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Heart of 6 〜黒と試練〜  作者: 十ノ口八幸
二章
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二章~邂逅と契約の・・~第5話

自称神は苛立ちの言葉と衝撃に意識を取り戻した。

居心地の良い夢は、しかし最後の光景にはどんなに抗おうとも突き刺さる。

あの光景は数えるのも億劫になる様に、そして見たくはない。そんな感情を芽生えさせた契機でもあった。

逃げたいけど逃げることは出来ない。そんな事をして心が擦れていく。

そして、朧気(おぼろげ)な焦点が合わさっていくと、憔悴と憤怒が混ざった表情で覗き込んでいる存在が。

「起きたな、自称神。」

「ぐむ、これは一体。」

「説明は怠いから省くぞ。反論は却下する。で、幾つかの質問に答えろ。黙ったり、返答が無かった場合は殴り飛ばす。」

「少年よ、」

光魔は無言で殴り飛ばす。

「が、待て少年。貴様の質問には全て答える。だが、その前に我の質問に1つだけ答えてもらいたい」

「あ、反論は却下すると言ったよな」

言ってはいないが。

「違う。本当に1つだけだ」

振り上げそうになった拳を背後に、先を促す。

「感謝する。では聞くぞ。」

体が振るえている。

恐怖か。歓喜か。

「しょうれんなれ、うほへる」

ここで噛むか。

「あ、」

その表情には殺意。

「す、しゅまん。少年。妙に緊張して言葉が。」

手を振り、先を。それと同時に眉間を押さえる。

「すまん。んん。では、答えてもらいたい。」

咳払いじみた音がすると、

「少年よ、何故。この空間でその様に動ける。」

「知るか」

即答。

頭痛が。

「それで、終わりだな。」

「ま、待て。」

「待たない」

強烈な一撃を撃ち抜き、自称神が綺麗な弧を描き飛んでいく。

それはもう表現するなら混沌。としか表せなかった。


「で、俺の質問に答える気が有るのか無いのか。正直なとこどうなの。なあ、」

片腕で胸ぐらを掴み体を持ち上げ、

「ま、まぐふえ、」

「ほら、早くしないと戻れなくなるんじゃないの」

拷問という質問を繰り返し入れていく。

「わがりゃあ。」

「答えは」

自称神は激しく頷く。元のような部分が無く。しかし、拉げ、腫れ、流血しているのかは見えない。

正直、やり過ぎと思わなくもない。

「は、はのむ。ほんろうにほふぇに答えれふふぇはら。少年のひふほんひはほらえるはりゃ」

口内が傷つき言葉が上手く出せないでいる。

訳すると、頼む本当にこれに答えてくれたら少年の質問には答える。か。

光魔はその目の奥を覗き込み、読み取るように黙る。

「ふうん。分かった。じゃ、どうぞ。あ、噛んだりしたらもう受け付けないから」

手を離して解放する。

「ごほっ、すまない。では、」

瞬間に全ての傷が消えて、元に戻っているのだろう。言葉には傷による障害が一切感じられなかった。


静寂が二つの存在する空間に漂う。

破るのは、

「最後の質問だ。何故、少年は意志が、意識か。いや、自我があるのか。甚だ疑問なのだが」

首を捻る。

「良いか。少年は我と邂逅するまでに絶望をその身に浴びている筈だ。それも自我が崩壊する程の。それでなお」

キョトンとし表情に何かを納得して、

「ああそりゃ簡単だ。あれは全部理解した上であの状態に居ただけなんで。別に自我が無くなったわけじゃ無い。まあ、一部を放棄してあの状態にはしたがな。おかげでその分を奥の捜索に回せたけど」

驚きが光魔に確信を抱かせた。

「ああ、後な。アンタの語りが五月蝿すぎて気づかない振りするのは苦労したぞ。まあ、頭に来ていたから返答した事があるけど。軽く冷や汗をかいたぞ、どうも気づいてなかったようだけどな」

