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Heart of 6 〜黒と試練〜  作者: 十ノ口八幸
二章
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二章~夜の声、夢の導き~第六話

あ、れ。これは、何か、懐かしい感じがする。

多分、僕の昔なんだろうか。


そう、それは、何時のものかは判らないけれど凄く、懐かしい感じがする光景。

その目線から見る光景は凄く穏やかで、澄んでいて、そして、暖かな空気を纏っていた。

口が動く。

『で、今日はどうする』

視線は前を向いたままに。

『そりゃ、めんどいけど、行くしかないだろう』

頷く。

そして他愛のない話をしながら歩いていく。


心が暖まる感覚で眺めていると、まるで頭を上から握り潰すように痛みがして、身体が何処かへと引きずられていく。

僕は無我夢中でガムシャラに手足を動かし、手が何かに当たり頭が軽くなった瞬間、目的地もなく必死に逃げ出した。そして、足下が不意に感覚を失い、全身が落下するように落ちていく。

死を覚悟した時。



目を開けると見知った天井が有った。

視線をさ迷わせて現状を把握すると、自分の部屋に居ることを認識した。

片腕に感覚がない。

そう思って見ると腕を頭の方へ伸ばしていた。

どうも寝ている間に腕を頭の許に置いてずっと眠っていたらしく、完全に痺れていた。

伸ばしていた腕を戻して体を起こすと腕の感覚が次第に戻ってくる。その間に片方の腕で痺れた腕を触るとまるで柔らかい何かのようにダランと垂れて揺れていた。


腕の感覚が完全に戻ってくると起きあがり、服を着替えて食堂に行く。もちろん鞄を持って。


食堂には湯気たつ食卓が置かれている。

その匂いは寝起きの腹を鳴らすには充分で、直ぐに席についてご飯にありついた。


食べていると他の住人も現れ、其々が席につき、好きなように食事を始めていく。

そうして早々に食べ終わり食器を流しに持っていき、終わると直ぐに登校する。


この時、少年は不思議に思った。

どうしてか。それは、教師なのにどうしてあんなに(くつろ)いでいたのだろうか。

まあ、それは、通学時には思考の中から消えていたのだが。


登校路にはいつもより多くの人がいた。少年に向けられる視線はどれも奇異な目を向けているが、中には好奇を向けている目も中にはある。

が、少年はそんな事を気にすること無く、登校路を歩いていく。


本日は気温も中々、厚着する必要もなく防寒着を着込んでいる人は皆無。

とはいかないなと少年は白い息を吐きながら周囲を見ていると厚着の者もちらほらと。

この日の朝は確かに気温が低く、それでも、日中までに気温が30前後まで上昇すると言っていた。


もう、日課になっているが、少年はゲートから出ているこの運行試験の被験者となり、報告を挙げている。無論、報酬はない。

どうしてか、学生の身分で報酬は禁止されているからに他ならないから。

「あ、そう言えば報酬を貰うの忘れてた。後で纏めて貰っとこ」

ん、おや、どうしたことかな。禁止されているのだが。

ここは、気にせず話を進めようか。


さて、少年が学園最寄りから向かうと門の前には大勢の生徒が待っていた。

しかし、それを試験車から見ていた少年は、それを回避するべく近くにある建物に入り、顔馴染みとなった住人に挨拶をしてからある場所に行く。

そこには、大きな口を開け放たれている床があった。

簡潔に言ってしまえばそれは、地下へと続くただの階段なのだが。

少年は階段を降り、長い通路を歩く。そして、見慣れた番号の扉を潜り、地上へと続く梯子を登って出ていく。


間接を軽く鳴らしながら何時もの様に校舎に入っていく。

その過程で自分が本来通過するはずの校門にはまだ生徒の壁があった。


教室の自分の席で授業を受けている間も、短い休み時間も、昼食時にまで、登校時と同様の視線が遠巻きながらに感じてはいた。しかし、少年は何ら気にすること無く、授業を受け、休み時間にも普通に出されている課題をこなし、昼にも一人で黙々とご飯を食べている。

