二章~夜の声、夢の導き~終話
事は少し前になる。
少年が施設を出た直後、数歩進むと何処からともなく少年の肉体と存在が世界から、その次元から完全に消失した。
少年はたゆたう、何もない空間で。
いや、空間というものが少年を包んでいるので、実質的には何もない事もない。
目を閉じ、水面に浮くような姿勢で揺れながら漂う。
暫くして微かに少年は動き、目を開けると瞬時に自らが置かれた状況を把握するため姿勢を正す。
顔、手、足、胸、脇、腹、腕を回して背、すべてを確認して安堵の息を吐く。
自分は確かに存在している。それを認識して、少年はどうしてこのような場所に居るのかを考えた。
だが、それに至る前に何かが耳に囁く。
手を添え、その囁きを聞き取ろうと集中すると次第に少年の意識が遠退いていく。
そして、体には力が感じられなくなる。
その囁きに少年の身体は導かれていく。
実は少年の精神と云うココロ。それは既に風前の灯火であり、少しずつ削られていた。
どうにか持たせていたが、限界をとおに過ぎ、こうやって知らない空間へと簡単に引きずり込まれてしまったのである。
では、少年は何故、限界を越えているのにその肉体を動かしているのか。
簡単だ。その肉体を動かしているのは少年の意思ではなく、囁く誘いの声が動かしているに過ぎずない。
もう、少年のココロは無い。
ただの脱け殻。
そうして、少年の肉体の前には1つの影か陰が存在している。
口の端を上げる。