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Heart of 6 〜黒と試練〜  作者: 十ノ口八幸
一章
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一章~死にたいと言うのは心理的にはどんなモノ~第2話

薄暗い校舎を歩いて玄関に向かっていた。何処からか風が吹き込んでいたのか、窓がやたらと鳴っていた。


鳴り響く窓の音を聞いてふと、外の風が強いのかなと考えながら玄関に着いた。

靴を履き替え、扉に手を掛けた瞬間、全身に猛烈な悪寒と吐き気がした。そして、咄嗟に少し引いて回りを見ていた。


なんだろう、この違和感は。それが僕の脳裏に浮かんで再度見渡すと急に全身を無数の腕で掴まれ、口を塞がれ、目を隠され、耳に何かを突っ込まれ、そのまま、後ろ手にされて、宙に浮かされ、何処かに引きずり込まれた。


だからか目に映る光景が理解できなかった。

それを既知とするなら僕の範疇を越えていた。

太古の儀式か、はたまた何かの祭りか。

答えは、後者だった。正確には宴だけど。でも、どの人どの人、見たこともない顔ばかり。

『お。メぇサめたか。』

近くにいた人が僕に気づいて全員に声を掛けた。すると、依ってたかって僕の頭を捏ね繰り回した。

その不可解な光景に僕の頭は混乱していた。

回りを見回すと知らない場所で、更に混乱して唸ってしまった。

『おお、ナンでぃ。どした、ああ、このヒヨウはシンパイするな、どうしてかとイウとなこれゼンブカシラタチのハライだからな。キにするな。よ』

とか、僕の背中をバンバン叩く。痛い。

どうにも解らないままにその中心に連れていかれた。僕の全身がまた痛い視線に晒された。

はたまた、理解できないままにこの宴は長く続き、目を覚ました時には校舎の隅で寝ていた。

風邪を引いた。治るのに三~四日かかった。


完治してから何日かして相変わらずの教室内には馴れてきた。やっぱり、人間の馴れは恐ろしいなと。最初はどんなに違和感や気持ち悪さがあっても次第になれていく。


さて今日も授業を受けながら指を動かして画面に内容を打っていく。

一応、授業の内容は理解しているけど、二週から三週の間は受ける事が出来なかったから僕はまだ早朝と放課後を利用して補習を受けていた。それも、あと数回で終わるはずだった。

そう風邪を引いてしまった影響で更に延長された。はああぁ。いつ終わるのか。

この日、最後の授業の終了の鐘が鳴り、補習の準備のために出された課題の最終確認をしていると、後ろから呼ばれた。


気がしたのにそこには誰もいなくて、不思議に考えながら前を向いて準備を進めた。

一通りの事を終わって、廊下に出ると頬を思い切り叩かれた、それも往復で。

は。とか声に出したはず。その上、横腹に蹴りが入り横薙ぎに倒れた後、追い討ちで頭に一撃を貰って意識が混濁して、そのまま何かに呑み込まれた。


混濁した意識のままに殴られ続け骨が砕け、皮膚を突き破り血が滴る。

視点が定まらない、何故か言っている事が聞こえているのに理解できない、そう、まるで異なる生物と話しているように、その言葉が適当な音を並べて音を出しているような感覚。

