二章~夜の声、夢の導き~第五話
階段を昇りきり、踊り場で軽く息を整え一息、そして、僕の視界に入る光景に対する最初の印象は、何処かの商業施設か。
それだけだった
それでも僕は気分をまぎらわせるようにその中を歩くことにするけど。
進みながら上を向いて違和感を感じたけれど、何処がどうなのかは判らないし、まあその内判るかも。
気を取り直して停めた足を踏み出し、歩き回る。
暫くし歩いてその広大さに驚いて、何処まで続いているのだろうと思いながら適当な所に背をもたれて、足を少しずつ屈めながら床に座り、休憩する。
ふと視線を泳がせていて、ああ、そうか。ここ、こんなに明るいのに光源が無いんだ。
う、何これ、寒気が、身体も振るえ、鋭い感じ、これは急いで離れよう。
適当に逃げていると、上下に行ける階段を発見。躊躇なく上に行くことに。
階段を上がりきり、肩で息をしながら前を向くと下に比べて違いすぎる彼方側に驚きつつ、それでもあの鋭い何かから逃げるためにそのまま踏み込む。
これからどうしよう。そう考えていると唐突に頭を過る光景、それは、この場所に来い、と云う事なんだろうな。
でも僕は、それを無視して移動する。
別に目的とか無いけれど素直に行くと何か嫌だし。他の所も見たいと云う好奇心があるから。
できる限り抗ってみたけど、強い力に呑まれているのか僕は結局その場所に来てしまう。
あの階より更に昇って幾つ目かは知らないけどその階はさらに違う、と云うよりも異様な空気とその見た目が色々な事や物を増長させている。
もう諦めてその何かに向かう事にする。
その一画は色々な小さく、布で覆われた色鮮やかな店が隙間なく綺麗に整列している。
僕はその中の一つに誘われる。
その店の看板には「ワタシの占いは当たります。的中します。嘘だと思うのなら入店されるがよい」
なんだか怪しさ全開すぎる。
まあ、それでも僕はその店に入るしかないけど。
中は外観に比べて更に狭い、小さく低い簡単な机とその上に一個のブロック。
何の店。
それは誰でも思う事だろうと。
「待っておったぞ。」
「・・っ・・・」
「ほほ。思考は常に巡らせておく事をお勧めする。さあ、其処にお座りなさい」
「で、座るのは良いんですけどこの店は何の店ですか」
「ほほほ。どうもかなりのバカのよう。ちゃんと表に書いてあろう読んでないのかい」
「ああ。そういえば占いとか書いてありましたね。てもあの感じだと怪しすぎて、胡散臭すぎます」
「ほほほほ。そうかい。気にしない質でね。」
「それに何の占いですか」
「ほ。それも表にかい」
「いえ、それは書いてなかったかと。」
「おや、可笑しいね、確かに書いてある筈なんだけど」
「で、結局なんの占いですか」
「ほほほほほ。何、道具類は使わない、あれはあれで信憑性があるがね。それだけに過ぎない。だが、これにはそう言った類いの道具は使用しない。」
「じゃあ、それは何」
「ほほ、ほ。これかい、これはただの重しだよ」
「ふうん。で。結局何の占いなんですか」
「見るのはその者に納められているモノ。それを見ればその者の全てが見える」
「で、結局は何」
「見るのは、見えないもの。それを見てその者の道を示す」
「話が見えないけど」
「まあ、難しく考えなさんな。ほれ、其処に座りなさい」
「解ったような」
「では、手をお出し。」
「はい。」
「ふむ。此方が利き手かい」
「まあ、そうですね」
「そうかい。なら構わないが。どれ見てみよう」
「あぎゃああああ。なな、な。なんじゃこれは。あ、あり得ないこんな事は、そんな。ど、何れだ、け。ぐ」
「ど、どうしたんですか一体」
「は、はあああ。は、はああああ。うぐううぅ」
「・・・・・・・」
「んくんくんく。・・はあ。落ち着いたわい」
「どうしたんですか。手を掴むなりいきなり叫んで、驚くじゃないですか」
「ふいい。すまんな。落ち着かせるのはちと苦労したが。ふむ。そうだね。とりあえず、結果を知りたいかい」
「ああ。どちらでも」
「なんだいハッキリしないねえ」
「 まあ、そうですね。と、その前に1つ質問が」
「なんだね」
「いえ、幾ら払うのかなと」
