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Heart of 6 〜黒と試練〜  作者: 十ノ口八幸
三章
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三章〈単〉狂喜なる教団~交流~

さて、次の日。

光魔は前日に自分の部屋を聞き、カードをもらい受けてその部屋に。

教えてもらった手順を踏んで取っ手を出し、回して扉を開けると熱感知なのだろう。境界を踏み越えた瞬間全ての電気が点いた。

光魔は導かれるように奥のベッドに歩かず走り、そのまま飛び込んでベッドで眠りについた。


「で、僕に何をさせたいのですか」

起き抜けに、ではないが着の身着のまま寝付いていて、だからと言って着替えるのも億劫なのでそのままで部屋を出ると見知らぬ人が数人。

質問する前に両手を引かれ、何処かへと連れていかれた。


その部屋は、端的に言ってしまえば面会部屋。

と言っても囚人がいる訳ではなく、ただ外界と完全隔絶してしまうと自我と自己を崩壊させる恐れがあるため、帰依したばかりの者には処置としてこういった機会が定期的に設けられている。

そういった大きな部屋に光魔は連れてこらて、大勢の視線をその身に浴びていた。

騒がしさが光魔が入室した瞬間、それは歓声へと移り変わっていった。

当然ながら光魔は驚き、身構え、その場から逃げ出そうとし、寸でのところで思い止まった。

用意されていた椅子に掛けるよう促され静に腰を下ろす。

何故か、そうただ座るだけの動作なのにその場にいた全ての息が止まったように静寂に支配されていた。

で、光魔が溜め息を吐くと先程よりかは遥かに大きな歓声が響き渡った。


光魔が見渡して頷くと、着席していた若く目を輝かせていた者達が合図にして一斉に詰め寄ってきた。

その内容は好奇心が大多数を占め、光魔には理解できない質問が飛び交った。

光魔の何かに(あやか)ろうと遠慮なく触ってくる。

その行為に対して何故か全身に寒気が差し、何の気無しに、意図したわけでもなく両手を強く合わせて、全員の意識を一瞬だけ飛ばした。そして、その僅かな間に部屋の出入口へと移動した。

その速さに追い付いた者はいたが、しかし体が動かせず視線のみに留めていた。

「言っておきますけど、君達の質問の意図が読めませんし理解も出来ません。というよりしません。この僕は僕で有り、僕という存在です。その他の何者でもありません。この施設の教義は感覚で理解していますけどその本懐というのか根本というのかは知りませんけどね。僕には一切無関係だと思います。この様な場を設けてもらって失礼ですけど、僕はこれで失礼させてもらいます。あ、そこの外套を纏った人。この背後の扉の鍵は今開けましたからその深く被った外套の奥で隠れてほくそ笑みを浮かべても無駄てすよ。」

手を後ろに回して扉横の装置にカードを宛がうと、機械的な音を鳴らし、自動で開いた。

それじゃ、と挨拶を言って、

「僕に聞きたいことが有るなら個別に僕の部屋に来て下さい。可能で理解で考え付く範囲に答えてあげます。貴殿方の全て、には無理ですけど聞いてあげます。それでは失礼します」

と、満足したように手に持っていた一握りで収まる1つの物体を床に思い切り叩きつけると強烈な光を放ち、姿がその場から消失した。

この時、光魔は外套の奥に見えた二つの透明な板の向こうから覗くその瞳に既視感を覚え、瞬時に思い出す。

口端を上げ確信する。

やはり。アナタ、なのか。と。


時間は経たず、光魔の用意された部屋には主である光魔の他にもう1つの存在があった。

「で、僕に聞きたいことが、それとも後者の方かな。」

その質問を投げ掛けた相手はそれほど歳も行かない小さな少年がいる。

光魔は用意した飲み物を入れた器を差し出しながら軽く全体を見据える。

特徴はその欠けたような耳と首の左から坐骨、左胸を抉るように迂回し右胸に懸けてどうやら背にまで達している不可解な痣、いや、傷。そのどちらとも解らない何かが体に有った。