「ふは、ははは」

どうしてか笑いが自然と出てきた。

それが勘に触ったのか、僕に更なる暴力が奮われた。


多分、あ、絶対、僕の全身は何処を見ても元の箇所は無かっただろう。


今にして思えば、仕方無かったのかも知れない。最後の賭けに出たのにそれが叶わず、さらに悪化してしまった。

聞いていたのに、全然改善されていない。こんなの理不尽すぎて可哀想すぎて、我慢できない。

なら、解らせてあげる。

痛みを悲しみを虚しさを。

その負の感情を誰かに向けて、心の安定を保とうとしていたのだろうか。今でもその理由は知らない。


肩で息を整えて最後に僕の脳天に重い一撃を入れて終わった。


口は形を成さず。鼻は潰れ、眼球も潰れ髪も皮膚から引き抜かれて其処らに打ち捨てられていた。


弁明しようにも、口はこれだし、鼻がこれなので息も絶え絶えだった。


頭を強く蹴られたからか相手の言葉が言葉として聞き取れなかった。

と、同時に僕の限界が来ていた。


僕はこの時、死んだなぁ間違いなくと、考えた。それなのに。


静かに目を開けると見慣れた天井が。

そこは、何時もの部屋。つまりは僕の自室だった。

欠伸と伸びをして記憶を辿り、軽い記憶障害を患っていたけど時間が過ぎると戻っていった。


完全完治したその日の夕方。先生を捕まえて、例の事を聞いてみた。

すると、何かの手違いで彼方に情報が届いてなかったらしく、つい先頃に契約を交わしたと、その証として一枚のヒラヒラな物を出してきた。

今では珍しいカミ、という物らしく貴重で現在では余り出回っていないとか。

これを持っていれば相手も反故には出来ないとかいっていた。

まあ、約束を守らせたということで、これからはあいつをどうにかして立ち直らせてやろうかと。


息む気も、勇む気も、無く、近いと思われる人を探して近況を聞いてみたけど、どうも会っていないらしく、知らないと言いながら煙たがれ避けるように逃げるように何処かへと消えた。

その後もいろんな人に聞いてみても分からず、あれから随分と経っているのに皆は心配じゃないのかと。


日陰で涼んでいると人の気配が近づいてきていた。

知らないと思っている。今でも。


そこには怒りと悲しみと憤りを現したような顔の生徒が全身を振るわせて立っていた。

その生徒は開口一番に僕に怒りをぶつけていた。

一通りぶちまけて、多少すっきりしたのか、その表情は晴れやかだった。

数日前の事と関連しているだろうなと思っていたら大部分で当たっていた。

僕が全く何もしないから回りが凄くややこしいことになっていると。この状態が続けば破綻するかもしれないと、そうなったらこの島の権利を巡って争奪戦が始まってしまうらしい。


それとかあれとか、あの生徒以外にも僕に近づいて焦りながらとか、泣きながらとか、吠えながらとか、まあ、要約すると。

早く立ち直らせてほしいという事だった。


本当にこんな事に時間を割いている意味はないけど、引き受けた手前、解決しておくしかなく、先ずは親に直に話しておく必要があった。

その手続きはすんなりと通って即日に屋敷の一室に通された。


その部屋は外に通じる物がなく、何処をどう来たのか、知らない内にこの部屋に僕は居た。

気づくと隅の方に一人居て、何処から出したのかテーブルの上に次々と食べ物を並べていった。


飲み物と軽い食べ物に手を伸ばして食べていると、大きな音と共に人影が見えた。

果たして、そこに現れたのは。


緑を基調として闇よりの色を配した上下同色の制服を着ていた。

手は、薄い保護膜を付け、何かを持っていた。

渡された物は一つの簡易端末だった。


渡された簡易端末には次の事が書かれていた。

『本日はご足労願い感謝を述べる。私は此度の件を深く受け止め、今後はあの子に対して真正面から向き合うと決めた。その矢先にあの子が、あのようになり私としても、困り果てている。本来ならば身内の事なれど、家族に対しての接し方を知らない私ではかける言葉はなく。