「ああ、その事なら気にしなさんな。今回は前金を貰っているからね」
「え、誰から」
「その内判るはずさ」
「それは、今は詮索するなと」
「そうだよ」
「うーん。それなら、まあ」
「で。結果は知りたいのかい」
「一応、知りたいので教えて下さい」
「そうかい。なら教えて差し上げよう」
『世界の何処かで不意に訪れた悪戯心によりて1つの存在が巻き込まれた。しかし、その後に大きく影響を及ぼした。これは1つの切っ掛けに過ぎず、数多の災厄の元凶を退け、各時代を救いたる。
然れど、時代よりの終焉、彼の地で存在と精神を賭けた空間の最後、そう、それは。その存在に敗北を喫した後、完全崩壊直前の事、無限と云える数に分散しあらゆる次元に逃れたる。
心せよ全てを消し去るまで終わりは無い。と。』
「・・・」
「・・・・」
「いや、良くは理解できませんけど、結局は詐欺じゃん」
「まあ、待ちなさい。これはソナタを見た結果だ。それを証明する方法はないが心に留めておきなさい」
「で、実際、何を見ていたんですか」
「それは表に書いてあるはずたが気づかなんだか。」
「いい加減勿体振るのは止めてほしいけど」
「魂」
「え」
「だから魂を見ていると言っているのだ」
「はあ。そう、なんですか」
「そういった反応は見飽きているがね。それでも事実さ。言っておくがあれはソナタの昔の一部分だけを読み取ったに過ぎず。故にそれ以外は読み取らなんだ。とだけ云うしかあるまい。」
「それはつまり、アナタは未熟者と」
「馬鹿にしないで貰いたい。その先を見ることは出来るがね。此方も命が欲しいんだ、其処までして此方には価値的なものが得られないと判断したまでさ。」
「それは簡単に言ってしまえば、言い訳にして逃げていると。」
「は、何とでも言うが良いさ、とにかくこれ以上知りたけりゃ」
「いや、別に知りたいとは思っても考えてもいないから良いですけど。」
「そうかい」
「でも、」
「なんだい」
「それならどうしてあんなに驚いていたのかなと」
「ふん、それは簡単さ。あんたの中には見ても触れてもいけない領域みたいな部分があるのさ。それも、頑丈で頑強な部分さ。何故、そのような部分が在るのかは深くは探らないけどね。此方も命が欲しいからね。途もあれ、どうも今は触れない方が懸命だろうね。ただ、相当、深く絡まり、食い込んでいるね。因果の鎖と業の楔、と言った方が正しいかも知れないね。」
「ふううん」
「どうしたい。なにか心当たりがあるような顔だねえ」
「え、そんな顔してましたか。」
「そう返すかい。まあ、深くは詮索しないけど。もう1つ。」
「まだ、あるんですか。」
「そう、聞きたいかい」
「出来れば。でもそれは料金に」
「心配しなさんな。入っているよ」
「そうですか、なら聞きたいです」
「今言ったが、それと1つ不可解な物が紛れ込んでいるね。それも、厄介な事にソナタの鎖に絡まっていてどうにもならん。これは、ソナタの一部に成っており、剥がす事は出来ない。今はどうしてか抑えられているようだがね」
「ふうん、そうですか」
「これくらいかね。忠告を聞くかい」
「どうぞ」
「・・その部分、特に前者が何なのかは知らないけどね、まあ両方なんだけど、結局は。そのどちらにもに呑まれないように注意する事。どんな事でも自分を失わないようにすることを心掛けておきなさい。それくらいかね」
「で。」
「は」
「いや、あのですね。僕の昔は何となくですけど理解はしましたよ。でも、僕の現在から先の事は言ってませんよね。」
「ふん。浅ましくも卑しき思考よ。それに行き着くには早いがね。そうだねぇ。知りたいかい。知りたいなら」
「はい。」
「出すのが早いね」
「そうですか。渋るよりも良いでしょ」
「ほほ。確かに。どれ、気が進まないが。見てやろう」
「又、息が荒いですよ。何か見えましたか」
「き、聞きたいかい」
「一応は言った手前、聞いた方が良いかな、と思いますけど。何か不味い事でも」
「ふう。聞きたいなら教えてやろう。」
唾が喉を通り、食道から胃に収まる。
緊張するな。何か。
「ソナタ、本当に生者か」
