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Heart of 6 〜黒と試練〜  作者: 十ノ口八幸
序章
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序章〜始め1〜 第1話

僕は、長距離移動によるというか、ここまでの十数日の間に起こった筋肉の凝りを(ほぐ)すため軽く伸びをする。

大きな息が漏れ、空を仰ぐ。

あの大災害の影響で北の中間に位置するこの国の気候が激変。3月も終わりなのに急激な寒さを要していたと思えば数時間経たずに面白いように一気に気温が上昇。安定する事がない。滴る汗が地面に触れる前に蒸発してしまった。

「つ、着いた」

僕が今日から住むことになる所、何気に古いけど、てか、庭の草も好き勝手に延び放題、手入れしてないのか。

外壁の至るところに罅や亀裂が走り、そこから植物が生え、幾つもの蔦が覆い隠していた。どう見ても廃屋にしか見えない。

取り敢えず、こんな所でじっとしていても時間の無駄なので敷地内に足を踏み入れた。

何故かこの時、心臓が激しく脈打っていたんだ。


「すみません。今日からお世話になる者ですけど」

今時珍しい手動扉を開け第一声を出したのに誰も出てくる気配がない。それ以前に人の気配すらない。

もしかして居ないのか。たしか連絡はちゃんと入れてあるはずだし、それはないと思いたい。

もう一度声を響くように張り上げて出した。

・・・・・。

出なかった。

仕方がない。ここは出直して来ることにして、と、急速に視界が暗転し、気づけば。


右を見て、左を見て、一回だけ深呼吸をする。

視界に入るのは黒一色。広さも時間も判らない、体は動くのか試しに力を入れてみるとなんの抵抗もなく動かすことができた。腕はある。足も胸も背も全てある。痛みはない。異常もない。あ、一つだけある。

