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Heart of 6 〜黒と試練〜  作者: 十ノ口八幸
三章
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三章〈単〉 狂喜なる教団〜施設案内〜

ゲートを抜けると数えられない扉が配された場所に居た。

「ここは居住区になります。とはいえ、共同部屋になっています。大体が四人から六人を一部屋に充てられています。各部屋には配られたカードで入ることができますが、本人以外が使用すると警告対象となり、拘束後に特殊強弁を受けさせられます。長くて四八日。短くて一日です」

眺めていると端が見えない。その広大さには目を見張るものがある。

「此方の居住区は、主に帰依したばかりの者に充てられています。言ってしまうと下位修徒の中でも新参者が多数を占めています」

説明されながら廊下を歩く。

見ていると全ての扉には印が有り、迷わないようになっていた。

光魔はその全ての扉に取っ手が無い事に気づいて聞くと、

「これは、そうですね。此方へ」

促されて付いていくと、1つの扉の前へと連れてこられた。

「この部屋は誰も入室していません。なので、お見せしましょう」

懐から取り出したカードは何の文字も刻まれていない真っ黒な物だった。

「ふふ。この階層専用のマスターカードです。各階層にはこれと同じ物があります。しかし、入居している部屋は開けることは出来ません。これより更に上位のオールカードが必要になりますから。ふふ。盗難防止のためにオールカードは総本山に保管されていますけど」