しかし、このままでは、あの子の人生が狂ってしまう。こんな事は君に対して大変失礼だとは重々承知しているが頼みたい、あの子の事を』

堅苦しい言葉。

それが、読んでいた印象だった。

『あの子についての詳細は側にいる者に聞いてもらいたい。

本来なら、私自身が面と向かって話さねばならない事なのだが急な私用が入りこのような形になってしまい申し訳なく謝罪する。

では近い内に会えることを楽しみにしている。』

最後に名前が書かれて締められていた。

ふむ、内輪だから別に関係ないけれど。まあ、ここは置いといてと、

「あの、この側にいる人て誰ですか」

端末を渡してきた人に尋ねると、

「私では有りませんが、そうですね。その前に一つ」

「何ですか」

「直ぐに取りかかられますか、それとも、日を改めてから」

「今すぐにでお願いします」

顔の一部が小さく動いたように見えた。けれど、そこは無視して話を進めることにした。


部屋を出て。一室に通されるとそこには一人の女性がいた。

「この者は坊っちゃんの護衛と教育を受け持つ者でございす。幼少の頃から現在もその任にいるものです。お訊きしたいのであれば何なりと」

そう言って僕を部屋に入れると外に出て、扉を閉めた。

「ど、どうも。初めまして、これか」

室内に乾いた音が鳴る。

いきなり頬を引っ張叩かれた。少しよろめいて、彼女を見ると悲しさよりも怒りよりもその表情には寂しさが伺えた。


熱い飲み物をカップから喉に流し、食道を通して胃に収まるとその熱が安らぎを僕に与えた。

はあ、と息を吐きながらカップを戻して対面の相手を見た。

驚いたことに、先程までの表情が何処へやら、まるで何も無かったように澄ましながら自ら入れた飲み物を飲んでいた。

一つ咳払いをして僕に謝ってきた。そして、

「あの子に関する全てとはいきませんが、出来るだけの情報の開示許可は取っていますので。どうぞお聞きください」

「最初に、一つだけ。」

小さく頷いた。

「今、彼は何処に」

少しだけ躊躇したあとに端末を出してきた。

それを操作して一つのファイルを表示させると、僕に向けた。

「桜鈴島付属島・87番島/所有者:未登録/本島距離:441キロ/島の現状/建島中につき立ち入り禁止(なお一部、特別な理由あれば入島、滞在可能)」


それから可能な限りの情報を聞いて、最後に2つの言伝てを頼んで屋敷を後にした。


数日後、月が変わりかける前に僕はあれから更に情報を仕入れながら幾つかの方法を考えていました。

でも、そんな難しい事を考えても疲れるので2つに絞って決めました。

その更に数日後、月は変わり、少し汗ばむ季節が訪れたその日に僕は島へと渡ろうとしていた。


目の前に広がる海を眺め、埠頭を歩いていくと倉庫の陰に一隻の小型の船があるはずなのに、陰も形もなくて、少し待ってみたけど来なかった。

聴いていた時間まで余裕があったから周辺を探していると倉庫の間の狭い水路に目的の船が横付けされていた。

聞くと、用心して場所を数分毎に移動していたらしい。

僕があと数秒遅かったら移動していたとか。

早速向かうかと聞かれたけど、用事を済ましてから改めてと言って、持っていた荷物を渡してその場を離れた。勿論、船が出た後にだけど。


港を適当に歩き回り、桟橋が有ったのでそこを歩きながら渡りきり、絶景の眺めを見ながらため息を吐く。

腰を屈めて片ひざを着いて靴の泥を軽く払おうとすると頭上に何かがかすった感覚がして見ると床板に穴が空いていた。


目元がヒクついた。

歯軋りをして、手を上げてユックリと立ち上がった。二発の威嚇らしい穴が足元に。

背後で乾いた音が複数、閃光と爆音と衝撃。

呼吸が一時だけ出来なかった。

まあ、相手にはそれで充分なんだけど。

複数だと思う足音とかの後に身体を押さえつけられ、猿轡と手錠。足を縛られ後頭部に硬い何かを押さえつけられ質問された。

答えには頭を縦と横に振ることだけど。ここは素直に答えておいた。どうせ、全て知られていたはずだし。

「最後の質問だ。君は何処に行こうとしていたのかな」

「もしかして目標の居所を知っているのか」

「どうなんだ。答えなさい」

縦に振る。

「そうかい。なら、その場所に案内してもらおうか」

横に振る。

「どうやら、命は要らないようだ」

横に振る。

「おえおろっえ」

「何を言っている」

「ああらおえろっえ」

「どうやら猿轡を取ってくれと言っているようです」

「それは出来ない。君の事は色々と調べがついているからな。外せば最後。我々の命が危ない」

「おえあいんはいひはいえうああい。あわえややおおひえいいえふ」

「何て」

「どうやら。『それは心配しないでください』えと、『暴れたら殺してください』だと思います」

無言。

「あの。どうしました」

「お前、良く分かるな」

「いえ、その、ニュアンスとかそんなので何となくですが君、合っているかな」

首を激しく振った。

「本当に暴れないか」

「ふぁい」

取ってくれた。

「あの、僕も居場所は知っていますが、それが何処にあるのかは検討が付きません。色々と調べましたけど、それらしい場所は該当しなかったので、しょうがないのでしらみ潰しに探そうかと思っています。一応の指針はここから441キロの場所にいるとか何とか。それだけです。どうにか手配を済ませて、海に出ようとしていた所です。」

