終章〜試練とはなんだろう〜第2話
光魔は現在。
「正直憂鬱だ。はあ。」
その理由は明白で、課題用の端末の中に収めた束の数に辟易していた。
「ああ。あの時無視してゲートを通れば。こんな事には」
太陽光は地平の彼方に沈み照らすのは人工の光。
「今日中に着くかなあぁ。」
光魔が受けていた試験運行の被験者はあの事故の後、問題解決まで無期限凍結となり、従ってこの島に来たときのようにゲートを通る羽目になった。
時間は取られないと考えていたのにまさか最初で時間を喰われるとは予想できなかった。
だか、ここで悔いても時間を費やすだけなので諦めて学園へと足を運ぶしかなく。もし、行かなければ課題が更に増えるだけと理解していた。
「あの人達、ホント容赦ないからな。」
最後にため息が自然と漏れてしまう。
街灯や室内からの漏れる明かりは光魔を照らし、その背後から漂う哀愁は見たものをやるせない気持ちにさせたことだろう。
しかし、通る道に人影はなく光魔一人の足音が反響しているだけであった。
学園に来る途中に連絡を入れていて、その時に通用口から入るように言われていた。
学園専用の端末を翳すと鍵が開き、門を開けて中に入る。すると端末に行く場所を示した地図が表示されそれに従うようにその場へと向かう。
着いた場所は職員室。
その扉を開けて中を覗くと首元を掴まれ、強引に中へと引き入れられてしまった。
床に這いつくばるように倒され、所々痛みはあるが気にするほどでもなく付いた汚れを叩きながら起き上がる。
「で、この時間まで掛かった理由は正直に答えてくれるかな」
何かを聞く前に問われてしまう。
そして、その笑顔に隠す気もない憤怒の気配を纏わせ質問してくる。
「連絡は入れているはずですけど。え、見てないんですか。」
「見たけどね。はしょりすぎて要領を得ないんだけど」
「それは謝るしかないですかね。それでも急いで打ち込んだんです。」
「で、結局はどういう事なの」
と一応の寮からゲート、その手続きを終わらせていざ、という時にあの展開に至りこの状況になったことを改めて説明する。
「ふーん。良く分かった。それでも断ることは出来たよね」
反論はしなかった。しても言い訳としか思えなかったから。
「で、僕も聞いても」
視線を全員に向けて言うと頷いた。
「僕がこの場に来るまでの間、人影がありませんでした。世の中は無人での防衛機能が主流ですけど、それでも死角を補うために何人かの警備員は常駐しているでしょ。」
「そうね。確かにそうなんだけど。」
「そうだね。それを説明するには君が到着する数時間前まで遡る」
それは光魔君が来る前の日も高い時間。約束の時間まで随分と有るので僕らは皆各々の仕事をこなしていたんだ。
「うあ。あああぁ。と、ふう。やっと一段落付いた。」
そう言って顔を上げると皆同時に作業が終わったらしくその解放感に浸っていたんだ。
でも、まだ残っている仕事は有るからね。それを考えるだけで皆うんざりしていたよ。
だから息抜きに少し体を動かそうという話になってね。それで簡単な陣取りをしたんだ。
まあ、範囲は僕らの居る階から上下一階までの三階を使ってね。
そう。それで皆で位置を決めて、それから自分の陣地に着いたんだ。
最初は妨害や騙し合いの駆け引きを楽しんでいたんだけれど。
いつの間にかその、空気が変異したんだよ。
それから暫くした時だったかな。急な悲鳴が聞こえて、最初は誰かの作戦だと思ったのさ。
ところがだ。想定していた事態より異常が校舎内に鳴り響いた。
アッチが造った防犯装置に何かが引っ掛かったのさ。
それを合図に我々は悲鳴の有っただろう場所に各々が向かったら。
変わり果てた姿の警備員が居たのさ。
あ、心配なく。命に別状はないよ。ただ再起は不可能だろうね。
だって、錯乱していて支離滅裂。何が起こったのか全然掴めなかったからね。
あと何故か知能が著しく低くなっていたのが気にはなるけど。
それから皆で話し合って取り敢えずこの職員室に立て籠ることにしたんだよ。
そのまま外に助けを。とは考えたんだけどね。数回見回りをして同じような症状の人が見つかって。それに教頭も襲われたらしく。何時間か前に緊急搬送したばかりだよ。
それで現在の君が来るまでこの場に立て籠っていたのさ。
そんな事を鵜呑みにして、信じられるかと言われれば、答えは否だろう。だが、光魔は不思議とその状況を受け入れてしまう。
それがどうしてなのかは本人は知らないが、意思とは別の部分で理解してしまったのだろう。
先生たちの話を聞き終えて心の何処かで納得している自分に驚いていた。
なので、質問をしてみた。
「先生たちはその、警備委員さんとか教頭先生とかを襲った存在を確認したんですか」
この時光魔はあれ。と自分の出した言葉に驚いた。が、それは答えを聞いて直ぐに消え去ってしまった。
「実は気配や移動する音はあるけど、どうしてかそのものの姿を見た人はいないのだ。」
その答えに1つの仮説を立てたがこんなもの今の世の中にありふれている。
そんな使い古された技術を使ったところで。
だが、それでも確かめずにはいられず。
光魔はある提案をした。
それは全員が止めたが光魔は頑として聞かず条件を出して納得させてしまう。
それでは僕が此処を出たあとは絶対に鍵を懸けてこの場の先生たち以外は入れないで下さい。
そんな事を言ってから制止を聞かずに部屋を出ていった。
後に残った五人は顔を見合せ、約束通りに鍵を懸けて待つことにした。
光魔は聞いていた被害のあった場所を全て確認した。どの場所も予想通り装置の死角になっていた。
それでも被害が知能の低下と錯乱か。
あ、と何かに気づいてとは、いかないが。
何の気なしに端末で連絡を取る。
そして、
「そうですか数人は知能の低下。数人は錯乱か。それで後は、しういえば建物とかの被害は有ったんですか。あ、ない。それは何処も。そうですか。有難うございます。なんとか分かったかも知れません。まあ、そんなものは終わった時にでも。それでは」
端末を切り、あの胸から沸き立つ怒りを覚える会場に足を向ける。
「何で僕には安らぎ、違いますか。平穏が無いんだろうか。」
独り言を呟きながら会場となった大講堂に向かうと施錠されているはずの扉の鍵が開いていた。
何も考える事はせず、中に入る。
何の気配も無かった。