何故か額にフカフカしたものが貼られている。

現状が理解できず、一応警戒して起き上がってみる。

本当に抵抗もなく立ち上がれた。

次に腕を大きく振り回してみる。

何かに当たる気配はない。

本当になんだろうか。と、悩んだ。


暫くその場で色々と試してみたけどこれといった成果はなく、だから移動してみた。

比較的早く額に痛みを感じた。どうやらそう広くない空間のようで壁らしきものに()つかった。

(かが)んで額を擦って声を圧し殺し我慢する。

本当はそんな必要ないんだけどなんとなくそうしたんだ。

思考を切り替えて立ち上がりその壁伝いに移動すると、何か突起物のような物に触れ、すかさず動かしてみた。

案の定というか黒色が消え失せ、視界にあらゆる色が配されて形や広さ、場所等が把握できた。云ってしまえば、電気がついた。

この時、変な声というか言葉が出た。

どうやら何処かの一室みたいで、広さも中々あり、壁には長方形の波打つ布が貼り付けられていた。

家具類は一切なく、代わりに1枚の薄い布が床にしかれていた。

「ここは、何処。」

一応として声に出してみたのですが、本当は判っていたのです。

ここは。


この時、いきなり背後の壁から機械的な音がして背に軽い衝撃を受けました。もちろん前のめりに体が傾き、そのまま両手足をつく形になって、視線を背後へ向けると、

「ようこそキョウリョウへ、ウウェ・・」

そこに、どうみても酔っぱらいがいた。

見た感じ歳はまあ二十後半か三十前半と言ったところか。

ヨレタ服に長ズボン。片手に容器を持って内容液をあおる。

「ぶひゃあぁぁ・・」

鼻を突く息を吐き出し、

「いやぁ。先ずは謝っとくよ。ゴベン。ね」

この言葉の意味を理解していたら違った道に進んでいたのかな。

「ゴベン、て何ですか」

「ゴベンはゴベンよ」

理解できなかった。それは、そうだ。あの原因がこの人含めてここの住人なんだから。

魚咲(ななさき)さん呑みすぎですよ。」

いきなり現れた声に目を向けるとこれはまた古風な服装をしたおじさんが出てきた。

歳は四十位か。無精髭を生やし、長い髪を乱雑に後ろで束ねていた。

そのおじさんは一つ咳払いをして、

「やあ、お目にかかれてある意味で光栄だよ。州環光魔くん」

そのまま部屋に入ってきて、僕の手をとり引き起こしてくれた。

「すまないね。」

いきなり謝られた。

「あの」

「少年は起きたかい魚咲さん」

別の住人らしき声がまた聞こえた。

「おや、起きたかい少年。すまないね。」

またか。

「あ」

そして、四人目が現れた。

「ひゃあぁん。あの子が起きたのねぇ」

何故か涙目だった。

「本当にごめん」

「あの」

僕は言葉を遮るように、

「なんでさっきから皆さん僕に謝るのですか起き抜けではありませんが唐突過ぎて解りません。」

「ああ。それは、すまない。うん、ちょっと一緒に来てくれるかな。玄関に行くだけさ。」

言ってから繋いでいた手を離して部屋から出ていく。

取り敢えず意味が解るらしいので黙って付いていくことにした。


玄関。そこには・・・・何もなかった。

ああ。本当に言葉通り、そこには扉や家具類が全てなかった。

これは、と云うかんじでおじさんをみると、

「今はご覧の通り何もないがね、実はここにある仕掛けを施していたのだか、運悪く君がこれにかかってね。毒ではないのだが、麻酔針が出るようになっていたのだがね。外すのを忘れていたのだよ。」

「それとこの状況になんの関係があるのかと云うとね、実は君が来る前、その装置を回収するときに誤って針を紛失しまったの。それを回収するために全部」

「え、でも針でしょ。直ぐに見つかるんじゃ。」

「うげ〜。吐きそう。」

いつの間にか魚咲さんがフラフラになりながら玄関まできていた。

「あの針はね、ウップ。細すぎて見えないのよ。」

死にそうな顔色をしながらそれだけを言うと、廊下の奥へと駆けていった。

あまり想像したくはないけど。

「ですからそれと」

「だからねその装置を外してそこに置いておいたの。」

指したさきは何もない隅の方。察するにそこに家具があってその上に置いていたと。

「それからどうしたのですか」

「それを私が知らずにその上に荷物を置いてね、装置が潰れて。誤作動を起こし何処かに突き刺さってしまい、君が入った瞬間にプスッと」

それで、いきなり意識が飛んだのかと、

それで納得できたら苦労はしない。

気になることが頭を過った。

「そもそもなんで直ぐに探さなかったのですか。」

「その事かい。それは、まあ簡単でありつつも少し複雑なことであるとも言えるかもしれない。」

「いえ、回りくどいのは置いといて」

「ふむ。簡単に云ってしまえば、私、魚咲さん、宇久矢(うくや)さん、山石(さんせき)さん、木詰(もつめ)さん、そして最後にリリモアさんの六人の行動がうまい具合に噛み合ってしまい、君に迷惑をかけたということになるのかな。」

この話の続きは長くなるといわれ、取り敢えず食堂に移動することになった。


「それでは事の顛末を話そうか。」

それほど広くもなくかといって狭くもない程々の広さに僕を含め五人が椅子に座り其々の前には飲み物が置かれている。

湯気たつコーヒー。(ぬる)めの紅茶。キンキンに冷えたジュース。水道水。白湯(さゆ)

全員が手に取り、一口含む。


では、話そう。どうしてあのような事になったのか。

事の始まりは装置が壊れたあと。亀沙早(きさはや)さんが修理するために装置と一緒に玄関を離れ、その後、魚咲さんが深酔い状態で帰宅し、何を思ったか突然大暴れ周囲を破壊、そのまま自室に籠る。それから暫くして用事を済ませた宇久矢さんが玄関の惨状から推測して片付けた後、自室に入った。それから時計の針が一周したときに木詰さんが帰宅。凄く虫の居所が悪かったらしく床を一回、鬱憤を晴らすように踏み込むと、まだ乾ききっていない床がぬけて転ぶ。これにたいして更に腹の虫が暴れだし、拳で床を殴り砕く。これで多少の鬱憤がはれたのか、そのまま何もせず自室に入っていった。次に現れたのは山石さんだった。この人の場合、外からではなく建物の奥から出てきたと云う。理由はただ執筆論文がつまって息抜きに出てきただけとか、その時は数日間不眠不休だったために注意力散漫状態なため足元がおぼつかず散乱した床のかけらに躓き転倒、朦朧とした意識で顔をあげると廊下や床、更に玄関までが燦々たることになっていた。このままでは危険と考え、おぼつかない足でなんとか片付けた。その後、気を入れ直し用事を済ませ、論文作業を続けるため自室に戻った。最後にリリモアさんが装置を設置して自室に戻った。この時、装置を起動させていることに気づかず、そのままにしていた。装置の起動で設置場所から針が刺さった場所まで微妙な振動が伝わり次第に緩み外れるタイミングで丁度、扉を開けられて刺さり、そのまま倒れてかなりの時間放置してあったらしく見つけた時にはまずい状態になっていた。手当てをするために部屋に急いで運び、他の針がないか探すために家具や扉を取っ払い捜索、暫くしたら音が鳴り響くと運んだ部屋に行き、扉を開け・・・現在に至る。