神経が太いのか、ただ鈍いだけなのか。それは、本人にしか解らないだろう。

そして、その日の最後の授業を終える音が鳴ると、学園中から生徒が押し寄せてくる。

それは勿論、少年を身近で見るためと、言葉を交わしたいという願望が在るのだが、しかし、どうしてもそれらは、全て、悉く阻止されてしまうのである。

理由は2つ。

1つは少年の補習が終わっていないことで、そのまま迎えの者が少年を連れていくため。1つは、組織委員会が少年の勧誘を行っていることで他の生徒が近づく機会が無いのである。

まあ、それは、少年にしてみればどうでも良いことであり、周囲にどんな変化があっても気にすること無く、生活するのだが。

どうにも、無関心過ぎると周囲が騒いでいる事もあり、ある日少年は遂に呼び出しを喰らってしまうのである。


「でだ。君が呼ばれた理由は理解しているかな。」

「ん、んん。」

「そうかい。なら話が早い。実は生徒達が君と話をしたいと言っていて、何度も無理だと説明したんだけど、引き下がる所か逆に更なる火を付けてしまってね。収拾がつかないんだ。」

「委員長」

「何かな河下(かしも)さん。」

「彼、聞いてませんよ」

少年は机の上に複数の機器を並べてそれらを操作していた。

「あの君、今の聞いてたかい」

「ふえ、あ、うんはい、」

「そうかい。なら良かった。それでは続きを」

委員長の腰の部分をつつき、

「あの、もう帰っても良いですか。課題が溜まりすぎて大変なんで」

「え、ああ、それは大変だね。それじゃどうぞ」

「あ、有難う御座います」

そして、少年は教室を出ていった。

後に残った者達は暫く動かず、委員長が我に返ると直ぐに廊下へ出る。幸いな事にまだ少年は廊下を静かに歩いていた。

「ちょっと待ってくれ。話が」

少年は俯きながら廊下を歩き、角を曲がって姿が見えなくなる。

直ぐに駆け出すが角を曲がると少年の姿は無かった。

が、足音は階下から続いていた。それから僅かな光がありその存在を確認して追い付こうとしたが、追い付けなかった。

諦めて戻り、皆に事情を説明してその場は解散した。


翌日、少年は学園の校門で人の厚い壁に阻まれていた。

この状態は想定していたよりも厚く、容易に逃げ出す事は出来ないと悟り、素直に従った。

腕を縛られ、足枷も填められ、腰には頑丈な鎖が巻かれている。


連れてこられた場所は意外にも大きな多目的施設だった。

そこには、多分、学園にいる人が集まっているんじゃないかと考えるほどに人がいた。

「で。僕に何か用ですか。まあ、有るからこんな事をしたんでしょうけど、正直困ります。課題が終わらせられない」

『んん。それではこれより、これまでの経緯と現状を。その後には質疑を始めます。進行は風紀委員が行います』

無視をされて進められる。

それと拍手がちらほらと。

舞台の壁には大きなスクリーンが設置され、そこには、少年に対するこれ迄の経緯と島の現状の打開策について。と表示されていた。

そして経緯と経過を説明され、それを過ぎたら今度は島の現状が詳細に話された。

『では、これ迄の処で何か質問は』

一人が手を上げる。

『では、君は』

「はい。中等科。三年。キサラギ・コトギです。」

『そうか、で、聞きたいことは』

「はい、この島の現状は理解しました。島主も帰って来て収拾するだろうと思われていた矢先に、島主含めて近しい人達が急に姿を見せなくなって随分と経ちますが、それに関しての情報は」

『その事は、我らも存じていない済まないな』

「そ、うです、か。なら以上です」

『他は、ありませんか無いなら、進めるが宜しいか』

拍手がおこる。

『なら次に』

「待ってもらえないですか、とさっきから手をあげいるんですけど。いい加減、無視はしないで下さい。」

少年の両隣、背後には不測の事態に対処するために三人が配されていた。

少年の枷は足以外、外されている。

『何かな。』

「いえ、再度確認したいですけどね。構いませんか。」

進行が手で許可をする。

「アイツ今、居ないんですか。何処にも。はあ、それじゃ僕がしたことは一体何だったんですか」

殺気が沸き立つ。当然か。

『静粛に、押さえてもらいたい。』

咳払いを1つ。

『では、これより彼に対しての質疑を始めたいと』

「あ、いや、だから、待って。状況が掴めないけど要は、あれですか。島の状況が悪い。つまり、ここの責任者が雲隠れしたからどうにかしたい。でも、どうにも出来ないから取り敢えず事の発端の僕を捕まえてどうにかさせようと、そういう事ですか。ならば」