深く吸い、浅く吐き出す。

「じゃあ。お前の質問に対する答えは知り得だろう。次は俺の番だ。」

「今ので納得しろと。」

「ああ。そうだ。じゃないと話が進まないからな」

歯を噛みしめるその表情は、どうしても見えず。仕方なく話を進めていく。


光魔は体を解し、準備を始める。

一通り終わると首を軽く捻り、正面を向いた。

「話は簡単だ、自称神。アンタの目的についてだ。」

「我の目的」

「1つに絞れ。」

「1つとは」

「簡単だ。アンタの目的は幾つかに分かれている。」

思い出すように考える。

「すまんが、我の目的とはなんだ」

「ああ。そう言えば一度崩壊していたんだったか。なら」

光魔は自称神に近づき手の甲を使って回転も加えて側頭部と中心に強い一撃を打ち込む。

だが、その衝撃にも関わらず吹き飛ぶ事なくその場で揺れながら虚空を見続けて、そして、焦点が合うとその表情が徐々に険しくなり一回の腹の底からの唸りを張り上げた。

「うっさいわ」

頭を軽く殴る。

「ふ、ふは、ふははははははははははははははははは」

狂ったように笑い、何歩か歩くと、

「くく、我は愚か、なり」

「で、思い出したか」

「ああ。思い出した。我の目的を。」

「聞かせてもらうぞ。自称神。」

「ふ。何をだ。ん、ああそう言えば1つに、とか言っておったな」

「ああ。だから思い出したなら絞れ、1つに」

「なぜだ。」

「複数を同時に進行する時間は無い。取り敢えず1つだ」

「まさか少年。可能なのか」

「確定は出来ない。が、可能だ」

「ほ、だが、我の目的が複数と何故、判る」

「自称神、アンタが気を消失させている時にな、アンタの昔が見えた。相当古いな。まあ良いや今は。暇潰しに見させてもらった違うか。誰かに見させられた。その方が正しいのか。まあ、それも良いか。でだ、アンタの目的は復讐か、潔白の証明か、仲間との関係修復か。どれか1つにしてもらおうか。」

本来はもう1つ有るのだが、今は省いておく。


「で、どうする。どれか1つだ。異論は認めると思うなよ」

「は、やはり愚かなり、と言わざるおえないな。我の目的はもう奴に、奴の消滅を、望むのみだ。それ以外は別にいらぬわ」

「そうか、なら話は取り敢えず、この空間から出ること、ん、そういや、出る方法は有るのか」

「・おう、有るぞ」

その間に胸騒ぎがちらつき、さらに拭えない感情が光魔の心に沸き立っていく。

思う。

杞憂に終わってもらいたいな。と。


時間は有限とは誰かの言葉だったか。

時間とは無限。これも誰かの言葉だったか。

空間からの脱出方法を自称神に聞くと、

「笑ってよいか。拒絶されても笑うが。さて、はははははっ。我は長き時この空間で過ごしていたのだ。その意味は理解していよう少年。よって、我に其を聞くのはお門違いと云うものだ。諦めよ」

深く、それは深い息を光魔は吐き出す。

身構える自称神だが何故か離れていく。そして、何処から取り出したのか塊を豪速球で投げつけ、肩を貫き一瞬で見えなくなった。

「しょ、少年よ何を投げた。」

含みを孕んだ笑みを作ると。

「さあ、何となく硬い感触がしたから思い切り投げただけで、何を投げたのかは知らないな」

自称神はそれを聞くと逃げた。貫かれた肩の傷は直ぐに塞がれていく。

しかしながら、光魔はあっという間に治りきらない肩へ触れ、その勢いのままうつ伏せの状態で押さえ込む。

で、問いただそうと言葉を掛けるも次第に沈んでいき、遠くに裂け目が走り吐き出される。

「ぐぬぬ。」

吐き出されたその苦悶と苛立ちの表情に光魔は気づいた、そして実行すると自称神を組み敷き押さえ込む。すると沈んでいき別の場所に裂け目が走り吐き出されていた。それを見定めて結論に達する。