納得しながら開け方を見せて貰うと。

扉の刻印されている所にカードをかざし、割り当てられた暗号を扉横の装置に打ち込む。

すると、扉の一部が変化して取っ手が出る。そんな仕組みになっていた。

納得した光魔は礼を言ってから案内を再開させた。


ゲートから出ると、あの居住区とは違った場所に。

「この階層は基本、一般向けに公開されている場所でして、帰依していなくとも気軽に入ることができますが、色々と制限があります。」

その一つが範囲の制限。

上層一階から六階までは無料で解放されているらしく、誰でも自由に行き来できるという。

だがそれより上は、特別な事態を除いて一般人はお断りしているらしい。

そんな事を説明され少し腹が空いた事を言うと、近くに飲食区画があることを教えられ付いていく。


ガラスに仕切られた区画の中には所狭しと飲食店が軒を列ね、長い列が作られていた。

「ふう。どうなさいます。この飲食店は全店無料です。御好きなように御好きなだけ飲食しても構いません。あ、だからといって味が」

「悪かったら今頃どころか暴動が起きてるだろうな」

言い切る前に話を遮り、答えを返す。

「そ、それで、ですね。何をお食べに」

「あまり重いのは、出来れば軽めで」

「そう、ですか。なら彼方などは」

と、進められた食べ物は野菜が中心の定食。確かに軽めで。とは言ったが、流石に軽すぎる。

首を振り、断ると。ならばこれは、と進めてきたのは先程よりかは野菜分が減ってはいるがそれでも何か嫌な感じがした。

その後も進められた物を見てみたが、何れも納得行くような感じがしなかったので、結局は厨房を借りて、自分で勝手に料理を作って、食べた。

背後から視線が向けられていたが、光魔は気にすることなく食事を終えた。


「あ、ああ゛、げふ。と。失礼。」

腹に溜まった空気を口から吐き出し、近場に置いていた飲み物を一気に煽る。

「ふう。食べた食べた。やっぱ、自分で作った方が早かったか」

その言葉は発火装置。その場にいた料理人が光魔に襲いかかる。


騒動を聞き付け、警備員が駆け込むのだが。どういった事か、現れることはなく。騒動は暫くの時間続き。収まった頃に警備員が現れた。

入ってきた表情は遣る気のない軽い調子。

で、その惨状が目に映ると持っていた端末を手から(こぼ)し、腰に繋がった線から宙にぶらついていた。

警備員の表情はしかし、即座に引き締まり、仕事人の顔になる。

警備員は床に倒れて気絶している料理人達のその中で静かに椅子に座りながら飲み続けている異質な人間に近づくと、その肩に手を置いた。

「キミはこの原状の原因かい。何処から入ったのか知らないけどね。一般人は立ち入り禁止だよ。出ていきなさい」

しかし、相手はその行為を意に介さず、自分の近くに置いていた水入れに手をかけ器に注ぐ。

「キミ、警告だ。あと一回で強制退去してもらうが」

本当に、まるで警備員が空気のように感じるほどに相手は自然な流れで席を立ち、出口から出ていった。

そのあまりの自然な流れに警備員は暫く呆然としていた後、気を持ち直して出口を出るとその相手の姿は何処にも見えなくなっていた。

仕方なく、戻って処理を行う準備を始める。

「しっかし。どうしたらこんな状態に」

その惨状は目に余るものがあった。

散らかった道具や材料。開けられた複数の冷蔵庫。壊れた蛇口からは夥しい水が絶え間なく流れ、床と近くの料理人を濡らしている。呻く声1つ挙げることのない料理人達。天井にも汚れが目立つ。電灯の幾つかは割れていた。

数回息を吐くとぶら下がったままにしていた端末を手繰り寄せ本部に連絡を入れる。

呆れた声は被害者と人数と身元を確認、その照合の途中で話を遮り驚きを隠しきれずに聞き返した。

「あ、だから言ってるだろ。収容者はいつもより多いからと、それじゃなく、ああ。怪我人は料理人だよ。多分、コイツらをのした相手はどっかに消えたよ。ああ、そうだ。だから、早めの収容を頼んだぞ。こちらが片付いたら捜索班を編成して各階層にも連絡。映像記録にも残ってるだろうからその分析も忘れずに」

端末を切り、廊下に出た。

「さて、と。何処から探すかね。」

そんな言葉を口から出したのは何時以来だろうか。そんな事を考えながら捜索に入った。


光魔は案内されるままに施設内を歩いていた。総合案内所に置いてある端末から自分の端末に情報を写し、説明と端末に表示されている場所を比べて気になった事を聞いて、気がすんだら次の階へと案内される。

「それでは次の階へと行きますが。これ迄のあなた様の質問に答えて参りましたが、質問の数が多く、宜しければ後程にしてもらえれば幸いなのですが」

「んん。無理。その理由はね、その時に感じた事を直ぐに聞かないと意味ないでしょ。後になって聞いてもまともな回答を得るとは限らないですから。その場の空気もあるし。日頃の中で気にしていることも有るだろうし、それなら生身の声で聞きたいし」

適当に並べたその言葉に相手が感動して泣いてしまい。

面倒だと思いながら一応慰めておいた。

ゲートが開いて次の階層へ。


「この階層は区画毎に異なる視点から教義を研究していまして、そのせいもあってか、必ず何処かで衝突が有るのです。それでも流血沙汰にはなりませんがね。その代わり論理合戦が頻繁に起こっています。過熱しすぎて問題になることもありますが、長く見れば意識向上には役立っていますね。」

そんな説明を頭に残すことなく記憶から消していき、廊下を付いていくと扉の横のプレートには番号と印。最初に見たあの居住区と関係がありそうだ。そんな事を考えていると大きな扉の前まで連れてこられていた。