「い、いきなり失礼ですね、何ですか。僕の手を二度も触ったんなら判るでしょう。生きてますよ」
「そうかい。そうだねえ」
「なら、何でそんな妙な言い回しを」
「ソナタの先が見えない。」
「は、」
理解できない。
「ソナタの先には見渡す限りの濃い靄が広がっている様に何も見えんのだ。」
「はあ、見えないんですか」
「そう、自分の手元も見えん」
「え、それ大丈夫なんですか」
「危ないを通り越して正直、死んでいる状態」
口が閉まらない。
「故に、再び聞くぞ。ソナタ、本当に生者か」
頷いた。
「そうか。なら同じことだが。自分を強く持つ事を心に留めておきなさい。それは近い内に来るだろうからね」
さて、これからどうしようか。まあ、取り敢えず貰ったこれを片付けておくとして。
僕の視線の先、手の中には一枚の情報カード、そこにはこの施設の見取り図と行き先が記されていた。
なんだ、此処。
合ってるよね。貰ったカードに書かれていた場所は。まあ、合っているはずだから開けてみるしかないよね。
扉に手を添えると全身に重い空気的な物が駆け巡った。
一瞬で治まって、何処かに寄りかかるように預けると、軽い音を響かせながら扉が開いていく。
ああ。入ったらいけないような。黒く、重い室内。目が痛い。どうしてか痛い。
『ほーはは。気にする事なく入りたまえ』
「入っても良いですけど、その前に、僕に何の用ですか」
『はーほは。入ってもらえれば全て話しますよ。何、直ぐに終わりますから』
「ここで帰ると言ったらどうなりますか」
『どうにもならんよ。ただ、貴方の周囲に何かしらが起こることは確実ですかね』
「それは、脅し。と、取っても」
『御好きなように』
それなら。
「いやはや。ほーはは。良かった良かった。ちゃんと入室してもらえて。もし、あそこで本当に帰られていたら私がどうなっていたことか、ううぅ。」
「で、僕に用件は」
「ほほは。まあ、其処にお座り下さい。今、用意しますから」
「あ、どうも。ありがとう」
何だか理解できなくなってきた。
「お待たせしました。ささ、御好きなものをお取り下さい。お口に合えば宜しいですが。勿論、飲み物も各種揃えてありますから遠慮なさらずに」
え、用意てそっち。まあ、出されたものは手をつけないと失礼とは思うけど。
「では、改めまして、と言うより初めまして。私はオーナー代理をしている者でして、次期が確定するまでですがね。あ、此方も美味しいですよ、どうぞ」
「あ、どうも」
「それで、ですね」
ど、どうしたら。あれから随分経つのに話がすごく長い。そう言えば今の時間は。あ、時計がない。そうだ、端末で。
あ、動かない。はあ、疲れていないけど何時まで続くか判らないし、もう、早いとこ本題に入るかな。
「あの、それは、また別の時にして貰って、本題をしてほしいんですけど」
「む、う。は、い」
何で急に歯切れが悪くなるんだろうか。
「失礼。いや、中々に切り出すタイミングが、無くてですね、先ずは世間話から入った方が自然と入れるかな、と思ったものですからね。如何せん上手くは行かないものです。」
「・・・・」
「そう、ですね。長すぎると返って失礼ですしね。ううん。では本題に入ります。」
緊張する。
「・・・・に・・・・・・・い」
「はい、え。」
「え、本当に」
「あ、ご免なさい。聞き逃しました。」
「あのですね、その、オーナーに成って貰いたいのです。」
「は、はい。て、え。」
驚愕。
「お待ち下さい。どうかお聞き下さい。私の話を、どうか、お願い致します」
「知らないし解らないし、理由もない。僕を巻き込まないでもらいたいです」
「解っています。判っています。しかし、それでも、どうか、今一度私共の話をお聞き下さい」
「い、や、だ。それならはなしてください。服が伸びてしまいます。」
「ああ。お願いします。」
「はなさないなら、このままでも帰らせて」
「その辺にしてもらえると有り難いのだがな後の主よ」
「っ」
「あ、おおお。総括。待っていましたぞ。」
「はあ、代理、早くはなしてあげなさい」
「し、しかし、離すと」
「はあ、後の主。貴方も人が悪い。」
「はい。出てきてくれましたか。で、何がですか。」
