普段怒らないひとほど怒ると恐い。
今流行りの婚約破棄ものを書いてみました\(^o^)/
※この世界は中世ヨーロッパではなく、現代寄りです。
「アンヌ、婚約破棄しろ」
親同士が決めた婚約者であるレオナルが私を放課後誰も居ない教室に呼び出した。私はそこで彼を待っていた。そして彼が現れ、教室に入った瞬間に言った言葉がこれだった。
「は? いえ、何故そのようなことを?」
私を呼んだのだから彼が遅れて来るのは礼儀に反している。しかも、隣には黒髪の少女がいた。黒髪は耳の下で切りそろえられていていわゆるボブというふんわりとした髪型だった。唇は淡い桜色でグロスの効果でぷるぷるとしていた。目元を見ると少し違和感を感じた。けれど、それは直ぐに解決した。まばたきをするとまぶたが引きつっているからだ。それはアイプチをしていることを表す。アイプチとは二重にするもので、その完成度は整形レベルだ。
頬は淡いピンク色でどうやらチークをつけているようだ。この学校、化粧禁止なんだけどな。
「本当に愛せるひとを見つけたんだ。だから婚約者はお前ではなくジュリエッタがいい。」
「結婚は愛するひととするべきです!!死ぬまで、ずぅっと好きでもないひとと一緒にいるなんて私だったら耐えられない!! 婚約破棄は貴女のためでもあるの!」
ふるふると頭を振りながら私に懸命に訴えかける。その際、ふわりと女が好む甘い花の香りがした。
このひとは化粧だけでなく、香水までしているの??
「政略結婚の意味をご存知?
まさか、親に言われて結婚するだけのものではないことくらいは分かりますよね?」
にっこりと笑って問うと、自信満々に胸を張って答えた。
「ええ、それくらいは知ってるわ!! 利害一致の為のものよね!」
「その通りです。お金はあるけれど爵位のない我が家。そして、お金は無いけれど爵位のあるレオナルの家。結婚は私達家族の利益に繋がるものです。政略結婚は貴族の義務なのです。貴方だって貴族なのだからそれ位は理解してますよね、レオナル」
はぁ……、と溜め息混じりに言った。
「貴族の義務?」と言いたげなきょとんとした2人の表情をみて怒りすらわかず、ただひたすらに呆れる。
「で、でも俺は愛する人といたい!」
ぎゅっと隣にいるジュリエッタを抱きしめ言う。その姿は愛するひとを抱きしめているというより、幼子がぬいぐるみに抱きついているというほうがしっくりくる。
「義務なんかよりもこの先60年の人生の方が大切だわ!! だって、好きな人と一緒にいられる人生の方が楽しくて幸せだもの!」
熱く語るジュリエッタにアンヌは冷たい視線を送る。ジュリエッタも一応は貴族なのに貴族としての義務を蔑ろにしたからだ。
「家族を犠牲にしてでも? レオナルの家ははっきり言うと貴族の割には貧しい。私と婚姻することによってそこから抜け出すことができる。だから言ったでしょ、婚姻は私達2人のものではないことを」
「それでも俺はジュリエッタといたい。お前の冷めた物言いは限界なんだ! 可愛らしく俺を頼ってくれるようなジュリエッタの方がいい!!」
冷めた物言い……貴方が日頃から馬鹿なことをしでかすからじゃない。テスト前日まで勉強しないくせに、問題が解けないからって先生に
「俺の問題だけ難易度を高くしたな!!」
とか言ったりしたからでしょ!?
「良いわよ、婚約破棄しても。そのかわり両親には貴方から言ってくださいね」
「それは嫌だ!! だって俺が言うと怒るし! 俺の親はお前を気に入っているんだからお前が言えよ。あと、俺は怒られたくないからお前に彼氏が出来たから別れるってことにしてな?」
「ええ、分かりました。…………とでも言うと思いました? そんなことを引き受けるひとはお人好しという名の脳ミソの腐った馬鹿だけですよ」
思いっきり馬鹿にしてやれば幾ばかりかは気分が晴れる。とは言っても微量だが。
この男にはとっくのとうに愛想は尽かしている。最初は我慢していたけれど今回は目に余るものだ。それでもレオナルにキレないアンヌは相当気が長く、優しいのだろう。けれども、こめかみに青筋を浮かせ、ひきつっている笑顔から限界だと分かる。堪忍袋もギリギリ切れておらず、堪忍袋をビニール袋に例えると伸びきって所々白濁していて、どこからか針穴程度の穴が空いていてぴゅぅぅと細く空気の音が漏れている。そんなイメージだ。それも長くは保たない、時間の問題である。
「早く婚約破棄してよ!
