一章~死にたいと言うのは心理的にはどんなモノ~終話
翌日の朝早く、日が昇るかどうかの微妙な時間に僕とアイツが湖の対岸に立っていた。四人はその中間の位置で其々が傍観していた。
その中の一人が立ち上がり、
「それでは不肖、私が判定をさせていただきます。勿論、公平に偏見などせずに努めさせていただきます」
手を上げ、多分、視線を僕とアイツに向けて強く降り下ろした。
まだ暗い空の下、僕とアイツは規則を決めていた。
そんなに細かい事は決めていない。決めるつもりもない。だから勝敗はどちらかが完全に倒れた時か審判の判断で。この2つのみにして内容は何でもありに。
簡単に決着が着いた。時間を掛けないとは云ったけどこうも早く着くとは。
アイツが動いたと思ったら僕の視界と思考から完全に消えたように錯覚してしまい、気づいた時には僕の目の前にアイツの手が迫ってきていた。
でも、結果はアイツの服が裂け、一本の切り傷が走って、顎が砕けて吹き飛び、血が壊れた水道管のように飛沫を挙げた。
完全に地面に倒れ、勝者の名を挙げたと同時に僕の全身に強烈な衝撃と激痛が走った。
軽く浮遊感を感じて、地面に何とか踏ん張り、自分の体を視るまでもなく、穴が沢山空いていた。
出血による、体温の低下、意識の混濁。そして、遠退く中でアイツが笑っていた。崩れながら歯ぎしりして睨み、死を簡単に受け入れた。
真っ黒な空間に自分だけ。それ以外の気配は無く、立っているのか寝ているの解らない。
何処からか音が耳に届き、大まかに聞こえただろうと思う方へと視線を向けると、微少な輝きが見えた。
手は伸ばさず、見続けている。
どうしてか不快な気分に襲われて意味も解らずもがいていると意図せずにその輝きに身体が吸い寄せられていく。
抵抗する気もなく、そのまま身を預ける。
近づく輝きと同時に不快感は頂点に達しようとしていた。
意識を取り戻すと僕の体は船の中にあった。
動力音が聴こえているから船が動いていることは解った。
それでも海面を穿つ音と共に船が急停止した。
僕の目は何かで覆われていて視界には情報が入らなかった。その代わりに耳から入る声には知っている五人の慌てふためく情況がみてとれた。
五人分の足音とその後に加わった複数の声と足音に、突き刺すような音。喚く声。床に叩きつけられる音が数回。それを最後に静音が停滞した。
波の音が辛うじて聞こえるだけだった。