「ぐ、おのれ、我に」

「おい、自称神。」

「我に、これ程の屈辱を」

「おい、聞こえてるだろうが」

「おのれ、」

「いい加減にしろ」

小突き向かせる。肩の傷は痕もなく癒えていた。

「お前の言いたい事は後で聞いてやる。でだ、俺の質問に答えろ」

切れる寸前だったが一撃を入れて気を散らす。

「時間を無駄にしても何も生まないからな、話を進めるぞ」

舌打ちと諦めそして同意。

話が進められる。


「確認させてもらうぞ。つまり、この空間はアンタが造り出したものじゃなく。」

「そうだ。この空間は我が産み出したわけではなく、元から存在していたようだ。そこに我は閉じ込められた。何者の仕業かは知らぬがな」

「んで、何度も試して挫折したと。」

「そう、我は諦めこの空間に留まる決意をした。随分と前の事だが」

「その前とは何時の。」

「決まっておるわ。最近の事」

「そうか。」

矛盾したその答えにどうして違和感を覚えないのか、問い質そうと考えたがそれすらも時間の無駄と判断し、話を進めていく。

「ふうん、それで、幾つ試して、何回目で諦めたのか覚えている限り教えろ」

「む、少年よ。先程から妙に上からの物言いだな。我は」

「ああはいはい。その話は現状関係ないからどっかに置いとけ。さもないと余計に時間を喰うからな。それとも俺を脱出させたくない理由でも有るのか」

「むむ、まあ、そのようなものは無いが、しかし、だ。少年。我は考え付く限りの事を試し、その全てが徒労に終わったのだ。それを踏まえてどうするというのだ」

「は、情報が少ないからな、何でも小さな取っ掛かりを見つけるためには先住のアンタの情報が不可欠。それなら泥を啜って頭を垂れて幾らでも這いつくばってやるよ。でもな、そんな時間は正直、使いたくない。どうも、この空間の許容量が限界に近いようでそういう無駄な行為はしたくないだけだ」

自称神はその言葉に絶句するしかなかった。

「理解できたなら早く教えろ。短く分かりやすく簡潔に」

そして、情報を促していく。


「で、結局は目新しい情報は期待していないとはいえ、思っていた以上にこうも取っ掛かりが見つからないのも気持ち悪い。多少はある物だがな。誰かの意図が介入しているのか。」