そうじゃなきゃ、レオナルと結婚できないじゃない。本当にあなた邪魔たわ! ヘンリー叔父様と婚約させるわよ!!」
ヘンリー男爵。ジュリエッタの祖母の姉の息子にあたるひとだ。ゆるふわした赤毛はとても柔らかそうでまるで絹糸のよう。そして、長いまつげに縁取られた大きくぱっちりとした目はまるでチワワのようで愛らしい。焦げ茶色の瞳はジュリエッタと同じ色。
身長は169㎝と小さめだが、愛くるしい少年のような顔には合っているのかもしれない。
ヘンリー男爵の容姿は素晴らしい。けれど、性格に難ありだ。 自己中、これに尽きる。親の葬式にも旅行があるからということで参加しなかったという。さらに肉体関係を持つ女性は片手では数えられないほど多いらしい。そして、その女性に飽きるとテキトーな男に売ってしまうという。それでも肉体関係を持つ女性が後を絶たないのはひょっとしたら自分を一番に愛してくれるかもしれないという期待からだろう。
「まだ婚約者のいる私にそのようなことを言うなんて、貴女の頭はエメンタルチーズ並みにすかすかなのですね。もういいわ。元々レオナルのことは余り好きではなかったのですけれど、今回は我慢の限界です。貴女のお望み通り婚約破棄しましょう。これから我が家にお越しいただいて書類にサインをお願いしますね、レオナル。ジュリエッタさんもきっと私が婚約破棄するか不安でしょうから御一緒にお越しください」
「わかった」
「婚約破棄してもらえてよかったわ」
アンヌの言葉に一気に上機嫌になる2人、レオナルとジュリエッタ。
レオナルはにっこりと幸せそうに笑い、ジュリエッタの手を両手で包み込むようにして握り、
「素敵な家庭を築こうな。子供はジュリエッタ似の可愛い女の子がほしい」
そう言うとジュリエッタは顔を赤らめながらも幸せそうに
「レオナル似の男の子もほしいわ」
とこたえた。
元婚約者の前で言う言葉ではないのだが、2人は2人だけの世界に入ってしまってどうしようもない。
この時、2人はまだ知らなかった。ひたすら我慢に我慢を重ねていた人が激怒するとどれほど恐ろしいのかを─────────。
「私が資料を取ってくる間、紅茶とお菓子を食べて待っていてください」
紅茶の入ったロイヤルカプンハーゲンの青い花が描かれたコップ2つとピンク、ブルー、レモン色の可愛いマカロンと、紅茶のスコーン、そして苺のジャムクッキーの入ったお皿を乗せたトレーをメイドが持ってきた。
「あ、美味しそう!」
ジュリエッタはピンクのマカロンを手に取ると、一口でたべてしまった。もぐもぐと口を動かしている。頬はまるでリスのように膨れ上がっていて、その姿は決して貴族には見えない。
その姿を見届けるとアンヌは部屋を後にした。
アンヌは書類の保管してある部屋ではなく、趣味部屋に行く。
ここ、趣味部屋は薄暗くて少し埃臭い。何故ならここに置いてある物ほとんどが古いから。
タンスから目当ての物を取り出すと、不適な笑顔で部屋を後にした。
2人がいる部屋に行けばちゃんと2人は眠っていた。
実はあの紅茶には効き目の強い睡眠薬が入っていたのだ。勿論メイドは知らない。メイドが紅茶を蒸らす際、目を離した隙にアンヌが薬を入れたがらだ。 一人ずつを引きずって趣味部屋のなかにある緑の部屋に入れる。その中は緑色一色で、壁も床も家具も全てが緑色である。勿論冷蔵庫に入っている飲み物も食べ物も緑色だ。この部屋には冷蔵庫もトイレも備わっていて、そこで生活ができるようになっている。
気が狂わなければという話だが。
ふとモニターを見れば2人はもう起きていたらしく、キョロキョロと当たりを見合わしていた。緑の部屋へと繋がっているマイクのスイッチをオンにする。
「おはようございます、ジュリエッタさんとレオナルさん」
『おい、ここはどこなんだよ! 出せよ!!』
扉を蹴ったり、体当たりをして出ようとしている。しかし、この緑の部屋は拷問の為の部屋なのだからそう簡単には壊れない。
