終章〜試練とはなんだろう〜第3話
静寂に包まれた講堂内には光魔の息づかいと自身の鼓動音。そして張り積めた空気が存在していた。
「ふう。何で僕はどんな時も楽に生きれないのかな。」
その言葉を出すと建物全体が揺れ電灯が揺れ僅かな亀裂が走る。
そして。
その存在は創造主に命じられ、目的を刷り込まれ、情報と知識を蓄えるためその区画の最も知識が集まる場所へと向かう。
だが、目的は居らず、それまで知識を貪り食うことにした。
自分の事を知識を食らうことで理解していき、しかし最も貪りたい者達の知識を喰らえないことに怒りを感じ、身を潜めていると光が落ちきった時に目的の物が現れた。
だが一気に喰らい尽くす思考はその存在を認識した瞬間に、意識と反して器である肉体が動かず。故に真に自身の力が最も発揮される時まで待つことにした。
そして、目的の物が離れ、知識にある建物に向かいその内側へと入っていくことを視認し自然と笑みが造られた。
血が、沸き、神経が、思考を、加速させ、器が、軋む。
これが高揚と理解する事は、しかし永遠に来ることは無かった。
そして跳躍し屋根へと着地すると軽く力を込めて腕を振り、破壊して中へと入る。
咆哮を携えて現れた存在は異常に長い腕を振り回し、細い体を揺らしながら立ち上がろうとしていた。
「ふう。早すぎるだろうが。クソ。」
悪態をつきながら即座に行動し、その中心に一撃を撃ち込む。
「ゴアフっ」
不意の一撃に成す術なく吹き飛ばされる存在。
「おい。お前が誰の指令か命令か、下らないことを聞いても意味はないだろうからな。」
足先に力を込め、一気に間合いを詰め、一撃をもう一発。
長い腕の片方を破壊する。
絶叫が反響し響く。
「速さとかはまだ駄目なんだろうな。と。」
その存在と一気に間合いを取る。
先程までいた床には小さな穴が無数に空けられていた。
「抜かり無いってか。」
空けられた穴からは数本の管が顔を覗かせ、その先から鼻を突く不快な臭いを放っていた。
「クッセ。何だよこれ」
鼻を摘まみながらその存在に向ける視線は外さない。
「グルオ。グオルオルオルオルオルオルオォォォォォ」
怒りを込めて咆哮を飛ばす。
「はっ。威嚇のつもりか。なら」
肩の力を抜いて顔の筋力を緩める。
そして肺に空気を溜め込んで、喉を振るわせ咆哮を放つ。
それは大きな講堂を震わせるほどに、小さな亀裂を更に伸ばし、壁や天井が崩落していく。
そして咆哮を終えるとその瞳には、人としての力とは思えない何かが宿っていた。
『俺を消したいなら更に上位を用意してから挑んでこい』
その言葉を最後に、その存在の命は絶たれてしまった。
廊下を歩く音は次第に五人のいる部屋へと近づいてくる。
緊張する五人は固唾を飲んで待ち構える。
「うお。」
机の上に置いていた端末が突然鳴り、全員に肩が動く。
「だ、誰のですか。」
「あ、ごめん。アタシのだ」
取って画面を視るとあることが書かれていた。
『僕の方は終わりました。後は上の人にでも連絡して片付けてもらえれば。それと質問ですが、これを見ほしいのですが』
その文章の最後に付けられた添付画像を開くと、何処かの崩れた場所の画像が多角的に撮影された資料が表示されていく。
「この画像は先程の振動と関係が」
「有るだろうね」
「ふええ。で、でも何も映ってないよ」
「そうだねぇ。崩れた瓦礫の山に、壊れた舞台。かな。」
「それとこれはもしかして講堂かな」
「あの子はこれを見せて何を答えたら。」
「そうだな。取り敢えずは『この画像の意味は何かな。崩れた壁や舞台を見せても我々には答えようがない』と、こんなものかな。返信。と。」
返信して数秒して、通話の方で呼び出しがあり、それに出ると光魔からの返答が短く記されていた。
『そうですか。』
それを、最後に切れた直後に扉を叩く音がする。