「あ、ありがと、う」

「いや、気にしないで。僕も暇を持て余していたから、別の用事もあったけど、まあ、君の話を聞いた方が得るものが有るかもしれないし」

「そ、それは、ぼ、僕の」

「うん。色々と長くなりそうだけど、取り敢えず、要件を聞こうか」

笑いを浮かべた少年は話始めた。過去から現在まで。この施設に来た経緯。正確には連れてこられた。が、正解だが。



ぼ。僕のす、住んでいた所は、本島、き、北の端に、ち、近い町だった。

い、今は、も、もう無いけれど。いっぱいの木に、囲まれて、いた町。だったんだ。

で、も。気がついた、あの日。ぼ、僕の目、には焼ける木。な、泣いて、いる人。

僕の前に、は焼けている皆、の家。泣いて、いる子供が、ぼ、僕の服を、引っ張って、いた。

な、泣き疲れ、て。生き残った町、の、皆で、こ、これからのこ、事を言うと、で、みんなで、移動する、に、したんだ。

で、でも、行く当て、もなく、て。ぎ。ず、ずっと、長い、長い旅、を、してたんだ。

そして、一人ずつ、姿をけ、消していった。

そ。そんな事があって。ぼ、僕だけが、生き残って。さ、最後の力、でぼ、僕は、た、辿り着いた、んだ。

そ、そこは、ぼ、僕に、げ。や、安らぎを、く、くれたんだ。

そ、その、日々、は。ぼ、僕を、満たして、くれた。

で、も。そんな、日は、な、長く。続か、な、かった。

満た、すぼ、僕の、心はそ、その光景に泣き、叫んだ。

に、二度目、の光景、は、ぐ。ぼ、僕の心、を壊し、た。

ぼ、僕が、次、に意識、を戻し、た時は、この、施設の、き、ずを治す部屋だと、思う。其処、でぼ、僕はき、ずを治す。

その、後、この、施設、のす、凄く、上の方、に会って、そ、それが、シュオウ様だった、んだ

じ、時間が、経って、特別、な部屋、に通さ、れてシュオウ様に会えた、んだそし、て、シュオウ様、のお、お力、で。癒さ、れた、よ。でも、最初、の記憶だけ、だったんだ。

か、か、数え、られ、ないか、回数を、して、もらった、のに。

そ、それで、も、が。ぼ、僕の、き、記憶は、け、消せなかったんだ。

に、逃げなかった、よ。で、でも、逃げ、られ、なかった。

ねえ。お、教えて、よ。ぼ、僕は、ど、どうしたら良かった、のか、な。ご、お、う。



僕は、この目の前の少年を哀れと正直に思った。

だから、助言的な、そんな事を話してあげた。

凄く満足したのか、助言的なことを話終えると、少年は満面の笑みを携えて僕の手を取りながらお礼を何度も言ってきた。


光魔は少年を出口まで見送ると扉を閉めて一息着こうと考えていたが、閉める扉の隙間に足を挟んで妨害してきた。

光魔は諦めて静かに次の来客を部屋へと招き入れる。


さて、次に訪れた相手は何処かを負傷しているようには見えず、どちらかというと上品さが窺える。聞いた事のある上位の人なのだろうと推察した。

先程の少年と同じように、器を差し出した。

「で、君は僕に聞きたいことが、それとも相談かな」

「ええ、そうですね。本来ならば貴方に謁見出来る者は限られていると聞き及んでいます。ですが、(わたくし)の家は多額の寄付をしておりますの。勿論、私個人でもそれなりの額をです。」

「それゆえに、無理が通るから僕に会えるよう手配したと」

「理解が早くて助かるわ」

悟。確かに、上品さは確かにある。でもそれは外面的であり内面的には随分と腐っているように感じられた。

「で、相談か質問か、どちらか聞いているのですが」

「そうね、私は、相談かな。」

何かを無理やり納得させてその内容を聞いてみる。

「その前に、その、貴方は本当に、この施設の、教義の存在なのかしら。」

首を捻る。当然か。言っている意味が解らないのだから。

「ごめんなさいね。疑っていない、と言えば嘘になるでしょうね。でも貴方が聞いていた存在と掛け放れているように見えたものだから。ついね」

二度三度と、首を捻り

「君の言うその存在は、君の相談と何かあるのですか」

「端的にはあるのだけれど、でもこんなことをしても良いのかどうか」

「考えあぐねているのは理解した。それは君にとって避けられない事なんだろうね。多分だけど。まあ、良いや、君の相談に力になれるかは判らないけど、ね。最終的にどうするかは君次第だよ」