「先刻から言うておろうが、我が考え付く限り、すべてを試したのだぞ。その中で取っ掛かりを見つけるなぞ無意味。少年よ、諦めよ」

目を細め、そして首を掴むと勢いを着けて頭突き。

双方痛みがあるが光魔は気にもせず、続けて掴んでいた手先に力を込めながら脅す。

その言葉には焦りとも焦燥とも云えない感情が混ざっていれば自称神も必至に思い出そうとするだろう。

しかし、光魔の感情に起伏がなく、その瞳の奥には平坦で単色で深く底知れぬ世界しか見えず、さらには今の状況を楽観視している節が見てとれる。

自身で言っていた限界が近いはずなのにそれすらも関係ないように、その瞳の奥は余りにも平坦すぎた。

若くして思考が極致へと至っている。そんな雰囲気が光魔からは感じられる。

気持ち悪い。そんな言葉が頭を過る。

「がっ、か。少年、我の」

光魔が首から手を離し、自分の、掴んでいた逆の掌を裏表と見てから、自称神の背後に視線を移し目線を合わせる。

「かは、わ、我の背後に、何か有る、のか」

「あったら良かったけど、どうやら気のせいで片付けるしかないな。」

「で、どうするのだ少年。時間が無いと言っておったが残りはどれ程あるのか聞いてもよいか」

掴まれた首を擦ると痕が消える。

「ああ、俺の感覚とアンタの感覚が同じとは云えないが、それでも良いなら」

「かまわぬ」

「俺の感覚だと数日で瓦解するだろうな。この空間に時の概念があるならだが」


感覚にしてそんなに経たず、光魔と自称神は空間を歩いていた。

光魔の提案で広さを知るためにだ。

だが、指標となる物はなく、身に着けていた品物もない状態で目印になる物は1つしかなく、先にそれを探す必要があった。

そして、それは、意外にも早く見つかった。

「これが、少年が投げつけた」

「そうじゃないかな。方向と質量から考えても」

視線の先にある物は幾つもの色彩に彩られた多角の物体。それは見た目に気分良い物ではなく色彩的には触れるのも(はばか)られる。そんな物体が鎮座していた。

「俺が投げた時は単色だったような。まあ、良いか。」

「で、どうするのだ。空間の広さを把握したからと言ってどうにかなる事でもなかろう」

「最終的にはどうにもならないだろうな多分。それでも行動してから考えた方が何か思い付くかも知れないしな」

「ふむ。一見意味の無い事も、後に結べば意味が生まれる。そういう事か」

「そうなのか。俺は突っ立って何もしないで終わるのが嫌なだけで深い意味はないぞ」

「くく。そうか。で、此をどうするのか聞いても」

「ううん。取り敢えず、此を目印にして何歩か歩いてみるか。」


自称神は隣を歩く光魔の奇行に引いていた。

何故か光魔は一歩進む度に振り返る。

「何をしておる少年」

「気にするな。」

「気にするなと言われてもな」

話している時にも繰り返し振り返りながら進む。

「そう言えるかどかは知らないけど聞いていいか。」

「なんだ」

「あのな。単純な疑問だけど。この空間にいる俺は誰なのかなとか」

「誰とは、ふむ。少年は頭が悪いのかやはり。少年は少年だろうが」

「ああ。言い方が悪かった。ただな俺の今の存在は物理的な存在なのか、それとも精神的な存在なのかなと」

「少年はこう言いたいのか今の自分は死んでいるのか生きているのか、ふむ。心配するな、少年は死んではおらぬ。ただ、少年の肉体は現実の次元に保管されておる。」

「それは俺の今の存在は精神、つまりは魂だけの存在て事で良いのか」

頷いたように見える。

「じゃあ、空間から出ても」

「それは無い。多分だがこの空間から出ると少年は肉体に戻ることなく、消える」

光魔は一撃で足元に強烈な衝撃を放ち大きく深い穴を穿つ。

自称神は口端を上げる。そして、確信した。

最高で最強の器だと。

後少し揺さぶれば自分の物になる。そう確信した。

「おい。アンタ、今、笑っただろう」

「ふ、そうだが、何か問題が有るのか」

「いや。無いな。どちらかと言うと問題がこの先に山積し過ぎて大変だなと」

「少年よ、怒らないのか。」

「あ、怒る必要が何処にある」

自称神は再び恐怖した。

光魔のその、涼しげな笑みは悟りきった感情が溢れており、その深い意味を知らずとも理解した。

やはり、この器は違うと。それでも時間が無い。それは焦りを産む。

「アンタの言った俺が消えるとは、具体的には、精神、つまりは魂だけが消滅するという意味なのか。それとも、戻った瞬間に肉体共々消滅して、存在自体が最初から無かった事になるのか」

「恐ろしいのか。少年。」

「恐ろしい。か。そうだな、何時からだろうなそういう感覚に対して愚鈍に成ったのは。正直、思い出す気はないが、今は置いておくとして。て、どうなんだ」

「それの答えは少年自身の消滅。端的には少年の言う魂のみの消滅だけだ。肉体は残る」

すんなりと答えた。

「ほう。面白いな」

「面白い、だと」

「ああ、そうだろ。だってよ、それは俺を消してアンタが代わりに入る。こういう事だろ。で、アンタはそれを狙っている。だから笑ったんだろう。俺の絶望が1つの鍵、そう考えるけど、合っているだろ」