足を伸びをするように思い切り伸ばして舞台に複数回。

すると、枷が砕け、塵となる。

騒つく、が、気にせず舞台の縁に立つ。

再び、殺気が放たれる。

「ああ、はいはい。この場に集まっている人達含めて、何を思い、何を考え、何をして、どういう行動をするのか高見の見物とかしても良かったけど。」

少年は端末を取りだし、何処かへと連絡を入れる。

「あ、相手が誰か判らないと不安でしょうから映像に切り替えますね」

操作すると端末を司会台に置いた。

端末から投影される。

その映像は単色しかなく。しかし、

『連絡を待っていましたよ。』

「すいませんね。色々と手間取って。で、準備は」

『はい。それは滞りなく、終了していますよ』

「なら、話が早いですね、直ぐに開始してください」

『了解しました。では』

一拍。

『全軍。作戦始動せよ』

爆音と破砕音が轟音と共に会場内部へと響いてくる。

少年は司会台に置いた端末を操作する。

舞台の壁に大きな映像が映し出されると同時に、会場の照明が消され、窓から降り注ぐ光も遮断される。


映し出されたその映像には島の周囲を囲むよう展開された艦隊と護衛用の巨大生物兵器。森林を蠢く影。市街地を動く完全自動兵器。下水道を歩く奇異な生物軍。

だが、息飲む暇もなくそれらは悉く、速やかに排除されていく。

誰かが言った。

「一体これはなんなんだ。」と。

「知りたいでしょうけど。見た通りですよ。今現在、この島の海岸線の各地に点在、島内の地上から地下、上空に設置された映像を介して今回の作戦を映しています。」

『ま、待ちなさい。こんな作戦に関する情報など聞いていないぞ』

「それは、当たり前です。勝手に進めて、勝手に始めた事ですから。まあ、僕もこれを知ったのは今日の朝なんですけど」

騒つきが更に大きく。

「それと。この映像は全世界に配信、公開強制していますから」

少年は、懐から小さな機器を取り出して耳に装着、電源を入れると。

『ああ、それでは、始めまして世界の全ての諸君。特に、歴々の地位にいる者達よ、私の名はオブリスレシスと名乗る者。全ての者に見てもらっている映像は今、起きている出来事であり、そして、これを見た者。上位の者には刻んでもらおう。』

何故か、笑顔。

『今後、島内、島の領空、領海内でお前達の存在が確認された場合、どんな理由が有ろうと無かろうと容赦なく排除させてもらう。おお。そろそろ終わりそうだな。今回は警告の意味を込めて拿捕と拘束に止めて置く。が、次は分かって貰えれば幸い。付け加えて捕虜は検査、調査をして数日後には返還させてもらう。その後は、拿捕した戦艦、機器は此方が没収する。以上。』

電源を切り、そして画面内の全ての箇所で全ての作業が終わっている事を見届けて、体を解す。


それは、戦艦の拿捕。機器の鹵獲。工作員の捕縛と拘束。そして、それらに準じた事柄を全て回収して残ったのは、停止した艦隊と静寂に包まれた海と島内の映像だった。

ただ、小波と少しの風の音が聴こえている以外は。


会場もまた、静寂に包まれていた。それは何を意味しているものかは、誰も知らない。

『以上が、貴殿方の懸念していた事に対する回答です。実質的に僕は何もしていませんけど』

手を鳴らして、機器を戻すと舞台を降り、そのまま会場の隅を通り出口へと向かう。

その間、誰も動くことはせず、少年が出ていくまでその場所からスクリーンの映像を見ていた。


少年が出ると場内から外へと駆ける人達。が、外に出ても少年はすでにいなくなっていた。


「あれ、どうして俺達はこんな所に集まっているんだ。何かをしていたんだけど。」

多目的施設の内外で疑問が噴出。自分達は何のために集まっていたのか。

それは、直後に皆が安心して、自然と解散に成ったのであった。


スクリーンに映像とその後に流れる文字。

その文字は、

『島の急変と現在の状況に対する打開策及び島の権利の行方について』

それと、静止した艦隊と拘束された工作員の映像。そして、鹵獲された機器。

『以上を持って本作戦は終了する』

こうして、映像が切れ、その場の全ての者達が納得していた。

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