その言葉を聞き決心が付いたようで、話を切り出した。



私の名はホウドウ・キリカ。ある名家の分家筋の者です。私自身も本家の者に後れを取らないよう厳しくしつけらていました。

私はそれに答えるように結果を出し続け、周囲からも期待されていました。ですが、私の驕りはあの人に出会ってそれはもう、綺麗に砂粒となりました。

そして、私はあの人を尊敬しております。



この後、昔語りを延々と語られ、光魔が遮らねば永遠に続いていただろう。



失礼しました。少し、熱く語りすぎてしまいました。

コホン。では、本題に入らせて頂きます。


私の尊敬するあの人には、昔、付き人と云うのか護衛役と云うのか。兎に角、そういった下僕がいました。

そして、下僕にも関わらず過ぎた行為を繰り返し挙げ句の果てに大失態を犯し、数日の後に追い出された、そう聞いております。ですが、本家の御当主は何が切っ掛けかは存じ上げませんがその追い出した下僕の行方を捜索していると。そんな事を耳にしまして、お父様はこれ幸いにと恩を売る口実に探す手配を随分と前に始められました。ですがどの捜査網を駆使してもどれにも引っ掛からず、数年が過ぎました。

あ、つい最近もその下僕の情報が入り、あの人が向かわれましたが、時すでに遅く姿を眩ませた後のようです。



光魔は声を出さず聞き続けていた。

心では、どうでもいいような。光魔には関係無い事。そんな考えをしていた。



実は、最近になって私は気づいたのです。あの人は、御当主のご命令で情報の地に行っているのではと、最初はそう思っていたのです。

ですが、違いました。何故なら、あの人はその下僕の話をする度に表情が変わるのです。日頃は、どんな相手でも、勿論、私が相手でも変わらないのですが、その下僕の話をする時だけは変わっているのです。

私はあの人に心の内を伝えました。すると頷かれたのです。

その時、(ようや)く判りました。

あの人は嫌がって探しているのではなく、あの人自身が一番最初に再会を望んでいるのだと。

それを悟ったとき、私は、恐ろしい考えを抱いてしまいました。

そう、あの人よりも先に私が見つけ出し、そして永遠に出会えないようにしよう。と。そんな考えが頭を巡りました。

そんな事を幾度も頭から振り払おうと努めましたが敵わず、その思考が日に日に募っていきました。

お願いです。貴方のお力であの下僕を探しだしてほしいのです。勿論、謝礼は幾らでもお出しします。費用も私が全て支払います。ですからどうか。



腕を組んで、首を左右に捻り考える。

確かにそれは出来なくもない。何かしらの助力を得られれば容易に見つけられるだろう。

「あの、簡潔に答えても」

頷く。

「お断りします。おっと、どうしてかは今から説明しますよ。」

そんな前置きをして手元に置いていた物体を自然な動作で弄ぶ。

「その他人探しはもう前から始めておられる。そうですよね。そして、巨額の費用を費やして今まで、あ、一応は見つかっているのか、でも、それでも、そう、それでもです。捕まえることは出来なかった。そうですよね。なら、それを今更、僕のような一介の何の取り柄もない良くも分からない状況にいる僕にそんな穴に落ちた砂粒を光源も使わずに探すような事は正直できないですね。確かに、君の情報を精査して幾ばくかの情報は知り得ることは出来るでしょう。しかしながら、それでも僕には不可能なことです。」

「それでも、貴方はどうにか出来ますよね。私は知っています。貴方はあの遊戯を覆して世界を一時的にでも混乱させたのです。その手腕があるのなら。」

「うん。食い下がるね。でも。無理だよ。言ったでしょ。僕は一介の人間なんだよ。そんな人間に何が出来ると思っているの。あの意味の理解する気もない遊びの後、僕に残されたのは憤怒と憔悴した心だけだよ。あれには何の価値もない。」