「何ですか。結局判っていたんですね、私の存在を。それでも今は置いておいて、そうですね。貴方は先ほどから言っていますよね、はなして下さい。と、」
「あ、バレてましたか」
「総括。君は何を言っているんだ。先ほどから離してと帰ろうとして」
「一種の言葉遊びですよ。」
「そうですね。」
「一体、何を」
「ですから。こう言っているのです。はなして下さい。と。おやまだ気づきませんか。困ったものです。それでも一応、ここの代理でしょ。そうですね、簡単に言うと貴方の話を聞かせてください。だから、その手を離して下さいと。」
「ぐ、くく。私の事を試したのですか」
「そうです」
「あ、それ否定」
「は」
「実際問題、心底とっとと帰りたいです。でも、下の得体の知れない影が居て帰れそうもないし。正直、困っているんですよ。受ける受けないに関わらず、どうやって帰ろうかな。と」
「下の、ああ。あれなら大丈夫ですよ、警戒用にいるだけですからね」
「け、警戒用てあれでですか。かなり恐かったですよ」
「それは、後々にして、本題を」
「それでは、改めて。先ほどこの者から聞いたと思いますが、貴方には此処の主と成って貰います。」
「断るのは」
「それは、出来ません。なぜなら、完全確定していまして、これは、貴方が世界に顕れる以前から決まっていた事ですから。素直に諦めて下さい。」
「確定、それも完全ときましたか。それなら、それに対する何かとか」
「おや、御理解が早い。もっと食い下がるかと思っていたのですがね。で、何かとは具体的には」
「それは、此処の権限とかそんなのですかね」
「ああ。それは貴方が承諾して下さり権利書を受けた時に、それまでは使用権利が制限されますが、最終的には全て使用できるようになります。」
「それでも此処の権利は、今は制限付きでも好きに使っても良いと」
「細かい事は後でお送りしますよ」
「ちょっと待って下さい。」
「何ですか代理」
「何か自然と話が進んでいますけど、この者は、その、許諾したと」
「ええ、そうですね、承けてくれますよ主の権利を」
「そ、そうですか、はは」
「あの、ですね良いですか、幾つか」
「ええ、構いません、どうぞ」
「畏まった事じゃ無いんですけどね。それじゃ遠慮なく言わせて貰いますね」
「そうですね先ず、此処の業種。次にどれだけの従業員がいるのか。次は、どんなモノを扱っているのか。次がお得意さん等の詳細な情報は厳重に管理されているのか。次で最後、出来れば、で構いませんけどその品を1つだけ見せてください。以上になります。あ、最後じゃなくて更に1つだけ。代理さんの賭け金は。」
「はい。」
「え、」
「何を言っているんだね」
「そうだ、何の事だ」
「あ、ご免なさい。いえ、代理さんの言葉があまりにも不自然と言うか、何か心の何処かで焦っているような。そんな感じがしたんですけど。気のせいですかね。」
「は、はは。そんなもの私には解らな」
「別にアナタをどうするじゃありませんよ。追求してもどっかで切れるし別に問題にはしません。でも、それの大元には話を着けておかないと後々厄介な事になるかも知れませんし。あ、それとこれ、来る途中で落ちてましたよ。次は気を着けてくださいね」
「あが、あがががが」
「はあー、本当だとは。仕方ありません。今から行きましょうか後の主。場所の検討は付いていますから」
「ああ。それはまた後日にお願いしたいけど。それじゃあ行きますか」
「え、行くのですか。」
「はい。だって時間が開くだけ処分する時間を与えてしまいますますから。さ、案内してください」
「判りました。此方です。」
「あ、先に言っておきますけど、時間稼ぎのために遠回りは止めてくださいね」
二人が黙る。
「と、云うことなんで、皆さんはその場にいてくださいね。もし一人でも欠けていた場合、の事はどうしようか考え中なんですけど」と、大声で言ってみる。
見るからに古びていて、長い年月使用された形跡が無いように見えるけど。上手く誤魔化しているな。これも、後で報告してもらおうかな。
扉を叩きながら
