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雪だるまの囁き

作者: 大岩幽霊

12月中旬、初雪が降りました。

この時ボクの姿はまだありません。


12月クリスマス。

珍しくホワイトクリスマスになりました。

でも、やっぱりボクの姿はありません。


お正月も雪は降りましたが、ボクの姿は見当たりません。


雪が少ないのです。

天気予報でも今年の冬は太平洋側に張り出した温かい空気がシベリアからの寒気団を遮って日本まで届ききらないため雪が少ないとのことです。


確かにその後も何度か雪が降りましたが積もりませんでした。


「もうすぐ春がやってくる。もう今年の冬は子供たちの笑顔には会えないなぁ」


ボクは泣きたい気持ちで、空の上でそっと呟いていました。


それを聞いたシベリア上空の冷たい北風は、ボクのことを可哀そうに思い、太平洋にどっしりと居座った温かい南風に会いに行くことにしました。


しかし南風のいる太平洋は温かくて本当に広い海です。


迂闊に近づくと北風も消えてなくなってしまいます。


しかも南風が今何処にいるのか判りません。



北風は危険を冒して広い太平洋を探しまわりました。


北風は温められてだんだんチカラがなくなってゆきました。


広い太平洋を彷徨って3日目。

ちょうど日本の南の海の上を通りかかった時です。


北「もうダメかもしれない。」


諦めかけたその時、

ごーごーと音が聞こえました。


なんと日本の南にある小さな島(小笠原諸島あたり(笑))に南風がいることを発見したのです。


北「おーい、南風!」


南「ん?ふぁ~、俺を呼ぶのはだぁ~れだぁ~?」


南風は島々の真上で悠々と眠っていたのです。


北「南風、そろそろそこを退いてくれないか?」


南「ふぁ~、よぉ~く眠ったなぁ。そろそろ秋かぁ?」


北「えーっ、もう冬になっちゃったよ!」


なんと南風は寝過ごしてしまったのです。


南「こりゃ、大変!ごめん、ごめん。」


そう言うと南風はどっしりと太った体をゆさゆさ揺らしながら急いで旅の身支度を始めました。


そもそも南風は汗っかきです。

準備中にかいた南風の汗は小さな島に突然の大雨を降らせてしまいました。


そして、旅の準備が整うと南風は飛ぶように地球の南半球にあるオーストラリアに向かいました。


そうなのです。北半球の日本が冬の時には、南半球のオーストラリアは夏でなくてはいけないのです。


北「さあ、これで準備は出来た!」


北風は急いでシベリアに戻りました。


シベリアが近づくにつれて弱っていた北風のチカラはだんだん戻ってゆきます。

そして更に速度を速めたのです。


ぴゅーぴゅー、唸りをあげてシベリアにまっしぐら!





北「南風はオーストラリアに向かったよ、もう大丈夫だ!」


ボ「ほんとう?ありがとう!」


北「お礼なんか後回し!急がないと春になってしまう!さぁ、急ごう!」


そう言うと、北風はボクを乗せて日本に向かいました。

その姿はまるで軍隊の大行進!


びゅーびゅー、ごーごー大きな音楽を鳴らしながら北風と仲間たちは一気に日本を目指します。


ボ「わぁ、凄いや!」


北風が通った後には真っ白い大地が広がってゆきます。





1月末の日本、その日の午前中に晴れていた空は、午後から急激に曇り出しました。


天気予報では、夜半から朝方にかけて大寒波の到来でしきりに大雪注意を呼び掛けています。


実は天気予報士たちも本当に驚いています。何故ならこんなに急に気候が変わることは滅多にないからです。


北風がとうとう日本上空までやってきました。


北「到着したよ!ここからはキミの番だ!さぁ、行っておいで!」


ボ「うん!本当にありがとう!」


そう言うと夜の真っ暗な空を数えきれない雪の落下傘が舞っていきました。


家や、公園のベンチや、駐車場の車や、学校の運動場…みるみる内に街並はみんな雪の下に埋もれてゆきました。


まるで魔法がかかったようです。





翌日は寒い寒い朝です。

外はシーンとしています。


大雪です。

何年に1回の大雪です。


お陰で車も自転車も、電車さえも大雪の影響で動いていません。


大人たちは早朝から大変です。

道路や線路、家の屋根の雪掻きに大わらわ。


でもボクの姿はまだありません。


家々の窓が開き、子供たちの声が聞こえます。


子「わぁー、真っ白だぁ!お母さんお外に行ってもいい?雪だるま作りたい!」


母「朝ごはん食べてからにしなさい!」


あちこちの家でこんな会話が聞こえてきます。


ボ「もうすぐだ…」





しばらくするとキュッキュッと長靴が雪を踏みしめる音が聞こえ始めました。


そして公園で1つ目のボクが出来上がりました。


するとその近くにもう1つ…


次は幼稚園の園庭でまた1つ…


次々にボクが出来上がってゆきます。


同時にいろんな場所でキュッキュッの音が増えていきました。


そして昼頃には数えきれないボクが誕生しました。


子供たちはボクを盾にして雪合戦をしたり大声で叫んでいます。


子供たちは白い息を吐き、顔は真っ赤、手袋はびしょびしょです。


ボクの顔も雪合戦の玉が当たって壊れたり、また子供たちが雪を足して治してくれたりしました。


本当に楽しい時間が過ぎて行きます。





夕方になり、また冷え込んできました。


子供たちは家に帰ります。


沢山の水滴で曇った窓ガラスを見ていると家の中の暖かさが伝わってきました。


今外は再びシーンとしています。


ボクの周りには、子供たちの長靴の跡がそれはそれは沢山付いています。


ボクはその1つ1つが誰の足跡なのかが判ります。

そして足跡の持ち主の笑顔も全部覚えています。

ミクちゃん、サツキちゃん、リョウくん…みんなの笑顔が浮かびます。





ボ「あぁ、今日は楽しかったなぁ~」






子供たちが眠りに入った頃、空からは今夜も雪が降り始めました。


ボ「あっ、ボクの体だ!これでまた明日も遊べるぞ。」


ボクは真っ暗な空の上にいる北風に囁きました。





ボ「ありがとう…」





終わり。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 童話作品では稀に見るストーリですが、いい物語だと思いました。 [一言] 童話作品に感想を書くのもなかなか難しいですが、個人的に好きな雰囲気です。 素敵な作品をありがとうございました。
2016/02/13 18:44 退会済み
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