「此方がこの階層を管理しておられる方々の部屋になります。挨拶されますか」

「ああ。そうですね。それじゃ、お願いします」

頷くと扉に設置されていたコンソールに幾つかの操作を施して真っ白な画面が黒く歪んで声を発した。

『待っていた。入りなさい。後で何かを運ばせよう』

機械的に加工された声に返答しながら光魔に入るよう促す。

本当は別段どうでも良かったのだが、気分的には会っていて損はないだろうと考えて会うことにした。それは、この先の幸に成るか不幸に鳴るかは開いてみないと解らない。


扉の向こうは実質質素で簡素なものだった。

1つの長い机に三脚の椅子。其々の机の部分には端末としての機器とその周囲に置かれた幾つかの書類的な品物。

そして、それ以外が全く無いのである。

言ってしまえば単純にして完結な作り。そんな風情も何もなく、まるで広すぎる牢獄のような。

右の人物が口を開いて三人の紹介を始める。それが終わると機器を操作して最後に大きくキーの音を響かせる。

その劇的すぎる変化に光魔は素直に感心していた。

何もない床が大きな口を開いて、その底からテーブルとフカフカのソファー、テーブルの上には一式のティーセット。

好きな所に座るよう進められた光魔は頷くとテーブルに近づいてポットからカップへ注ぎ、出入口近くに鎮座する。

聞いてくる。

何故其処に座るのかと。

光魔は返答する。

好きな所に座っても良いと言ったからこの場所に座っているだけだ。

そう言うと、

しかし、この様に座り心地の良い。

こう切り返す。

そして、光魔は、

貴殿方を信用していない。それだけだ。

その素直な答えに机向こうの三人が笑い合う。

納得して、違うな。諦めてその場に居ることを許可した。


「さて、と。我々の元に来てもらった、その理由はご存じかな」

「ご存じも何も、僕はどうしてこんな知らない場所にいるのか、それが、聞きたいですね。正直な所」

「ふむ、やはりか。では順を追って説明しよう」

拒絶した。

「何でかというと、僕の考えに先入観を植え付けたくないからです。貴殿方の教義等や先程受け取った情報なんかはこの端末に全部記録していますし、疑問も全て案内してもらった時に答えてもらいましたからその辺りは省いても構いません。そうですね、1つ。か、二つ辺りですかね。質問に答えてください」

その質問の意図を探る隙を与えないようにぶつけていく。

「あのですね、この施設の管理維持はまあ、公開されている箇所の収入等で賄われている。そうですよね」

「そうだ。」

「なら僕が見積もっても明らかにおかしな事があります。それは、この規模の維持費には少なくても一国の予算と同等並みには必要のはずです。あの公開されている箇所のみの収入だけで維持されているとは考えられません。上は七層。下百八層。どう考えても辻褄が合わない。その結果、導かれる答えは、」

何の兆候も見せなかった光魔は、一口も付けていない器を床から持ち、逆さにする。

垂れて床に広がるその水溜まりは嫌に変色していた。

「この教義に賛同する方達から引っ張ってきた金。それも、表には決して出せない。そんな金。でしょ。まあ、こんなのは憶測で証明するのは無理ですが。気になさらずに。さて、次ですが」

何もなかったかの様に話を進める。

「実は僕の質問は以上なんですけど。えと、何だったかな。」

頭を二、三。叩きながら。唸ると。思い出してぶつける。

「この教義を広めた人は誰ですか。」

身構えていたのに次の質問の内容が別方向の質問すぎて拍子抜けしてしまい、素直に答えていた。

その答えを聞いて、光魔はそうですか。と 、納得してその部屋の扉を開け放って自分で出ていった。


背後で閉まる扉の音を聞きながら笑顔を絶やさない相手に礼を言って次の階層へと行くことにした。


時間が足りないな。そんな事を考えている光魔の思考を理解してか、その足で一室に通された。

そこは大きな会議室で収容人数がある。そんな部屋に入り、椅子に掛けるよう促され、適当に座る。

で、それからどうしたのか。なんでか、空いていた席に次々と入室してきた職員らしき人達が埋め、座れない人達は別に用意された部屋に移動して其所から回線を繋いで映像を映す。

「うん゛ん。それでは今より講義を始めさせていただきます。進行は私、支部長が勤めさせていただきます。」

そんな当たり障りのない常套句を言いながら進められる。

「さて、今回、あなた様に見てもらいました階層は地下の一部と上層粗全てですね。六層より上階の説明は、受けておられるようですね」

それから、

貸し出された端末に施設の内部構造が詳細に記された図面が映し出されていた。

これに、光魔は瞬時に気づいたが、気にせず話を進めさせた。

「さて、地下の上部は殆どが帰依した修徒のための施設になりまして、あなた様にご覧いただいた区画と階層を含め百八層あることはここに付け加えておきます。そして、下に降る程に階級は上位に成ります。」