「と、これで終わりだ。何か質問はあるかい」

意図を読み取ろうとも思わず、

「ありません」

即答しておいた。

その場は自然と解散した。

食器を洗い場に置き、最後に食堂を出ると亀沙早さんが立っていた。

「何ですか」

「ああ、そう言えば聞いていたのだけど随分と若いなと」

この言葉の意味を理解するより早く、亀沙早さんが続ける。

「ここの新しい管理人がね」

は。と普通に疑問符が口から出た。

「カンリニントハナンデスカ」

なぜか片言になってしまった。

「なんだい管理人を知らないのかい。」

いや、そうじゃなくて。と口に出そうとしたら、

「管理人とは、法的又は所有者が委託した施設等を管理し、運用する者を指す。」

「いえ、そういう意味ではなくて、誰が」

「君が」

「何を」

「管理人をさ。」

「何処の」

「勿論、このリョウをね」

「はあああああええあ」

リョウから僕の声が周囲に響く。

全くそんな話は聞いていなかった。


数分後、僕は自室、と云うより管理人室にいた。井草を板状に加工したものを敷き詰めた部屋の中央に木製の机が一つ。そこに座し頬杖をついて思案していた。

こんな話どこから出たんだ。一体どこで。思い出してみた。



簡潔に言うと、自分の目的のためにこの人工島に来る必要があった。でも、そう容易(たや)く入れるわけがなく。幾日も周辺をさまよっていた。目前にある島への海路と陸路。両方に幾つもの警戒門が配置され、無理に入ろうとすれば問答無用で命を奪われる。事実、ここに来てからどれだけの人や動物が狩られたか知れない。

命を奪われなかった者もいたけど何処かへと連れていかれ二度と姿を現すことはなかった。


更に数日を無駄に過ごしていたら、いきなり拘束と目隠しと耳栓と口を塞がれ、どこかに運ばれ、全てを解かれたら薄暗い場所に手を座っている椅子に固定されていた。

『挨拶はいるかい少年』

機械的な声が反響していてどこから発しているのか見当がつかなかった。

『すまないね、手荒な方法で来てもらって。これもある方の命令でね、少年を拘束してこの場までつれてくる。そして、』

目の前が少し明るくなり、そこに1枚のカードが置いてあった。

『それは入島許可書だ。それと』

どこからともなく暗闇から1枚の紙が差し入れられた。

『紹介状だ』

首をかしげてしまった。

『それを許可書と一緒に見せれば数年間の居住地への経路を教えてもらえるだろう』

意味が。

『それと一つ。これの期限は』

激しく首を縦にふる。

笑われた。

『ああ、すまない。即答とはなあぁと。あ、少年の荷物は全て送るようにしておいたから安心してくれ』

すると、なんの前触れもなく強烈な睡魔に襲われ、気がつけば暫く住んでいる宿の自分の部屋だった。

あれは夢かなにかかと思い落胆したけど簡易机の上にカードとあの紹介状があり一安心。

あ、堕ちる前になにか言っていたような。たしか、


少年、この猶予はありませんよ。急いであの島へ渡りなさい。


とか。

おう。急いでて、いまいつだよ。残念ながら日時を知る術はないのでとりあえず受付の人にでも聞くことにした。


あれからあまり日数は経っていなかったので一安心。なのか。

ああもうホントなんだよこれ。すっごい心臓が興奮していた。

よし、この感覚が途切れない間に急いで身支度を整えた。


そこから何故か周囲が慌ただしかった。

その理由は後になってしったんだけど、どうやらあの渡されたカードは相当な金額を出しても手に入れることが匆々(そうそう)できないらしく、少ししてからいきなり取り調べを受けさせられた。

