた人とその後の行方が知れない人、て、よくそれで騒ぎませんね。」
「それは仕方ないさ。少年に関わるとどうなるかを知らしめるためなんだからね。そういう種を蒔いたのは少年だよ。自覚しなさい。」
「最後は説教ですか。別に構いませんけど」
「いや、構おうよ。気にしようよ。少年はその辺が稀薄というか淡泊というか。」
そうですか。と答えながら空いた器を集めて流しに持っていくと洗い初める。
そして洗い終わって各々に飲み物を注ぐと配り、出ていこうとする。
再び呼び止められ、
「待ちなさい、光魔君。彼女の話は本当かい。」
「はい。本当とはどの事を仰っているのかは知りませんけど、全て本当ですよ。最悪な事に」
「そうか。すまないが二木君。君の上司に話を通して貰いたいのだがね。」
「は、え、まあ、良いですけど。」
自分の端末を出して何処かに連絡を入れる。
「え、あはい。えと。少し待ってくださいね。」
視線を六人に向けると、代表者の名を訪ねると。
「それではクサキと言ってもらえないか」
それを言われて相手に伝えるとその端末から怒鳴る声が食堂内に響く。
驚いたのは光魔と二木。そして、
「すまないが。代わっては貰えないかな」
何も言わせないその纏う空気に気圧されて素直に自分の端末を渡す。
「ああ。初めまして。私は教師をしておる者ですがね。此処では何なんで、今日の昼辺りにお会いしたいと。ええ、では、後程」
端末を返すと六人は黙ったまま出ていった。
状況が掴めない二人を他所に六人は支度をして今日の授業や仕事を休むことを学園に連絡を入れ、部屋に入り、支度を整えてから寮を出ていった。
後に残された二人は理解できずに食堂で立ち尽くし、座り続けているだけだった。
今も二木の端末から聞こえる慌ただしい音が静寂の中で雄一騒がしさを添えていた。
「何、今の」
「さあ、でも、僕に関してのことですかね。」
「そうだろうね。知らないけど。少年は相当重要な人なんだろうね」
でも何で。と二人は不思議に思っているがその自問に答えを出せるものは無かった。
その昼に差し掛かる時間に光魔は寮の敷地内と表に面した道路を掃除していた。
「ねえ。聞いてもいいかい。少年。」
機先を制するように六人の事に関して否定した。
「付き合いは一年近くとは言えないですね。なにせ殆どを病院とか、あのアホウの下らない遊びとか、あと捜索する、違いますか。迎えに行かされて貴女とかと会いましたね。その後も様々な事に巻き込まれて、この寮に住んだのはそんなにありませんからね。あの人たちとの会話も数えるくらいですし」
「ふうん。そか、でもアタシの上司があんなに慌てふためくのは初めて聴いたけど」
「ネタにしてとかは止したほうが。」
「分かってるわよ。そんな事をしたら存在を消されるだろうからね」
この日は昼であっても気温は低く、寒さが身に凍みる。
白い息は漏れて空に消える光景を目で追うと、視線を道路の左右へと向け確認する。
「そう言えば疑問だけど良いかい少年。」
「はい。答えられることなら」
「どうしてこんなに人通りが無いのかな。」
「ん、そういそば見かけないですねこの辺りは」
「少年も知らないのか。そか。それなら話は変わるけど、聞いていたゲートの場所を教えてほしのだけど」
「それなら後で地図と場所を転送しますよ」
「そう、ならヨロシク」
悴んだ手を合わせ息を吹き掛けて中へと入る。
日差しは空の頂点を越えようとしていた。
見上げていると腹が鳴り、昼食をどうしようかを考える。
「今日は一人かな。それなら手を抜いても良いよね」
そんな呟きは誰も聞いていないけど。
腹が鳴る。
掃除をキッチリ終わらせて道具を片したあと光魔も中へと姿を消していく。
夕方になり、自室の管理人室で寝そべって天井を眺めている。
昼過ぎに二木はゲートに向かい、寮内は光魔一人しか居らず、やることは全てやり終えているのですることが無く、このように床で寝転がっているしかなかったのである。
綺麗に整理された室内に視線を泳がせ、腕を伸ばし、呼吸を整える。
瞼を閉じて視界を遮断して考える。
この一年の事を思い出すように思考する。
でも、光魔の肉体に異変が生じる。
先に末端が徐々に赤くなり、関節が金属で固定されたように曲げられなくなる。
そして、筋肉も次第に硬くなり、血管と神経を圧迫していく。それは全身に無数の針を突き刺したような痛み。逃れる術なく悶え苦しみ、送り届けられない血液が時間の経過と共に凝固していき全身に血栓を作り出していき、酸素を供給されない細胞が死滅していく。
涎をたらし、涙が零れ伝い床を濡らす。
呼吸もできぬままに最後は誰にも知られることなく、最後の時を虚しく迎えてしまう。
これが、最後の一時。だろうか。
その部屋その空間には物言わぬ肉塊と成り果てた元生物が横たわり惨めに存在していた。
その部屋の時は主が命を消したときに停止したかのように全てが止まってしまっていた。
一つとして進むことを拒むその空間は、誰にも気づかれる事が無いかも知れず永遠にその光景を固定されていくのだろう。
これは、一つの現象として世界から切り離された、と言うべきなのかもしれない。