「それはおかしい。なら何故、直ぐに出航しない。君が先ほど話していたのは手配した船だろう」

「いえ、あれは確かにそうですけど。あんなちいさな船で出れば複雑な海流に翻弄されて途中で轟沈していたのであれには、別の事をしてもらいました。」

「何を」

突如、後方に待機していた人が横薙ぎに吹き飛んだ。

全員が、そちらを向いて押さえた力が僅かに緩んだ瞬間に体を回転させて、近くにいた一人の急所を蹴りあげた。

口をすぼめて冷や汗を滝のように流し、そして、次の狙撃で側頭部を撃ち抜かれた。

残り全員が警戒体勢に移る。

「今の狙撃では」

「初激は不明ですが、二射目は見えています。」

その、言葉通りに指示した場所に撃ち込むと、小さな爆発が見えた。

「く、あれだけとは限らない。総員、次点特別許可、使用を許可する。全方位へ撃ち込め。」

どうやら、人一人を倒した僕の事を忘れて、周囲へと警戒していた。


そして、僕は始めて見た。人が道具を使わずに遠方の射撃装置を全て、(ことごと)く潰していく光景を。


その時間は僅か、最後と思われている装置を潰して、複数の視線が僕に注がれていた。


問いただされ、そこから拷問に近い事をされた。


はあぁ。空が青い、事もなく、雲が拡がり日差しを遮っていく。

それは、現実を忘れたいために思考を別の方へと向けていたのかそれは今になっては解らない。それでも、僕は大きな倉庫に引きずられ、監禁され、その回りには多国籍とおもしき面々。

服装や装備、言語に至るまで全てがバラバラ。これで統制が取れていたことには驚いた。

「さあ諸君。これで依頼主との契約は果たされる。大金を手にして我々の国へと戻ろうじゃないか」

歓声と鳴り響く音。それは、迫っていた時間。

僕は、その中で、絶望の表情を張り付けていた。

太い柱に繋がれた僕に多言語で話しかけてくる人達。笑いながら頭から液体を際限なくかけられ、息が苦しかった。

「おい、外の者達も呼んで祝杯と行こうぜ」

その言葉を待ってましたと言うように表で番をしていた人達が中へと入って幾つかの輪の中に入って行きました。


尚も僕に代わる代わる話しかけてくる人達。

もう時間を掛けて、さらに、表の、いや、外の見張りも全員呼んで宴会を楽しんでいた。

「さて、」

(いぶ)かしむけどすぐに吐きそうな息を吐きかけ、意味もなく笑う。

「最後の宴会は楽しめましたか。」

そこからは到底、口では言えない光景が広がっていきました。

あの和やかな雰囲気は何処へやら。

一変して恐ろしい事態へと発展していきました。



倉庫から響くあらゆる音や言葉は、次第に小さく、少なくなっていった。


最後の音が止み、重い扉を開け出てきた人影は手に持つ何かを耳に当て、何処かに連絡を取っていた。それが終わると何事も無いように倉庫を後にした。

開け放たれた倉庫の扉からは鼻を突く臭気が溢れだし、一帯を異常な空間へと変貌させていった。



のし掛かるような厚い雲が空を隙間なく埋めつくし、天候が荒れることを予感させた。

その予感は的中して、何時間か後には猛威を奮う嵐が吹き荒れた。


倉庫を出て、頼んでいた場所に着くと、先ほどの船があった。

今から乗る船で船員は船長一人だけ。他は非番にしたとか。

「どうでい、用事は済んだのかい」

「ええ、滞りなく終わりましたよ。設置していた残った装置も全て回収しました。後は、専門の人に任せて行きましょうか。これから数時間だけですけど、よろしくお願いします。船長」

「おう、任せな。大事な客からの依頼だ。抜かりなく目的地まで運んでやるぜ」

僕は、やっと島へ向かうことが出来た。

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