ここから2日ほど勾留され、三日目の早朝に叩き起こされ、没収されていた荷物とかを乱雑に返され、訳もわからず外に放り出された。

この時、不思議なのが所長らしき人の顔面が蒼白になっていた事と、あと返された荷物の重量がやけに増していたことだった。


それからカードに記載されていた場所に行くと大きな乗り物が用意されていた。この時の質問が、陸路か海路か。という二択を聞かれ、なんとなく海路を選んだ。

これが間違っていたのか、それともどちらを選んでも変わらなかったのか今ではもう遅いけど、今、思い返してみれば、あれは軍所有の船だったのかもしれない。

だって出航してから時間も経たずに船が襲われた。

その時、相手の船が複数回の轟音のあと、轟沈した、いや、それもアッサリと。

乗っていた船の回りには海に投げ出された船員の絶望と悲観と後悔と懺悔の言葉が波間から微かに聞こえたけどその後、無慈悲な粛清が執行され、残ったのは穏やかな蒼の水面だった。


さてさて、どうしてか、あの後複数回もの襲撃を受けてその全て、ことごとくを殲滅させ、人工島唯一の玄関口へと向かうのかと思っていたら、そこまでの海路をどう云うわけかジグザグに進んでいった。

この理由は少しして知ったけど正直、めんどくさい。

おかげで、本当なら数時間ですむのに結果的に島に着くのに一週間近くかかった。

船旅前半は良かったけど、後半は何故か個室に缶詰にされ、その上個室の空気は悪く揺れも激しい。結果、ずっと死んだように倒れていた。


なんの前兆もなくドアが開き、栄養剤やらをしこたま打たれたり飲まされたりして、上陸許可が降りた。


おぼつかない足取りで甲板にでると凄い警備が敷かれていた。そんなに重要な物資か人物でも運んでいたのかと思った。


ほぼ、一週間ぶりの陸地に感慨深く足を踏みしめて、通関所に向かうために幾つもの荷物を担いで歩きだすと、物々しい警備員達が一斉に船へと消えていった。

一体なんだったのかな。携帯していた武器も全て火力優先の代物だった。

船のなかで戦争でも始めるつもりなのか。

この時、そんなことを考えながら通関所へ歩いていた。

はずだった。


気がついたら、可笑しな事に、牢屋に入っていた。


この時はたしか変な言いがかりをつけられて、収監されていた。

また、どうしてか、身体検査や有力検査、果ては深淵監査とか聞いたこともないものまで受けさせられた。疲れた。

だけどこれは、三日程度で済んで、また外に放り出された。

見上げれは、空は紅かった。ため息が漏れた。


そして、やっとの思いであの建屋まで来られたんだ。


あれ、聞くも何も、此処にはたしか、・・・・・。あそうか。

僕は慌てて、荷物をひっくり返して中の品を探した。

案の定、目的のもの、そう、あの紹介状があった。

今時珍しい紙製の物で、包んであった中身を取り出して、拡げてみると、

『これは、特例措置であり、前代未聞の事であるが絶対に覆ることは出来ないものと心得よ。』

と、ここまでか前文みたいな文面で、

『西暦2564年3月初日より終わりまでの間に普遍の一人を以下の管理職に就かせることが上意の決定により決まった事をここに記す。ついてはこの者、いや、この普遍者に対する如何なることも禁止する。この禁を破った者はどの様な理由や考えがあるにせよ、厳重な、そして、重い処分を科すものと知れ。以上をもって取りかかることを厳命する。』

ここまでが本文で、

『以下 州環光魔。学生。桜島内区画外区画寄りIOH門出入許可地及び監査対象外物件特秘部隊管轄寮『教寮』管理者』

と、これが最後の文面。

そう書かれていた。


また変な声がでた。


そして、一番下の左から、

世界府庁管理外許可特殊部隊情報班一括管理局監理官 ウォルスターペンデット

最後に特殊な印が名前の上に押されていた。


読み終えて、ため息とも驚きともとれない声が口から出た。

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