二章 ~邂逅と契約の・・〜第3話
なんだ。どうした事だ。少年が消えた。
違う。我が、倒れている。何故、だ。
なんだ。息が出来ない。んく。鉄の、味。
なんだ。この赤い液体は。ま、まさか、血か。
これが、だが、血を流す理由と経緯が理解できない。
我の視界が何かに覆われた。これは、手か。
俺は、吹き飛ばした相手を見続けながら歩み寄る。
手を鼻に当て、多分確認をしているんだろうと思いながら歩を進める。
近づいて行くと、相手の輪郭が少し見えてきた。
どうやら現実を理解していないようで、視線を気持ち悪く動かしている。
俺は相手の側で中腰となり、腕を伸ばして目を覆う。
「本当は対面で相手の目を見て言うのが礼儀だがな。」
お、動いた。
「ああ、アンタをどうこうする気はない。ただ、答えろ。アンタは何者だ。答えないなら、この状態で殴り潰す」
目を覆う指先に力を軽く込める。
戦慄。そのような言葉など生温い。そう思えるように我の全身が意思とは関係なく震えている。
「わ、判った。答える。故に、我から離れてもらいたい。可能であろうか」
返答がない。
ならば、我の目を覆う腕を掴み横に凪ぎ払う。
ほう、我の凪ぎ払いを即座に対処するか。
解放された視界の中には、払い飛ばした少年が姿勢を正して着地して我をその視界に納めていた。
「か、見事なり。我に触れるならば許そうと思っていたが、我にこのようなぬあ。」
しゃべっている間に突っ込んできおった。
我のいた場所には深々と穴が穿たれていた。
言葉には出来ようもない感情が我を支配しようとしていた。
体勢を立て直し、少年を見据える。
「少年よ。どうも他の話を聞かないようだな」
「ああっ、言ってるだろうが。先に質問したのは俺だ。もう一度言うぞ。アンタ何者だ」
「ほ。そうかそうか。なら、やはり頭が悪いのう。少年、言うとろうが、我は世界の始まりの1つにして、根幹を勤めるものなり、と。」
考え込んでいる本当に理解が遅いのう。
「そうだな。少年よ。少年の世界で云うところの、我は神。と云うところか、なが」
衝撃が我を吹き飛ばす。
驚いた。まさか軽めに力を込めていたとはいえ、掴んでいる手を引き剥がして、投げ飛ばされるとは、それでも、まあ一撃を。
ちっ。
不意を突いたのに交わしやがった。
なら、もう一度質問。
それと同時に穴から拳を離す。
質問の返答が小難しい。
首を捻って考えてみる。
馬鹿にされている。
その言葉が耳に届くと俺は、一気に間合いを詰め、その顔面に強烈な一撃を入れていた。
最初よりも大きく吹き飛んでいき、背中から着地。
「き、貴様、我をこの、ぎゃぅ」
もう一発入れる。
鼻息が荒い。
「おい、オッサンかオバサンかジジイかババアか知らないけどな、自ら神だの悪魔だの云う奴は大抵ペテンか何かだというのが持論でな。故に、そういう輩は問答無用で鉄拳制裁する事にしている」
二度目の荒い鼻息。
どうしたんだ。不意とはいえ先程より速くとも、我なら容易く避けられる筈だ。
だが、我はまた倒れている。
瞬時に我の前に移動し、頭を蹴り抜く。
我の鼻には先程より血が滝のように滴っている。顔側面に触れると砕けている事を知った。
頭だけを上げると鼻息の荒い少年が持論を語っていた。
我は悟った。
器にする入れ物を間違えたと。
我は鼻と顔側面に力を集約させ、砕け断裂した傷を治療させ、静かに身体を起こして両手を挙げて頭を下げる。
「参った。少年。降参だ。済まないな。我も時間が無いのだ。あらゆる事を省きすぎた謝罪する」
我は両手を固定しながら少年に近づいていく。
しかし、胸ぐらを掴まれ、少年は無言。そして腕一本で我は足元に叩きつけられた。
それは、幾度目の事か。
衝撃が背面から内部を通じ表へと突き抜ける感覚が我を、我の思考を麻痺させた。
そして、身体の中心にこれまで味わったことのない衝撃が我を貫いていく。
耐えきれず我の意識は消失していく。