「聞こえてますか。聞こえているんでしょう。今回は勝負事の他もありまして、まあ、色々に関して来たんですけど。代表者は出てきてください。出てきてくれたら嬉しいですけど。出ないなら、問答無用で全殺し」
叩く強さを更に込める。
「そうですね。無視するなら別に構いません。そうなれば、僕は好きに楽しみますから。ね。」
「ま、待ってくだせい。わ、判りました。今すぐ出します」
「あ、やっと答えてくれましたね。それじゃあ、うん。今返答した人が出てきてください。」
「は、どうしてですか」
「僕の問いに『出ます』ではなく、『出します』と言ったのはどうしてですかね。考えられるのは、その人が代表か、もしくは纏め役か、痺れを切らした臆病者か、それでも僕の問いに返答した人がその場の一番偉い人だと考えますね。違う可能性も有りますけど」
「わ、分かった。出よう。」
「あ、あれ、くそ、立て付けが悪くて開か、ない。ふんふん。あ、開いた。初めまして、俺が代表だ」
「うん。違いますね。そういうのはいらないから本人を出してください。じゃないと、本気で全殺しします」
「は、この俺が直々に出てやったのに開口一番がそれとはな、失礼すぎるぞ。おい、こんな奴が主に成って本当に納得しているのか。此処の、先は無いかもな」
「へえ。すみませんね。こんな奴で。そうですね折角表に出てきてくれたのに失礼な物言いかも知れませんが、それは、僕が言いたいですね。だって、貴方は僕と話していた人とは別人なんですから。別人と言える理由は簡単ですよ。だって去年一度だけ僕をそこの空間に引きずり込んだでしょ。その時に何人かの顔を覚えていたけど後、声も。その時、長く話していたのがさっきまで僕と話していた人ですよ。貴方は、違うか、お前は誰だ。僕を試すようなことは二度とするな。」
「ひ、ひひ、ひ」
背後の空間から、太く鍛えられたような腕が出てきて肩に軽く触れた。
「ぐはははは。よく気づいたな」
「いや、気づかない方が可笑しいでしょう。」
「はっ。違いねえ。どれ、中に入んな。交渉と行こうか」
「は、交渉。そんなもの今更するわけないだろうが、こんな事をして遅い。問答無用で此処から出ていってもらおうか。」
「なん、で」
「と言えたら面白いですけど。どうします。本気でそうした方が良いですか」
「何を根拠にしているのかは知らんな。俺達は休憩していただけだぞ。そちらは証明できるのかい」
「別に。此処で何をしようと今のところ関係は無いんですけどね。それでも貴方含めて其処にいる人達にはある罪状がありまして、それも世界的にも重い罪になります。あ、これはどんな人でも関係なく適用されますから」
「それを回避する方法は。」
「簡単です。貴殿方のこれまでの所業を白状して、僕の出す条件を呑んでもらいます。これを呑まなかった場合、従業員全員一斉検挙。に成りますね」
「判った。なら、いま此処でオマエヲ潰す」
「ふう、理解りました。承知しました。こうなるって分かっていたんだけど。しょうがないよな。なら。全、殺し、決、定。ですね。」
笑顔を張り付けてみる。
大勢の絶叫が重なり、1つの曲を奏でているように聞こえる。
「ど、どうしたのですか。一体何を」
「ああ、今この人達は、えと、苦痛と絶望と孤独と拒絶をその身に受けているはずです。多分」
「言っている意味が理解できませんぞ。この状態はまるで、精神系のそれと」
「そうだ、これでは有力者と同じ、まさか、後の主よ貴方は」
「うーん、それがどうなんでしょうかね。正直、僕には解りません。実は僕もそれの能力的なものは知りません。どうしてこんな事ができるのか、過去にも幾つかのそれ系の施設で調べて貰ったんですけど結局は判らずじまい。最後の綱として島の施設で調べてもらおうかなと。彼処の施設は世界でもトップですから」
「では、後の主は自身の生まれを探しておいでですか」
「うん、それも最初はあったけど、今はそれよりも自分の欠落した部分を見つけるために探っているだけです。まあ大体は入手できていますけど。」
「それでは、貴方は自身が何者なのかは気にしないのか」
「それはそれ、これはこれ。ですから何処かの何かが切っ掛けで知ることが有るし無いかもしれないし。今は置いときましょう」
