一章~死にたいと言うのは心理的にはどんなモノ~(間〈2〉)
太陽光が激しく降り注いでいるこの場所で今、彼は物思いに耽っていた。
本当はこんな事をする時間も場所も許されているはずはなく、しかし自分の何かに対して必要だと思いこの場所にいる。一応、心配しないようにとの言伝ては、と。思い出しながらずっとその場所で座り続けていた。
されど生物としては当前なのだが、時間が経てば腹も減るし、眠りたくもなる。
故に一日中居続ける事は出来ないが、殆どをその場所で過ごしていた。
人工島、現代の方法で数ヵ月前に造り始められたこの島の領有権は世界府に有るとはいえ、それでも一部のものに対しての申請許諾は通る。だから、あの後に身の回りの必要最低限を持ってこの島に来た。
心配は誰もしていないだろうと思っているからか気にもせず、この島に居続けていた。
太陽が昇り、静寂に近い時間が終わりを告げ、彼を初めとする様々な生き物の目覚めが始まる。
それは、命の鼓動が感じられる一瞬の出来事。
彼を合図とはいかないが、太陽が昇れば身体や思考を休めていた生き物たちは現実に意識を戻してその1日を始めていく。
腹を満たして、その日の行動を考える事はしても、其を確実に実行できるとは限らない。しかし、それで行動を起こさないのは只の怠惰に他ならない。
彼は、その行動を一切放棄して1日座り続ける。
しかし、肉体を動かさない代わりに思考はずっと動いていた。
あれから幾日たったのか数えていなかったから解らないけど、それでもそんなには経っていないと思ってはいる。
考える。思い出す。あの計画を。
周囲は大成功と言う。
そう、大体が成功していた。
それでも尚、腑に落ちない点が有った。
それは、あの後で確認を取ったから確かだった。
確実に可笑しかった。あり得なかった。
あのときは、進歩したなぐらいにしか思わなかった、全てが終わって、あの居心地の悪い行進が終わって、思考を切り替えて、そしてあの記録を全て見直して確実に其処へと至った。
思考は切り替えてもココロは簡単にはいかなかった。
確かに、島に来る前に全てを精査して吟味して考えて最後に行き着いた答えは自分自身の甘さだと認識した。
それが敗因だと結論付けた。
そう。思考は切り替えた。
でも。ココロはそうはいかなかった。
頭で解っているのに毎日あの光景が夢に出てきて、それを繰り返し見続けている。殆ど拷問に近い状態だった。
これであの約束が果たせなくなった。どんなに悔やんでも。
全力で相手を叩きのめす。そしてその差を見せつける。それを再開するまで勝ち続けて見せる。それが叶ったら。
彼の脳裏には数年前にある社交場で出会った相手の顔が今でも鮮明に思い出される。
一目惚れなのかもしれない。もしかしたら別の何か、かも知れない。
それでも思い出される。あの笑顔を見て、それまでこの世界に自分が生まれ、どうして生きているのかという意味を知った瞬間だった。(ただ、これは自己中心的で主観な思考で若干の脚色は否めないが)
それから、一つの約束をしてそれをずっと守り続けてきて。でも、それは叶わなくなった。
頭で理解できても、やはり、ココロが大きな、それは、現在進行形で穴が空き続けていた。
それをどうにか埋められたら。と。
そう考えていた。
逃げたのは自分だと周囲は思っているだろうか。言伝ても曲解されていなければ。
そんな暗い思考が空いた穴から少しずつ涌き出て、それを別の思考で払拭させていた。
ココロが擦りきれて限界が近かった。
ため息と共に呟き漏れた言葉は、「死ねるものなら死にたい」と自然に、無意識に出てしまった。
それに気づいて頭をふり、空を仰ぎながら最後には其処へと帰結していった。
「はああ。死ねるなら」
三度目のため息と共に、
「死にたい」