そう言い切り、弄んでいた物体を置いて頭を軽く掻いた。

「そ、それでもあの混乱を納めたのも貴方です、よね。」

「ああ。あの映像を世界の重鎮なんかに強制配信するようには言っていたけど、あれの采配は僕じゃなく。あの作戦を立案した人に頼まれて僕はあんな事をしたまでです。謂わば、操り人形ですよ」

歯痒い。そんな表情をしてなんとか快諾させようと考え(あぐ)ねるも答えは出ず。

「そうですか。どんなに頼んでも」

「出来るなら今後はそのような話は遠慮させて頂きたいです。」

完全な拒否。

冷めた飲み物を飲み干して、部屋を退室する準備を始める。

「ああ。時間を掛けて僕の気を変えようとか考えないで下さい。絶対に承けませんから」

歯を食い縛り。足早に部屋を出て行こうとするその手を掴み、一枚のカードを握らせる。

軽やかに笑顔を見せて見送る。

別れの挨拶を交わして光魔は扉を閉めた。


伸びをしてベッドに腰を下ろす。

「うう。(くつろ)げない。」

その言葉の続きを吐き出そうと口を開くと側の機器が盛大に鳴り響いた。

ため息を吐きつつもボタンを押す。

「はい。」

『お疲れ様です。あの今は、そのお時間は宜しいでしょうか』

嫌な予感は有ったが、断る理由が無かったので諦めて内容を聴くことにした。

『有難うございます。あの、一人の相談者を送りますので対応をお願いします。』

通話が切れた。反論しようとしたのだが。

疲れた。眠い。お腹が空いた。

そんな感情を知らず、周囲は光魔とは無関係に流れていく。


待つこと暫く、部屋に呼び鈴が響く。

答えるように扉を開ける。


目の前には二人の人間。

一人は不貞腐れた顔を隠そうとせずに光魔を見ている。その手は腰に装着している武器に添えられていた。

もう一人は笑みを絶やすことなく見目麗しい男装の少女、その首元に光る首飾り。

そしてその背には不釣り合いな二本の武器。

「どうぞ中へ、お出しできるのは不味い飲み物だけですが、悪しからず。あ、心配なさらずとも室内は綺麗ですから。まあ、寛げるかはお三方次第ですが。」

手を中へと指し示す。

怪訝な表情をする一人。

数えず、中へと入っていく。


複数の椅子を示して座るように促す。光魔はベッドに腰を下ろして話を聞く姿勢を取る。

「失礼は承知でお願いします。僕も何かと疲れていますので」

頷く二人。

「では、どうぞ」



貴方にとっては始めまして、我々には数日ぶりですが。

(わたし)の名前は、ククルギ・ナイト・シアラと申します。そしてこの方は、ゴウセツ・トキオウと言います。

実はご相談が有ってこの様な時間に、ご無礼とは存じておりますが伺わせて頂きました。

先ずはこれを。


提示された物は小さな金属の欠片。それは光が当たっているはずなのに何故か反射していなかった。


この欠片は昔、掘削現場から採取された物で、その特異性から我々の機関に送られてきたものです。しかし、これを研究するに連れてその特異すぎる観点から永らく封印されていたのです。本来、外への情報漏れは重罰なのですが、ある情報を元に貴方の存在を知り得まして、直ぐにでもと、考えていたのですがどういったことなのかある時を境に行方が分からなくなりました。ですが、あの時の映像には正直、あの場の一同驚いています。