頬杖をついて、端末を操作。

「そうですね。では、五十層の統括にお話しいただきたいと」

『やっとウチですかい。』

その軽いノリはなにか違和感が。

『そうだね。ウチの受け持つ階層は下位の上位に至る資格を有する修徒が中心でね。それでもまだまだ未熟さ。』

「そういうキミは、その階級は」

『そう来るよね。ウチの階級は中位の上位を有しているさ。それくらいの階級がないと統率が(まま)ならないからね』

自信ありげに鼻息を荒くする。

『で、この階層の修練は主に教義を独自に解釈する。そして、それを発言させる。これを幾度も繰り返して自己に内在する根源を理解し、解放する。それが主軸さ。まあ、それ意外にも知識のための書庫での勉強会なんかも自主的に開かれているね。勿論、上位の方々の講義を受けることもできるしね。それを聞いて自己の発露を根源から満たす。そんな修徒もいるね』

正直、理解する気は元から無かった。

で、一応、頷いて端末に書き加えていく。

「それじゃ、三桁とかになるとどうなるのですか」

『うん。それは師匠に聞いてもらえれば』

画面が切り替わり、映った人物は先程の総括より若い光魔と同年代と思う人だった。

『始めまして、自分は百層を統括する者です。先程のお主の問いには自分がお答え致します。』

見た目若く声も更に幼さがある。しかし、その発する言葉の一句一句に長い年月を懸けて積まれた重みが垣間見えた。

光魔は知った。見た目よりも高齢だと。

最初に映った時には驚いたが発せられた言葉と背負う雰囲気が画面越しでも感じられた。

背に1つの汗が流れていく。

『そうですね。自分の統括するこの階層は始まりを八十八層からに成ります。この層に成る者は自己の発露を根源から満たしきり完全に自己を熟成させた常態になっています。が、これは時間と共に減退を始め、時と共に消滅してしまう可能性があります。故に自身の器であるかの肉の塊を常時若さを保つ鍛練を行う必要があります。』

其れは詰まるところ、不老、極論を云えば不死。

『ですが、全ての者が慣れ至る事は出来ません。何故ならばこの状態に完成させるまでに、そうですね何千挑んで、やっと一人至れるか、そのような苦しく辛く悲しい試練を自身に科し、自分のように成れるのです』

効率が悪い。

『これは実に効率が悪く、下手をすると上位が空席だらけになってしまいます。ですから、今より昔に研究され、至れる道を今でも研鑽されているのです。その甲斐あってか現在は其々の派により違いはあれど自分のように至れる者が現れてきています。』

そうか、だからあの様に別々の派閥が1つの施設に集まっているのか。

そんな答えを光魔は導きだしてお礼を口にする。

『おお。滅相もない。勿体ないお言葉である。』

画面の人物はまるで崇めていた至高の存在に誉められたかのように涙を流す。

「それでは、最後にこの」

「あ、もう後は要りません。」

「は、ですが、」

「どうせ最後にはこの施設の全てを管理統括する人が出るんでしょ。そんなのは僕が後で直接会いますから今は辞めておきます」

そして光魔は借りた端末を操作して、返却。部屋から退室してゲートに向かう。

閉まりきる扉の向こうでなんでか怒号が飛んでいたが気にせず光魔は自分の部屋に戻ることにした。

「ん、そういや僕の部屋は何処なんだろ。聞いてないや」

そんな事を口ずさみながらゲートを起動させて潜る。


ゲートを潜る前に目端に捉えた人影から向けられた感情は好機と好奇と好意だった。

そんな事を光魔は別に気にせず、浅い息と深い息を吐き出し、くしゃみをしてゲートの向こうへ。

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