『開けてくれませんか。と、そんな事を言ってもダメなのでこの場で報告しますね。どうしてか異常は取り除かれました。安心してください。でも暫くはこの部屋に留まっていて、そうですね後数分したら外部に連絡して救助を頼んで下さい。あ、課題は転送しておきますね。それでは先に帰っていますから』
足音が遠ざかり、少ししてから完全に聞こえてこなくなった。
五人は警戒して結局朝までその場に留まることにした。
その日は聴取やらのために足止めをくらい、漸く解放されたのは翌日の朝方になってからだった。
昨日の事は学園の上層部に報告され、その日を含め数日は臨時休校となった。
五人はその光景に驚いていた。
寮の前には輸送車の列が出来ていたのだ。
近くにいた作業者に聞くと、引っ越しだと言われた。
更に質問しようとすると中から見知った姿が現れ五人を見ると白衣のポケットから一枚のカードを差し出してきた。
反論しようとするが、先にその内容を読めば分かる。と言われ仕方なく端末に読み込ませてみる。
『2065.3.21付。教寮所属警備主任。二木夜風。』
読み終えて質問しようと口を開くと、先手を打たれて中に本人がいると教えられ六人揃って寮に入っていく。
今は食堂に居る。そう言いながら着いていくと確かにそこには人が一人椅子に座りながら飲み物を啜っている。
亀沙早が言葉を紡ぐ。
「やあ、これは、初めまして。君が、その」
その言葉に飲んでいた器を置いて六人に振り向くと、
「あ、お久しぶりです。ても、半年くらいですか。早いような短いような。」
六人は言っている意味が分からないと態度に出ていたのだろう。
相手は考えてから、
「あ、もしかして覚えてないですか。ほら、あの少年に対する特別な裁判。ですか。」
六人が思案し、思い出そうとしているともう一人の住人が顔を出す。
「あ、皆さん揃ってましたか。良かった探す手間が省けました。紹介の必要は無いかも知れませんが。取り敢えず形式だけでも」
と隣に移動する。
「改めて。この方は今日付けで此処に入寮されました。二木夜風さんです。主に学園の警備を担当されます。部屋番号は202になります。他質問があれば本人にお願いします。」
用事がありますのでと言って食堂から出ていこうとする。
「待ちなさい。」
肩を掴み、制止させる。
「君は知っていたのかい」
向き直ると二木の隣に移動して、
「正直なところ、知りませんでした。今日の早朝に起きたら表の状態だったので。」
納得しない面々。ふと誰かが言った。
「そういえば、何かな我々と面識があるような事を言っていたようだが」
「あれ皆さんは覚えてないんですか。ほら、えとり、りん、あ。そうだ臨時裁定会。でしたっけ。」
「ん。んん。おお、そうかアイツが仕切ってた。あの独断場の訳が分からないあれか」
すると他の者も思い出したのか頷く。
「で、私達は貴女を知らないけどどうしてかしら」
「そうだねぇ。アタシらと話したのはアイツくらいかな。」
「えええ。もっと居たような気がするけどう。」
「で、君は誰なんだい。二木なんて名は無かったはずだが。」
「まあ、それは一旦置いといてですね。先にこの寮の規則を覚えてもらいますね。」
何処から出したのか、いつの間にかその手には一枚のカードが握られていた。
「では、これを、そうですね。2日で覚えてください。なに、貴女なら大丈夫でしょ」
そういうと、食堂から出ていった。
後に残された七人はその余りの切り方に暫し呆然としていたが、気を取り直して続きを話す。
「まさか、少年が興味を示さないのは予想外だったけど、それとも効いていないのか。別に良いか。」
そんな事を二木は小声で呟いていた。
「で、話を戻すと貴女は誰ですか。」
「しまった。そうか。少年が素直に受け入れていたから忘れてた。それなら誰も知りませんよね。ならこれを解いておこうかな。」
すると、水が弾けるように二木の姿が瞬時に消え、六人の前には別人としか言いようがない人物がその場に居た。
それはレイファだった。