「ここは拷問の為の部屋よ。ずっと緑を見ていると赤が見なくなって自傷するという部屋。……ふふふふ、2人でいるからひょっとしたら殺し合いになるかもしれないですね」
『気持ち悪いっ! 早くだしてよ! じゃないとお父様に言いつけるわよ!!』
レオナルより激しく扉を叩くジュリエッタ。恐ろしい形相のジュリエッタをモニター越しに見て、アリムはにやにやと嘲笑う。
「いつまでその状態でいられるのかしらね」
パチリとスイッチを消して自室のベッドに倒れ込む。
2人を引きずって緑の部屋に連れて行くのは思ったより大変で肉体的疲れによりあっという間に夢の中に誘われた。
太陽の光が眩しくて目が覚めた。体を起こすと腕と腰、そして足に筋肉痛が表れ、顔を歪める。思っていたよりも眠っていた二人を移動させるのは体に負担をかけていたらしい。
ゆっくりと冷たい床の上にあるスリッパへと足をのばす。メイドを呼び寄せ、お風呂に入る。いつもよりゆっくりとお湯につかる。筋肉をマッサージするよくに太股を揉むと、メイドはそれを見て
「お風呂上がりにマッサージも致しましょうか? 」
と私に問う。
私はピンクがかった乳白色のお湯を見ながら短く、
「そうね、よろしく」
答えた。
お風呂からあがると簡易ベッドの上にうつぶせで横たわる。ダマスクローズの香りがするオイルを塗られ、丁寧にマッサージされる。余りにも気持ちが良すぎてふぅぅうと溜め息が口からこぼれてしまう。
マッサージが終わり、体を動かしてみると驚くほど回復していた。
「いつも有り難う、とっても気持ちが良かったわ。またよろしくね」
「恐縮です、お嬢様」
嬉しそうに笑ってメイドはこたえた。
いつも通り椅子に座れば次々と朝食が運ばれた。
まだ焼きあがってさほど時間がたっていないと分かる、それほど熱を失っていないパン。そして小さな器に入ったバター。食べ終わったそのタイミングにヨーグルトとフルーツが運ばれた。私は冷たいヨーグルトに少しだけフルーツを入れて食べるのがマイブーム。
食べ終わると御馳走様と手を合わせて言い、自室に向かった。
ぽちっ
小さく音を立て、マイクをオンにする。画面に映ったうなだれた2人の顔を見て笑いながら話す。
「おはようございます。ジュリエッタさん、レオナル。どうですか? この部屋に閉じ込められて」
皮肉にそう言ってやれば
顔を上げ、スピーカーのある方へと顔を向ける。
2人とも真っ青な顔で目の下にはまるで痣のような大きなクマができていた。
そして髪の毛は暴れまくったせいか、ぐしゃぐしゃになっている。ジュリエッタの目元は化粧が落ち始めていて、メイクがぼやけている。
『だしてぇぇぇ!! お願いだからだしてぇぇぇ!! もう、たえられないわ。家に帰して!』
あらんかぎりに絞り出された声。昨日も沢山叫んだのだろう、声がかすれている。
ここの部屋は防音だ。しかも地下にあり、使用人も来ないところだから私以外から助けられることはない。
『出せぇ、だせよぉぉぉぉおおおおお!!! もう、ここにはいたくない! 気が狂いそうだ』
涙、鼻水を汚らしく垂れ流し、暴れる。少しレオナルからジュリエッタが離れていたことが幸いし、ジュリエッタが怪我をすることはなかった。
2人の精神状態はまさしく異常。
その姿にアンヌは興奮する。緑を見続けると赤が見たくなる。もっと精神が壊されればきっと2人は殺し合ってくれるだろう。
紅色の血を見るために──。
「んーまだ殺し合ってくれないのねー。どれ位閉じこめておけばいいのかしら」
幸い、小声だったのでマイクを通してジュリエッタとレオナルには届かなかった。
アンヌの目は酷く冷めていて、カメラ越しに見る2人をまるで人間と思っていない。実験用のハムスターを見るかのように温度を感じさせない目だった。
次の日、2人は冷蔵庫に入っていたほうれん草のパンを食べながら静かに泣いていた。