「はほほは。不安にならんのですか。自分の過去を知りたいとは思わずにはいられないはずですよ。それを否定できますか。」
「出来ないでしょうね。実際不安が無いと、言葉で言っても心は正直です。匆々、納得出来ないでしょうね。」
「なら、後の主よ。貴方はどんな感情で今の世界を生きているのですか」
「そうですね、それじゃ、次に会ったときにでも、気分が乗っていたら教えて挙げます」
「そうですか。ならば、この話は此処までとして、では、この者たちの処分は」
「これ、」
「なんですか、それは」
「これは、契約書ですよ。と、言ってもそんな面倒な書面じゃありません。何なら全部読んだ後に署名してもらっても良いですけど、あまり時間は掛けないでください。それが済んだらこの件は終りです。後は、賭事に関してですが、五月蝿いですね。流石に。放置しようと思っていたんですけど」
叫び。のたうち回る人達を一斉に向かせてその瞳を覗き込んで静かにさせる。
結構経って僕は、ある物を取り出してそこに関係した人達の署名と捺印をしてもらい、それから細かい手続きをして出入り口に向かう。
「それじゃこれで失礼しますね。あとこれ、一応、彼方には提出しておきますから、後程連絡があると思いますけどちゃんとしてくださいね、それじゃ。」
「本当に我らにはお咎めなどは、その」
「賭けに関してはそうですね。それも、一種の息抜きに成りますし、やり過ぎない程度なら看過しません。好きにしてくださって結構です。」
「それを聞いて安心した。」
「それでも、此方はどうなるかは分かりませんけど」
「それは、ぐ、仕方ありません。素直に呑むしかないでしょうかね」
「肩肘張らずに気軽に待っておいて下さい。そんな重い事にはならないはずですから」
「そうですか、では、それも含めて今後の事は貴方にお任せします。それと、例の権利書は手続きが済み次第送付します」
「はい、では、これで、行きます、ね」
「全員、我らが主へ」
「我らが主に最高の栄誉と高潔なる意思が持たらされんことを」
『サー・ウィー。インヘリテッドパワー・インヘリテッドペイン。インヘリテッドプレゾン』
「意味は分かりませんけど、まあ、何でしょうか」
「それでは、その内、その時の間で再びお会いできることを願って」
「あ、出る前に聞くのを忘れる所でした。」
「何でしょうか」
「この施設か何かは今だに解らないですけど。この名前を教えて下さい。」
「それならば出た後で表を見れば判りますが、直ぐに見ないと見逃してしまいますし。」
「なら、教えて貰っても。」
「それは、現時点では、不可能です。貴方は真の主ではありませんから」
「そうですか。なら、今日は知らなくても」
「先の時間で知ることになりますからね。」
「それでは暫くか、その内か、再会できるまで暫し」
「はい。それじゃサヨナラですね」
「又、会いましょう。」
「は、アンタには感服しました。我らげほう一同、誠意を持って尽くさせてもらいます。そして俺達の事は必ず必要になるでしょうから。そのときは存分に使って下さい。」
「はい。」
「はほは。私共は貴方の側にいるのでね。では」
「ほほ、ほ。客人よ、これをお持ちくだされ、何れの時間にお会いしたときに必要になるでしょうから」
「はあ、有難う御座います。あ、そう言えば、あの質問の件ですけど」
「ああ、それはまた、別の機会までに準備しておきます」
「そうですか。じゃ、それで。」
「それでは」
『この先の時間でお会い致しましょう』
僕は扉を潜り抜けると直ぐに振り向いて、見上げたけれど、其処に書かれていた物は読めなかった。
どうしてか。それは、不思議な見たこともない模様のようで、頭で理解するよりも早く空間が捻れ、消失していく。
全身を揺さぶられるような感覚がすると。次に後ろから軽い衝撃が襲ってくる。意識が飛ぶかも、と考えていると足に硬い感触がする。
そして、前を向くと寮の前に立っている自分。
夢か何かだとは思わない。だって、僕の手には一本の鍵を確かに握っている。
ん。あ、れ、まあ、良いかな。
僕は、鍵を握り締めながら寮に入ることにする。