恐怖、戦慄、そんな生易しい感情を越える場所に少年に対する印象があった。

「それを知っていて何故、出ようと思える」

「んん、別に。言ったろアンタの目的を達成させてやる。それは最終的には俺の目的に繋がるしな。それに、消えるとは考えていないからな」

「どうしてそう言い切れる」

「アンタの記憶には本当の感情が見えた。それを利用して欲しい情報が入手出来ると分かったからな」

視線を光魔に向けると

「欲しい情報とは、聞いても良いか」

「それは、無理。アンタには関わりが少し有るけど現時点で教えてもアンタが混乱するだけだし、あえて今は断る」


これ以上の追求は無意味と知って引き下がり、空間からの脱出方法を再開する。

「結局の所どうするのだ、流石に手は無くなっているだろう」

「この空間はアンタが造ったわけではない。それは間違いないんだな」

「そうだ」

「んで、俺が言ったように」

「しかし、本当なのか。限界が近いというのは」

「間違いないな。それは俺でも不思議に思っているけど、まるで悲鳴のように軋みが感じられた。確実にこの空間は瓦解する。」

空間を見渡してもそのような兆候は見受けられない。それでも光魔には確実な何かがあった。覆せるようなモノでなく確信が。

「然れど。だ。先程から少年がしているその行動には意味があるのか。見ていて嫌な気分になるのだが」

「ああ。そうだな。もうそろそろ。かな。あ。」

光魔が視線の先を見ろというように促し、それに従うとその先には多角のあの物体が捻れるように吸い込まれ、瞬きの間には消えていた。

物体を探そうと動くと光魔が静止させ、足元を指した。

驚いた事にあの多角の物体が自分達の足元に移動していた。

これは一体。そう質問を投げ付けようと振り上げると、予想通りと言わんとして、

「簡単だ。この物体が俺達の元まで移動したんじゃなく逆だ。俺達が移動したんだよ。あの捻れは物体がじゃなく、俺達が捻れに呑まれてこの位置まで移動させられた。」

「そ、それでは少年のいう空間の把握が」

「その答えは見えた。およそだけど、この空間は見た目通りに広くはない。もしくはな、広いかも知れないけど自分たちの行動範囲は今ので知れた。」

あの捻れが起こった場所が自分達の行動範囲。それが、答え。

自称神はそれを悟る。

光魔はその行為を数回繰り返し空間の範囲を把握する。


適当にそれぞれが腰を下ろし頭を付き合わせる。

「時間が限られているから短めにいく。」

「それは、構わんが。どうするのだ、範囲が分かったからといってどうにかなる事も、ないだろう」

「それはまあ、そうだが、取り敢えず一息着くのも必要かなと」

「それで何をするつもりなのだ。考えは有るのか」

「幾つかは、ある。確証は出来ない。それでも、今は休んでおくのが良いだろう。この空間は疲れとか空腹には至らないけど、一応は気分を落ち着かせるためには必要だろ」

「それも一考だろうが、大丈夫なのか。現状を鑑みても言い知れぬ不安が拭えぬが」

「それは知らん。でも、どうにかして出ないとな」

中身があるようで無い。そんな話をしていては拉致が明かず。無意味に時を浪費させるだけで打開策が見当たらなかった。

「それは、もう諦めていると。そういう事、なのか少年よ」

「あ、いやだから、幾つかはあると言っとろうが、それでも他に確実な方法が有るかもしれないからこうやって話し合っているんだろうが。それに俺だけ考えているだけでなく、アンタもちゃんと考えろ。自称神。」