まあ、それはこの時には無意味なのですが。

実はこれを調べて貰いたいのです。これの封印される前後までとその後、つまりは数日前までの研究情報は追ってお渡しします。

それとこれをお渡ししておきます。

返答は必要ありません。これは絶対に断ることは出来ません。と上から聞いております。

あ、これを見せろと言われておりました。

それでは我らは此にて失礼致します。



二つの物体をテーブルに置いたままに二人は部屋を出た行こうとするが、光魔は手近な物体。それは弄り倒していた真四角の箱を二人の横目掛けて振り抜いた。


軽い音が壁から鳴り、身構える一人。ククルギを背に隠して手に添えられていた武器を抜き放つ。

「きさ」

「まて、言いたいだろうが僕の質問、じゃ無いかな。でも、どのみち質問だけど」

「時間を稼ぐつもりか」

「いや、君達の紹介には一人足りないでしょ。それの紹介をしてもらいたいだけなんですが」

驚く二人を無視して光魔は近づきククルギの首飾りに手を伸ばし軽く叩く。

その自然な動作に二人は身動きが取れず、されるがままになって、気を取り直すと光魔は元いた位置に戻っていた。

『くかっ、よくぞミヤブッたなコゾウ。イツからとはキカぬがヨいかな』

「ふふ。そうですね。その方が助かります。」

「ちょ、待って」

『ヨいヨい。キにするでない。コゾウはサイショからキヅいておったよ』

「で、誰ですか」

『ふむ。そうさのう。ではカミガカリ、とヨんでモライたいのう。どうじゃ』

「ああ。なら。それで」

『ナンじゃ。モッとゴネルかと』

「そんなの無駄でしょ。ごねて何か有るなんてそんなの子供の我が儘ですし。それで通る道理は有りませんから」

『そうかい。なら、ハナシはハヤイな。イゴはそれでネガイたい』

「了解了解。じゃあ、もう帰っても良いですよ僕の知りたいことは知りましたし。これは、まあ、その内にでも然るべき機関にでも提供してみますね」

「きさ、ま。其が許されると」

「あのね。許すも何もこれの所有権は僕に委譲した。まあ、貴殿方は貸し与えた。と言うでしょうね。しかし、そんなものは関係ありません。ほらこの通り箱に厳重に保管しましたから。」

いつの間にかテーブルの上には、透明な何かで覆われ中へ納められた欠片が世界を拒絶したように宙を浮いていた。

「これの鍵は僕は持っていません。どんな方法であっても開けることは出来ません。然るべき場所、然るべき手順を踏んで開けることで取り出せます。もし、其以外の方法で解放された場合、そうですね、周囲は火の海以上に成りますね。逃げる暇は勿論、ありません。」

箱を持って、開ける事を言うと進めるが、そんな危険な行為は真偽不明すぎるので二人は諦めて辞退した。そして、

『あは。やはりオモシロいなコゾウ。そのコトバのシンギはフメイ、でも、コウリョクはあるね。ヨロしい。ソレはキミにイチニンするよ。ヨロシクね』

見えない相手に光魔は口角を上げて笑う。

光魔は相手もどうせ笑っているのだろうと思ってした行為だったのに、それが勘に触ったのか、武器を振り上げ光魔を攻撃してきた。

それに対して持っていた箱で防御姿勢をとって相対したが。

「待ちなさい。」

その一言で武器の軌道が反れ、床を穿つ。

大きな音が鳴り、埃が舞い散る。

「危ないな。少し彼女の静止が遅かったら僕と貴殿方含めて綺麗に消滅していましたよ」

「失礼、しました。では、此にて我らは帰らせて頂きます。」

舌打ちして武器を納め、ククルギの後を付いて出ていった。


「ああ。結局、何かの面倒事に巻き込まれてしまうのか。これも運命なのかね。最悪な事に。」

光魔は箱を適当な場所に置いてベッドで横になる。

テーブルにはもう1つ残された品。それは一枚のカード。それは端末に読み込ませることで中の情報を見ることが出来る。

腕を頭に回し、天井を視界に収める。

その時の光魔の思考は何をするのか。何を考えているのか。そして、最後に空腹を満たすためにどうしようかを思考しているのかも知れない。

が、それを知るのは光魔自身であり他者は知るよしもない。



深夜。全ての者とはいかないが、寝静まっている施設内で微かな手元を照らす明かりがあった。

その影は手元の装置で何かを行い、そして、何処かへと連絡をしていた。

「ああ。準備は出来た。何時でも来てもらって構わない。此方も証明できる品を用意できた。後は、アンタラ次第だ。あ、心配するな。この端末は自前で用意した物だ簡単には傍受されないように細工もしている。ああ。それじゃ手筈通りに頼みます。では、その時に出会えるように上手い采配を期待しています。はい。それでは後程」

端末を切り、手に持ちながら自室へと戻る。

その口は不気味な程に笑みを浮かべている。

まるで盛大な祭りを待ちわびる無邪気な子供の我が儘の様に。

乾いた足音が廊下を鳴らす。

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