レオナルはジュリエッタを慰めることなく、ただひたすら泣いていた。
この人生に嘆くかのように………。
ここは格好良くジュリエッタを慰めて、
「何かあったら俺が守るよ」
くらい言うなんて事をするはずもなく、自分で精一杯の様子だ。
「おはようございます」
「今何時なの? 朝なの? ここに来てから何日たったの?」
私の声のするスピーカーに向かって力無く問いかけた。
この緑の部屋には時計がなく、勿論窓もないので時間感覚が狂うようにできている。
「ふふふ、どうでしょうねぇ」
2人の状態に機嫌が良くなるアンヌ。このまま行けばすぐに殺し合ってくれると悟りより機嫌が良くなった。
「家に帰りたい……」
ジュリエッタの隣でレオナルは横たわり、泣き言を言った。涙は頬を伝い緑色の地面に小さな小さな水溜まりを作った。そこに次々と涙だけでなく鼻水、涎と流れて拳骨ほどの水溜まりを作った。
2人とも痩せ、目の下には大きなくまができ、更には白髪がはえていた。それは2人のストレスがとてつもないことを表していた。
ふたりは大切に守られて育てられた人達だ。だからこそこの環境は平民よりきっと、ずっと辛く感じるのだろう。
そんな2人の様子をアンヌはカメラ越しにこれ以上無いくらいに愉快そうな笑顔で見ていた。その姿はまさに悪魔だった。
誰もこのアンヌがアンヌだとは思わないだろう。アンヌによく似た人物だと思うだろう。
いつもにこにこと優しげな笑みを浮かべ、物腰柔らかなアンヌ。異性からも同性からも好かれ、先輩からは愛され、後輩からは頼りにされるあのアンヌだとは到底思えない。ここにいるアンヌは狂った人をカメラ越しに愉しげに見つめ、口元はあまりの愉快さから醜く歪んでいる。
「痛っ」
ジュリエッタの上に多い被さるように倒れているレオナル。
ジュリエッタの直ぐそばに冷蔵庫があることから食べ物を取ろうとしたのだろう。
レオナルはぶつかったことに対する謝罪もせず、ひたすら一点を見つめていた。それはジュリエッタの手のひら。倒れる際に体をかばったせいか、血がにじんでいる。
「あ……か……あか……あかあかあかあかあかあかあかあかあかあか!!」
レオナルはジュリエッタの手に飛びついた。そして傷口に己の口に持って行き、思い切りかじりついた。
ジュリエッタはあまりの痛さに涙を滝のように流し、声にならない声を喉から絞り出した。それは人の声ではないよう。苦痛そのものの声だ。
「アアアアアアア!!! 私の、私の手ぇぇぇ」
獣の様にレオナルの口元に付いた血、自分の手の平から吹き出す血を見て叫んだ。
「死にたくない、死にたくない、お願い出して!」
と叫びながら最愛のひと、レオナルに喉を噛み切られて絶命した。
レオナルはジュリエッタの遺体の隣で疲れたのか寝てしまった。
トマトの赤いジュースに睡眠薬を混ぜてレオナルの寝ている部屋に音を立てずに置いた。部屋は不愉快なジュリエッタの血の匂いで充満していた。壁にも天井にも床にも血飛沫がかかっていて、まるで彼岸花が咲き乱れているようだ。
レオナルを起こさないように気を付けながら部屋を後にした。
部屋につけばひたすらレオナルを監視。あまりにも退屈すぎて机に伏せて寝てしまった。そのせいで腰が痛い。やっぱり寝るのは布団がよいと再確認するアンヌであった。
「うああああああああ!!!」
レオナルはきっと目が覚めて直ぐ横にある恋人の死体に気付いたのだろう。己の手によって命を散らされた恋人を。
錯乱状態に陥り、私が置いたジュースを投げ、家具を壊し、壁を蹴った。
すこし落ち着くとジュリエッタを揺さぶり、起きろ、起きろと叫ぶ。
「あージュースが……。今まで順調だったから今回も思い通りに行くと思ったけど、そう上手くはいかないか」
カメラを見つめ、呟く。
アンヌはジュリエッタの死にあまり興味がないらしく、ジュリエッタのことは口に出さなかった。