それは自身も考え続けている。それで簡単に出る方法が見つかれば安い。

だが、永遠とも云える時間を過ごしてきた中で手を尽くす限りをもって試し諦めまた試し。それを数えられぬ数を費やして結論を出した。

『脱出不能』

その瞬間まで思考しないようにしていたが、その言葉を意識して精神的な何かが折れ、砕けて塵となり、暫くは気力が底を付いたように空間に存在しているだけだった。

それは結果として自我崩壊の一因ともなり、暫く後に動かぬ存在として空間に居続けていた。


切っ掛けは今では思い出せないが、それでも自我の再構築には1つの要因として光魔の存在があった。

それは、現在の自称神記憶の底に在りはしても、それを引き出す機会はないだろう。

「我は幾度も試していた。それが全て徒労に終わったのだぞ。何故あきらめず」

「別に、あえて言うなら暇潰し」

「な、少年よそのような理由で」

「言ったよな、幾つかは多分なんだけども出る方法は考えていると、試すには実際に時間。あれ、そう言えばこの空間てそういう概念的なのて有るのか」

「的な概念だと」

「的な概念てよりそういう感覚は有るのかなと、俺が言った時間もこの空間で通用するのかも、怪しいな」

「時間、そうかこの空間で我は永い時を過ごしていた。それでなお我の感覚は少年の感覚と一致しない」

「それはアンタの感覚が俺とずれているから何の証明にもならないぞ」

「ふむ。そういうものか」

「で、有るのか無いのか」

「有る、とは、思うがな」

「嫌に釈然としないな。もしかしてこの空間に一人で居たおかげで時間の感覚が狂っているのか」

「それも有る、とは考えるがそうでは無い。時間という感覚は元々我らには無いのだ。何せ元々永劫を存在し続けるからな、このような事態は想定外だ」

「そか、なら一層の事アンタの感覚は宛にしない方が」

「無論、賢明だろうな。我と少年の感覚には大きな隔たりが有るから」

光魔と自称神はその後も可能性を提起しては潰していく作業を繰り返していった。

だが暫くすると、二つの存在は空間内で横たわり、虚空を見ていた。その瞳に光は無く。違うか、正確には光が失われかけていた。

「なあ少年」

「自称神言いたい事は、理解している」

「そうか、だが、我は言わせてもらいたい。」

「もういいや。どうぞ」

「そう、こんな事の意味はないぞ」

「それは現状を言っているのかそれとも今までの行いを言ってるのか、それか両方か」

無言が続き、返答を待っていた光魔は視線だけを動かして自称神を見ると、いつの間にか起き上がっていて何処かを見つめている気配を感じ、すぐさま起き上がって見ているであろう方向を向いて気づいた。

