三章〈単〉狂喜なる教団~その後、帰還報告と伝言~ 終
世界府庁直轄機関軍本部。その一室に沸き上がる感情を抑えきれない人物が外を眺めていた。
『久方ぶりだ。いつ以来だ。少し年を重ねた。だが、会えるのだ遂に。ワシの最高なる器が』
上空には彼が待ちわびた一隻の船が近づいてくる。
それに待ちわびた人物が乗っていると確信していた。
離れて服を正し、椅子に腰掛け、手を組み威厳を示すように。
扉が開くのを待ちわびる。
机の上に備えられた通話機が鳴ると心臓が高鳴り通話を押し、通るように言い付け少ししてから扉が鳴る。
「入れ」
その言葉に扉が開くと、待ちわびた人物を携えた者がいると。そんな光景を想像していたが、開かれた扉には二人の若い軍人が悲壮な顔をしながら立っていた。
「何だ。お前たちは、勿体振らずにはよ連れてこんか」
二人が目配せをして、一人が折れると溜め息と共に視線を前方の人物に向ける。
敬礼をしながら発言する。
「も、申し上げます。今回の作戦は結果的には失敗に終わりました。あの施設に関する全てと関連する物は全てが破棄され手懸かりに至るものは皆無。負傷者多数なれど死者はおりません。」
それから続きを話そうとすると、全身にのし掛かる圧力が加わり地面に押さえつけられる。
「その様な回りくどい報告は要らぬ。吐け、ワシの目的の物は何処にいる。隠すとこのまま為にはならぬぞ。」
残った一人が敬礼をすると、
「も、申し上げさせていただいます。あ、あの。こ、これを」
差し出された手の中には小さな記録札。
「それは」
「キリカ大将より承ったもので、大将は伝言を言付かっているらしく。信じるかは」
「見よう」
「早いですね」
「ふん。気にするな」
近づき受け取ると自分の所持する端末に読み込ませ画面を見る。
そこにはあの施設の映像が克明に記録されていた。
外を監視する映像から始まる。全ては何故かこの場面から始まっている。
1台の戦闘車輌が高速で施設の入り口の遮断機を破壊しながら突破し、中間付近で停まると変化はなく、その後1つの影が車輌から出てくる。
音声はある。
「面倒事に巻き込まれるのは最悪なんだがしゃあ無いか。」
離れているがそれでも音声は拾える。
「さて、仕事をしますかね」
手を叩き、施設を見上げる。
「これを、一人でか」
何か軽く引いている。
気を入れ直して玄関へと向かう。
車輌の爆発が終わるとこの次から内部の映像。
床に倒れる部隊を踏みつけながらゲートを潜ると施設にいた者と隊員が衝突していた。
その衝突に介入する影は双方を容赦なく潰し、だが死に至るまではなく。全ての者の四肢を破壊していく。
一人の隊員が人質のつもりで施設の子供を捕まえ制止を促すがそれでも、その影は容赦なく二人を無力化した。
荒げるように笑い、施設内に響き渡る。
『さて、死にたい奴から挑んでこい。即、殺してやるよ』
その階の敵や味方が入り乱れ影に向かっていく。
武装や全てを含めて全てが完全に効力を発揮せず破壊され無力化されていく。
「これを見ているお前にはこの光景の意味が理解出来るよな。」
そう言って次の階へと進む。
次の階でも同じような光景が映し出されていた。
その蹂躙した最後にカメラに向かって、
「俺の事を探すため権限を使って足下が大分崩れかけているんだろ」
そして次の階へと進む。
三階。
「言ったはずだよな」
四階。
「俺は利用されていて、利用していたと」
五階。
「研究に関しては全て破棄。それが、契約だよな」
六階。
「あれはなんで現存しているのかはその内に」
七階。
「それとな俺を探す必要はないと言ったよな。言ったろうが必要はないとあの瞬間に」
悪意を含めて微笑むと残りを掃討していく。
その後は蹂躙の光景が続いていく。
最下層手前の階の映像。
形容できない生物が影に向かって吠えながら悪意と殺意を向けて向かっていくが、これもまた、即殺され只の肉の塊に成り果てる。
「あ、言っておこうか、伝言を頼んだ二人を含めてこの作戦に関わった人や物とか全てに対して全ての事を禁じるから。破れば、分かるよな」
この時は振り向かずに声だけで言っていた。
で、最下層のあの部屋の事には全てを無かったことにすることを条件に出してくる。
承諾しない場合は秘密を1つ。公開する。それも世界に向けて。
最下層の掃討が終わると次には地上の施設に向かう。
上階も同じように掃討して蹂躙していく。
「なあ。あの時の俺は純情だとは云えないかも知れないがな。それでも俺は信じていたよ。それを簡単に欲望に飲まれて裏切った。だから見か切って、それまでの全てを潰し、壊し、消してから俺に関する全てを消して姿を眩ませた。今でも思い出すだけで吐き気がするよ」
地上階も同じように蹂躙していく。
あの部屋に入るとどうしてか穴開いた外套を纏い、威勢の良かったその部屋の人間を圧倒的な力の差を見せてから五体満足のその手に何かを渡すとカメラに向き直り。
「この人には特に何もするな曲解も含めて禁ずる。破った場合はこの世の地獄のみならず、本当の地獄をお前の内外に与える。この意味が理解しているよな」
ほくそ笑むとカメラに向かって力を放ち、映像が途切れてしまう。
次の映像には施設の外の映像。
知らない人物が二人含まれているが、聞くとあの施設は瓦解したとのこと。
その二人の一人は知らされているが後の一人は知らなかった。
何かの力を使ったのか風が吹くと三人の姿が消えた。
ここで、映像は切れていた。
最後に音声だけで。
『これまでの発言は絶対執行するから』
その後は暗い画面が続き完全に切れた。
映像が終わり、二人を見据え本当なのかと聞くと激しく頷く。それは完全なる二人の肯定。この期に及んで嘘はつくまいと理解した。
二人から離れ椅子に座り項垂れる。
「くく。くくくくくくくくく。そうかどんな手を使ってもやはり不可能か。ならば仕方あるまい。諦めてやろう。」
過去とそれまでの全てを小言のように言い続け眉間を押さえながら二人に向き直るとそのまま帰す。
不思議に思いながら二人は聞くと。
「も、もしこやつの約束ごとを1つでも破れば存在が危なすぎるにすぎぬわ。」
そのままに続けようとすると
『もし、この二人に対する暴言や虚言等そんな事を言いふらしたりしたら同じ事をするから』
脂汗を流し頭を抱えるとこの事を他言しないように命令してから退室させた。
夕陽が海面に陰を作りその日の闇の訪れを告げる。
立ち上がり外を眺めてその光景を眺めると。
「やはり君はワシの手には余る。」
その言葉が意味しているのは何なのだろうか。
長い日々が終わり。1つの出来事が終わる。
それは複数の者達には何かの切っ掛けになり。何かの終わりを示していた。
しかし、これもまた始まりにするための終わりに過ぎないのかも知れない。
極論で云えば光魔には関係ないと言えるかも知れない。
三章〈完〉