発狂している婚約者を楽しげに見ていた。しかし、数日たてば飽きてくる。
飽きたのならどうしたら良いか。それを考えと時、“殺そう”という答えが出たアンヌはおかしい。普通なら殺した後の事を考えるがアンヌはお金持ち独特の狂った考えをもっていた。
「殺してもお金で解決できるよね。レオナルも親から勘当されるギリギリのところだったし。」
レオナルは今まで沢山の問題を起こしてきた。
元々レオナルの家はお金持ちというほどではなかったが、アンヌの家には到底及ばないがそれなりにはお金があった。しかし、レオナルが色々とやらかして賠償金というか形でどんどんお金がなくなったのだ。それでも今までレオナルを勘当しなかったのはアンヌという婚約者がいたからだ。
結婚すればレオナルの為に払った賠償金よりも高い金額を手に入れることが出来るからだ。
当然婚約破棄したらレオナルを勘当するだろう。
レオナルが眠っている隙に煙の睡眠薬を部屋に充満させる。これで暫くは眠っていてくれる。
寝ているレオナルを鉄の処女にセットする。
この鉄の処女は急所に針がないので直ぐに死ぬことはできない。腕、腹、足と針に刺されたところから血が流れ出て出血死するというものだ。
「レオナル、なかなか目が覚めないわねぇ」
寝ている間にやってしまったら面白くないということでアンヌはレオナルが起きるのを待っていた。
ぐっすりと眠っているレオナルににっこりと笑いかけぼそりと呟く。
「ジュリエッタも眠っているものね。ただし永遠だけれど」
お揃い、お揃いと楽しげに笑いながらレオナルの頭をなでる。
「でも、もう待ってるのも飽きちゃったから。────さようなら」
ギギギギッと音を立てながらゆっくりと鉄の処女の体内にある針はレオナルの肉体を刺す。
バキバキッと骨が砕ける音を聞きながらどんどん閉めてゆく。私の靴を鉄の処女から流れ出た血液が赤く赤く濡らしてゆく。
少し暖かい足が心地よい。
「う゛……う゛う゛っ」
鉄の処女から微かに漏れ出たレオナルの声。目を覚ましたのだが、まだ薬が残っていて上手く口を動かせなかったのだろう。
ゆっくりと鉄の処女を開け、再びレオナルは姿を現す。血に染まった身体はまだ反面の針が刺さっていて、その針がレオナルの身体を支えている形である。
レオナルの躯を鉄の処女から剥がす。すると、さ支えが無くなり崩れるように倒れた。
「ふふふふっ。とっても素敵なドット柄になりましたね」
素敵、素敵と口元には笑みを浮かべながら拍手した。
レオナルは己の躯の状態を確認しようとするがからだが動かずできない。
それを察し、アンヌは大きな鏡を持ってきてレオナルの躯を映し出した。からだには無数の穴があった。そこから赤い川のようにレオナルの身体を巡っていた血が外へと流れ出る。鉄の処女の足元にある赤い池と繋がり、大きな池を作った。
レオナルを頭蓋骨粉砕機にかける。
ネジを勢い良く締めていく。
「痛い痛い痛い痛い胃たい痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!」
痛い、そう訴えてくる。ネジを回すのをやめてほしい、そういうことなのだろう。
やめるはずがないでしょう?
「アアアアアアアアアアアアアア!!!」
あまりの痛みに白眼になりながら叫ぶ。
どんどんねじを回すとミシミシミシッと音を立てて歯が抜け落ちた。次々とポロポロと歯が抜け、口からは血を垂らしている。
更にネジを回すとバキバキバキッッと大きな音を立てて顎の骨が砕かれた。
頭蓋骨粉砕機という名前なのに頭蓋骨は砕くことが出来なかった。
少しがっかりしながら、レオナルとジュリエッタを棄てる。そこは水路と繋がっていて、しかもその水路には大きなナイフが無数に付いており、外に出る頃にはもう原形を留めておらず、ただの肉の塊だ。
────さようなら。レオナル、ジュリエッタさん。きっと今頃は魚の餌になっている所かしら?