それは空間の中に異様な空気を漂わせている物体。

形容し難くもあるが端的には建物なのだが、その形状と色合いが言葉にはできそうも無く、只々見ているしかなかった。

とそんな事をしても無駄と気づき近づく事にした。それは自称神と一緒にである。

近づくとその異様な外観に圧倒され、何ともしがたい感情は自分達を知らず知らず後ずさらせていた。

「なあ、自称」

「うむ。言わなくとも。」

「取り敢えずは躊躇しても何だから、周囲を見て、て何をしている」

「少年が言っているだろ、今は時間が欲しい。それだけだろ」

光魔の表情は怒りと戸惑いと沸き起こる感情の矛先が定まらない事によるそんな表情をしていた。

そんな表情をしていても次には何時ものような顔をしている。

その早変わりには驚嘆するしかなかった。


「で、一体この物体は、というより建物は何処から入れば」

背後から猛烈な殺意が放たれ、それは建物の外観を粉砕させた。

言葉を出すのもアホらしく。崩れ吹き飛ぶ建物の外観を見ながら歩き出す。

「ふう。一応は飛ばしたけど何もないな」

外壁を吹き飛ばし、その内部が露になるのかと考えていたのだが、予想に反してその内側は同じような色調の外観が現れた。

「これは、」

「ああ、」

思った。

遊ばれているのだろう。と。

二つのため息が漏れ、建物から離れようとした。

それは1つの契機なのかも知れず。しかし、それには気づかない振りをして元居た場所まで行く。

建物から距離を取り、反転するとあの建物が沈んでいく途中だった。

それは誰もが思うことだろう。

沈んでいく建物から距離が有るとは云え、音と足下を伝う振動が全く感じられず。

もし、あのまま建物に触れていたらどうなっていたのか。

一緒に沈んで永遠に出られなくなっていたのかも知れないし、はたまた、脱出していたのかも知れない。

それはもしもの話。

今は、沈んでいく建物を見続けながら次の手を考えるしかなかった。


完全に跡も残さず沈んだ建物の地点を見ながら1つの案を出し、時間も僅かだろうと予測していると耳に届く震えが聞こえてきた。

本当に時間が無いことに焦りだす自称神が、急かすように光魔を追いたてる。

だが、案を出してきた光魔は目を閉じて動かなくなった。

そう、それはまるで人形のように。その場所に固定されているような。少しも動きが無かった。

揺さぶっても目を開けず、頬を叩き開けず、頭を撃ち抜いても開けず、腕の骨を砕いても開けず、首を掴んで投げ飛ばして叩きつけて開けさそうとしたがどういった絡繰なのか不思議に思ったが光魔は全身を叩きつけられることなく足元から着地して尚、目を閉じていた。

自称神の見えない何処かへ何かが宿るように小さく揺らめいた存在が光魔の目を開ける行為を切っ掛けに噴き出す。

時間が経つと主目的を忘れ、光魔を、抵抗しない光魔に対してあらゆる事を試しまくる。


投げ飛ばしてから自身も移動して落ちてくる前に渾身の力で殴り飛ばし、蹴り飛ばし光魔が宙にある時その腹に一撃を穿ち叩きつける。大きな穴を造るがその中に光魔は居らず、数回のの反動の後には元に戻って静に目を閉じている。


完全に自称神は宿った何かに支配されていた。

自称神の力は意識とは別に行使され、制御不能の状態になっていて、抑えられず宿ったその存在に突き動かされるままに全てを込めて光魔へと発散させる。


放たれた膨大で広大な範囲を覆う力は光魔を呑み込み、空間の総てから絶叫めいた響きがして、そして。

力が収まると、自称神も正気を戻し光魔の元へと急いで駆けつけた。

あれ程の力に呑まれて無事なはずはなく、一縷の望みを持って光魔へと近づくと、変わらない光魔の姿がそこには在った。

先程まで宿っていたモノとは別のモノが自称神を支配した。

「少年、無事なのか」

あれだけの打撃等を受けても開けなかった目を開き、呼吸する。

「で、どうなった。かな」

その場から一回転してそのまま倒れてしまう。

慌てて起こすと、

「な、なんだよあれだけの事をして全然脱出できてない。頑丈すぎるだろ」

その言葉で自称神は、先程までの自神の行動と制御できない何かに支配された事に考えが至った。

「少年。まさか貴様。」

「お察しの通り、アンタに強い力を掛けた。次第に制御できなくなりアンタの莫大な力を放出させるために。まあ、それでも結局は失敗に」

あれだけの力をを放ったにも関わらず空間は亀裂も崩壊もしておらず存在2つを内包していた。


現実は非情と云えようか。

光魔は自称神と共にその後も考え付く限りを試したが、空間から出ることが。

「で、自称神。」

「少年、言いたい事は理解しておる。遊びすぎだと言いたいのだろう。」

腕を掴んで勢いのままに、投げ飛ばした。


さて、遊びは終わり。

少年、州環光魔の真の物語が始まる。

まあ、始まればの話だが。


遠くで絶えない罵詈雑言罵り合いが続いている。

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